LRプログラミングという会社
●LRプログラミング 18話●
図書室
「麻王!」
何かを書いている麻王は手を止めると、
「駿か、どうした?」
白桜ブレザー姿の駿は、
「いやいや、少し麻王と話を、な?………それにしても白桜の図書室って誰もいないな。」
「中等部に図書館があるからな、で、どうした?」
「いや、麻王のおかげで俺は妹と同じ白桜に来れたしな。麻王さ、ゲームに興味がないか?」
少し考えると麻王は、
「……ゲームか?興味はあるけど…」
「そうか!俺の祖父がトランプ会社から興したゲームソフト会社なんだけどさ、麻王の妹二
人のためにソフト制作をしないか、麻王?」
「……データを打つ知識もそもそもパソコン自体もないけど?」
「麻王のおかげで俺はクソな生活からも、腰も良くなった!お礼をさせてくれよ!」
麻王はまた書き始める、
「妹二人のためには魅力的だけど俺たちは親友だろ?そういう事なら気にするな。」
「……さっきから何をしているんだ、麻王?」
「遅れていた司法試験予備試験の自己採点だよ……ま、余裕合格か。」
「司法試験……予備試験?」
「高校生でも司法試験受験可能な試験のことだよ。俺の個人的な依頼だから誰にも言うなよ。」
「……ああ、でも15で司法試験かよ!麻王、その頭脳を俺や祖父のために貸してくれ!」
「祖父のため?」
「そうそう、祖父はボードゲームに拘りが強くてな。ソフト制作の優秀な社員も祖父の経営方針にウンザリしていてな。それならいいだろう、な?」
「本当に?」
「ホントだって!毎年、辞めて行く優秀な社員も多くてさ、助けてくれよ~麻王~!」
「駿、お前には変わっていく…いや、元に戻る力があると信じたからほんの僅かな手を差し出しただけだ。それに今は白桜野球部の仲間であり俺は親友と思っている。二度とお陰とか言うなよ。」
俯きがちな駿を麻王はジッと見ている。
「……でも……お、おうよ!じゃあ早速だけど麻王のマンションにPC諸々を送ってもいいか?」
「いや、俺、畳一枚の共同ボロアパートだけど?」
「え?優也が妹二人と新宿のマンションにって……えっ?」
「妹の美緒と心海は兄さんのマンションで三人仲良く暮らしているよ。」
「……何で麻王は?」
「兄さんはずっと身体が悪くてな。マンションもそれほど大きくない。妹二人は年頃だし兄さんが自分の部屋を美緒と心海に与えて自身はリビングにな。」
「……そっか……誰にも言わないよ。」
「済まないがアパートでもいいかな?」
麻王のアパートにハードと幾つかのソフト、後は超高性能のデスクトップとラップノートが送られて来た。
駿の祖父の会社のプログラマー数人が狭いアパートで麻王に指導する。
麻王には元々、極めて凝り性な一面がある。
クラスメイトや普通科の生徒たちに加えて山形先輩、伊藤先輩たちの二年や三年にもマーケティングを取る。少しの時間の合間も駿本人からプログラミングの指導を受ける。
なぜこのソフトは失敗したのか別のソフトの続編は何がダメだったのか? そうした試行錯誤の内に新しいソフトの具体案が浮かぶ。
数日後 図書室
麻王にべったりな駿は、
「…麻王、まだ新聞配達を辞めてないのか?」
「責任もあるし600軒の代わりは中々いなしな。」
「そっか……で、麻王はあくまでもオフラインに拘るのか?」
「ゲームの楽しさは息抜きと同時にその世界に入り込むものだろう?でもオンラインの誹謗中傷は酷すぎるな。オンラインの面白さは俺が開発する人工知能でカバーできるし、それも新たな売りにできるよ。」
「……麻王ってマジ天才だよな。」
「そうか?」
「六法全書を覚えるのに何日掛った?」
「覚えるのは三日だが。」
「あり得ねぇって!」
「使い、そして応用する力は別だからな。」
「その思考が天才なんだよ!」
クスッと麻王は、
「なら、駿も相当賢いと思うけどな。」
「まぁ、グレる前は聖林館だからなって、天才の麻王に言っても虚しくなるわ。で、ゲームの話は?」
「のめり込むならどれだけその世界に入り込めるか、主人公=自分にどこまで重ね合わせ、リンクできるかを深く考える。常に人工知能の仲間たち、つまりNPCとプレーヤーがリンクするのがゲームの面白さと信じている。ここに主観を置き、RPGには仲間や結婚の選択設定を細かくリアルにし、分岐したストーリーも用意する。」
「……スゲー…」
「サバイバルアクションには俺自身の経験からの細かい動作と数十時間に渡るストーリー展開を入れたシナリオに美しいグラフィックを入れたよ。」
「……麻王の経験?……麻王って日本国籍だろう?」
「まあ、世界各地の傭兵みたいな感じ?」
「……それであんなに強いのかよ?」
「まあ、俺は異世界人だしな。」
駿は笑い出すと、
「またまた~健康診断を受ける異世界人なんて聞いたことないわ~!でも麻王ってその世界に完全にのめり込むよな?いやあ、マジプロフェッショナルだわ~!」
「…ま、いっか。」
一年スポーツ科クラス 英語の時間
左隣のコックリコックリする麻王を見ると愛枝が心配そうに、
「……麻王って最近、授業中にこくこくと少し眠りそうな事が多いね。」
愛枝の右隣の愛は、
「愛枝や私に恋愛の考えを恥ずかしいぐらい無神経に聞いたりするよね?」
クラスメートの田中好子は、
「最初は照れながら怒っていた愛枝が麻王が熱心にメモに書き込む姿に愛おしさを感じずにいられなかったってとこ?」
「もう好子~!」
英語教師の沢渡は、
「コラ!そこ、授業中!」
愛枝、愛、好子は、
「……すみません…」
沢渡は、
「えっと…今読んだ英文を…」
沢渡は教室を見回すと全員が下を向くと、
「じゃあ困った時のお休み中の夏葉君!」
英語の教科書を持ったままふらふらと起き上がると麻王は、
「……西洋では、労働は本質的に良いモノではなく、罪を償う為の罰として人々に神から課された恥ずべき苦役であると考えられており、この苦役から解放されるためには神の教えに誠実に従うしかないと思われている。」
「ハイ!皆さん、このバッチリ意訳を元に構文を考えましょう!」
「えぇぇぇぇぇ~!」
麻王は、
「先生、すみませんが、もう一度休ませていただきます。」
そう言うと麻王はまたコックリコックリとする。
「ありがとう、おやすみー夏葉君~!」
「さらに、えぇぇぇぇぇ~!」
図書室
駿が興奮して話す、
「麻王、RPGもヒットしたけどサバイバルアクションは世界的なヒットだよ!」
「駿の祖父やプログラマーの人たちも喜んでくれてよかったよ。」
「麻王の報酬は純利益の50%でいいか?少ないか?」
「…ソフト制作会社ってそんなに貰えるものなのか?」
「祖父の優秀なプログラマーたちは麻王のAIやプログラミングが正しく人間技じゃないってな!俺もそう思うよ!」
「ベースは駿たちの知識だよ。」
「…まあ、本当は俺と祖父の取り分を麻王に回したよ。でも祖父は先行投資と言っていた。麻王、この業界も頭打ちだからこそ楔を打ってくれないか?」
「それはいいが50%はとてもじゃないけど受け取れないな。」
「それじゃあダメなんだ、麻王!」
「……なぜダメなんだ?」
「何かを変革するにはお金も必要だ!自身を律し、周囲の気持ちも掬い取ってくれる麻王にはその才能がある!」
「分かったよ、駿。但し、条件が一つ。」
「えっ、受け取ってくれるのか、マジ?………条件ってなんだ?」
「マジだよ。ノウハウは全て把握した。そのお金で一緒にソフト会社を興さないか、駿?それが条件だ。」
「マジかよ~!麻王となら喜んでやるやる~!……新聞配達は辞めないのか?」
駿は心配そうに尋ねる。
麻王は少しやつれた顔で笑顔を見せると、
「600軒だから1人200軒、つまり三人分の代わりの人が見つかるまでは辞めないよ。でも二人の会社は興そうな、駿。」
呆然と駿は麻王を見ると、
『こういう男だから惚れ込んだんだなぁ…』
「どうした、駿?会社名はリモコンのLRからシンプルに”LRプログラミング”でどうだ?」
涙が頬を伝うと駿は、
「……LR…俺たちの…ああ、いい…よな…」
「する事は山のようにある。泣いているヒマはないぞ、駿?」
「……ああ、そうだな、麻王…」
「株式会社の設立の手続きは俺がするよ。」
「おお、麻王なら余裕だな。」
「未成年者の株式会社設立には親の同意がいる。」
困った表情の駿は、
「……親かぁ…」
「確か警察の偉いさんで碧のお父さんとは大学も職場も先輩後輩の関係らしいな。」
「……ああ、碧から聞いてびっくりだよ…」
「誇ればいい。」
駿は、
「…えっ…?」
「情に厚く仲間想い、今は聖林館に偏差値も部活も負けているが、それでも白桜高校だ。グレたのは駿自身の弱さだが、親なら理解すべきじゃないのか?」
「……だけどよ…オヤジは捜査一課係長だし、…」
「警視監に警視正クラスがバンバン殺されて窓際から出世しただけだろ?」
「……どうして…?」
「ハッキングした。今、父親を悪く言われてムカつかなかったか、駿?」
「それよりそんなことしたら…」
「この件にはカルト宗教CИrо(セロ)が関わっている。ま、汚れた警察のトップが刷新されるまでは放っておくけど。たかだか、宗教法人が犯人とわかっていても手を出せない警察組織に俺をテイクダウンさせることは不可能だな。ま、俺より強いヤツは惑星ローにしかいないけどな。」
「……ハハ、なんかわかんねぇけど、やっぱスゲーよ、麻王!よし、オヤジに土下座してもわからないヤツならぶん殴って来てやる!」
「頑張れ、駿。」
麻王のアパート近くの小さなオフィスマンションを借りて麻王と同意を得た駿は二人でLRプログラミング創業者になった。




