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アルバイトの限界

●アルバイトの限界 17話●


白桜 食堂

青空、芯、碧、優也、周、ハルト、駿が集まっている。


周は、

「……ノーヒット、ノーヒット、一安打、完全試合……東地区予選大会四回戦まで麻王の投球は本当に本当にすごいよなあ。」


優也は、

「だけどよ~、肝心の麻王はソッコー帰るぜ?……ちょっとはこう勝利の余韻があってもいいんじゃないのか?」


碧は、

「球場と体育館の往復はキツいって。」


青空は、

「碧は野球のみだろ?」


碧は、

「……やっぱりよ、掛け持ちしたいなぁって……すみません。」


カツ丼を食べている芯は、

「……麻王は妹二人の学費も稼いでいるしな。」


ハルトは照れながら、

「いやあ、自分一人が不幸と思って嘆いていた頃の自分自身が恥ずかしいわ。」


駿は、

「ヤンキーがマジやかましいって。」


「お前にだけは言われたくないわ~!」


腕を組んでいた青空は、

「さすがにもう少し部員が増えると思ったけどバスケはゼロ。申し訳ない。」


青空が頭を下げようとすると麻王が止める。


芯、碧、駿、ハルトは、

「麻王?」


食器を置き、青空の隣に座ると麻王は、

「4人一緒に白桜に来てまだ一年も経たずに駿やハルトに碧、二つの部活でそれぞれ全国を目指せる。幸せだと思わないか?」


青空は目を閉じながら少し笑顔で、

「……そうだな。」


優也は、

「でもよ、麻王、野球部は元リトル経験者で興味を持っていた沖田と水戸、雅の三人が入ってギリセーフだけどよ~、バスケ部はほぼフルっうのはキツいって!」


麻王はやれやれと、

「碧や周にも入ってもらえばいいだろう?こうしてみんなと一緒に出来る事が幸せと思わないか、優也?」


優也は、

「碧なんてレイアップもできねえよ!」


碧は、

「できるわ!っておまえはいつまでレイアップ一本なんだよ、芸無し野郎!」


麻王は、

「右手首の悪いハルトには申し訳ないが左投でセカンドに入ってもらっている。腰の術後一週間の駿も負担の少ないファーストに入ってもらっている。十分だろ?」


周は、

「………ボロボロじゃん。」


青空は、

「野球の90%はピッチャーだよ。そこに僕の完璧なリードとキャッチング技術が9%。」


芯は、

「バッティングも麻王と青空以外は三振の山だしな。」


周は、

「……正しく1%の存在の俺たち…」


青空は、

「バスケ部は、僕、二年の伊藤先輩、芯、優也の四人に普通科一年から経験者の山本の五人体制にすれば今後日程が野球と重なっても大丈夫と思うけど?」


優也は、

「山本はかなり下手くそだろうが、青空!」


「優也も昔は下手だったよ?心海にも二連敗中だしね。」


「…………。」


周は、

「野球部は俺、麻王、山形先輩、駿、ハルト、碧の六人に沖田、水戸、雅の三人……ちょうどか?」


麻王は、

「甲子園まで残り二試合。それに野球は9人でするんじゃないのか。」


駿は、

「……対戦校は30人以上いる学校もあったぜ?」


青空は、

「今更だけど麻王は本当にすごいよ。全国バスケットボール王者だった三条北山は部員が100人近くいたけど麻王一人に優也なんて負けっぱなしのこっちは誤審の1点差勝利。」


芯は、

「それな!麻王の最後のシュートがスリー判定されていたらその後の俺たちの優勝はなかったよな…」


優也は、

「……一回戦後の敗北感はキツかったな。」


碧は、

「でもよ、伊藤先輩はめっちゃバスケ上手いよな?優也ぐらいか?」


優也は、

「あのファールも恐れないクソ強引な突破力に芯なみのスリー精度…さすがマイルドヤンキー伊藤って感じだよ。」


碧の言葉に芯は、

「経験者の山本がな。」


青空は、

「碧と同じぐらいかな?でも真面目に走り続けるし、スタミナもあるし十分だと思うけど?」


「青空よ、人数合わせの碧レベルだぜ?」


優也の言葉に碧は、


「こら~!」


駿は、

「優也さ、オマエって何か自分より力ないヤツを小馬鹿にするよな?真正のバカのクセによ。」


ハルトは、

「そうそう、まあ、野球とバスケの予選日程はかなりズレてるし、優也は野球部に要らね!」


優也が少し動揺しながら、

「いやいや、俺もセンターの打球感も慣れたし、掛け持ちで出れるって!」


麻王は、

「いや、バスケは元々俺たちの夢だ。野球はこれからの夢だ。この二つの夢に周、碧、ハルトに駿そして水戸たちも加わってくれた。何よりも山形先輩にも伊藤先輩にも高校時代の思い出をプレゼントしたい。予選大会まで俺たち4人は分かれるべきだよ。」


青空は、

「来年以降のインターハイ開催地の違いの問題も考えると全体の底上げも必要だね。」


優也は、

「要するに勝てばいいんだろ。」


「バカ優也が仕切るんじゃあねえよ。」


駿の言葉に優也は、

「元ヤンの差別主義者~!」


駿は、

「はぁ~根本的にダメだわ、この原人は。」


「こら~!」


麻王は食器を持って立ち上がると、

「青空、マネジャーに赤瀬愛枝が志望しているんだが?」


「生徒会でもよく働いているくれているし、特に断る理由もないよ。」


「そうか。なら伝えて来るよ。」


麻王は食器を持って歩いて行く。


「…麻王はいつもの素そば一杯かよ。」


優也の言葉に駿は、

「オマエなんか歯牙にもかけてねえよ。」


「滋賀がどうした?俺は淡路島だぞ?」


「ハァ~。」


芯は、

「青空、時々、麻王はピッチャーマウンドでもコクリコクリしているぞ?」

周は、

「夜は12時~朝の4時まで新聞配達をしてそのまま白桜グラウンドで一人練習しているよな?」


ハルトは、

「HR後も一旦直ぐに新聞配達に行って帰って来るよな?限界じゃないのか、青空?」


青空はため息交じりに、

「世の中は全く平等ではないな。」


青空の言葉に駿、ハルト、優也、碧は、

「………だよな…」


芯は、

「食券、買って来るわ。」


駿、ハルト、優也、碧は、

「食いすぎなんだよ!」


芯は、

「いや、俺、おじいちゃん子だし。それに同情するのはいいけど、そういうのは麻王は喜ばないぜ。」


駿は、

「友達を心配して何が悪いんだ?」


碧は、

「麻王って本当はフルスコアーってわかっていたんだよな…」


青空は、

「ま、僕たちが解けない問題を見てみたいぐらいだしな。ただ何かの時の為にその1点を取っているところが麻王らしいけどね。」


席を立つと芯は、

「駿やハルトは、ヤンキー思想なんだよ。」


ハルトは、

「……んだ、それ?」


隣の券売機に行くと芯は、

「……身内びいき?身内にだけ優しいっうのがヤンキーだろ?おばちゃん、から揚げ大盛り~!」


食堂のテーブルを叩くと駿は、

「俺はここにいる仲間しか信じてねえよ!」


食堂が静まり返ると、


席を立つと青空は、

「すみませんでした。すぐに移動しますので。」


ハルトは、

「俺も駿の言う通りだと思うけど?芯、身内びいきで何が悪い?世の中のヤツなんてテメーのことだけだろうが!」


から揚げ大盛りを持って来ると芯は、

「そうだけど、麻王みたいなやつもいるだろうが。」


駿とハルトは、

「いねえよ!」


周は、

「青空、止めろよ~!」


「テーブルを叩き大声で騒ぐのは論外だが、信念や思想のぶつけ合いは学生の特権と思うが?芯、麻王のような者がどこにいるんだ?」


から揚げを食べ始めると芯は、

「……まぁ、…そうなんだけどよ…」


碧は、

「芯が言いたいことは可能性を否定するなって意味だろ?」


ハルトは、

「だからパンピーにそんな可能性はねえんだよ!」


碧は、

「だからヤンキーになるんだろうが!」


周は、

「止めろよ、青空~!」


周囲の学生に聞こえるように青空は、

「麻王は転校して来たハルトにその”可能性”があると思っていたんだろうな。駿にしても他のチンピラたちには歯牙もかけなかったんだろ?この白桜も自分より下の相手を探して優越感に浸るクズばかり。他人を見捨てず、自身の問題は自身の責任と捉えている麻王とは大違いだ。」


周は、

「……まぁ、そうだけど、周りもドン引きしてるぞ?」


続けて青空は、

「周、おまえは外部生という意味だけで孤立してなかったか?可能性を見出して信じてくれたのは芯と麻王だけじゃなかったのか?」


「……そうだけど…」


足を組み両手を広げると青空は、

「すごくないか?スポーツ強豪校のように俺たちは集められた仲間じゃない。自身の選択で選んだ道だ。バスケもインターハイ目前、野球も東地区予選大会四回戦突破の残り二つ。俺たちから白桜は変わって行く。」


碧、駿、ハルトは、

「だよな!」


モグモグと芯は、

「……西東京の香明学園にバケモノスラッガー上山、仙台かな?スーパー左腕の弥生律、そして大阪の府立航空高校の超本格派の速水…メジャーも既に注目してるぜ…モグモグ…」


駿は、

「クソ、麻王は無名かよ!」


ハルトは、

「いや、球技大会の時の麻王のアンクルブレイクはマジで凄かった。愛や愛枝ならともかく俺が尻もちだぜ?」


芯は、

「アイバーソンがそうだが、ふつうは人間業じゃないスピードとストッピングで相手のバランスを崩すのがアンクルブレイク…」


青空は、

「球技大会の麻王は芯、愛、周、美緒の4人、そしてハルトを仕切り直して崩した。」


碧は、

「青空とは違うのか?」


「……4人の重心移動の個体差が一致することは極めて難しい。ま、でもそれは僕でも不可能じゃない。」


碧は、

「”僕”に戻った…じゃあ、何が凄いんだ?」


「早々にハルトは合わないと見切りをつけて最初からハルトのリズムを事前の芯、愛、周、美緒の4人で崩していたことだよ。これは麻王が超感覚知覚で処理している証拠だよ。」


駿は、

「……超感覚知覚ってなんだよ、青空?」


「予知や千里眼に近い能力だな。」


ハルトは、

「もうエスパーじゃねえか!」


「そんなことはない。考えられない程の経験を積んだ者のみに視えるものがある。僕にはまだ無理だけど。」


優也は、

「でも、麻王は俺より貧乏だからな。」


周、駿、ハルトは、

「……………………。」


碧は、

「麻王なら金儲けなんて楽勝だろ、青空?」


芯は、

「真冬の雨の日なんか、新聞配達の朝はよく風邪も引くし、そもそも麻王はそんなに身体が強くないしな。」


碧は、

「いや、600軒だぞ?真冬の雨の日なんか俺たちなら寝込むよな…」


視線が遠くなると青空は、

「…なぜ、麻王はあそこまで自身に厳しいんだろう…大きな謎だね…」


ハルトは、

「……わかった!」


周は、

「何がわかったんだよ。」


席を立つと力強くハルトは、

「愛や愛枝は、コホコホと咳をする麻王が放っておけないんだよ!」


「ハァ~…」


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