井上ハルトと心の弱さ…
●井上ハルト 15話●
井上ハルトは前高校の入学式の当日暴力事件を起こして白桜に編入学して来た。
同じスポーツ科クラスの井上愛は彼の二卵性双生児の双子の姉だ。
学校にはほとんど来ていない。
先日の中等部生球技大会のバスケの第二試合での味方の牧野芯が受け取るボールをカットし尚且つ、そのボールを瞬時に麻王にカットされ決勝ゴールにしてしまった。
球技大会の結果は、
第二試合、神薙青空が抜けた中等部3A vs心海も足首捻挫で抜けた3Cで行われた。3Cクラスが何とか決勝に行き、
決勝戦は、結衣のいる3Eが辞退した為、3Cの心海のクラスが優勝した。
心海はそのまま麻王が病院に連れて行き、全治一週間。中等部生の多くがとても満足して帰って行った。
数日後
芯一人が今も怒りが収まらない。その井上ハルトが芯と碧の前を歩いて来る。碧はあの試合後、妹が友人もでき毎日楽しく中等部に通うようになったことに満足していた。
しかし芯は怒りが爆発し食堂前の廊下で掴み合いの喧嘩寸前になっていた。辺りが騒然となっている中、既に食堂にいる青空と周も碧に加わって止めに入る。
芯は、
「コイツが愛のパスをカットしてなかったら、まだ麻王と勝負ができていたんだよ!」
ハルトは芯の腕をつかむと、
「愛はオレの姉だ。気安く呼ぶんじゃねぇ!それにテメー如きの雑魚じゃアイツは止められねぇよ。」
ハルトは、
「チッ、……麻王のアンクルブレイクで腰を抜かした奴が…」
芯がそう言った瞬間、ハルトが芯の顔面を殴ろうとした、その手を青空が掴む。
青空は、
「暴力事件で逃げて来たんだろ?もう次はないぞ。まぁ、僕には関係のない事だけどね。周、芯と碧を食堂からだせ。」
悪態をつきながら芯と碧の二人が食堂から出て行く。
青空は、
「君は明日から一週間停学決定。もうすぐいなくなるね。」
青空はにこやかに笑うとハルトは、
「一年坊主の生徒会長さんよ、なんで俺だけ停学なんだよ!頭、イカレてんのか!?」
ハルトが何故だと食い下がる。
青空は、
「学校に来てない君には分からないだろうな。白桜において生徒会長は学校内において教師以上の権限を持つ。つまり僕の命令は絶対だ。」
青空とハルトのにらみ合いが続く中、戻って来た周は、
「お、おれは皆のパンを買っておくよ、青空…」
と周は食堂のおばちゃんに駆け寄って行く。
「チッ」と不貞腐れながらハルトは食堂を出て行く。
青空は振り返ると、
「周、焼きそば弁当がないぞ。」
「焼きそば弁当って何?焼きそばパンじゃないのかよ~!青空はこういうモードに入ると色々怖いわ、おばちゃんー!!!!」
そのまま周は走って行く。
青空はハルトの右腕の感触で、
「………そう言う事ね。」
夜
歌舞伎町
ハルトは新宿歌舞伎町のバッティングセンターでバットを振るが全く当たらない。
ハルトは金属バットを叩きつけると、
「クソ!!」
ネット裏からチンピラたちが、
「ギャッハハ、こいつイキった髪型をしてるくせに全くボール当てられないんだ~!100km/hコースだぜ。ダセーよ~!ギャッハハ、小学生でも打てるって!」
それぞれがばらばらの学生服を着た者たちとヒップホップ系のだらしない服装のグループが8人いる。かなり体格の大きい成人らしき男もいる。
少し焼け気味にハルトがキレる、
「8人とも相手してやるよ。」
ハルトがそのグループと公園まで歩いて行くと20人以上が待っている。
ハルトは、
「汚ねえぞ、テメーら!」
ハルトがそう言うとグループの一人を蹴りそのまま殴り合いになる。
芯と碧が後ろから駆け付けると、
「ハルト、1人で楽しんでいるんじゃねえぞ!」
既にボロボロになっているハルトは、
「来るんじゃねえ。これはオレの喧嘩だ!」
白桜ブレザーを脱ぎ捨てると碧は、
「助けるか、芯?」
ガードレールに白桜ブレザーを掛けると芯は、
「……全員で28……余裕だろ?」
そのまま3対28人の喧嘩になるが芯が一人ずつ倒すのをハルトと碧が庇うがさすがに数が違い過ぎる。
五分後
ハルト、碧、芯の3人とも前が見えないほど血だらけになる。
既に8人ほどのチンピラが倒れたまま落ちている。
丸坊主の細見の男は、
「……こいつらクソ殴りやがって。特にこの柔道小僧が…。田熊、名古屋さんを呼べ。」
大男の田熊は、
「分かりました、田中さん!」
芯が腫れ上がった顔で笑いながら立ち上がる。
「……ふぅ、オマエら弱過ぎ。俺が本気なら倒れている奴らは永遠に起きないぜ。」
残りのメンバーがナイフを出すと、
「……クソッ!もう、絶対に許さねえ…」
名古屋というリーダーらしき男と別の男たちが名古屋の左右に2人いる。
「……元々、3対28。加えて残りの20人がナイフ。プラス助っ人はさすがにアウトだろ?」
黒のウインドブレーカー姿の麻王が公園向かいの歩道柵に座っている。
麻王の横にいる周もぶつぶつと、
「青空も最初から麻王に3人の様子を見て来てほしい…って言えばいいのによ。人が悪いよな。」
「麻王!助けに来てくれたのか!」と顔を腫らした芯が潰れた笑顔で叫ぶ。
麻王は真顔で、
「そのリーダーぽいのは確か会話から田中さんだっけ?ナイフなしなら俺は手を出さないよ。」
ギョロと坊主頭の田中は麻王を見ると、
「………ホントに…?」
真っ青な顔で芯も碧もハルトも麻王を見ると、
「………麻王、何を言って…」
芯たち三人はしこたま殴られた分、この男たちの強さはよく判っている。このグループには20歳以上の筋肉の塊のような者も格闘技経験者の者も多くいる。
「これはお前たちの喧嘩だ。それに俺のライバル牧野芯がこんなことでヘバるのか。」
麻王の問いかけに芯は、
「………誰がへばるかよ。全員、かかって来いや。」と芯が吠えると、
田中が笑うと、
「何、言ってんだ、こいつら?アタマ湧いているのか~?全員で殺れ!」
田中がそう言った瞬間、田中の意識が遠くなっていく。
次々と仲間が倒れていく姿が薄れていく田中の意識の中でも判るほどの速さ。
僅か五秒ほどでナイフを持った全員が気絶している。
田中は10Mほど離れた麻王がガードレールに座った状態から消しゴムの欠片を投げた事も気付かず気絶する。
麻王が瞬時に間合いを詰め、チンピラたち全員の頸動脈小体と水月に掌底を的確に打ち込むと次から次へと気絶していく。
麻王は、
「周。」
「任せろって!」
周は芯たち三人に青空から用意されていた救急セットで応急の手当を始める。
麻王はウインドブレーカーを公園のベンチに置くと、
「ラスボスの名古屋さんだっけ、来る?」
ハルトは腫れあがって霞む目でつぶやく、
「………アイツは…一年前の日本拳法の大会で高校、大学、社会人ナンバーワンを倒し、…現役自衛隊員たちも倒して優勝した最年少最強と言われた名古屋駿…。夏葉でも無理だ…」
そのまま気絶したハルトを抱きかかえると麻王は、
「解説、ありがとう。名古屋駿と言ったか?」
名古屋は、
「…あぁ?」
ハルトを周の横のアスファルトの上に置くと麻王は、
「ある少女がそういう馬鹿なアニキを探していてな。」
名古屋はファーコートを投げ捨てサウスポーのファイティングポーズを取ると、
「……誰だ、テメー…?」
無行の位(構えなき構え)に構えると麻王は、
「粋がんなって、チンピラ。ハンディキャップをやるよ、チ・ン・ピ・ラ。」
「なんなんだ、テメー!!!!!!!!」
「その子の為に、ほら、10発だけ殴らせてやるよ、チンピラ。」
「チンピラ、チンピラってうるせぇんだよ!!!!!!!!!! ぶっ殺してやんよ!!!!!!!!!!!!!!」
名古屋は日本拳法の独特の伸びる縦ストレートから麻王の顔面に一発、次は詰めた間合いから肘打ちで麻王の顔面に二発、2Mの高さの上段蹴りから中段に変化する蹴りで三発。そのまま飛び蹴りから麻王の頭をロックして5、6、7、8、9、10…
名古屋は息を切らし始めるが、
「死ね!死ね!死ね!」
麻王の首をロックしたまま蹴り続ける。
ロックされ上半身が前かがみの姿勢になっている麻王は、
「……そろそろ反撃してもいいか?」
麻王の言葉に息を切らした名古屋は飛び下がる。
麻王は自身の額から流れる血をポケットから出したハンカチで拭うと、
「恐ろしいほどに弱いな、チンピラ…今まで遊んでいたのか?」
「ハァハァハァ…額から血を流しているヤツが吠えるんじゃねえ!!!!!!!」
名古屋がキレる。
麻王は血で濡れたハンカチで目と耳を塞ぐと、
「オマエ如きに視力も聴力も必要ないよ。」
「な、舐めんなー、クソガキー!!!!!」
名古屋が声を荒げて再び麻王に殴り掛かる。
麻王は目を閉じたままサラリと避け、名古屋の足を掛けると疲れ切った名古屋は前のめりに転ぶ。
側近らしい名古屋の左右にいた二人が加勢に加わろうとする。
麻王は目元のタオルを取り二人を見ると、
「そこから一歩でも動けば戦闘開始の合図と取る。虫未満のチンピラでもまだ生きていたいだろ?」
麻王が水平に静止の右手を挙げると、二人は麻王の声に全身が痺れ、恐怖で動けない。
他の目を覚ました者も、無機質な獣の目とその言葉に偽りがないと思わせるピリピリと響く重い麻王の言葉に思わず目線を下げる。
四つん這いになった名古屋を見ると麻王は、
「弱いのはオマエの格闘の技術じゃない。オマエ自身の心の弱さだよ。いや、技術も未熟だな。」
目を覚ましていたハルトも仰向けのまま麻王のこの言葉に自分自身の情けなさを思い知らされ横を向く。
麻王は携帯を取ると、
「……ああ、青空か?……救急車を頼むよ。駿、お前は腰から右足を。ハルト、お前は母指と示指を傷めているな。痛みと痺れがあるだろ?恐らく末梢神経系だな。」
麻王の言葉に駿とハルトの二人は驚きを隠せない。
「完治する可能性は高いと思う。二人とも今から一緒に病院に行くか。いいか?決して二度は問わないぞ。」
麻王が問うとためらいがちに二人は黙って下を向いて小さく頷く。
麻王は、
「取り敢えず治療が必要な者は病院に連れて行くか…」
周は、
「いやいや、俺一人で結構、頑張っているんだけど?」
「俺が気絶させたやつらは今、全員、眠りに近い状態だよ。気絶がΔ…α波に変わっているヤツもいるかな。おい、名古屋の側近二人、意識を取り戻した者を全員連れて帰れ。次はないからな。」
名古屋の側近だった二人は、
「……クソッ、行くぞ!」
丸々残った消しゴムを側近一人の膝裏に当てると側近の一人はひっくり返る。
再びガードレールの上に片足も乗せ、座ると麻王は、
「”クソッ”じゃないからな。」
側近二人は、
「ヒィィィィィィィー!!!!!」
二人はダッシュで走って行く。
周は、
「……麻王って優しいのか厳しいのかわかんないな。」
「青空の頼みだからな。」
周は、
「Δが深い眠りで、θは睡眠時、αは目を閉じてゆっくりリラックス時いるだけだろ?狸寝入りかよ。覚醒のβはいないだろうな、麻王。」
クスッと麻王は、
「さすが周。でも田中はどうかな。」
坊主頭の仰向けに倒れたままの田中を見ると周は、
「……怖いわ!」
アスファルトの上で胡坐をかいて座っている芯は、
「……麻王、…さっきの掌底は拳法か?」
「んなハズないだろ?」
同じくアスファルトの上で胡坐をかいて座っている碧は、
「……球技大会の試合の翌日、結衣に聞いたら剣術は凄いって…」
救急車のサイレン音が聞こえると麻王は、
「その時、結衣は両耳にティシュを詰めて座っていたと思うぞ。」
碧は、
「……麻王よ…オヤジが麻王を追いかけているみたいなんだ…」
立ち上がると麻王は、
「そんなことより救急車が来たぞ。」
体調を崩して病院に行きました。待合室がすごい人で余計クラクラ。皆さん、季節の変わり目は体調管理を大切にしてください。




