生徒会選挙 後編
●生徒会選挙の結果 12話●
現会長、睦月弥生、一年からは東神子、赤瀬愛枝、橘碧、上杉周、神薙青空の5人が立候補者。
アナウンスが体育館に響く…。
1、 現生徒会長、三年、3A睦月弥生の応援演説は弓道部後輩1A夏葉美緒。
2、 スポーツ科クラス一年、赤瀬愛枝の応援演説は同じスポーツ科クラスの井上愛。
3、 1B東神子の応援演説無し。
4、 1C橘碧には同じ居合剣道部のスポーツ科クラス一年の牧野芯。
5、 1B上杉周にはスポーツ科クラス一年の三明優也。
6、 スポーツ科クラス一年、神薙青空には同じくスポーツ科クラス一年の夏葉麻王。
司会者の女子生徒は、
「上記の順で応援演説、本人演説の順で一日行われる大イベントなので~す!持ち時間は一人立候補者、応援演説ともに5分。この短さの中でどれだけ強く清い印象を与えられるかが生徒会選挙=大イベントですよ~!」
応援演説の夏葉美緒と現生徒会長の睦月弥生が壇上で話す様子を青空はジッと見ている。
舞台右袖で青空は余裕の笑顔を見せながらも、
「現会長はやっぱり強いね。それに美緒には人を魅了する麻王とはまた違うものがあるね。」
舞台右袖でガクガクと震える芯、周、優也は、
「1500人の視線はヤベーよ!3000個の目玉だぞ?」
クスッと青空は、
「ウインターカップ決勝なら1万、甲子園決勝なら4万だぞ?それにおまえたちの後ろの東を見てみろ。」
東神子は芯、周、優也の5M後ろで固まっている。
青空は、
「赤瀬でさらに盛り上がり、東神子で必ず大きく会場の空気は冷める。いや、凍り付く。その後のおまえたちでこの観客は必ず空気を元に戻すことを望む。」
芯は、
「まぁ、コケてくれた方が気持ちは楽だけど、東は学校にいられなくなるぜ…」
睦月弥生の論理的な演説を見ている青空は、
「出て行けばいい。次の学校で自身の欠点と見つめ合える機会だろ?」
芯、周、優也は、
「………………。」
四大財閥の御曹司として凄まじいと言う表現が見合う程の厳しい英才教育を受けてきた彼には緊張という言葉は無縁で冷徹なのだろうと芯、優也、周は思わされる。
二番手の赤瀬愛枝と井上愛の演説も現会長たちと同様の盛り上がりを見せる。
一礼して舞台左袖に下がって行く井上愛を見る愛枝は壇上演台に立つと、
「……ありがとう、愛。」
突然、演台の愛枝は台本を投げ捨てると総合体育館1500人は静まり返る。
愛枝は、
「……昔の、いえ、つい最近までの私はこんな感じのワガママな女だった。」
「でも、今はもう違う!赤瀬商社の孫娘として生まれ、この150年の伝統を持つ白桜幼等部に入り、つい二ヶ月前に高等部に来て10年、私はこの白桜に誇りを持っている。」
「先ず、私が生徒会長になれば成績優秀者は率先して赤瀬商社に入ってもらいます。」
「世襲政治、世襲経営は日本の癌です。ですが家族である白桜生徒がそろった会社はどうでしょう?」
「……では弱者は?私はすべての人には役割があると信じています。ヒーローやヒロインだけが活躍する映画やドラマはつまらないでしょう?」
「……弱者と言われる人がヒーローを影から支えるから面白い!……先ずは白桜高校をイジメのない家族的な学校にしたい!先輩方はお兄ちゃん、お姉ちゃん、後輩君たちは弟、妹に!」
「……赤瀬商社に入れば白桜は永遠になる!日本の癌企業と徹底的に闘えるのは絆の強い元白桜だから可能なのです!」
惚れ惚れと演台の愛枝を見ている周は、
「……本当に変わったな、赤瀬…最近、麻王と接してから赤瀬は本当に柔らかくなったな。」
芯は、
「おうよ、めちゃくちゃ可愛いし、大本命よな…」
優也は、
「頭弱者のオレでも赤瀬商社に…」
舞台右袖に麻王が歩いて来ると芯、周、優也は
「……麻王…」
麻王は温かい目で愛枝の心の変化を見ながら麻王は、
「内部生がほとんどのこの学校では現会長を継ぐに最も相応しいと思われるのも当然だな。井上愛のフォローも上手かったな。そして偏ってはいるが白桜愛を全面的に押し出すのもいいんじゃないか。」
青空は、
「麻王は僕たちが厳しいと思う?」
「いや、赤瀬商社の部分を神薙総合財閥に変えたら瞬殺だろうな。それに愛枝の話はアドリブに見えて完全に事前準備している。故に所々に不必要な間があり、それが観衆の心に響きにくい。ま、それでも内部生パワーで睦月弥生は超えただろうな。」
青空は、
「だね。」
芯、周、優也は、
「……余裕過ぎだろ…」
愛枝が頭を下げると内部生から拍手喝采が起こる。
司会者は、
「続いて三番目の候補者、一年高等部普通科Bクラスの東神子さん、持ち時間5分です。どうぞ!」
舞台右袖から演台に立つと下を向いたままの東は、
「……あ、あの…わ、わ、私は…そ、その…」
舞台右袖の周は、
「あちゃ~もう地獄だよ~!」
小声で芯は、
「ガンバレー……なんか自信が湧いて来たぞ?」
優也は、
「クズだな、芯。」
過呼吸気味に震えながら何とか話そうとする東神子。1500人がザワつく。
東神子、身長146 アジアンビューティーのショートヘア 愛枝より大きいDカップで一部の生徒に絶大な人気を誇る。
彼女の実家は大企業の令息令嬢の多い白桜の生徒の中、世田谷区の小さな鍼灸院の娘。
彼女はまだ国家資格は取っていないが幼い頃から父に教わった”深鍼”は信じられない程の技術。だがクラスでも目立たない臆病な側面を持つ高校一年生。
彼女はいつも麻王のバスケの練習姿を放課後見に来る。高等部に入ってからは少し積極的にタオルや飲み物を持って来る。
麻王が唯一休憩するのは彼女が渡した飲み物を飲みながら彼女と話す間だけ。
練習を止めてうわさ話をする優也と芯は、
「何入ってるんだ、あのドリンク。蓋開けると臭いんだよ。いや、麻王曰くドリンクではなく漢方薬らしいぞ。最近は赤瀬も麻王と親しいよな?」
青空は、
「麻王はああいうことがないと休憩しないからあれでいいんだ。」
優也は、
「麻王って何気に毎日は体育館に来ないよな?」
青空は、
「優也、何回、同じことを言わせるんだ。」
芯は、
「麻王は新聞配達後の毎朝4時に学校に来てるぞ、優也?」
「……マジで?三日坊主とも思ったけど、マジ?」
「そう言えばあの東神子も麻王がグラウンドにいる時以外は彼女の姿を見た事は無いね。」
青空の言葉に優也は、
「……いや、目的は麻王だからだよ。…そこはこう…気付こうぜ。」
芯は、
「いや、俺も青空も周も身体のメンテをしてもらっているぞ、優也?」
優也は、
「……俺だけかよ…」
クスッと青空は、
「やっぱり優也は、怖いんじゃないか。」
「”やっぱり”って言うな~!」
そして今、生徒の一人が演台の東神子に向かって、
「オメー、あがり屋だろが!だったら最初から出るなよ!ってかもう死ね!永遠に死ね!」
と言った瞬間、
「グダグダうるせぇぞ!!!!!!」
麻王の怒声が総合体育館全体に響く。
舞台左袖にいる美緒と愛枝は、
「……麻王…」
体育館1500人が一瞬で完全に静まり返る。戦場でリーダーとして活躍してきた麻王の声は万人の心に響き、その声は遠くまでよく通る。
そう言うと麻王は演台にいる彼女に近づくと、
「少し苦しいだろうけど、このハンカチを軽く鼻と口に充てゆっくりと深く深呼吸できるか。それと俺が今から神子の応援演説をするから俺の後ろで見ておいてくれるかな。」
麻王の言葉に神子が”コクコク”と無言のままうなづく。
彼女が1500人以上の視線を感じない様に麻王は演台の前に立つ。東神子の視界にはほぼ麻王の背中しか見えない。
司会の女子生徒が、
「それはルール違…」
と言おうとした時、
マイクを持たずに麻王は全生徒1500人を見ながら話し始める、
「ルールが公平であるなら応援演説がいない東神子は公平と言えないんじゃないのか?加えてそのルールが真に公平なら東神子の持ち時間は10分のはずだ。」
「本人よりその人を知る者が話した方がより客観的で公平な選挙ができるからこそ応援演説が存在するんだろ?なら、彼女は闘う以前に負けているんだが?」
「それは無視か?これが伝統ある白桜選挙か?いや、それは最早公開私刑じゃないのか?」
「そして先ほど”死ね!”とヤジを飛ばしたヤツはどこのどいつだ?」
麻王の言葉に1500人は完全に静まり返りピリピリとした緊張感が走る。教師たちも麻王の圧倒的な正論に言葉が出ない。
麻王はため息交じりに、
「出て来ないのか、卑怯者?周りの人間は知っている筈だが?今、出て来ないなら俺はこの選挙後も徹底してソイツを探すぞ?」
体育館中央にいる女子生徒の一人は、
「夏葉君、私の隣のコイツ!」
「ありがとう、で、テメーの名前は?ここでまさかの匿名希望君じゃあないだろな?それはあまりにも不公平と思わないか?」
脂汗が滴り落ちる繫田は、
「…………し、繁田だよ。」
「おい、繁田!オマエの行為はそれぞれ刑法230条と231条の名誉毀損と侮辱罪だよ。定義は理解しているか?」
麻王の怒声に繫田は、
「……え?……えっと…いや…ぜんぜん…」
「名誉毀損と認められる要件は”公然”、”事実を摘示”、”名誉を毀損”の三つ。名誉毀損罪は刑法罪だ。白桜高校は過去、刑法に触れた者は例外なく即時、退学処分にしている。今から30秒以内にオマエの言い分を言う時間をやるよ。できない時は即警察を呼ぶ。前に来い!」
あたふたする繁田は、
「い、いや、壇上なんて………東さん、本当にすみませんでした…」
麻王は左ポケットから携帯を出すと、
「言い分ではないな…ああ、港第三署ですか?ええ、まだ15歳の少女が犯罪者に…ええ、大至急パトカーを白桜高校に…」
教師の一人は、
「夏葉~流石にパトカーが校門前に来るのはマズい~!頼むから待ってくれ~!」
携帯をクシャっと握り潰すと麻王は、
「横溝先生、これ、四角に折ったハンカチですよ。」
「…………え?応答する警察官の声が聞こえていたけど………?」
「ああ、それは一人二役の発声の腹話術ですよ、先生。」
呆然と教師は、
「………すご…」
「繁田、許してやる代わりに演台の横で東を応援し続けろ!」
「え?は、はい、喜んで!」
麻王は前に向かって歩きながら壇上の際に立つと再び話し始める。
マイクを持たず壇上から落ちるか否かの際まで麻王が歩くと前席の女子生徒たちが悲鳴を上げる。
麻王は壇上の際で止まると、
「彼女の性格はよく知っている。彼女、東神子が生徒会長になれば必ずこれから受験や留学に向かう三年生にも、学業や人間関係に悩んだりする他の生徒たちにも大きな利益になる。それは彼女自身の誠実さや奉仕の精神がその一番の理由だが、彼女が生徒会長になれば俺は彼女に副会長に指名してもらう。俺の役割は三年も含めた勉学のサポートだ。この白桜の成績は150年の歴史の中で学年を問わず990が限界に作られている。先日の中間考査まで990以上を過去に取った者は150年間、誰一人いない。それは白桜の先生方が毎回集まって作る10点の総合問題が絶対に解けない開かずの問題だからだ。俺には日本中の大学試験…」
と話していると生徒たちはザワっとし、ニコッと麻王が振り返ると、
マイクを持った東神子が後ろから麻王の横に立つと、
「………皆さんそして夏葉君、ご迷惑をお掛けしました。私、東神子の公約を先に掲げさせて頂きます。」
しっかりと話す彼女の姿に1500人の視線に慣れた事を悟った麻王は東神子の斜め右に三歩下がり、彼女の話を聞き始める。
持ち時間終了間際、東神子は最後に右後ろにいる麻王に話しかける、
「夏葉君、私が生徒会長になったら副会長として私のサポートをして頂いても宜しいでしょうか?」
彼女の強い眼差しに麻王は、
「もちろん、但し、勝てばな。」
1500人の拍手と声援は睦月弥生と赤瀬愛枝よりむしろ多いほどだ。壇上の繁田もハンカチ二つで”フーレー、フーレー東神子!”と東神子を応援している。
涙が止まらない井上愛は、
「……夏葉君ってふだんは無口なのに…本当にカッコいいなぁ…」
愛枝は、
「うん、…匿名君まで救うところが麻王らしいね…」
美緒は、
「腹話術なんてできたんだ…」
愛枝は、
「誰よ、アンタ?」
「麻王とは超幼なじみの夏葉美緒ですが?」
「ああ、麻王が妹的にしか思ってない雑魚女ね!」
「誰が雑魚よ!コネ女!」
「何ですって、単なる妹!」
そして、
四番目の橘碧と牧野芯は東神子の拍手喝采に萎縮しほとんどの生徒が眠りそうになっていた。
五番目の上杉周と三明優也はほぼ漫才だったので割愛。
先程までむくれていた司会者がテンション上がりまくりで、
「最後の候補者は一年高等部スポーツ科クラス、中間考査白桜史上初のフルスコアー神薙青空さん!」
テンションが落ちると司会者の女子生徒は、
「……夏葉麻王が先ず応援演説で~す…。持ち時間5分です。どうぞ。」
麻王は続けてマイクも持たずに、
「ああ、青空のファンね。」
司会者の女子生徒は、
「キャッー!!! 真実を言わないで~!」
「……ま、いいか…」
麻王が壇上からふわりと飛ぶように着地すると少し眠そうにしている者たちも含めて1500人が再び麻王に注目する。
麻王は1500人と同じ目線に立つと、
「相手に何かを訴えかけたいなら本来は同じ目線に立つべきだろ。」
少し笑みを浮かべるその表情に先ほどまでの高圧的なものは全くない。
自信に満ち溢れるが決して傲慢でも偏見でもなく、ただただ優しさと公平さに溢れる麻王の一言一句は場内にいる1500人に再び心地いい緊張感を与える。
努力によって積み重ねて来た謙虚な自信や言葉は人の心を魅きつけるものだという事を麻王はよく理解している。
そして最後に周囲が落ち着くような透き通った声で麻王は話しを切り出す。
「全ての世界の衰退の原因の1つに人そのものが”持つ馴れ合い”という悪しき”忖度”や”利権”が存在する。」
「所謂、コネと呼ばれるものもその一つ。本来、努力し公平性のあるものが上に立ち、その周りにいる者も公平者を称え、役割を与えられるウインウインの関係。」
少し間を空け全体に確認を取るかのように見渡す。
「白桜の生徒会長には副会長も含め役員の指名権限がある。廃止すべきかどうかは今後皆で決めていけばいいと思う。ただ今回に限っては神薙青空が会長になった暁には先のそれぞれの本人演説を聞いて確信した…」
「…生徒会役員には赤瀬愛枝、東神子に神薙青空の補佐をしてもらいたいと思う。睦月先輩、井上愛、夏葉美緒、橘碧にも参加してもらえれば嬉しい。」
生徒たちは、
「夏葉が副会長にならないのか~!」
「麻王君~、白桜を甲子園に連れていって~!」
「何でフリーバッティングあんなに飛ぶんだ~!」
「神薙夏葉コンビすごいよー!」
「夏葉君~!腹話術サイコー過ぎ~!」
白桜の生徒たちが熱を上げ始めると麻王は無言で左手の掌を水平に上げそれらの言葉を静止する。
「俺が生徒会に入ればそれは俺自身が言った馴れ合いになる。それに本当の民主というものを俺はまだ見たことがない。なぜならそこには常に先ほどの忖度と利権が存在しているからだ。生徒会も生徒たちも各々が各々の役割を果たせば個々人の世界は必ず広がる。最後に…」
と麻王は壇上に上がりマイクを持つ。
「俺は、青空、芯、優也、周や野球部やバスケ部の先輩という仲間と一緒に、ここ白桜高校にいる1500人、皆を全国に連れて行くのが俺の役割だと思っている。」
神薙青空がそのまま壇上の麻王に近づいてくると二人はハイタッチをする。
二人の美しい姿に誰もが見惚れ、白桜1500人が今日最高に盛り上がる。
青空は自身のスピーチを今後の白桜の課題と展望という話だけにし、およそ一分で簡潔に終わらせる。彼は麻王が持って来てくれた流れをキレイに補正しただけだ。
【生徒会選挙結果】
有効投票1530票
1位 1001票 神薙青空
2位 203票 赤瀬愛枝
3位 196 票 東神子
4位 102 票 睦月弥生
5位 25 票 橘碧
6位 4票 上杉周
生徒会長 神薙青空
副会長(男) 東神子(空白なので仮)
副会長(女) 赤瀬愛枝
会計監査 橘碧
会計 井上愛
書記 夏葉美緒
生徒会選挙の翌日野球部グラウンドで麻王がいつものようにフリーバッティングをしている。
野球部のグラウンドに初めて東神子が来る。
「夏葉君、昨日は本当にありがとうございました。」
東神子は頭を深く下げる。
ただ一言、麻王は、
「野球部にようこそ。」
涙が頬を伝うと神子は、
「昨日、夏葉君が助けてくれなかったら…涙が溢れ上手く話せない…………ごめんね。」
「四カ月前もそんな感じだったな。青空から生徒会に誘われたんだろ。おめでとう。」
麻王は神子の頭を撫でながら優しく笑う。
「夏葉君には二回も助けてもらって…せめて何かお礼をさせてください。」
麻王は少し考えると、
「……きっと秘伝とかあるのかも知れないけど、良ければ鍼や灸を俺にも教えてくれないか…さすがに図々しいか、ごめん。」
神子は目を輝かしながら麻王を見つめると
「いえ、いえ、是非!早速二人きりで練習しましょう!」
ある意味地雷踏んだかなと麻王は思う。




