野球体育祭③ 弥生律
●野球体育祭③ 弥生律 111話●
日曜日 三回戦
【一年バスケ部野球部合同チームvs白桜&新宿東合同チーム】
(赤羽チーム)
一番センター 椿彩羽
二番ショート 神戸瞬
三番セカンド 赤羽居織
四番キャッチャ 神谷智
五番サード 三好哲也
六番ファースト 坂季大地
七番ライト 白鳥翼
八番レフト 榊走
九番ピッチャー 千条、藤原。
(白桜&新宿東合同チーム)
一番センター 九条弓
二番セカンド 伊藤聡
三番キャッチャー夏葉麻王
四番ピッチャー 夏葉心海
五番サード 滝トオル
六番ファースト 篠原杏
七番ショート 上杉ひかり
八番レフト 木村棗
九番ライト 大川楠葉
ピッチャーマウンドの心海の下へキャッチャーマスクを持った麻王が歩いて来る。
「……麻王兄。」
「俺の一番の誇りは何かわかるか、心海?」
「……麻王兄の一番の誇り…何?」
「心海が俺の妹だったことだよ。」
「………麻王兄…ホント…?」
「ああ、俺を信じて思いっきり投げて来い。」
「うん!」
一回表
一番の椿が右バッターボックスに入る。
一球目、大きな外角一杯58km/hのスローカーブに椿はバランスを崩しながらも何とかバットに当てるがファーストよりにいたショートの伊藤は楽々取るとタッチアウト。
続いて二番バッターの神戸が右バッターボックスに入る。
一球目、内角低目ストレートでストライク。
二球目、外角一杯に60km/hのスローカーブを見送るとストライクのコール。
三球目、内角高目の吊り球ストレートにバットは空を切って三振。
一塁側ベンチの藤原は、
「………伊藤先輩に麻王先輩も入って乱打戦勝負と思ったけどな。麻王先輩は敬遠するか?」
神谷は、
「バーカ、麻王先輩は真っ向勝負してくれているんだぞ?あんなスローカーブ、右に流せばいいだろ?な、三好?」
三好は、
「昨日はあんなキレるスローカーブを心海は投げてなかったな。右に流そうとすればボール一個外して来るだろうな。」
藤原は、
「ピッチャーマウンドは心海だぞ?あれが真っ向勝負か?」
坂季は、
「でも居織も三振したぞ?」
一回裏
ピッチャーマウンドに右腕の千条が上がる。
一番バッターの弓はMAX143km/hのストレートに三球三振。
二番バッターの伊藤は右バッターボックスに入ると三球目のスライダーをライト前ヒットにする。
ファーストの坂季は、
「千条のキレの悪い変化球を狙うとはさすがですね、伊藤先輩?」
一塁ベースで止まると伊藤は、
「坂季、そんな余裕があるのか?」
坂季は、
「え?」
三番左バッターボックスに入った麻王に千条の投じる二球目、チェックゾーンを過ぎてからボール二個分内に食い込む絶妙なスライダーが麻王の膝元にいく。
スッと掬い上げると同等に快音が鳴り響く
遥か上空、センター方向に飛んで行く打球にサードの三好は、
「……ウソだろ…」
三塁側ベンチの杏は、
「……泣きそう…」
滝は、
「……すごい…」
涙が頬を伝うと楠葉は、
「…夏葉先輩が新宿東高校にいてくれたら…」
香織は、
「そんな簡単なことじゃなかったと思うよ。」
麻王のライナーが隣のグラウンドで試合をしているピッチャーマウンドに落ちる。
麻王の打球を追いかけて見る伊藤は、
「………よし!さすが麻王。推定飛距離140Mのライナーか。」
伊藤はベースをゆっくりと走って行く。
麻王を観に来た観客から感嘆の声があがる。
二回表
ピッチャーマウンドの心海に対して、
四番バッターの神谷が右バッターボックスに入る。
一球目、内角高目からボールになるスローカーブを神谷は軽く身体を逸らして見送る。
二球目、外角低目ボール半個外のストレートはファール。
三球目、内角高目ボール半個外のストレートを見送りストライク。三球で軽くツーストライクに追い込まれる。
四球目、ボール一個外角に56km/hのスローカーブを見送りツーストライクツーボール。
五球目、内角高目ボール半個外の123km/hのストレートに神谷のバットは空を切る。
神谷の力を知る千条、藤原、坂季は、
「………手を抜いたのか…?」
キャッチャーの麻王は心海に返球をすると神谷に、
「150km/hの剛速球に見えただろ?」
「………はい。」
「緩急差70km/h。頭で理解しても視覚情報として視床を介した自身の大脳は誤魔化せないよ。」
がっくりと神谷は、ベンチに帰って行く。
続く三好、坂季も粘るがバットは虚しく空を切る。三回表も赤羽チームは三者連続の三振。三回裏に伊藤のヒットと藤原も左バッターボックスに入った麻王に特大のホームランを打たれ0対4。
四回表、
九番バッター藤原のボテボテのサードゴロに交代していたジャージ姿の美緒がトンネルするとキャッチャーの麻王は審判にタイムを取る。
「夏葉心海をショートに伊藤聡をキャッチャーに僕がピッチャーをします。」
三好は、
「………ようやく来た流れを先輩にあっさり切られたな。」
神谷は、
「だがこっちは一番バッターの椿からだ。」
ピッチャーマウンドの心海の下にレガースを外して準備している麻王以外の内外野手が集まっている。
サードに入っている美緒は、
「……ごめんね、心海。」
「軟式ボールでもケガはするから美緒姉が無事でよかったよ。でも、美緒姉も運動神経いいね!」
「……心海。…もう、これでもクラスDだよ!」
「でも……でもね、麻王兄がここに来たのは私たちのためじゃあないのかな?」
「……うん、毎日が楽しくて…」
ファーストに入っているひかりは心海と美緒の会話に、
「何の話?」
心海は、
「アンタには関係ないよ。」
ひかりは、
「何、それ?」
心海は、
「それよりもアンタたちのバカ兄貴は?ふつう敵に回るかな~雑魚のクセに。それにアンタの前の学校の友達は?」
ひかりは、
「………………。」
ピッチャーマウンドに歩いて来ると麻王は、
「待たせたな。本当によく俺の考えを読んで投げたよ、心海。」
「うん、麻王兄の配球サイコー!」
合成革のグローブを持っている麻王は、
「美緒、最後までサードを頼むぞ。」
「……麻王。…うん!そのグローブは?」
「後期高齢者チームに知り合いの方がいてな。心海、そのグローブはここまで皆を引っ張って来たお前にやるよ。」
「ええぇぇぇ~うらやましい~!」
よく手入れされたグローブを見る心海は、
「……これは麻王兄が新聞配達をして買ったグローブでしょ?」
「確か決勝戦は甲子園で闘う女子野球部の大会があっただろ?弓がその甲子園に行くには心海やひかり、香織、結衣の力が必ず必要になる。」
弓は、
「女子野球部の甲子園ですか…?」
「そう、白桜高校女子野球部として登録はしてある。来年なら甲子園に行けるな。さ、早く全員守備位置に戻れ。」
「はい!」
ピッチャーマウンドで砂を慣らしている麻王に白桜体育祭の観客一万がすでに集まっている。
麻王は全球ど真ん中のストレートで榊、神戸、赤羽をあっさり三者連続三振に取る。
四回の表の最後のバッターの赤羽は、
「軟式でももうミサイルだよ~!……は?ボールは?もうミット?って感じ。」
椿は、
「……あんなボールを取れる伊藤先輩もやっぱりすごいよな。」
三好は、
「ミットが全く動いてなかった………伊藤先輩は構えているだけだよ。」
坂季は、
「………155km/hは超えているぞ?麻王先輩の制球力の凄さは知っているけど155なら1cmズレたら弾くぞ!」
神谷は、
「うるせーよ、逆に言えば最終回、五回裏の四番バッターの俺から始まるバッターボックスはど真ん中だけって事だろ?」
複雑な表情で赤羽は、
「ど真ん中狙いで十分か……まぁ、卑怯だけどな。」
赤羽の言葉に白鳥、椿も同じ表情をしている。
神谷は、
「麻王先輩ならそれも含めて勝負って言うぞ。俺が後輩として麻王先輩のノーヒットノーランを打ち破ってやる!」
五回裏
最初のバッターにグリップを強く握った四番バッターの神谷が入る。
ピッチャーマウンドの麻王はロジンバッグをポンポンしながら、
「……かわいい後輩に試練をってか。」
一球目、155km/hのど真ん中ストレートに神谷のバットは空を切る。ベンチの赤羽たちも啞然としている。
二球目、156km/hの全く同じコース、ど真ん中ストレートに神谷のバットは再び空を切る。
タイムを取ると両手でバットのグリップを握り直しながら神谷は、
「……実際にバッターボックスに立つと球の伸びが尋常じゃないな………いや、でも、所詮はど真ん中だだけだ…伊藤先輩のミット位置から軌道が見える…」
神谷は伊藤のキャッチャーミットを事前に見る作戦を選ぶ。
麻王のズバ抜けた投球の1つにタメの異常な長さがある。
投球コースの最終位置が事前に分かればタメをつくっている間にストレートの軌道だけなら残り一球でも何とか対応できる。尋常ならざるスピンレートのストレートが来ても神谷なら可能だと三好たちは思う。それ程に神谷のセンスは凄い。
三球目、ど真ん中のストレート。神谷のバットは空を切るが伊藤が弾く。振り逃げ。俺の足なら一塁まで余裕。神谷がそう思った瞬間、サードの美緒がキャッチャー伊藤の弾いたボールをすでにつかんでいる。女性の美緒の送球でも楽々アウト。
三好も坂季も連続三振でゲームセット。神谷は呆然としている。
ピッチャーマウンドの麻王に全員が集まっている。
神谷たち一年もピッチャーマウンドに歩いて来ると、
「……完敗です。」
麻王は、
「いつの日かライバルになるお前たちに簡単に自信をつけさせるはずがないだろ?」
三好、白鳥、赤羽、神戸、椿たちは、
「………麻王先輩…」
神谷は、
「…あ、あの…伊藤先輩のミットから球の軌道を読んだんですけど…どうして…」
ベンチに戻る伊藤を見る麻王は、
「……伊藤先輩は妹さんと会話ができるために手話を覚えたからな。後は神谷の狙いを読んでど真ん中からバット一つ外せばいい…お疲れ。」
それだけを言い手を上げると麻王もベンチに歩いて行く。
交替でセカンドに入っていた文音は、
「……亡くなった聡君の妹さんの話だよ。」
「………………。」
文音は、
「ほら、うちのチームとして登録として来な!」
久保は、
「……聡君って…それにその話はどこで…」
「新宿バスケコートで心海と美緒と私の三人でバスケしていたら聡君がね。優しくて頭もよくてホントにかっこいいよ。」
「…お、俺も行ってもいいかな、一条…?」
「何でそんなことを聞くのよ~!」
神谷は、
「……かわいいな…」
赤羽、榊、椿、榊、千条は、
「……ああ、…」
神戸は、
「俺ならこんな追いかける恋は脳が破壊されるわ…」
試合後
東中後輩の杏と楠葉は涙が溢れ、
「……麻王先輩、本当は私と杏は東中でも浮いていて……いつも人気者だった心海先輩と弓先輩に相談していて………すみません。」
「そういう風には見えなかったけど、そうなのか?」
楠葉は、
「……私が肘を痛めて杏は一緒に東中で頑張ろうって言ってくれて…そこで心海先輩を慕っていたトオルとも友達になって…」
杏は、
「一ヶ月前にリトルを辞めた時には学校もうグループができあがっていて…」
「そうだったのか。今日の野球で何か感じるものがあったか?」
杏は、
「……気弱な私たちには麻王先輩は遠すぎるって。」
「そうか?」
「え?」
「砂上の楼閣って分かるか?」
杏は、
「……見かけは立派だけど基礎がしっかりしていない事ですか?」
「そう、そしてそう言う人間は大事を成せない。心海と弓がしっかりした杏や楠葉と一緒に来た時に俺は安心したけどな。」
「…………。」
「人生、あり得ないぐらい短く考えても残り60年はある。学生時代はわずか数年。その数年を逃げるヤツに未来はないかも知れない。でもその数年の辛い孤独を乗り越えれば残りの人生40数年以上ハブった奴らを見返す事ができる。まあ、そう言ってもお前たちにはこうして話し合える友人がいるけどな。」
「……先輩…」
「昨日、新宿東高校も体育祭だっただろ?篠原や大川に会って来てな。」
楠葉と杏は、
「……知っていたんですか?」
「篠原と大川の自慢が頭のいい妹たちだってな。これからも心海と弓をよろしくな。」
杏は、
「……兄が…すみません…」
「友が道を外していたら殴ってでも止める。それが友人だよ。真似するなよ。」
「……麻王先輩…」
白桜 駐輪場
心海が一人走って来る、
「麻王兄~!」
振り返ると麻王は、
「どうした?」
「日曜も仕事?」
「だな。四回戦は坂季たちに投げてもらうように言っておいたよ。」
「…麻王兄、結局、アイツらは殺したの?」
「またか…で、どこまで覚えている?」
「……麻王兄が壇上の前に来た時に……完全に意識が消えて…」
「何か問題か?」
「……麻王兄は殺さないよ。」
麻王は自転車を押して校門まで行くと、
「なら、それが答えじゃないか?行くよ。」
「……私の記憶を消さないの?」
「最初のヤツだけ首に激しい振動を与えて気絶させた。後の二人は通常より弾心が細いラバー弾だよ。」
「……地球には美緒姉や私が世話になっているから?」
「今日は質問が多いな。」
「………私たちに麻王兄みたいな力があれば………ごめんね、麻王兄…」
「力で抑えればいつか必ず返しを喰らう。おまえや美緒、今は文音も家族だ。ただ元気でいてくれたら俺は幸せだよ。」
麻王は自転車で走って行く。
「……麻王兄…」
「……あの、今のは夏葉麻王君ですか?」
白桜 食堂
愛枝、愛、棗、神子、文音、結衣、香織、弓たちは持参したお弁当をトオル、杏、楠葉たちに渡している。
ハルトは、
「愛、頼むよ~!うちのチームに入ってくれよ~!」
「そんなことできないよ~。…他の友達は?」
赤羽と神戸が歩いて来ると、
「どうしたんですか、ハルト先輩?」
「いや、普通科のヤツらチームに入って貰ったんだけど三人ともケガしてよ~!」
「…………。」
神戸は、
「それも含めて試合ですよね。」
碧は、
「どういう意味だ、神戸よ!」
愛枝は、
「後輩君が正しいと思うけど?それより早く夕飯、食べようよ~!」
碧は、
「なんだよ、お前だって赤瀬商社の孫娘ってだけで幼等部の頃から女子たちに祭り上げられて調子こいていただろ?」
「いつの話よ!」
結衣は「……お兄ちゃんが困っているなら…私はいいよ。」
ひかりは、
「私もいいよ。」
香織は、
「私はふつうにイヤだけど?ここまで一緒にたたかって来て、結衣もひかりもそれは酷いよね?それにひかり、麻王先輩はきっと何も言わないけど心海や弓は絶対に許さないと思うよ!」
結衣とひかりは無言のままうつむいている。
碧は、
「ごめんな、結衣!そう、棄権するからな、な?そして麻王の下へ戻れ、そして永遠に二人で暮らせ!」
周は、
「まあ、神戸の言う通りだな。ありがとう、ひかり。」
ひかりは、
「野球ってただの球遊びだよね?本気になってバカみたい!」
ひかりが走って行くと、
「おい、ひかり~待てって!」
周が追いかけて行く。
「…………。」
神薙総合病院
処置室
ベッドから起き上がると弥生律は、
「……右足先が痺れてない…」
使い終わった注射器を医療廃棄物ボックスに捨てると麻王は、
「特殊な液体で飛び出した髄核を溶かしたからな。」
「……注射一本で……クリニックの先生は魔女の一撃、つまりギックリ腰だって…」
「状況がわからないから何とも言えないな。再発はしないが無茶な運動をするとまた別の髄核が飛び出すからな。」
「ああ、ありがとう、夏葉君!……お金は?」
モニターを指さすと麻王は、
「無料だよ。」
「……でも…」
「試験的にΔAIを使ったモニターを試させてもらった。お礼を言うのはこっちだよ。それより仙台に病院があるだろ?」
「……いや、まあ、散々、周りを見下して準決勝では速水から三打席連続三振で………誰にも相談できなくて。」
白衣を脱ぎながら麻王は、
「屋上で話すか。二週間は運動一切禁止な。東洋診療科の予約は取ってあるから後でな。」
「ありがとう!行って来るよ!」
神薙総合病院 屋上
「まだ信じられないよ、本当にありがとう。」
「いや、もうお礼はいいよ。安静にしていたら二週間で完治するよ。」
「あの…本当に治療費を払うよ、夏葉君。」
「必要ないよ。走って追いかけて来てくれて良かったよ。この事は秘密にしておいてくれないかな?」
「………医師のこと?……いやいや、わかってるよ。本当にありがとう、夏葉君。」
「泊まる場所は?」
「ああ、おじさんが東京にいてね。そこに行くよ。」
ベンチに座ると麻王は、
「あやと高校を辞めるのか?座れば?」
「な、なんで…わかったの…?」
「表情かな?腰痛でハブられたぐらいで弥生律が東京に来ないだろ?白桜か香明学園の見学か?」
「……夏葉君って何でもお見通しだね。」
ベンチから立つと麻王は、
「麻王でいいよ。じゃあ気を付けて帰れよ、律。」
「さっきから急いでいるよね、どうしたの?」
「土曜日に不良名門校が白桜に来てな。そろそろ仲間たちを探しに来る頃かなって。」
「……そうだったんだ、引き留めてごめん。」
「いや、律に会えてよかったよ。白桜はどうだった?」
目を閉じると律は、
「……神薙君だけなら白桜一択だったけど、香明も進学コースがあるしね。」
「なら、よかったよ。これ、連絡先。また杜の都仙台に行くよ。」
「うん、待ってるよ、麻王。」
午後10時
白桜校門前
保護者や生徒たちも帰り白桜高等部は静寂に包まれている中、槍塚高校の生徒23名が白桜高校校門周辺に屯している。
槍塚高校の一人は、
「昨日の午後から京悟が全く連絡して来ねえんだよ。」
「雷太やタツキもいただろが!」
「武闘派ヤクザを20人も半殺したあの三人が負けるヤツなんているわけないだろが!!!!」
「…………ま、連絡がないってことは負けたんだろ?いい学校だなあ……リョウ、ガソリン持って来たか?」
リョウと呼ばれる男は、
「車にしこたま積んであるよ、勇児君!」
ニコリと笑うと勇児は、
「窓ガラス、全部叩き割って校舎ごと燃やすか?」
「明日から白桜青空教室っスね?」
ひかりが走って来ると勇児にぶつかる。
勇児は、
「……なんだ~、クソアマ!」
「…………あ、ごめんなさい。」
勇児の平手打ちにひかりはそのまま場に気絶して倒れる。
兄の周が走って来る。
「ひかり!!!!」
勇児は上着を脱ぐと、
「んだぁ~?まだ残ってるクソ虫がいんのか?京悟たちの弔い合戦だ、全員、殺っちまうぞ。」
掴みかかろうとした周を勇児の後ろにいたリョウは一発ノックダウンさせる。
リョウは周の頭を踏みつけながら、
「馬鹿みたいに弱いっスね?この女はどうします、勇児君?」
下駄箱まで来ていた碧と芯は、
「………コラ、やってんだ、テメーら!!!!!」
ファイティングポーズを取ると勇児は、
「中々、強そうじゃん、掛かって来いよ!オマエたち全員、手を出すなよ!」
素早く碧と芯の前に立ちはだかるとリョウは、
「イヤイヤ、勇児君、後ろから弱っちいヤツの仲間たちも来ていますしね。徹底的に殺るぞ、テメーら!!!!!!」
「おう!!!!」
槍塚高校23名と芯、碧に駆けつけて来た優也、ハルト、駿、赤羽、神谷たち一年も加わって大乱闘が始まる。
160km/hを軽々と超える軟式ボールが勇児、リョウたちの首に当たるとその場のコンクリートにカクンと倒れる。槍塚高校の他の生徒たちもそのまま次々とアスファルトに倒れて行く。
槍塚の生徒に殴られ、額から血を流している白鳥は、
「……………………麻王……先輩……」
麻王はリュックに軟式ボールを入れると歩いて来る、
「う~ん、スライダーではイマイチ。警察が来るぞ?神谷は碧を、三好は芯を、坂季はハルトを、千条は駿を、白鳥は周を、赤羽はひかりを連れてすぐに逃げろ。」
白鳥は、
「………でも…」
「暴力に暴力はアウトだよ。退学処分にされるぞ?」
口の血を拭うと神戸は、
「…………麻王先輩は?」
神戸の言葉の後にパトカーのサイレン音が遠くから聞こえて来る。
失神している槍塚高校の生徒たちの様子を見ながら麻王は、
「俺は投球練習していただけだしな。白桜の裏門から行け。また明日な。」
「…すみません、麻王先輩、失礼します!」
ひかりを抱きかかえると赤羽たちは走って行く。
赤羽たちが遠くまで走って行くのを確認すると麻王は、
「…………さ、記憶を消すか。」
3分後
心海、美緒、愛枝、愛、棗、神子、文音、結衣、香織、弓、トオル、杏、楠葉たちが走って来る、
「何の騒ぎ?………麻王兄?」
白桜校門前に数台のパトカーと麻王と警察官たちが話している。愛枝や文音たちの周りに槍塚の生徒も誰もいない。
警察官たちは腑に落ちない感じで首をかしげて帰って行く。
美緒は、
「………麻王、何が…」
パトカーが走って行くと麻王は、
「もう遅いぞ。全員のタクシーを呼んでおいたから美緒、心海、文音、楠葉、杏は一緒にタクシーに乗って新宿のマンションに帰れ。」
トオルは、
「先輩~、僕も一緒に帰りたいですよ~!」
「タクシーに6人は無理だ。それにトオルはお風呂を覗くだろ?」
トオルは、
「麻王先輩も絶~対に覗いているでしょう?」
麻王は、
「愛枝、愛、棗、神子、結衣、香織、弓は一台ずつ………8台……7台しか呼んでないな。トオル、家が近い弓か神子を選んでいいぞ。」
トオルは両手を握りながら、
「マジですか?何してもいいんですか?」
神子と弓は、
「そんな訳ないでしょう!」
無言のまま麻王は駐輪場にバイクを取りに行く。
結衣は、
「……麻王先輩、お兄ちゃんたちはどこですか?」
振り返ると麻王は、
「碧、芯、優也、ハルト、駿や赤羽たちは神薙総合医大で一日検査入院だよ。」
結衣、香織は、
「………検査入院…」
「念のためにな。心海、このままアメリカに行くから最後までリーダーとして頑張れよ。プレゼントが来るらしいよ。じゃあな。」
「…らしいよって……麻王兄。」
文音、美緒、棗、愛枝、トオル、楠葉、杏、弓、結衣、香織、愛と神子は、
「………麻王(君、先輩)。」
麻王はバイクに乗ると猛スピードで走って行く。
楠葉は「…………めちゃくちゃ飛ばしますね?」
弓は「麻王先輩は飛び込み免許一発で取っているしなあ…。」
杏は「飛び込みって何です?」
愛は、
「飛び込み試験……その場でコースABCのいずれかを指定されて完璧に走り、筆記試験も合格しないといけない合格率5%ぐらいしかいない試験らしいよ。」
愛枝は「詳しいね、愛?」
「ハルトがね、……グローブとかブーツ、服装もきちんとして非の打ち所がない運転操作をしない限りはほぼ不可能だって。特に16歳でのバイク受験は危険だから車と違ってパーフェクト以外は不可能だって断念したよ。」
香織は、
「タクシー来ましたよ~!」
トオルは、
「神子先輩~!一緒に帰りましょうね?」
「…………。」
月曜日(祝日)
野球体育祭決勝戦
(二年野球・バスケチーム)
一番センター 三明優也
二番ショート 井上ハルト
三番セカンド 橘碧
四番キャッチャ 上杉周
五番サード 牧野芯
六番ファースト 名古屋駿
七番ライト 井上ハルト
八番レフト 坂季大地
九番ピッチャー 千条司
(白桜&新宿東合同チーム)
一番センター 九条弓
二番セカンド 伊藤聡
三番ショート 夏葉心海
四番ピッチャー 弥生律
五番キャッチャー神谷智
六番ファースト 篠原杏or藤原理来
七番サード 三好哲也or滝トオル
八番レフト 藤原理来or赤羽居織、神戸瞬
九番ライト 大川楠葉or椿彩羽、榊走
あやと高校の弥生律がウインドブレーカー姿でピッチャーマウンドに行くと、観衆三万人は三日間の体育祭で最高に盛り上がる。
クリーンアップを打つ碧、周、芯のバットスピードはその練習量から異常なほど鋭くなっている。神谷や三好に才能では劣るが現時点では周たち三人の方が上。
が、弥生律の抜いたチェンジアップとドロップカーブに碧、周、芯たちのバットは空を切り続ける。
律の抜いたドロップカーブにタイミングをズラされて芯はひっくり返る、
「……………腰を傷めたんじゃないのか…?」
伊藤と三好のヒットに神谷と弥生律の連続ホームランで勝負はあっさりと白桜&新宿東合同チームの五回コールド勝利に終わる。
内外野手がピッチャーマウンドの弥生律の下に集まって来る。
神谷は、
「もうホントに見事なピッチングでした!…腰、大丈夫ですか?」
律は、
「余裕、余裕、麻王から絶対にムリするなって言われたから5割ぐらい?神谷君だった?いいキャッチングだったよ。」
心海は、
「ナイスピッチ、麻王兄からのプレゼントの律さん!頼まれたの?」
「さすが麻王の妹さん、ショートの守備範囲が半端ないね?昨日、別れ際にね、今日の試合に出して欲しいってね。じゃあ、一生の思い出もできたしこのまま仙台に帰るよ。」
千条は、
「……スポーツ新聞に腰を傷めたって書いてましたがもう大丈夫なんですか?」
「神薙総合医大に”神の手”がいると聞いてね。ご覧の通り。」
坂季は、
「野球を辞めるって聞きましたけど…あ、…なんか無神経ですみません…」
「気にしなくていいよ。腰を傷めた後に野球部の連中に袋叩きにされてね。”ああ、スポーツって脳筋しかいないや”って。これからは香明で遊び程度にして東大を目指すよ。」
神戸は、
「そんな軽やかに東大っすか……律さんって噂よりずっと爽やかですね?」
「ホントに?これから高校に帰ったら僕をボコボコにしてくれたヤツら全員に仕返しする気満々なのに?」
「………………。」
顔を腫らした周、芯、碧が歩いて来ると周は、
「……完敗だよ。握手してくれ。」
差し出した周の手をじっと見つめると律は、
「チームメイトだろ、なぜ敵対?それにその程度の力量でよく闘いたいと思ったね?」
「…………。」
「その顔は?麻王は君たちの身をずっと案じていた。それにアスリートなのにそのオラオラ感が嫌いでね。だから握手は受け取れないな。じゃあ失礼するよ。」
弥生律は観衆に手を振るとそのまま歩いて行く。
呆然と周、芯、碧は、
「…………イヤなヤツだな。」




