麻王の苦悩
●麻王の苦悩 108話●
白桜高校
麻王は一人廊下を歩いている。
「仕事が残っていたな。生徒会室に行くか…。」
青空が後ろから声を掛ける、
「悩んでいるようだね、麻王。」
「青空か…。話しが益々複雑になって行くようでな…。」
麻王の言葉を聞きながら二人は生徒会室に入って行く。
生徒会室
青空と麻王はソファに座ると、
青空は、
「麻王以上の男はいないもんね。」
「いや、目の前に一人いるな。それに俺は人をダメにするよ。」
「神薙総合財閥の社員やファイナンスの社員を見る限り麻王は極めて優秀だが?」
「少し待ってくれ。」
麻王は自身の机の引き出しの一番下にある指紋認証の金庫を空ける。信じられないほどの透明度と輝きの凝縮された鉱石の塊をソファの前のテーブルに置く。
「……病室には無くなっていたよね、麻王?」
「いや、あの時はマナを一瞬で圧縮させて飛行機で青空を迎えに行く時間で更に凝縮させたんだ。」
「使ってなかったのか…」
「なぜ急速に回復できたのか。それは今後の研究の課題だな。それにマナによる回復なら瞬時に髪の毛も生えているよ。美緒や文音、愛枝たちの装飾品も関係しているのは確かだろうな。」
「僕は麻王が無事ならそれでいいよ。ただややこしくなっているのは僕も懸念している。僕に任せてくれ、麻王。」
麻王はウトウトして自身の副会長席に座ると、
「……βもΔも課題は残っているしな…。」
放課後
生徒会室
愛枝、美緒、棗、愛、神子、心海、結衣、香織、ひかりたち9人が生徒会室のソファに座っている。
「今、麻王と僕はβ(ベータ)の改善とΔ(デルタ)の最終開発に取り組んでいる。それらの価値はそのアクセサリーを付けている皆なら何となく、でもそれがどれだけ重要か伝わっているだろ?」
青空の言葉に愛枝や愛たちは無言のまま頷く。
「麻王は甲子園の投球もかなり無理をしていた。だから準決勝まで一年ピッチャーたちのサポート役に回っていた。今は生徒会室で考え事をしている生徒会室奥の部屋で眠りについたよ。」
青空の言葉に全員が下を向く。
「ここにいる九人は、秘書として今は麻王のサポートもしてくれている。逆に麻王は全員に役割を与えてくれた。役割を与えられる事によって麻王と貴重な時間を公平に過ごせる。もう鉱石はほぼ存在しない。故にアクセサリーの無駄遣いは止めて欲しい。」
愛枝は、
「………嫌な質問だけどこのアクセサリーの価値は?」
「バカな君たちが全く違う場所に飛ばした各所の病院、老人ホーム、学校等の221203名の持病等の病が全て完治した。港区の奇跡らしいよ。世界中の難病に苦しむセレブ20万名にこの真実を伝えたら赤瀬商社が幾つ買えるかな?」
愛枝と美緒は、
「……愚かですみません。」
弓は、
「健康になってよかったじゃないですか!」
「病院の職員と提携する薬局は経営が苦しくなり大量の人員を解雇したよ。」
弓は、
「……愚かですみません…」
少し考えると青空は、
「……そう、愛枝、麻王と結婚したら何人子供欲しい?」
「突然?……さ、三人かな?」
「棗は?」
「二人は絶対に欲しい。」
「神子は?」
「最低二人、いえ、やっぱり三人です。」
「愛は?」
「私も絶対二人かな。」
「結衣は?」
「男の子と女の子二人です。」
「ひかりは?」
「女の子二人です?」
「心海も一応聞いておくか?」
「何で一応、青空君?それに文音や弓は?」
「…………。」
青空はクスッと笑うと、
「まあ、一年以内にこの内の半分は脱落しているから気にしない、気にしない。」
愛枝、美緒、棗、愛、神子、結衣、香織、ひかりは、
「失礼と思いますが~!?」
「君たちは根っこの部分から愚かだからね。」
「…………。」
「最初はね、全員に麻王と別れてもらおうとね。麻王に好意を持っている一国の王女がいてね。」
「………王女。」
「品格、知性、家柄、美しさ、何より麻王が結婚してくれたら神薙総合財閥はヨーロッパで神薙総合財閥ヨーロッパ本社をつくることができる。」
愛枝と棗は、
「それは自分のためじゃない?」
「……麻王兄は何よりも私の幸せを願ってくれているしね…」
シラっと結衣は、
「自分がいい暮らしをしたいだけのクセに。」
「下手くそな結衣の父親や愛枝にゴルフ教えて小遣い稼ぎしなくてもいいじゃん。」
「こら~!」
青空は、
「ま、王女の話はジョークとして、本当に碌なのがいないね。ああ、麻王を起こしたらダメだよ。」
青空は席を立つと生徒会室から出て行く。
愛枝は、
「失礼でしょ!」
棗、愛、神子は、
「もういちいち嚙みつかないでよ、愛枝~!」
立ち止まると青空は、
「……愛枝、おまえは麻王に何を与えたんだ?」
「えっ?…ゴ、ゴルフレッスンの仕事よ!」
青空は、
「幾ら麻王に払ってやってるんだ?」
「マンツーマンでゴルフレッスンを受ける場合は、1回あたりの料金は20,000円だけど?」
「結衣たちは?」
結衣と香織は、
「……お父さんたちは二人一組で月8回で20万で…すみません…」
「全国平均がマンツーマン指導で1.5万、この港区なら10倍もザラにあるよ。」
愛枝、結衣、香織は、
「………………。」
「それでも麻王は感謝していたよ。」
青空は歩いて行く。
棗は、
「パパは一回20万だけどね。」
心海と弓は、
「上流階級スゲー!一生ついていきます、棗の姉御!」
「………………。」
二時間後
麻王が目覚めると愛枝たちも傍で寝ている。
寝起きのいい麻王が眠そうに、
「……何をしているんだ…」
美緒は、
「……大切なマナ鉱石をごめんね…」
ベッドの上で座るとスラックスにワイシャツ姿の麻王は、
「まだ100%は失われてないよ。」
美緒と心海は、
「えっ…」
ベッドから下りると麻王は、
「俺が常に傍にいてやることはできない。美緒、棗、愛、神子、心海、結衣、香織、愛枝、ひかり、これからは帰宅時間は20時だ。棗とひかりはファイナンスで遅くなる時は鈴木さんに言ってリムジンで帰れ。」
弓は、
「…あの…」
「弓、すまないが、すぐにアメリカに行かないといけない。」
愛枝は、
「麻王、私が聞いておいてあげる!」
「頼むよ。」
生徒会室奥別室から出て行く。
「………………。」
愛枝は、
「で、とうしたの、弓?」
ムカついている弓は、
「……ま、いっか…愛枝さんってピアノできます?」
愛枝は、
「できるハズないでしょ!」
「ムムム…愛さん、この人と何で友達なんです!?」
愛は、
「ハハ…いいとこもあるんだよ…」
愛枝は、
「ふん、ベースボールAカップ!」
「Bです!ホントに?ホントにいいとこあります?」
「………………。」
二日後
都庁近く ファイナンス
スーツ姿の麻王がファイナンスビルから出ると白桜制服姿の弓が立っている。
「もう午後九時を過ぎているぞ?」
弓はクスッと笑うと、
「八時でしたね。でも、自宅すぐそこなんで。麻王先輩ってお父さんみたいですね。」
「いつも八時に帰っているのに心配すると思うぞ。自宅に電話しろよ。」
歌舞伎町
喫茶店
二人テーブルに向い合せに座っている弓は、
「せっかくプライベートで会うんですから野球部が終わって即自宅でシャワーして来ました。」
「シャワーは関係あるのか。それに話があるんだろ?」
「………あの…日曜日にピアノの発表会に付き合ってもらえませんか?」
「いいよ。」
あっさりとOKをもらった弓は、
「……日曜も仕事じゃあないんですか?」
「発表会だし時間を空けるよ。」
「お母さんが将来は音楽家にって…」
「まだ弓が高校生になって半年ぐらいか…。可能性は広げる意味ではいいんじゃないか。」
「……麻王先輩。」
「それは発表会じゃなく地方予選を勝ち抜いたコンクールじゃあないのか?」
「…………なぜ……?」
「部活や甲子園でも野球一筋の弓が用事で帰っただろう?それに東中の頃に音楽室から弓のピアノの美しい音色を聴いたよ。」
「全Nipponピアノコンクールですよ?」
「あの力強い音色を弾けるなら不思議じゃあないな。サイコロステーキ食べたらどうだ?」
「……もう一度、麻王先輩に聞きますね。日曜は仕事じゃあないんですか?」
「イヤなら行かないけど?」
「いえ、麻王先輩に絶対に見てほしいんです!」
「弓が緊張している姿を初めて見たよ。」
「……品位のあるピアノコンクールと違って47名の勝ち抜き戦で司会進行も現役ロッカーの六本木弥太郎さんで……。」
「出る意味は?」
「プレッシャーにも強いホンモノが選ばれるコンクールと呼ばれていて……白桜の授業料免除も可能かなって。麻王先輩のような器用金持ちじゃあないですし…器用貧乏をパロりました。」
「音楽なんてロクに分からないけどいいのか?」
声が震える弓は精いっぱい、
「ま、麻王先輩が観客席にいれば100人力です!」
「弓、もう少し自分を信じたらどうだ。」
「……先輩…」
「いつか弓が親になったら緊張する子どもに何て言う?」
「えっ…何ですか、それ~!…自分を信じろ!いつまでもパパやママが傍にいるワケじゃないんだぞ!」
「……演技が入ったな。」
日曜日
全Nipponピアノコンクール ホール会場
観客席1万5000人の超満員。麻王は家族席とは別の一般席で各都道府県代表の47名のピアノ演奏を聴いている。
司会者の六本木弥太郎は、
「さ、続いては超激戦区の東京予選を勝ち抜いた白桜高校二年生ベースボールサンタンガール、九条弓です!」
弓は開始早々力強い演奏を奏でる。開始わずか30秒後、弓はフォルテシモが出しにくくなり、弱い音色の中で演奏が終了する。
麻王を含めた数人のみが拍手をしている。
1万5000の観衆の前で弓は深々と頭を下げ続ける。
司会者の六本木弥太郎は満面の笑みで、
「う~ん、何か頼りない演奏だったね?君、本当に東京代表?白桜高校の生徒さんだっけ?やっぱり高校生かな、九条弓さん?そこん所はどう?」
「………ピアノの調子が悪い中では……頑張れたかなって思っています…
「言いワケ、見苦しいよ~!白桜高校野球部は敬遠負けでも正々堂々とでしょ?恥ずかしくないの?」
涙が溢れて来ると弓は、
「白桜高校野球部を悪く言わないでください!」
「でも君は白桜高校野球部員なんでしょ!白桜高校野球部でも言い訳をして男たちに媚びを売ってツーベースってか!」
「……そんな…そんな事ないです!」
「女って泣けば済むと思っている所がウザイなぁ~!ホントは媚びじゃなく身体を売ってホームランんじゃないの?」
「私は麻王先輩しか見てません!撤回してください!」
やれやれと言った感じで六本木弥太郎は、
「ほら、会場も失笑だよ?」
ポケットに手を入れたまま観客席を堂々と壇上に向かって歩いて来る麻王は、
「うるせぇよ!オマエのことだよ、ポンギリギリ恥太郎!」
振り返ると審査委員長の六本木弥太郎は、
「……えっ?誰?……いや、何ひとつ合ってないけど…?」
麻王の観客席に響き渡る怒声に会場は完全に静まり返る。
黒スーツ姿の麻王は壇上に上がる。
自身の上着を弓に着せ六本木弥太郎の方に振り返ると、
「ま、オマエのディスりレベルが低くて寒いのはあながち嫌いじゃないけどな。これ、プレッシャーの中でどれだけ実力を発揮するかの勝負だろ、寒太郎?」
「え?え?誰、アンタ?」
六本木弥太郎の声に警備員が来ると、
壇上から警備員を制止する麻王は、
「故障したピアノを弾かせて白桜高校の固有名詞を出してまでディスりまくる。これは立派な名誉毀損罪と侮辱罪が成立している。今、俺を止めれば警備員も共犯罪で訴える。」
麻王の言葉に警備員三名が歩みを止める。
麻王はピアノの中を調べると、
「経年劣化によるバットフレンジコード損傷でしか起こらないハンマーバット。コメントは、燃え尽きタロウ?」
壇上の麻王のすぐ下にいる審査委員長の六本木弥太郎は、
「そ、それも実力じゃない?」
「いや、オマエは3分と46秒前に”何か頼りない演奏だったね?”と言った。それは弓の演奏に対しての言葉だろ?」
「……そ、それは劣化したピアノも含めてのコメントだよ?」
「はい、南極コウタ、偽証罪も追加。これだけ大勢の観衆の前で未成年者をディスったんだ。初犯でも執行猶予は付かないだろうな。」
「…………え?え?」
麻王は携帯を取り出すと、
「バットフレンジコードが意図的に切ってある事を月面アポトーシスタロウは劣化と言うのは流石に苦しいな。裁判すれば秒で負けるぞ。……ああ、警察ですか?ええ、テレビで観てました?直ぐに六本木弥太郎とコンクールスタッフの逮捕令状を。」
六本木弥太郎は、
「………六本木弥太郎って……知っているじゃん…」
「さっきから”ジャンジャン”やかましいよ、オマエ。警察が来るまでもう時間がないぞ、与太郎?巡回中の警察官が来るからオマエが手錠を掛けられるまで後3分ぐらいじゃん?ってそもそも誰よ、オマエ?」
「”じゃん”言ってるよね?……ってええぇぇぇ~私、超有名だけど~!それに逮捕なんて…」
「いや、オマエの場合は本籍地を外国に置いている。つまり逃亡の可能性が極めて高い。逮捕には十分な理由だよ。」
会場に制服警察官三人が入って来ると、
「ひぇぇぇぇ!!!!……九条さん、謝ります!謝ります!スタッフが小細工をしてたのも知っていました!全て話します!警察はヤメて!」
「不正やオマエの誹謗中傷というディスりがなければ実力主義のいいコンクールと思うけどな。新しいピアノはあるか。」
「……へ?」
「オマエ、元ロッカーなんだろ?観客席の冷めた空気を放っておくのがオマエのロックか?」
「………現役ですが?」
「スタッフも含めて被害届は出さないから続けるって言っているんだよ、発酵タロウ。いいな、弓?」
「はい!」
「六本木弥太郎ですが……そこまで言われたら引けませんね!いいでしょう!ホントに!是非、是非、やりましょう!」
「マイクを貸せ、馬鹿タロウ。」
10分後
静まり返る会場内でピアノが新しく交換される。
壇上185cmの麻王が170cmの六本木弥太郎の前に立つと、
数多の修羅場をくぐって来た麻王の威圧に弥太郎は、
「……どうも……六本木弥……いえいえ、はい、どうぞ宜しくお願い致します!」
麻王はマイクを持つと、
「今から私とこの六本木弥太郎がピアノ勝負をします。」
弥太郎は、
「デュエットじゃなく? ええぇぇぇ~無理ゲーです~!」
「とここに来てデュエットとか舐めたことを抜かしているボウマン嚢弥太郎がやる気満々と申しております。皆さんはこのまま38000円をドブに捨てて帰りますか?」
観客席の一人が、
「何を弾くんだよ、兄ちゃん!」
スラックスにワイシャツ姿の麻王は、
「そうですね。猫ふんじゃった~ベートーヴェン交響曲第5番、通称”運命”までをPOPメドレーはどうですか?」
「聞きたい~!」
「弾けるの~!?ホントに~!」
「お兄さん、話上手い~!」
「カッコいい~!」
「ありがとうございます……そうですね、ここにいる15000人の皆さんに審査員になってもらい10点満点評価で負けた方がキャッシュで即1000万払うというのはどうです?」
弥太郎は、
「いっ、い1000万~!?」
「ここで逃げたらおまえの登録者は間違いなく半分以下になるな。」
「や、や、やってやりますよ!」
観客席15000人が今日一番に盛り上がる。
麻王は新しいピアノが容易されると脱力した状態から流麗と流れるようなドラマチックなメドレーを弾き始める。交響曲第5番”運命”を弾き終えると再びPOPな猫ふんじゃったを弾き始めるとその繋ぎの感じられない流れるような演奏に観客席15000人はうっとりする。
演奏は終盤に二曲同時に観客に聴こえる。誰もが信じられない。15000人が呆然としている間に演奏は終演する。
弓は壇上、引かれたどん帳の端にいる。スラックスにワイシャツ姿の麻王は流麗で情熱的な演奏をするのを観て弓は涙が溢れる。
「……やっぱり弾けるんだ…」
演奏が終わり壇上の一番前に行くと麻王は、
「今から本選の続きをお楽しみください。お巡りさんもご苦労様です。では失礼します。」
会釈をすると麻王は舞台の袖幕の奥に消えて行く。観客席全員が呆然とした後、スタンディングオベーションの拍手喝采が起こる。
ホール会場 駐車場
麻王は自転車竜王号に乗ると弓が追いかけて来る。
弓は、
「結局、一回戦敗退でしたが本当にありがとうございました、麻王先輩。」
「俺は弓とバカ審査員のやり取りに見惚れていたよ。」
「…………緊張と興奮で頭まっ白で……何か言ってました?」
「”私は麻王先輩しか見てません!”ってな?ああ、芸能生活を救って貰った下鼻甲介シンタローから被害届の取り下げのお礼にせめて弓の三年間の授業料を払わせてくださいってな。はい、封筒。」
弓はクスクスと笑い始めると、
「麻王先輩って噓つきの悪人ですよね?」
「だろ?弓のお父さんとお母さんが待っている。俺は仕事に行くよ。」
「……今日、何で付き合ってくれたんですか?」
「事前にネットで調べたらアイツは、セクハラ、モラハラ、パワハラなんでもアリで再生数を稼いで売っているユーブローダー弥太郎と知ってな。」
クスッと弓は、
「壇上で麻王先輩にめちゃくちゃビビッてましたけどね?」
「マジで殴ってやろうと思ったからな。」
クスクスと弓は、
「もうそう思ってめちゃハラハラドキドキしましたよ~!」
駐車場から弓の父と母が”行って来い”と手を降っているのを見ると弓は笑顔で、
「お母さんが頑張って来いって!一緒に行ってもいいですか?」
麻王はリュックを前かごに置くと、
「バイクか迷ったんだよなぁ…」
「あの…どこでピアノを?」
「ああ、青空がシンセサイザーにハマっている時にな。」
「あの…二曲、聞こえたのは?」
「速さ。それ以上は企業秘密で言えない。」
「なんで麻王先輩も?」
「仕事がなくなった時の備えにな。」
「絶対にないと思いますけど。もう一ついいですか?」
「行くぞ、早く後ろに乗れよ。」
「は、はい!」
しっかりと麻王を抱きしめて自転車が走り出すと弓は、
「……どうして観客席の人たちには夏葉麻王って分からなかったんです?」
「耳のピアスな。」
「……麻王先輩、やっぱりお金はいらないです。」
「何で?」
「麻王先輩の秘書のお仕事でガッポリ儲けます!」
「じゃあそのお金は偽装ポリスメンのリアルコスプレ費に回すよ。」
「……あの、お巡りさんもご苦労様です…ね…ええぇぇぇ~!全国放送ですよ~!」
「ピアスあるから弓しかバレないよ。」
「ええぇぇぇ~!」




