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副社長だよ!

●副社長だよ! 106話●


放課後

麻王はひかりを乗せて新宿に行く。新宿に着くとバイクを止めて都庁に向かう。


ファイナンスが入っている高層ビルを見上げるとひかりは、

「……前に振り子の夢の中で見た麻王の会社?」


「ここも映っていたんだな。」


「でも、会社の玄関までしか見えなかったよ。」




社長室の扉を開けると麻王は、

「手間が省けたかな。」


一番中央の社長席に棗が座っている。周りには外国人もいる。男たちの眼つきや雰囲気からひかりには一般人の感じはしない。


麻王は、

「棗は早いな。」


棗は、

「麻王、いえ、社長より早く来るのが副社長兼秘書の役目にですので。」


麻王は、

「敬語はいいよ。部長、棗はホンモノだろ?」


黒スーツ姿に無精ひげを生やした188cmの部長は、

「経営能力は社長より上ですよ。」


麻王は部長の隣に行くと、

「耳が痛いね。」


麻王と部長は笑っている。


棗は席を立つと、

「もう、私に任せっきりでほとんど会社に来ないんだから。」


棗はプンプン怒る。


「棗は部活をしたいと言っていただろ? ひかりを棗の秘書にお願いしてもいいかな。」


麻王は社長席に座ると部長や幹部の鈴木たちと話しを始める。



麻王たちが話している間に棗はひかりを最上階に連れて行く。



最上階レストラン


「……レストラン?木村先輩、これは?」


「私も週二回来ているだけなの。でもね、学校より楽しいかな。最初は怖くて固まっちゃた。」


棗は嬉しそうに話す。ひかりは何の会社なのか棗に尋ねる。


棗は、

「…まだ謎だらけでね?私が連れて来てもらった時はこの最上階もレストランでね?麻王が後で来るまでにひかりに私の知っている全て話すよ。」



30分後。

麻王が五分後に中層階の庭で待っているとメールが来る。ひかりと棗は庭に着くと麻王は遠くを眺めている。


「麻王~!」


棗とひかりは声を揃える。


振り返ると麻王は、

「……来たか。」


棗は、

「会社の経営は全て把握しているけど、あの外国人は一体なんなの?」


棗が最初に尋ねると麻王は、

「俺が倒れた後にある事があってな。仕方なく家族も一緒に亡命させた。今、青空と俺の学校で日本語を教育しているから…一ヶ月後にはビジネス会話にも支障がないかな。」


棗は、

「今は何をさせているの?」


麻王は、

「誘拐と殺し…」


麻王の言葉に蒼白になる棗とひかり。


「誘拐と殺しをして逃げている奴を捕まえる仕事だよ。最後まで聞けよ。」


麻王の言葉にホッとする二人。



麻王は中階層の柵近くに行き遠くを眺めながら、

「…………親が未熟だと子供は早く大人にならざる負えない。ただその事を(なげ)いているよりこれまで通り無理をしない範囲で棗をサポートしてあげてくれないか?」


麻王はもう一度、特例特待生の用紙をひかりに渡す。


「ひかりが受け取らないなら次の中間考査で周にトップを譲るよ。」


「……そんな。」


ひかりの言葉に棗は、

「私がいますけど?」


麻王は、

「なら、本気を出すよ。」


棗は、

「本気なんて出してないクセに……噓つき、麻王。そう言えば、ひかりから図書室でずっとPTSDの勉強をしている話を聞いたよ?」


「棗が心から笑える日をな。」


棗は、

「……麻王…」


麻王は棗を抱き寄せると棗は麻王の胸で泣き続ける。棗の胸をつくような泣き声にひかりも涙が(あふ)れる。



二分後、ようやく泣き止むと棗は、

「……麻王、私の為にPTSDを研究させてゴメンね、麻王に辛い思いをさせて…大好きだよ、麻王……私は本当にもう大丈夫だよ。」



ひかりは麻王がずっと図書室で本を読んでいる意味をようやく理解する。でもそれでも麻王と棗の姿を見ると切なくなる。



麻王の胸元で棗は、

「青空に言われたよ…私たちが負担になってない?」


麻王は、

「ああやって出逢ったのも何かの縁だと思わないか。」


棗は、

「……麻王…」


「棗が救われれば、いずれ棗はもっと多くの人を救う人になる。」


「麻王は正義の味方なの?」


「いつか棗は仕事の敵として、ひかりは仲間として戦う日が来るよ。」


棗とひかりは、

「それってどっちがいいの~!」


「じゃあ、後は二人に任せるよ。気を付けて帰れよ。」


麻王は中庭から出て行く。


棗とひかりは、

「うん。」




一時間後

ファイナンス社長室

棗とひかりは事務処理をしている。


社長室に部長が入って来ると、

「副社長。」


棗は、

「はい。」


「ネットに片野さんの悪評をバラ撒いている者を数十名見つけました。」


社長席のラップトップを打つと棗は、

「……ああ、この人たちね。わかりました。今、父の弁護士事務所から開示請求手続きをしたので示談の準備を。」


「はい。」


部長は社長室から出て行く。


ひかりは、

「……今のは…」


棗は、

「レストランに行こっか。」




最上階レストラン


棗の向かいの席に座るとひかりは、

「……さっきのはなんです?」


「ああ、先日、芸能人の片野さんが結婚したでしょ?その嫌がらせ行為。元ファンとか?元追っかけ?暇な人?」


「それって警察の仕事じゃあ…」


「殺害予告とかなら警察も動けるけど、悪質な嫌がらせ、しかも数百、数千とかは無理でしょう?」


「数千って…」


「開示請求が儲かるなんて大うそ。弁護士もそれなりの費用も戴くしね。」


「……多角経営ってやつですか?」


「麻王は本当に困っている人には調査して無利子で貸したりするからね。」


「……夜逃げとかは?」


「もちろん、その時は追い込みを掛けるよ。ま、そんな輩はほぼいないけどね。」


「追い込みって…」


「ひかりって悪人にかなり同情的だけど、無利子のお金を持って夜逃げってもう窃盗事件だよ。どこに同情の余地があるの?私は麻王に感動した。」


「感動?」


「自身は苦労して来た人ってすべての人に厳しかったりする。でも、麻王は違う。つねに思いやりの心があって理性的でしょう。」


「……好きですか。」


「大好き。その優しさで父と私の身体と心まで救ってくれた。どんなにすごくなってもその心根の優しさは何ひとつ変わらない。……時々、悲しげで…ああ、きっと麻王は愚かな人そのものに哀しんでいるのかなって…」


「……木村先輩…そう!ファイナンスの多角経営って他には何をしているんです?」


涙を拭うと棗は、

「……ごめんね……金融以外には今はネット関連かな。掲示板に”トンキン”とか”大阪民国”とかも書いたヤツもその前後関係を調べてソッコー開示請求するよ。」


ひかりは、

「……それって言論の自由じゃ…」


「どこが言論?単なる中傷でしょう。そもそも東京も大阪も外国人や他県民率50%近くだよ。地方の人はその地方での就職は有利でしょう?でも、東京や大阪生まれの人は公務員試験一つもすごい倍率だよ。」


「……そんなのが通るんですか…?」


「警察庁のサイバー課も通報件数が多すぎからね。でも、何故かファイナンス経由の木村法律事務所からの訴えを100%裁判所は認められるんだ。」


ひかりは、

「……でも、やっぱり大袈裟なような…」


「大袈裟なんかじゃないよ。」


「……木村先輩…」


「そんな人の悪意に父は脅され私を守るためにテロリストに手を貸した。そして私も同じように人の無自覚な悪意によって犯された…暗くてよく見えなかったけど、私を犯したヤツらの腕を麻王が千切った」


「………………。」


「そもそもまともな人間なら匿名でそんなことは書けない。まともな人間なら犯さない。そういう悪意のあるクズのせいで懸命に生きている人までが巻き込まれる。ひかりのそれは痛みを知らない身勝手な同情だよ。」


「でも、麻王だって困っている人にお金を貸しているんじゃないですか?同情でしょ?」



大きく深呼吸をすると棗は、

「………偉そうでバカなアンタに一度だけ教えてあげる。麻王のは痛みの共有。ファイナンスの利益は莫大だけど、さっきのような本当に困った人、社員への高待遇、社員への教育への投資、学校、更生施設…麻王は一円も自身の給与を得てないからね。」



「……一円もって…でも、このファイナンス社員って反社会勢力の人間ですよね?」



席を立つと棗は、

「麻王に返り討ちにあったね。私は麻王に代わる人材が見つかるまでここの人事一切を任されている。麻王はひかりに仕事をくれたんじゃないの?でも、もう帰ってもいいよ。」


テーブルに両手をついて頭を下げるひかりは、

「……待ってください。……せっかく仕事をもらったのに…」


心の中で棗は、

『……なぜ麻王はこの子に手を差し伸べるんだろ……そう……昔の見えない何かに怯える私に似てるからかぁ…』


「いいよ。但し、麻王はここの人たちの旅立ちの日を見守っている。私は社長席に座る限り麻王の意志を継いでいるつもりだからね。」


「すみません…私は色んなことがわかってないのでご指導のほどよろしくお願いします。」


「麻王がどれくらい大変なのかよくわかった。」


「棗先輩…」


「副社長だよ!」


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