全球、高めのストレート
●全球、高めのストレート 101話●
日本に帰ると、青空は、経済制裁を止めた。
石油パイプラインは三日後に爆破された結果、神薙家は莫大な原油利益を得る事になった。
もちろん、全ての操作をしたのは麻王。
神薙総合医大 個室707号室
青空と麻王の二人は神薙総合医大の個室で話している。
椅子に座っている青空は、
「麻王、あれだけの鉱石がほとんどなくなっているよ。」
ベッドの上で座っている麻王は、
「Δ(デルタ)AIの頭脳にはそれだけのがマナと魔力がいるって事だよ、青空。ところで今日何日?」
「ICUの前に檜木たちがいたよね?」
少し笑うと麻王は、
「目が覚めてすぐにICUの外に檜木さんの気配がね、窓から降りてバイクとラップトップを取りに行った。」
「何階だと思っているんだ、麻王?」
「いや、最上階に上がった方が早いとわかったから途中から上に行ったよ。いや、だから何日?」
「野球もバスケも当分は絶対にダメだぞ、麻王。」
「青空、来年、三年になったら俺もお前ももう日本にいない可能性が高い。あいつらも心配だし青空はバスケでインターハイに俺は甲子園に行く。」
「ハァ、絶対に無理はするなよ、麻王。」
青空はため息交じりに予定日を渡す。
ベッドから下りると個室のロッカーに行く麻王は、
「βAIもまだ完成とは言えないしな…まだ無理はしないよ、青空。じゃあ地区予選決勝に行くよ。」
麻王は青空と握手をすると白桜高校のロッカーに向かう。
一時間後、麻王は球場に着く。
【地区予選決勝】
目黒庭園館vs白桜高校
1番センター 井上ハルト
2番セカンド 橘碧
3番キャッチャー上杉周
4番ショート 神谷智
5番サード 三好哲也
6番ライト 沖田泪
7番レフト 水戸洋
8番ファースト 名古屋駿
9番ピッチャー 千条司
観客席
麻王は観客席で立ったまま試合を観ている、
「4対3。で白桜高校一点ビハインドか…いい勝負しているな。一ヶ月近くも眠っていたんだな…お礼を言わないといけないな。」
麻王はそうつぶやくと試合を観ながら携帯でしばらくの間、Dr.シュナイダーと話している。
六回裏 白桜ベンチ
神谷は、
「さすがに古豪の目黒庭園館ですね?」
周は、
「ああ、一年の夏の予選決勝も苦しめられたよ。層の厚さが白桜とは段違いなんだよなぁ…」
駿は、
「神谷、三好の単発ホームランじゃあ勝てないぞ?」
ハルトは、
「麻王の事も心配だけどギリギリまで残ってくれた沖田、水戸、雅の最後の試合でもあるしな。」
水戸は、
「………勝とうが負けようが俺たちはこのまま飛行機。麻王に会いたかったな…」
沖田と雅は、
「……ああ。」
碧は、
「麻王は絶対に元気になって帰って来る。おまえたちのアメリカの住所を送れ。麻王はきっと会いに来てくれるよ。」
水戸、沖田、雅は、
「そうだな!」
白桜ベンチは目黒庭園館の本格右腕に打線の繋がりがない。特に白桜三巡目から目黒庭園館は神谷、三好を完全に敬遠すれば逃げ切れると考え士気も高い。
「少し苦しそうだな。この後投げていいか?」
麻王の言葉よりもその姿に全員啞然としている。
「…………麻…王………?」
「…………麻王先輩。」
「麻王~!」一年生以外の碧たち全員が麻王に抱きつく。
麻王は、
「雅もひとまずお別れだ。センターのハルトと交替しろ。」
雅は、
「…麻王~一点ビハインドだし…外野は自信ないよ~。」
ニコッと麻王は、
「打たせないよ。水戸、泪、了、高校で一緒に野球をするのも一先ずこれで最後だ。ありがとう、楽しかったよ。」
涙声の水戸、雅、沖田は、
「麻王~!」
アナウンスが流れる。
《ピッチャー千条司君に代わりまして夏葉麻王君。センター井上ハルト君に代わりまして雅了君。》
応援に来ている白桜高校の生徒はざわざわとしている。
麻王がピッチャーマウンドに歩いて行くと静まり返る。ピッチャーなら誰でも見惚れるような大きく美しいフォームで投球練習をしている。
ピッチャーマウンドに行ったキャッチャーの周がサインの確認に行くと、
「麻王、サインは…。」
「全球、高めのストレートでいいよ。」
麻王はそう言いながらピッチャーマウンドの土を慣らしている。
ピッチャーマウンドで大きく全身をしならせてリリースされる硬球は伸びる。走る高目のストレート。でも決して速くはない。だがストライク半個高いストライクに目黒庭園館のバッターは全く手がでない。
碧、神谷と三好の追加本塁打で勝負は決まった。
周は試合後に球場の表で心配そうに、
「麻王、ひかりたちと会って来たのか?」
「いや、まだ起きてそんなに時間が経っていなくてな…。17、18時間ぐらいかな?」
水戸は、
「17、18時間って…麻王…俺たちに会うために…」
「ああ、水戸も泪も了も西海岸だったな。必ず会いに行くよ。ほら、水戸から来い。」
麻王に飛びつくと水戸は、
「……麻王~!寂しいよ~!」
駿とハルトは、
「……男でも抱き合うんだ。」
「お疲れ、水戸、泪、了。三ヶ月、頑張ればきっと耳が慣れるよ。」
水戸は、
「いやぁ、俺たちに信二も入れてシェアハウスでな。」
碧とハルトは、
「ハァ~!優也なんて段ボール箱で二週間だぞ!」
麻王は笑顔でそう言うと何処かに行ってしまう。
白桜高校
神谷や千条、坂季は自宅に帰らず、白桜高等部図書室で期末考査の勉強をしている。三時間程経過すると、美緒や棗、愛枝たちが神谷たちに麻王の居場所を聞く、
神谷は、
「麻王先輩は、皆さんに生徒会室で待っておいてくれと言って何処かに行かれましたよ。」
美緒、愛枝、棗、愛、神子、結衣、弓、香織、文音たちは生徒会室で麻王を待つ。
10分と少しで麻王の足音が聞こえる。
全員が緊張する。
麻王は生徒会室に入って来ると美緒たちは呆然としている。頭にはまだ包帯が巻かれたまま、身体も以前より少し瘦せている。
「心配をかけたな…。」
そう言うと麻王は生徒会副会長席に座る。
麻王の重い感じに愛枝は、
「…………麻王。」
「この関係はいつまでも好くないだろ?」
棗は、
「…………別れるって事?まだ私たちの一方通行だよね?麻王から告白された人っているの?」
棗の問いかけに美緒、愛枝、愛、神子、結衣、弓、香織、文音、ひかりたちは下を向いている。
愛枝は、
「……そう!芯がね、麻王の一番の頭の良さは、麻王の力で一夫多妻という馬鹿な制度に嚙み合わせしようとしなかった事だって!そうしてしまえば金を持っているだけの馬鹿な男と金目当ての馬鹿な女の組み合わせという最悪な未来が起こるからって。」
目を閉じ少し笑顔で麻王は、
「……芯らしいな。」
麻王の言葉に別れの意味が続くと美緒、愛枝、棗、愛、神子、結衣、弓、香織、文音、ひかりたちには分かる。
神子は、
「今から友人になんてなれない!以前、麻王君は言ったよね?今は恋人以下でもいいかって。私はもちろんいいよ。」
棗は、
「神子、ズルい~!」
美緒は、
「私たちのマナと魔力が飛んだでしょう?」
「マナと魔力を混ぜ合わせ飛ばす際にはさらにマナでコーティングしないと霧散する。白桜近くの老人ホームの人たちが健康になったらしいぞ。」
文音は、
「美緒、占いをしただけでしょう~!?」
麻王は、
「でも、皆の気持ちは届いたよ、ありがとう。話は終わりそうにないな…」
麻王は自身の席の引き出しから紙切れを一枚取り出すと美緒、愛枝、棗、神子たち全員に婚姻届けを渡す。
「…年始にある人たちにオペをした時にお礼をしたいと言われた。その時にこの書類の認可を例外的にお願いした。」
「所詮は役所仕事だし遅かれ早かれ公にはなる。それに順位はつけられない。勿論、全員を公平に愛すよ。」
麻王の言葉を聞くと愛枝と美緒たちが婚姻届けを破る。
愛枝は、
「麻王、公平に私たち全員を麻王の秘書にして!」
愛枝の言葉に麻王は、
「でも愛枝はプロゴルファー兼女医になりたいんだろ?」
「確かにそれは変わらないよ。でも麻王は私たちを気遣ってくれているんでしょ? 麻王は愛と情の両方を大切にするでしょう?なら、高校生の間は公平に秘書として扱って欲しい。」
「そっか…でも勉強はしろよ。」
麻王は自身の机から秘書の専属契約書を出すと美緒、愛枝、棗、神子、愛たちに渡す。
「はーい、婚姻届けお願いします~!」弓、香織、文音は婚姻届けを出す。
美緒と愛枝は、
「ソッコー抜けがけするな~!」
文音は、
「私たちの夢は麻王と居る事だけだから。それに心海が来たらややこしくなるしね!」
愛枝と美緒は、
「泥棒猫~!!!!」
愛枝たち文音が揉めている。
クスッと笑い麻王は席を立つと、
「俺の意識がなかった時の棗、神子、美緒、愛枝…皆の言葉はどんな事があっても一生忘れないよ。」
麻王はポケットに手を入れたまま生徒会室を出て行く。
愛は、
「…………ど、どこまで聞いたのかな…?」
棗は、
「絶対に意識なかったよね?もう謎だらけだよ~!神子、顔色がいいのは?」
神子は、
「ハハ…今考えてたらよくなかったよね…?」
結衣は、
「でもそんな麻王先輩だからみんなを幸せにできると思います!」
「……だ、だよね?」
「ま、麻王~!待って~!」




