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ダメな女は今日で卒業

●ゴルフ勝負 10話●


保健室を出ると麻王は、

「どこに行くんだ?」


「どうしても麻王にお詫びがしたいの!」


「ここで問答していても時間がもったいないしな。」


もじもじと愛枝は、

「……麻王の自転車の後ろは…ダメ?」


「俺がトレーニングがてら愛枝の横を走るから愛枝が自転車に乗ればいい。」


「……なんで…」


「愛枝のために言ってるんだが?」


「……どういう意味?」


「例えば赤切符を切られれば裁判所→前科が付くこともある。プロゴルファーになりたいんだろ?」


「……うん…」



二人はゴルフ場に向かいながら愛枝は麻王にゴルフのルールを教える。


自転車に乗る愛枝の横を走りながら麻王は、

「四打の所を四回で入れるとパーになるか。じゃあ三回なら?」


「バーディーだよ。」


「じゃあ二回なら?」


「イーグル。」


「じゃあ一回なら?」


「えっと……あり得ないって!そう、ボギーはわかる?」


「一打多い事だろう?」


「知ってたの、麻王?」


「知らないよ。スポーツ科クラスってほとんどゴルフをしているだろ?休み時間にバーディーやボギーの話をしているだろ。」


「……麻王はゴルフしている女は嫌い?」


「偉そうなヤツは男女関係なく嫌いだな。」


「……麻王は優しいね。」


「愛枝っていつも女子生徒としか話してないよな?」


「……こうして男子生徒と話すのは麻王が初めてだよ?」


「この前、優也と話していただろ?」


「見てたの?あれはノートを見せてくれって…申し訳ありません。」


「何て?」


「絶対に聞こえているでしょ!」




ゴルフ練習場


ブルゾン×スカートのゴルフウェアに着替えて来た愛枝は麻王に紙袋を差し出すと、

「麻王って180ぐらい?4Lのポロシャツとワイシャツの仕立て券が五枚入っているから…助けてくれてありがとう。」


「いいのか?」


「うん、……私は両親が行方不明なの。きっともういないように思う。だからおじいちゃんは目いっぱい私を可愛がってくれるんだ…」


「ただこういう高価なものはこれっきりだ。」


「……どうして…」


「そういう環境で育って来た愛枝にはわからないかもしれないが、いつか愛枝がプロゴルファーになって自分自身で稼げるようになったら、その時は愛枝の好きな人にプレゼントしろ。」


涙が溢れそうになる愛枝は、

「……小等部や中等部の頃なんて、みんなお金で私に媚びて来た。麻王はぜんぜん違うね…」


「それで俺にゴルフの知識を学ばせて何をさせたいんだ?」


涙をハンカチで拭うと愛枝は、

「…うん、ちょっと、ごめんね、…今から私がゴルフの基礎を一時間で全て教えるから身に付けて。一時間後にレッスンプロと勝負してもらうからね?」


「愛枝はそういう活き活きした姿が似合うよ。」


「そう?…上から目線はなおすから少し待ってね…」


「それがデレとか言うヤツか?」


「もう、そんなんじゃないって~!」





一時間後

ポロシャツに着替えた麻王が一人練習していると大柄で横柄なレッスンプロが愛枝とやって来る。


200人以上のギャラリーも集まって来るとギャラリーたちは、

「なんだガキじゃん!」


「馬鹿ッブル~ウケる~!」


「赤瀬お嬢の腰巾着か?」


「白桜のお坊ちゃまだってさ!」


周りの視線は麻王が失敗することを望む悪意に満ちている。


クスッと麻王が笑うとギャラリーたちは、

「余裕こいてんじゃねえぞ、クソ餓鬼!」


高級なゴルフウェアを着た神経質そうな痩せた男は、

「馬鹿女にしっぽふってるヒモがイキがってんじゃねえぞ!!!」


神経質そうな痩せた男指さすと麻王は、

「おい、今、愛枝を馬鹿女と言ったオマエ、侮辱罪と名誉棄損で逮捕される覚悟はあるんだろうな?」


麻王の言葉に男とギャラリーが静まり返ると愛枝は、

「私のことはいいから、ね、麻王?」





レッスンプロは、

「勝負はあの150ヤード先の傾斜の複雑なグリーン。パー3勝負だ。一階に降りて一打目、グリーンに乗ればそのままパット勝負。分かり易いだろ?ルールを決めたのはおれだから先にプレイするけど文句はないな、ガキ。」


愛枝は小声で、

「プレッシャーを掛けるつもりだけど大丈夫、麻王?」


麻王は傲慢な態度のレッスンプロをじっと見ると、

「愛枝、何回で入れた方がいいんだ?」


「さすがにあれだけ起伏の険しいグリーンはパー3が限界でしょ。大丈夫、麻王?」


少し笑うと麻王は、

「愛枝と付き合う男は大変だな。」


「なによ、それ~!」




レッスンプロは見事二打のバーディーで終えると、

「さ、君の番だよ。」とニヤニヤ(わら)う。


麻王はレッスンプロの横を通り過ぎ、すぐにアドレスに入る。


そのまま綺麗なフォロースルーからシャフトSの硬さ(上から二番目の硬さ)のアイアンを振り切ると振り切ったアイアンのヘッドが全くブレなく打球は”ヒュン”と遥か上空に飛んで行く。


滞空時間のとても長い高く上がったボールはほぼ垂直に”カコーン!!!!”という音とともにカップに直接落ちる。


ボールは斜入およそ5度でカップにそのまま入ると跳ね返ったボールは表のグリーンにコロと一回転がる。


レッスンプロは呆然と口をポカンと開け続けている。ギャラリーたちは全員、啞然としている。


しばらくするとイーグルの拍手喝采が起こる。



軽く会釈をすると麻王はゴルフ場を後にする。


愛枝が驚いて追いかけて来る。



「ほぼホールインワンでイーグル楽々なのになんで帰るのよ~?ねえ、麻王~?」


愛枝が悲しげに尋ねると、


麻王は、

「どの世界も人間の本質は変わらないな。自らは努力せず怠惰な日々を送る癖に努力する者を妬み、その者のミスを望むあいつらは人間のクズだ。」


前の世界にも今の世界にも理不尽としか言いようがない生きものがいることに麻王の怒りが収まらない。


「たった一時間の練習で俺がレッスンプロに負けていたらお前は俺を見限っていたのか?」


涙が止まらない愛枝は、

「そんなつもりじゃないよ。でも、ごめんなさい。」


「世の中は世知辛いと言いながらも人を利用し、与えられる事だけを望む奴ら自身が世知辛い世の中を創っている自覚がない。自覚のない被害者気取りの奴ら…」



怒りが尚も収まらずゴルフ場の自転車置き場に向かって行く麻王の身体を愛枝が必死で掴む。



「違うよ~麻王。試すようなやり方は良くないと思っていたけど、駄目でもいいから麻王の学費の力になりたかったの。最初から私の専属のトレーナーになって欲しかったの。」


愛枝が泣きながら麻王を説得する。



麻王が深く深呼吸をして止まると、

「……フゥ、どうも女の涙に弱いな…ほとんどの人はそうではなかったが、一部のあそこにいた悪意の塊のような人間の様にな。愛枝、もしお前があいつらのように人を簡単に傷付ける者に成り下がった時はその場で見限るからな。」


愛枝は泣き崩れながら、

「うん、もう絶対にならないからそれでいいよ。麻王はこれまでの私の事を一切責めない所か中庭で一度、グラウンドで二度、私の身体も心も助けてくれた。それにさっきのスイングは怪我で腕が痺れたからカップで弾かれたんでしょ?麻王は絶対弱音を言わないよね。」


愛枝は麻王の胸で、

「麻王の優しさに甘えて卑怯なのは分かっている。でももう少しだけこうさせて…」


「女医になるって言っていたのを覚えているか? 赤瀬愛枝には自己優越感を満たすだけの人間やそういう医者には将来なって欲しくないんだよ。」


麻王から少し離れると愛枝は、

「……うん、ありがとうね、麻王。いつも麻王は隣の席で勉強以外は寡黙だけどさり気なく私に気遣ってくれていた。私は麻王のような心から優しい人になりたい。」


愛枝の涙が止まらない。


「ほら、こっちに来い。」


麻王に抱き寄せられると愛枝は、

「……期待してくれている麻王の為にももうダメな女は今日で卒業するね?」



「来週から週一回二時間だけ愛枝の指導をする。それでいいな、愛枝。」


麻王は自転車のカゴにカバンを入れると、

「あのレッスンプロを次に見たら殴りそうだから来週から打ちっ放しのゴルフ場を探しに行こうか。」


愛枝は麻王の後ろで強く抱きながらクスッと笑うと、

「うん、殴るんだったら私も手伝う!新しいゴルフ練習場か…本格的な場所がいいなぁ…遠くまで探しに行こうね、麻王?」


「女子高生が殴るのを手伝うとか言うな。そしてそんなに遠くに行けるか!」


「えぇぇぇ~まだめちゃくちゃ怒ってる~!」


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