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再会の宇宙。鼓動する銀河。

 結局、本当に何事もなく、1年の時間が経過した。未宇宙の開拓は順調に推移すいいし、今回のペンギン艦隊の遠征は大成功に終わった。そう言って良い。


「補給艦隊、到着」


 ペンギン艦隊はお祭り騒ぎだった。母艦クレイシ190に乗船しているパンタロン特級兵長にとっても、仲間と過ごす船旅の中、大きく空気が変わるイベントなのだと理解できていた。


「ワクワクするな」


「久しぶりの新作だもんね」


 すっかり親友となったスピリアと共に、注文しておいた補給物資を心待ちにして、エンペラー乗りのいこいの場であるエンペラー前公園でたむろしていた。


 これからは最低限の人員が警備に当たり、ほとんどの乗組員は別の仕事に移っている。パンタロンももちろん交代で警備に着くのだが、数ヶ月の中の数日でしかない。


 新しい銀河の中に、恒星や惑星、それに隙間のバランス良く資源惑星を配置して、綺麗な銀河を形成する。


 これがエンペラーの基礎スペック。波動変換により、既存物質や既存物体であれば全てが再現可能。地球型惑星、安定した太陽型恒星、そして必要と思われるだけの様々な資源惑星。それぞれテンプレート任せで一秒以内に形成できる。


 人類は星を探す必要はもうなかった。作れば良い。新たな銀河と新たな星を。


 現在のパンタロンらは、まさにこの作業の真っ最中で、他の銀河との兼ね合いも計算しながら、丁寧ていねいに組み立てていた。


 だから動けないペンギン艦隊のために、補給艦隊が本星の流行品などを持ってきてくれているのだ。


 今回、パンタロンがリクエストしたのは新作映画と書籍。過去作品ならクレイシでいくらでも見れるが、新作のデータは直接持ってきてもらう必要があった。送受信する波動を辿たどられて、あの金魚に来られるのも厄介やっかい。だから警戒宙域では情報は直接受け渡す方針が取られていた。もちろん本星や各居住惑星にも警備のエンペラー級の機体(現役を引退したキングなど)は配置されている。


 スピリアも新作の玩具や音楽などを調達でき、嬉しそうだった。


「幻獣シリーズ。おれも子供のころ、好きだったなー」


「大人のファンだって多いんだよ。パンタロンは世間知らずだから知らないだろうけど」


「ええ・・・。いやだって、おれが子供のころ・・・」


 対象年齢についてどうでもいい話をしていると、スピリアの幻獣、ぞうが雄々しく鼻を上げた。


「ほら!やっぱり立体造形は場所を取る贅沢ぜいたくさがたまらないよね!」


「悪い趣味だなあ・・・」


 いかにクレイシが超巨大戦艦だといえ、個人に割り当てられたスペースはたったの100平方メートルしかない。エンペラーの能力を用いれば、その何倍でも広げられるが、それでは能力を戦闘に用いた場合、あるいはエンペラーが戦闘で落ちた場合、クレイシは自壊するしかない。ゆえにエンペラーの能力は味方には使わないのが鉄則になっている。


 だから、わざわざその小スペースを取る、スピリアのような立体趣味は、自虐的な悪趣味だとみなす向きもある。


「死んだらおしまいなんだから。良い趣味も悪い趣味もないでしょ」


「確かに」


 それはそうだ。全くその通りであった。


 遺品は家族に送られる。が、それはつまり、死人にはどうにもならないということである。


 ここペンギン艦隊で、生きている間に出来ることをためらうような者は、あまり居なかった。


「パンタロン特級兵長。艦長室まで来てください」


「了解」


 荷運びロボットの一体が、艦長の言葉を伝えてくれた。パンタロンはその指示に従い、艦長室へ向かう。


「この度の遠征は無事成功した。君達、優秀なパイロットのおかげだ」


「いえ。ジャンパーのおかげです」


 トキシロ艦長の言葉に、パンタロンは殊勝しゅしょうなことを言った。珍しく。


「君の遺伝子はかなりの優秀さだ。君のエンペラーもそう言っている」


「そうですか?ありがとうございます」


 正直に言って、全く自覚はない。遺伝子の自覚がある人類も少なかろうが。


「ついては君にお願いがある」


 自覚のないはずのパンタロンの遺伝子が、危機を察知した。


「ここ、「夢の終わり」銀河の開発はとりあえず成功した。だが、隣の「始まりの今」銀河のペンギン艦隊は全滅した。ついてはその原因調査と敵掃討のために優秀な人員を募集している。特に君のような優秀なエンペラー乗りを強く希望している。どうだ」


 どうだと言われても。


 同じスペック、同じ物量で挑んだはずのよそのペンギン艦隊が、全滅。


 ならどう考えても、おれ達もそうなるじゃん。


 パンタロンは血の気の引いた顔で、断る言葉を必死で考えていた。


「別に断ってくれても構わん。ただ次はこちらの銀河に「敵」が来る可能性もある。その時、武器を持たず本星で暮らしているのは、果たして安全かどうか。君の遺伝子はなんと言っているかね?」


 パンタロンは、断りのメッセージを思いつけなかった。


「・・・い、行きます」


「よろしく頼む。出来る限りのバックアップはあるはずだ。希望があればなんでも言いたまえ。本当になんでも用意できるぞ」


 艦長の顔は本気だった。


「希望って言われても」


 欲しいものはもう手に入っている。クレイシの暮らしは安楽極まりなかった。それに装備も、言うまでもなく最上以上のものが来るのだろうし。


 これ以上欲しいものなんて。


「えっと。一人、遺伝子的にはあれなんですけど、ペンギン艦隊に配属して欲しい人間が居るんですけど」


「構わない。何人でも連れてくれば良い。君の要望は必ず叶えられる」


 トキシロ艦長の言葉は甘かった。これ以上なく。



 艦長との面会は終わった。後に聞くと、スピリアも依頼され、受けたらしい。


 パンタロンはとりあえず、エンペラーの中にもってみた。


「なあ。お前はどう考える?」


「未知です。エンペラーが一機たりとも生存できず、離脱できず。敵の強さは少なく見積もって、エンペラーの数千倍」


 エンペラーという専門家に伝えられ、分かっていたことなのにパンタロンは頭を抱えた。


「・・・・ああああああああ。なんで受けちゃったんだろう・・・・・」


「大丈夫ですよ。もしかしたらデータ持ち帰り班に配属されるかも知れません。私が本気で逃げに徹すれば、0,001パーセント以上の確率であなたを無事に逃せます」


「へへへ・・・・・ありがと」


 泣き笑いながら、パンタロンは完全に生還を諦めた。


 一応、あの人に聞いてみるか。


 もう夢の終わり銀河もおしまいだろうし。どこで死ぬか、好きにすれば良い。



「良しっ!訓練だ!勝つ確率を引き上げるためにはトレーニングしかない!!」


「・・・なんでおれは呼んじゃったんだろう・・・」


 パンタロン特級兵長は、新造艦エコールにてヨッチャム特務将軍のサポートを受け始めていた。


「大丈夫です!みんなが居ます!」


「よろしくお願いします」


 料理番や新人も。



 なぜ、おれは血迷ったのだろう・・・。


 戦地におもむく前のパンタロンは、久方ぶりに哲学者になっていた。

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