パンタロンとエンペラー。
ジャンパーでは相手にもならない。ハイスピードが単独で出てはどうしようもない。ゆえに。
「エンペラー全機発進。各機、出撃と同時にフルパワーで敵を認識せよ。発見次第攻撃に移り、敵を殲滅せよ」
エンペラーが尖兵として放出された。
各銀河から集結したセカンドペンギン艦隊は、総数1千。各艦隊に新造艦エコールが200隻配置され、各エコールにエンペラーが1千機配備されている。総計、2億機のエンペラーが一度の遠征のために実戦配備されていることになる。
無論、前代未聞の数値である。一騎当千のエンペラー級の機体が、ここまで数をそろえる必要のある事態は、今までになかった。
パンタロンが見詰めるモニターにも、無数の光点が銀河中に広がっていた。全てが同じエンペラー。味方がいくらでも居る。
「壮観すぎる。すごすぎる」
「ですが、戦力的には焼け石に水です。我々は準備期間中に、微細なバージョンアップをしたに過ぎません」
実に1,2倍の戦力アップをしておきながら、エンペラー自身はそれを微力と言い切った。
確かに想定される敵戦力は、こちらの数千倍。1,2倍ではどうにも・・・。
「イメージしてきたんだろ?敵ってどんなやつだと思う?」
「それこそクジラでもメダカでもない。もっと別の怪物だと思っています」
「へえ」
以前パンタロンが想像した、光る金魚の上位種。
しかしエンペラーは実在した強敵の姿を、全くの別物だと感じていた。
たかが金魚の亜種が、エンペラーの離脱すら許さない。そんなわけがない。
「金魚を狩るエンペラーを狩る化け物・・・。宇宙ライオンかな」
「かっこいいですね」
流されたのか・・・?
と、パンタロンが思っていたころ、エンペラーは冷静にスペースライオンの姿と戦力をイメージしていた。体毛の全てが波動を食らう触腕であり、体細胞の全てで波動変換を自在活用しエンペラーの数千倍の速度で移動する。なるほど。そういうライオンなら、エンペラーを全滅させられる。
似た者同士のパイロットとAIが暇つぶしをしていると、突然にそれは来た。
モニターの端っこの光点が、一斉に何万という数が、消えた。スイッチを押したように、一瞬で。
「きっ、来たぞ!!!」
「・・・捉えられない」
パンタロンは上ずった声を出し、エンペラーは抵抗不能の文言を発した。
「なんだよ!?どんなやつなんだ!??」
「データ収集不能。測定不能。攻撃不能」
「ええいっ!」
パンタロンは無理しか言わねえポンコツを、とりあえず手近なモニターを殴った。
「消える仲間に合わせて波動変換砲発射!とにかく撃てよお!!」
「了解」
エンペラーは初めてロボットらしい挙動をした。つまり、パンタロンの命令に従った。
エンペラーの波動変換砲は、消えゆくエンペラーらの先、移動経路と思しきラインに放たれた。
そして他のエンペラーも、パンタロンに遅れること1秒で、同じく移動経路に発射した。
しかし敵の移動速度は全く衰えず、消えるエンペラーも同じ数だった。
「味方が動かない。撤退しない。なぜ?」
エンペラーの自問自答に、天才パイロットが即答した。
「ビビったんだよ!!」
「なるほど。了解」
エンペラーは本当に全てを理解した。
敵の正体が分かった。
「エンペラー全機、敵は電磁気力を依代とする巨像。この敵に有効なのは波動変換ではない。高電圧だ」
そこからはエンペラーの一転攻勢だった。もとより人類の生み出した最高スペックの巨人。彼らがフルスペックで発揮する電圧は、宇宙空間を光速の20億倍の速度で駆け巡った。
そして敵巨人は死んだ。
「よく気が付きましたね。パンタロン」
「???」
何が?
謙遜ではなく、本気で話が1ミリも理解できない。
「敵の正体は電気。電磁気力によって構成された、人間に似た体長10兆キロほどの巨人でした。おそらく、センサーに引っかかったエンペラーは一時的にそれを物体とも人間とも判断しきれなかった。人類の身体構造そのままに電気信号を発する巨像。ゆえに波動変換の対象にしなかったのでしょう。そしてその隙に攻撃された。まさしく人間の敵は人間。・・・数億年前の流行り言葉ですから、あなたには分からなくて大丈夫ですよ」
「うん」
流行り言葉も何もかも、全てが分からなかったので、パンタロンは純粋な笑みを浮かべて頷いた。
とりあえず、人間の敵は宇宙。それぐらいの常識だけがパンタロンの持ち合わせている唯一の知識だった。
そしてエンペラーは、絶対攻撃である波動変換から下位の高電圧に切り替えることによって、敵対象設定の切り替えを同時に行った。これにより、巨人はヒトではない敵性物体として認識され、エンペラー軍団は攻撃の機会を得た。
一度動き出せば、エンペラーに敵など居ない。
エンペラーはパンタロンを最上位遺伝子と認定。
新たなる銀河母星の王。遺伝子モデルの新規原型として採用するよう推薦しておいた。
パンタロンには何も言っていないが、きっと喜ぶだろう。