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集結する遺伝子。

「ていうか、ヴァルハラ50は」


「お役御免だ。そもそも」


 以前のペンギン艦隊の遠征時においてさえ、辺境だったヴァルハラ50。その遠征が成功した今、あの星はすでに実用性を失っていた。今もサーベルタイガはあそこで警備と整備をになっているはずだが、人員はこうして回収された。パンタロンに呼び出されなければ、他の辺境惑星に配備されていただろう。


「タイガ。おれが戻ってやるぞ」


 パンタロンの妄想は誰にも相手にされなかった。


「先輩。初めまして」


「ああ」


 こいつ、おれのせいで死ぬのか?そう思うと、パンタロンでさえ、後輩であるビリオンに何も言えなかった。


 というか、なんで全員で来た?


「あの。おれ、どうせ死ぬならこっちで死にませんか?ってヨッチャム先輩に聞いたはずなんですけど」


「ああ。教えてくれて良かった。それに誘ってくれたことに、心から感謝している」


 珍しくヨッチャムはパンタロンに心を開き、本心からの礼を述べているように見えた。


「いやそれは良いんですけど。なんで全員来たんですか?」


「私が誘った。どうせこの銀河が終わるまで、新型は開発されるまい。なら抵抗して死ぬのが軍人の本望だろう」


 ・・・最後ぐらい家族と一緒に過ごしても、バチは当たるめえ。そうパンタロンが思ったかはさておき。


「私もどうせ死ぬのなら、最後に敵を見ておきたかったんです。純粋に興味があって」


 タンカーはそう話した。


 実際には、本星で料理屋のバイトでもしたかった。が、それをしてしまうと、もっと作りたかった、という無念を抱えてしまう。


 だからあえて、家族とではなく仲間と共に最後を過ごす。


 己の夢を殺した相手を見届ける。せめてにらみつけてやる。


 タンカーはそう思った。


「私は軍人として、敵を倒したいと思いました。ですがサーベルタイガは持ってこれませんでした。申し訳ありません」


 そう言ってビリオンは頭を下げた。


 こいつもすげえな・・・。パンタロンは、サーベルタイガでエンペラーの数千倍の能力を持った敵と対峙たいじするつもりだったビリオンを尊敬した。


 どう成長すればこんな命知らずになるんだ?


 遺伝子は本当に不思議だ。


「い、いや。タイガにはタイガの仕事がある。君の責任ではないよ」


 とりあえずパンタロンは新人のフォローに回った。ヨッチャムやタンカーは自業自得で済むのかも知れないが、流石にビリオンは流れで来てしまったのだろう。いくらなんでも、好き好んでこんな場所に・・・。


「はい。私は私の責任を果たします。人類の敵を打倒するため、パンタロン先輩のために戦います」


 うわ。マジだ。


 パンタロンは本物の、なんというか、戦士?を見てしまって、一種困惑と感動の狭間はざまにあった。


「良いね。パンタロンは仲間に恵まれてるんだ」


「いや、うーん。まあ。そうだな」


 なぜか、というより必然的に、スピリアもまたこのセカンドペンギン艦隊にスカウトされていた。おそらく、各銀河のペンギンの生き残りが勧誘されたのだろう。それもエンペラー乗りを優先して。


 通常、ペンギン艦隊のエンペラーデッキは、船体からするとまるで大きくない。最も数の多いジャンパーデッキがその大半を占め、ハイスピードとエンペラーはほとんどオマケみたいなものだ。


 だがこの母船エコール28では、エンペラーデッキこそが最大面積を占めている。はっきり言ってバランスがおかしい。


 言うまでもなく、この船は通常の探査船ではない。戦闘メインなのだ。


 そこにわざわざ死に来た仲間達。確かに恵まれている・・・のか?


「私の仲間は、みんな家族のとこに帰ったよ」


「そりゃそうだ。それが一番だ」


 パンタロンも別に家族仲が悪いわけではない。エンペラー乗りでなければ、そうしていたかも知れない。


「しかしエンペラーの威容は見事だな。これで勝てない相手が居るなどと、にわかには信じがたい」


 パンタロンの部屋。そしてパンタロン自身とエンペラーはつながっている。だから部屋のモニターには常時、エンペラーの情報が映っていた。


「敵戦力は未知。ですがパンタロンと私が立ち向かう以上、勝利の可能性は常にあります」


 エンペラーも会話に加わる。


 ちなみにこのエンペラーは、あのエンペラーだ。クレイシ190でパンタロンが乗っていた機体。あれがそのまま配属された。


 ごく一部の人間しか知らぬ事実ではあるが、実はエンペラーにはそれぞれ個性、異なる自我がある。全く同じパーツで構成されているくせに、一体一体、別の性格なのだ。


 だからパンタロンとマッチすることが確定しているエンペラーが、優先的にこちらに配備された。スピリアら、他のメンバーも全く同じ。ゆえに、それぞれの銀河の戦力は一時的に減退した形となる。そこまでしての決戦だ。


「エンペラ。おれらはどうする?どんなトレーニングをすれば勝率が上がると思う」


「とりあえず、士気でも高めておいてください。後は私がやります」


 パンタロンは満面の笑みで、これがエンペラーだ、と仲間らに伝えた。


 ヨッチャムは初めて、パンタロンをすごいやつだと思った。



 そしてセカンドペンギン艦隊は、「始まりの今」銀河に到着した。


 人類の痕跡こんせきが全て消滅した、敗北の銀河に。

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