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私が生まれて聖女だと分かった時に陛下と私のお父様の間で決めていたことだと陛下に言われました。それでは完全に許嫁ではありませんか。
お父様から全く聞かされていない話でしたが王命であれば仕方ないし、そうでなくても私は好きな人と結婚なんて望める立場ではありません。
渋々という態度は見せられませんので、私は快く了承して見せました。
「私などには勿体ないお話ですわ。喜んでお受けいたします」
王太子様がフンと鼻を鳴らしたような気がしました。本当に今から憂鬱です。
それから、最初の目的通り聖女の最終試練を受ける事を陛下に報告して労いの言葉をいただいてから退室しました。
外ではクリストファー様が待っていました。私は先程のクリストファー様の様子に納得がいきました。私と王太子様の婚約の話を聞いていて、王太子様に気を使われたのでしょう。
「アビゲイル、少し気が早いけど婚約おめでとう」
私は胸がぎゅっと苦しくなりました。私はこの人のことが好きだったのかもしれないと、今更思い始めていました。本人に悪気はないですが、そう言われるのが辛いのです。
「ありがとうございます、クリストファー様はご存知だったのですね」
クリストファー様は複雑そうな表情をされています。私もそんな顔をしているかもしれません。少しの間、お互い見つめあってしまいました。
「何をしている」
クリストファー様が何か言いかけたところで、私の後ろから声がしました。クリストファー様が非常に気まずそうな顔をしています。
どうやら王太子様が追って来たようです。何をしに来たのでしょうか。
「アビゲイル嬢はもう私の婚約者も同然だ。気安く話をしないでもらいたいな」
「申し訳ありません、兄上」
そう言いながら私の腰に手を回してきたので、私は思わず身体を硬らせてしまいました。まだ婚約した訳でも無いのに失礼では無いでしょうか。
「聖女というだけで、たいした財もないオニキス侯爵家の娘を妻として迎えてやるんだ。せめて最終試練とやらは上手くこなして来るのだな」
「兄上、そのような言い方はアビゲイルに失礼です」
王太子様のあまりの言葉にクリストファー様が私の代わりに非難してくれました。王太子様も私との婚約が嫌なのではないでしょうか。
「なんだと?ああ、お前はこの娘にご執心だったな。可哀想だが、これはもう私のものだ。ふははは」
一瞬私の顔を見てから、クリストファー様は怒った顔で王太子様を睨むと踵を返して立ち去ってしまいました。
クリストファー様も私のことを気にしてくださっていたということでしょうか。
そこからはあまりよく覚えていませんが、私は馬車で家に戻りました。
お父様に一言文句を言いましたが、陛下が覚えていた事を喜ばれただけでした。
これで試練を終えたら婚約式となるのは確定です。
自分の部屋で少し泣いてしまいました。私の初恋はどうやら片想いでは無かったのに、こんな形で終わってしまったようです。