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託宣官の邸宅は、王宮や教会、貴族街がある中央区画から西に広がる富裕層が暮らす住宅街にありました。
馬車を降りて自ら門を叩いたのですが反応がありません。中に人の気配があるので、私だからかは分かりませんが居留守を使われているようです。
仕方がありませんね、力尽くで呼び出しましょう。
私は意識を集中して邸宅の周囲に遮音壁を展開しました。
「アリア司祭、偽りの神託のことで聞きたい事があります」
魔法で声量を増幅させてそう言うと、邸宅からドタドタと音がして乱暴にドアが開けられました。
「人の家の軒先で大声を出さないでください!」
疲れきってやつれた、お母様と同じ歳くらいの女性が凄い形相で私を睨んできました。私を聖女とする神託を告げた託宣官、アリア司祭本人でした。
私もこうして暗躍していることを知られたくないので外への音は遮っていますが、わざわざアリアに言うことではありません。
「アビゲイル様?……本当に生きておられたのですね」
アリアは望まぬ来客が私だとわかると少し驚いた様子を見せましたが、私の事は誰かから聞いたようでした。
「耳が早いですね。アリア司祭、少しお話を聞かせていただきたいのですが」
彼女は肩を落としながら私を中に招き入れてくれました。
私は居間に通され、ダイニングセットの椅子を勧められました。私が座るとアリアは対面に座りました。
彼女によく似た私と同じ歳くらいの女の子がお茶を出してくれましたが、何か言いたそうにそのまま立っています。
「娘のエイダです。エイダ、こちらの方と大切なお話があるので部屋に戻っていて」
アリアが急かすようにそう言いましたが、エイダは不満そうにアリアを見ました。どうも部屋に行く気は無さそうです。
「さっきの偽りの神託ってどういう意味ですか?」
エイダがアリアではなく私の方を見てそう聞くと、アリアが立ち上がり思いつめた様子でエイダを促しました。
「エイダ、お願いだから部屋に戻って。貴女を巻き込みたくないのよ」
「お母さん、私知っているんだからね!お母さんが私の結婚の事でエピドート公爵家に脅されているのを!」
アリアは驚いたようにエイダを見てから、肩を落として椅子に座り込みました。
私はため息をつきました。魔法で記憶を覗いてでも神託の事を聞き出そうかと思っていましたが、どうやらその必要は無さそうです。
「アリア、元聖女の私にはわかるのです。エピドート侯爵令嬢イザベラからは聖女の力を感じられません。偽りの神託などしていたら貴女自信が神のご加護を失ってしまいますよ」
元聖女だからというのは完全なはったりです。感知魔法はエンシェントドラゴンの力に他なりません。
託宣官が受ける神託は聖女の誕生を告げるものだけではありません。聖女以外の貴人の誕生や災害の予知等も神託として受けることができるのです。そのことだけに特化しているとはいえ、彼女もまた神の加護を受けた聖女と言えなくもないのです。
「貴女に言われたくはありません。貴女が聖女の力を失わなければこのようなことにはならなかったのですから」
アリアは苦々しそうに言いました。
アルファポリスに先行投稿しています。全27話