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クリストファー様の元から逃げ出した私は、家に帰って何も口にせずに眠りにつきました。精神的に疲れているのはもちろん、この姿を維持し続けるのはエンシェントドラゴンでも結構しんどいのです。
翌日には気持ちは落ち着いたので、両親と朝食を取りながらこれからどうするのか考えていました。城では取り乱していたお父様ですが意外と落ち着いていて、久しぶりにみんなで朝食でもどうだと誘われたのです。
聖女の修行は結構厳しくて、朝が早い上に週に一度しか休みがありません。それも最終試練のせいでこの2週間休みがありませんでした。
とりあえず、王太子様とイザベラ嬢の記憶を探ることは必須なのですが、私には気になる事がありました。本物の聖女のことです。
イザベラ嬢が聖女になりすます為には、本物の聖女の存在は邪魔でしかないと思うのですが、どうするつもりなのでしょうか。
私を消そうとした連中ですが、本物の聖女を殺せば再び神託の光の柱が現れるので今度はそれもできないはずです。
とりあえず、そちらを先に探ってみることにしました。
「アビゲイル、聞いているのか」
「え?」
どうやら思考の海に沈んでいる間に、お父様が私に声をかけていたようです。
「気をしっかり持て。実はな、第二王子殿下からお前を妻として迎えたいと言われているのだ」
失礼な形で別れてしまいましたが、クリストファー様は諦めていませんでした。少し安心して嬉しくなってしまった自分がいますが、やはり受け入れてはいけないという気持ちに変わりはありません。
「お断りしてください。私にはその資格はありません」
「どうしたのアビゲイル。貴女、クリストファー殿下とは仲が良かったじゃないの」
今の王家とは小さい頃から家族ぐるみの仲でしたので、女性であるお母様には私の気持ちは筒抜けだったのでしょう。
「まあお前が気持ちを整理できないのも良くわかる。ただ、お前の将来の為にも殿下のお気持ちは無下にしない方が良いと思うから、私の方で暫く引き伸ばしておこう」
「それがいいわ。アビゲイルも今までと変わった生き方に慣れないといけませんもの」
両親は私が聖女でなくても気にしないでくれるようです。そればかりか、私の将来のことを考えてくれているのでしょう。感謝の気持ちと同じ分だけ心苦しくなりますけど。
「お父様、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
本当はきちんとお断りした方が良いのでしょうけど、結局自ら断ち切る気にはなれず、そんな宙ぶらりんな状況を維持することになりました。
食事が終わると、私は一路協会本部に向かいました。イザベラ嬢が聖女であるなどという神託をもたらした託宣官に会うためです。
光の柱が立つと言う超常現象があったわけですから神託は本物です。そうであれば、その託宣官が神託を偽ったとしか考えられないのです。
そして、その託宣官は15年前に私を聖女とする神託をもたらした託宣官でもあり、彼女とは物心付いてから何度かお会いした事がありました。
しかし教会に着いて確認したところ、託宣官は今朝方急に休暇を取ったということでした。私は対応してくれた神官から託宣官の自宅を教えてもらい、そちらに向かうことにしました。もちろん、そんなもの普通に教えてくれるわけがないので魔法で聞きましたけど。
アルファポリスに先行投稿しています。全27話