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魔王城と引きこもり幼女

今回はそこそこ調子が良かったのでいつもより早めの更新です。

 城の中に入ることを決意したアストは………門の前で立ち往生していた。


「テオはすり抜けて入ったけど俺はどうやって入れば……」


 数十メートルはあろうかという巨大な門、どう考えてもアスト一人の力で押せるとは思えない。とはいえ自動ドアというわけでもなさそうだし、もうこれは壊して入るしか方法が無いように思える。


「ご主人来ないの?」


 中々中に入ってこないアストを心配してか扉をすり抜けテオが戻ってくる。


「いや、俺すり抜けとかできないし、どう見ても俺一人の力で開けれる奴じゃないだろ」


「壊せば?」


「仲間の友達の家を無断で壊すとか、あとで俺怒られない?」


「大丈夫でしょそれくらい」


 ゆるい回答


 レーヴァテインで一刀両断しようとするも木津ひとつつかない。他にもデュランダルやバレットM82で試してみるも同様にびくともしない。


「あのテオさん、壊れないんですが……」


「当たり前じゃん粗んな安物の武器で壊せるほどここは脆くないよ?」


「じゃあなんで壊す提案したんだよ」


「いや、私はてっきり能力を試してみるのかと」


「あぁ…うん、そういうことね」


 体の内側から力を放出するイメージ。エネルギーが体を包んでいるのを感じる。そしてそのエネルギーを右拳壱点に集中させ思いっきり打ち込む。

 もしもアストの能力が破壊系ならこれで門は粉々に……なりませんでした。


「―――――ッッッテェエ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"ッッ!!!」


 思い切り泣き叫ぶアスト。門を壊す力など全くない生身の人間が鉄の壁に向かって思い切りパンチしたのだ、当然の結果と言えるだろう。むしろ骨が砕けていないだけましだ。


「ダメか……」


 そう言うとテオは赤く腫れたアストの右手をそっと撫でると同時に無詠唱の回復魔法をかける。するとたちまち痛みが引き傷や腫れも完治してしまった。あまりに一瞬の出来事でテオが回復魔法を使ってくれたと分かるまでには少し時間がかかった。


「しょうがない。はい、ご主人」


「…悪いな」


 差し出されたテオの手を握るとテオは自分の能力で幽霊の様に壁をすり抜けて中に入っていく。そして手をつないでいるアストにもその力が反映され、いつぞやの商業の国を脱出した時同様一緒にすり抜ける。


 城の中に入ると早速、無残にモンスターの死骸があちらこちらに転がっている地獄絵図が目に入り、反射的に目を閉じる。


「テオ、俺に何か怨みでもあるのか?」


「いや普通に襲ってきたやつらを倒しただけだから、ご主人が耐性低いだけだから……あっでも自分で殺る分には問題ないんだっけ?」


「うん、だからこの先のモンスターは全部俺に倒させて」


「えっ?もう雑魚はいないよ?あとはボスだけ」


「いくらなんでも早すぎだろ!」


「いやいや、ご主人が来るの遅いだけだから」


「遅いって…10分とかそのくらいしか経ってないだろ」


「10分もあれば十分だよ」


 ――クソっ、流石としか言えねぇ


「それに今のご主人のレベルじゃここのモンスターは誰も倒せないよ?」


「そこまで言いますか…」


「チート能力が使えてなおかつそれが戦闘向けなら話は別だけど」


「はい、俺は足手まといのゴミです。もう全てお任せします」


「じゃあ準備運動も終わったし、ここから目的地まで一気にワープするね」


 そう言ってテオがアストの手を握り能力を発動させると二人の体が床をすり抜け垂直に落下する。

 真っ暗な地面の中を加速しながら落下を続けること数秒、ひときわ広い空間に出たところでテオが重力魔法を発動させる。それにより落下の運動量が相殺され安全に着地することが出来た。

 そうして最終的に辿り着いた場所は何とも不気味な空間。

 柱などの空間を支えるものは何一つなく、壁一面には青い火の灯ったろうそくがびっしり生えている。ろうそくのおかげへ空間全体を見渡せる程度には明るく、床や天井には魔法陣らしき模様がびっしりと書かれていることが分かる。

 そして空間の中央には椅子と机が置かれており何者かが机に向かって坐っている。


「テオさん、まさかラスボスって…」


「そう、アレ」


「こういう建物のラスボスって普通最上階にいるもんなんじゃ?」


「普通はね、けどアレは別。なんかこういうところの方が落ち着くみたい。ホント昔かr――」


 ズドンッッッ!


 突如放たれた攻撃をテオが片手で受け止める。普通は防御魔法でガードするところを生身で受け止めて無傷なのは流石。


「…ッ、いきなりの挨拶だね」


「僕の城に無断で立ち入った挙句、部下を全員殺したくせによく言うよ」


 椅子に座っていた者の正体は右目を髪で隠した銀髪ロングの幼女。空のように澄んだ青い瞳が何とも美しい。

 自信の手が隠れるほどの丈の合わない黒をベースに青いラインの入ったオフショルダートップスの衣装に身を包み。腰から下は二重のスカートと灰色のニーソにローファーのような黒い靴。

 露出度は控えめだがアスト的には何ともけしからんエッッッッッな衣装である。


「……僕っ娘幼女…だと………」


「ご主人?」


「決めた、仲間にしよう!」


「ご主人!?」


 幼女相手には即決断即行動のアスト、一瞬で幼女の前まで移動すると片足をついて膝まづき幼女の手を取る。


「きめ細やかな銀髪とかすかな曇りすらないその澄み切った瞳、白く柔らかな肌と膨らみかけの胸はジャスティス!!!俺はキミのような存在に出会うために今まで幾たびも死と転生を繰り返してきたのかもしれない。お嬢ちゃん、キミは最高に可愛い、ぜひうちのパーティに加わって欲しい」


「………ッ」


 超早口で暴走するアストの変態行為に幼女はドン引きしアストの手を振りほどくとテオの後ろに隠れる。


「何コイツ、変態!?」


「うん、正直私も引いてる。ほらご主人、初対面の子に迷惑かけないの」


「はっ…すまない、つい興奮し…て……ッジャスティスッッッ!!!あ"あ"あ"あ"あ"ロリ百合最強ぉお"お"お"お"お"お"お"!!!!!」


 テオの言葉に一瞬正気に戻りかけたアストだったが、テオと幼女のロリツーショットに再び理性が崩壊し力の限り叫びまくる。


「ヒエッ…」


「……チッ、()()合わせて」


 完全に勝機を失っているアストにこのままでは収拾がつかなくなると判断したテオは、幼女に協力を求めると限界突破しているアストの側面に周り込み握りこぶしを構える。そしてネロと呼ばれた幼女も同様に握りこぶしを構えテオと向かい合うようにアストの側面に回り込む。双方狙いを定めると拳の前にテオには赤色、ネロには青色の魔法陣が何重にも重なって展開され同時にアストの脇腹めがけて内放つ。


「ぐぼへぁっ……」


 双方からの一撃をもろに喰らったアストは体力を瀕死寸前まで削られその間に倒れ込む。


「ご主人落ち着いた?」


「…はい……すみません………あと…ありがとうございます……」


 最後の力をふり絞り謝罪と感謝を述べアストは気絶する。


「ごめんねネロ、ご主人ロリコンだから」


「なんでこんな変態と一緒にいるの?」


 ロリコンと分かっていてなぜテオのような可愛い幼女が一緒にいるのか疑問に思うネロ。


「私、ご主人にすごく興味あるから」


 相変わらず笑わない目で含みを持たせた言い方をするテオ。


「へぇ~そんなに面白い能力なの?」


「キミのような勘のいい女は嫌いだよ」


「勘がいいも何も、これだけ長くつるんでればそれくらい分かるって」


「流石だねネロ。じゃあ私がここに来た理由も分かってるのかな?」


「うん、知ってるよ……僕のサンドバックになってくれるんでしょ?」


「……あ、あれ?ネロ?」


 少しじゃれ合ってもらう程度の予定だったテオだが、ネロは完全にこちらを殺す気で来ている。それほどの殺気がこの地下空間銃を埋め尽くし鉛のような重たい空気を作り出す。


「部下をみんな殺した挙句、僕の貴重な研究時間まで潰したんだから、しっかりストレス発散させてもらうよ」


「えっとネロ?手加減はしないと、私たちが本気でぶつかったらここ一帯吹き飛ぶよ?」


「あなたを殺すのに手加減なんてする必要あるの?」


 そう言ってネロが地面に手をつくと、地面に描かれた魔法陣が発動し、テオを囲むように複数の異形を召還する。

 不自然に吹き荒れる風がネロの神を揺らし隠れていた方の目が姿を現す。その右目には五角形の紅い紋章が浮かんでおり不気味に光っていた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 気絶してからどれくらい時間が経っただろう。やかましいほどの爆音と砂埃の中アストは目を覚ます。


「…ったた…俺はいったい何を………ッ世界の終焉ッ!」


 目覚めたアストが目にした光景は異形の怪物を召還し操る幼女とその怪物たちを次々と薙ぎ払うテオの姿。


「あっご主人起きt――」


 アストの目覚めに一瞬気を取られたテオがその隙を突かれ異形の触手によって体中を串刺しにされる。

 真っ赤な鮮血がまるで花火の様に飛び散り内側から体を引き裂かれ肉片となって地面に落下する。


「………テオ?」


 予想だにしなかった急展開にアストは頭が真っ白になり視界がテオの血で赤黒く染まっていく。そして視界が赤黒い世界に覆われた……


 ――――刹那。


 瞬き程の一瞬でアストがネロを床に抑える付け拘束し、固く握った右拳を顔面目掛けて打ち込む……寸前で突如拳が止まり一ミリも動かなくなる。


「そこまでだ、ご主人」


 ここでアストの拳が急に動かなくなった原因が判明する。それは、ついさっきバラバラになったはずのテオがアストのグーを後ろからパーで受け止めとどめの一撃を阻止していたのだ。

 そしてアストに思考が戻った次の瞬間ネロの使役していた異形たちが全て塵レベルに細切れにされ消滅する。


「……………」


 いつ、どうやって異形たちを攻撃したのか全く見えなかったネロは困惑し言葉を失う。が、未知の恐怖に震える体とは裏腹にその顔だけは笑っていた。


「……やるねご主人」


「テオ、お前体は大丈夫なのか?傷痕とか残ってないか?てかどうやって体くっ付けたんだ?あれか?厳格化?俺は幻覚を見ていたのか?」


 確かに目の前でバラバラに解体されたはずのテオが傷跡も残さず完璧に復活していることに全く思考が追い付かず再び混乱するアスト。


「回復魔法で直しただけだって、それにあの程度はかすり傷と同じだよ」


 四肢をバラバラに切断されるのとかすり傷が同レベルなのか…と、テオの怪我の基準に困惑しながら本当に傷跡が残ってないか念のため隅々までチェックする。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「テオ、情報不足過ぎるからちゃんと一から説明してくれ」


 テオが本当に無傷であることが確認できたところで、ようやく落ち着きを取り戻したアストがこのカオスな展開の説明を求める。


「どこから?」


「全部だよ全部、まずはこの可愛いロリっ子の名前とスリーサイズと性感帯を――」


 可愛い幼女を前に再び暴走し始めたアストをテオがデコピンで吹き飛ばす。アストの体は外壁まで飛びそのままろうそくの海に頭から突っ込む。


「ご主人はロリコンの変態なんだからちゃんと自重して」


「……は、はい」


 吹き飛ばされたというのにどこか嬉しそうにおでこを擦るアストとそんなアストを警戒した目で睨みつけるネロ。

 アストがとことこと戻ってきたところで仕切り直す。


「じゃあ名前からね、はいネロ自己紹介」


「ネロエ・ノース・コスモクイン、呼ぶときはネロでいい」


「ネロちゃんか、いい名前だね」


「……………」


「……………えっ終わり?名前だけでいいの?」


「僕の中でコイツはまだロリコンの変態だから、これ以上教えるつもりはない」


「ははっ、これは仲良くなるまで時間かかりそうだ……。それで2人は知り合いなんだよね?」


「そうだね、腐れ縁ってやつ?」


「まぁ幼馴染とかそう言う感じに近いかな」


「なるほどなるほど…幼馴染百合幼女……悪くない」


「ご主人?」


「はい、すみません………」


 無意識に出てしまう変態発言にテオから圧をかけられ流石に自重するアスト。


「それで?ぶっちゃけた話どっちが強いの?」


「当然私だね」


「そりゃ僕でしょ」


「……………」


「……………」


「えっと……」


 自重したことにより質問の選択肢が絞られ、地雷原を堂々と踏み抜いてしまったアスト。再び空間内に不穏な空気が立ち込めはじめる。


「寝ぼけてるのテオ?前遊んだ時に僕の方が勝ち越したじゃん」


「それは無い、ネロこそ研究のしすぎで記憶飛んでるんじゃないの?」


「あぁ…2人とも同じくらいって事なんだね」


「はぁ?私の方がちょっと上だし!」


「はい?僕の方が少しだけ強いんですが」


 お互い自分の方が飛び抜けて強いじゃなくて、相手より自分の方が少しだけ強いと言っているところに認め合ってる感ががあっていいなと思うアスト。

 それにしてもあのテオがこんなに感情をむき出しにするなんて、この子がいればもっと色んな表情のテオが見れるのではないだろうか?


 ――この子がいればテオのもっといろんな表情が見れるかもしれない。やっぱ何としてでも仲間に加えたいな


 どうやって仲間に引きずり込むか考えながらジーっとネロの方を見つめるアストに本能からなのか少し距離を置くネロ。


「言っとくけどご主人、ネロは引きこもりの研究バカだから仲間に加えて一緒に冒険っていうのはかなり難易度高いよ?」


「ばーか、そういう子をいかにして冒険に誘えるかが腕の見せ所だろ」


「そんなご都合展開ご主人には無理だと思う」


「即答かよ」


「ご主人の魅力じゃ無理だけど、ご主人の能力だったらワンちゃんあるかな?」


「……能力?」


 魅力が無いと本人を目の前にオブラートをたやすく貫通させてくる言い方が少し気に入らないが、テオの「能力」という言葉にネロが少し興味を抱く。


「そっ、私も知らない能力だよ」


「テオが知らない能力……うん、ちょっと興味あるかも」


 言い方はどうであれネロが興味を抱いてくれたことによりアストとの物理的距離が少しだけ縮まる。


「おっ?じゃあ仲間になってくれるか?」


「う~ん…確かにテオも知らないという点では面白そうだけど、能力の調査だけじゃギリギリ釣り合わないかな、僕はキミと冒険に出ている間今の研究を中断しないといけないわけだし」


「あぁ…そう、だよね」


「へぇ~……」


 引きこもってまで研究に没頭する幼女を連れ出すのだからやはりそう言った代償は付いて来るよな。と思わず納得してしまったアストと、表情は変わらないが明らかに何かを察したような反応を示すテオに「なによ」と言わんばかりに眼を飛ばすネロ。それに対して「別に~」と言いたげに少し微笑んでいるかのような表情で視線を逸らすテオ。


「でも、キミの能力に興味があることは本当だから、あと一押し僕の興味をさらに掻き立てられたら合格にしてあげる」


「あと一押し………テオ助けて」


「えっヤダ」


「えっなんで?」


「最近のご主人私に頼り過ぎだから今回くらいは自分で解決して」


「急に厳しくなり過ぎじゃ……」


 ここから先は一切手伝わないと宣言したテオは壁際まで行くと床に丸まって横になりそのまま寝てしまう。


 異世界転生系によくある危機的状況から救い出した命の恩人でもないし、奴隷の立場から解放してあげたわけでもない、そもそもネロはパーティーに入らないといけないような状態でもない。

 そんな幼女をどうやって冒険に連れて行けばいいのか。

 冒険の魅力を伝える?死と転生を繰り返してただけでロクに冒険して来なかった俺が?


 ――これもう他に思いつく方法って言ったら俺の頭じゃ「力ずく」しかないぞ


 全然いい案が思いつかないアストはその場に蹲り、唸り声をあげながら頭を抱える。


 ――今まで訪ねてきた人たちは何かと理由つけて連れて行こうとしてきたけど、この人はそういう度胸が無いタイプかな?


 この状況をアストがどう切り抜けるのか少し楽しくなってきたネロは、答えをひねり出そうとしているアストを少し楽しそうに眺める。


 ――さて、どんな面白い答えが出るK――


「だぁあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"クソっ!!!なろう主人公め羨まじい"い"い"い"い"い"い"!!!」


「えっ?な、なに?なに?」


 主人公補正掛かりまくりの小説主人公たちに嫉妬し、突如発狂し始めるアストとその発狂に驚いてビクンと思わず跳ね上がるネロ。


「ネロさん、今ここで俺と勝負してください!」


「えっ、あっ…あぁ……なぜそうなった」


 テオとは違った意味で目に光が宿っていない。疑うまでもない、これは完全に投げやりになっている人間の顔だ。と少しアストが心配になってきたネロ。

 言葉遣いが急に敬語なのはアスト自身混乱して制御しきれていない証拠だろう。


「俺が勝ったら仲間になってもらいます!」


「そうやって力でねじ伏せるのは僕も嫌いじゃない……いいよ勝てたら…ね」


 さっき暴走しかけた時に見せた、一瞬で異形共を消し飛ばし自分を追い込んだ正体不明の力。

 能力の謎を解くためにも資料やデータは多い方が良い、ならまたさっきの力を使わざる負えない状況に追い込めばいい。

 そう思いアストの投げやりな提案に乗るネロ。

 お互い臨戦態勢に入り今、タイマン勝負の火ぶたが切って落とされる。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「ぐほぁっ……」


「……………」


 カンカンカンカンッ。

 アストとネロの真剣勝負は文句のつけようがないアストの完全敗北という結果でたった10秒ほどで決着がついた。

 アストはネロがなにをしたのか全く分からなかった。

 詠唱が早すぎたのかそれとも知らない言語だったからなのか、真相は分からないがとりあえずネロが何か呪文のようなものを唱えていたような気がしたことは覚えている。

 しかしテオが何かを詠唱していると認識した次の瞬間にはアストはボロボロになって床に突っ伏していた。


「ん?終わった?」


 タイミングのいいところでテオが目覚め大きく体を伸ばす。


「ははっ……やっぱりこうなったか」


「全部お見通しだったってこと?ていうかテオ、なんでこんなクソ雑魚期待外れ変態野郎と一緒にいるの?あんたほどの奴が能力が未知数だからって理由だけでこんな雑魚と一緒に冒険するとは思えないんだけど」


「何言ってるの、単にご主人の能力に興味があるだけだよ」


 ネロの純粋な質問に少し微笑んで答えるテオ。そしてやはりその目は虚空を見つめており今の言葉が本心かどうか全く検討が付かない。


「あぁ…こんな可愛い幼女にボコられて馬頭までしてもらえるなんて……やはり今回の俺の人生は間違っていなかった」


 そんなネロのもやもや気分なんて気にもせずアストはネロの罵倒に喜びを感じ一人で興奮していた。


「残念だけどご主人、全てにおいて間違ってるよ」


「やっぱ止め刺そうか」


「生き返らす魔力もったいないから却下で」


 どこから取り出したのかいつの間にか構えていた剣で止めを刺そうとするネロを魔力節約を理由に止めるテオ。そのまま死にかけのアストに回復魔法をかけてあげる。


「テオも初めて会った時はこうだったの?」


「いや、私はここまでひどくなかったよ」


「なぜ?なにこの差?」


 ロリコンにも関わらずテオに変態行為をしていないことに今日一番の疑問を抱くネロ。


「いや、テオに会った時は俺ちょうど生死の境にいたからこんな興奮する余裕なかったんだよね」


「仮にあの場で暴走してたら確実にハチの巣にされてたね」


 確かにあの場でネロにした行為と同じことをすればまず間違いなく変質者として問答無用で撃たれまくっていただろう。しかもこの時はテオが完全に仲間になっていないので蘇生も期待できない、人生リセットコース一直線、自力で手を探し出すところからのリスタートだっただろう。


「むしろハチの巣にされた方が世界の為だったんじゃ?」


「無駄だよネロ、どうせ神によって転生するのがオチだって。それよりさっさと支度してね、すぐ出発するから」


「いやいや、僕勝ったじゃん、行かないよ?」


 割と自然な流れでしれっと冒険に連れ出そうとするテオに騙されることなく断りを入れるネロ。


「本当に行かないの?」


「行かない」


「本当の本当に?」


「本当の本当に」


「本当の本当の本当に?」


「しつこいな、行かないって言ってるでしょ!」


 仲間になる誘いを断固として断り続けるネロに、テオは無言のまま空間魔法を発動させ魔法陣の中に左手を突っ込むと中から一冊の本を取りだす。

 表題がない事と、風化により読めるかどうかも怪しい状態になっていることを除けばどこにでもありそうな普通の本。

 そして次の瞬間、テオが炎魔法で右手に炎を宿すとその炎の真上に本を持ってくる。


「これが最後ね、本当に私たちと来ない?」


「ッ……一緒に…行ぎだいでず……」


 脅しをかけるテオをもの凄い形相で睨みつけながら悔しそうに同行を承諾するネロ。

 ネロが同行することが決まるとテオは満足そうな顔をしてほんの焼却を中止する。

 恐らくあの本はネロにとって特別なものなのだろう。そしてこうなると本の正体が気になってくるのが人間というもの。


「テオ、その本なに?」


「……読む?」


 そう言って手渡された本を開くとそこには何も書かれていない空白のページが。次のページもその次のページも文字の存在しない空白のページで構成された本。

 全くもって意味が分からない。


「その様子じゃ空白だったみたいだね」


「人間ごときにそれが読めるわけないでしょ」


「私も読めないしね」


「マジかよ………テオでも読めないって、なんなんだコレ?」


「本当になんなんだろうね?いい加減教えてよネロ」


「読めるならそれの研究が短縮できるから教えるけど、読むことすらできない奴に教えてもなんの意味もないじゃん」


「とまぁこんな風に、内容すら教えてくれないんだよね」


「なるほど。けどネロちゃんがここまで執着するくらいだから超凄い物なんだろうな」


 ネロにしか読めなくてしかもまだ研究途中の書物。中二病の抜けきっていないアストにとっては何ともそそる内容。ぜひとも内容が知りたいところだ。


「……ねえ、そこまでして僕を誘う理由はなに?」


 ここでネロはあすとたちが自分を冒険に誘った時から思っていた純粋な疑問をぶつける。

 この世界は天才たちで溢れている。ネロより優秀な研究者や知識を持った存在はそこら中にごろごろといる。にもかかわらずなぜ自分じゃないといけないのか、投げやりになったり脅しをかけてまで必要とする理由は何か、それだけはどうしても知りたかった。


「ネロがいると冒険が楽しくなりそうだから」


「超絶可愛い幼女だから」


 ネロの純粋な質問に対し全く空気を読むことなく各々が私欲で答える。

 テオはそう言うやつだと知っているからまだこういう奴で済むが、アストにはもっとマシな返答をして欲しかったと思うネロ。


「今すぐ引き籠りたい……」


 このパーティーで今後長くやっていける気がせず今すぐ世界の最果てまで逃げて一人のんびり少したいと考えるネロ。

 しかしそんなことを許すほどテオも甘くはない。


「ネロ、契約を破るつもり?」


「契約なんてしてないし、脅しによる一方的な口約束だし」


「口約束も立派な契約でしょ」


「一方的な約束は契約とは言わないんだよ」


「えっ?なんて?」


 ネロの正論に再び本を焼却しようとして脅しをかけ弾圧するテオ。手段を択ばない外道。


「チッ、クソがっ死ねよ」


「いいなぁ、俺もネロちゃんに死ねよって言われたい」


「言わねーよ」


 この短時間でアストの変態発言の返しに慣れてきたのか、余計なことは言わずシンプルに拒絶だけをするネロ。

 これにはアストも物足りなさそうにがっかりする。


「じゃあご主人、私が言ってあげようか?」


「どんとこーい」


「…死ねよ」


 汚物を見るような蔑んだ瞳で睨みつけられ渾身の「死ねよ」を吐き捨てるテオ。付き合いの長いネロですらテオが悪乗りしてくるタイミングは分からない。

 そんなネロを置き去りにし、罵倒された変態さんはテオのとてもお似合いな目つきに興奮し芋虫の様に身をよじらせていた。


「ありがとうございますっ!!!」


 ――すでに殺してでもこのパーティーから抜け出したい


 変態同士のやり取りに、これから毎日こんな光景を目にするかと思うと憂鬱になるし、あらゆる手段を使って失踪を試みるかもしれない。

 そう考えると胃が痛くなる思いのネロだった。


「さてさて、まぁなんか無理やり感すごいけど、これからよろしくネロさん」


 テオのストレス発散という元々の目的も達成したところで改めてネロを歓迎するアスト。

 しかし今のところアストにはロリコンのクソ雑魚変態野郎という認識しかないうえに嫌々強制的に仲間に加えられたネロが握手を交わすはずもなく、逆に害虫を見るような目で睨みつけながら差し出された手を払い除け拒絶する。


「言っとくけど僕はキミをモルモットとしか見ないから」


「あっはい、その虫けらを見るような目最高です。モルモットとして思う存分弄んでください!!!」


 嫌味で言ったはずがアストには願ってもないご褒美だったらしく、逆に喜んでしまう。

 罵倒や暴力が全部ご褒美になるなら、扱い方だけで言えばテオよりめんどくさいかもしれないと思うネロ。


 一方その頃。

 アストたちの訪れた魔王城に強大な存在が帰って来る。


「ついに帰って来たぞ我が城に」


はじめましての方は初めまして、ご存じの方はおひさです。IZです。


なんと今回は1週間ちょっとでも更新となりました。(中の人変わった説)


【チートしかいないカオスな異世界でもチーレムしたい!!!】


この作品は本家【チートしかいないカオスな異世界でも平和に暮らしたい。】のオリジナルキャラver.となっています。


本家の方はpixiv小説にて連載中ですので更新を待っている間にでも読みに行っていただけると嬉しいです。


https://www.pixiv.net/users/58648155/novels




さて毎度恒例後書きプロフィールですが………やる気が本編に全部吸われたので次回に持ち越しとします。


それでは次回の【チートしかいないカオスな異世界でもチーレムしたい!!!】の後書きでお会いしましょう。

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