表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

ギャンブルと乱数幼女

いつもの宣伝です。


チートしかいないカオスな異世界でも平和に暮らしたい。


https://www.pixiv.net/novel/series/1383788

 地図によると最初に寄ったこの街から東方に数千km離れたところに今回の目的地がある。しかしさすがにこの距離を歩いていくのはしんどいので、商人の馬車に乗せてもらうことにする。

 東門には町から他国へと商品を運ぶ商人たちであふれかえっており、それぞれ荷馬車に荷物を運び入れていた。アストは手当たり次第に自分と同じ国に行く荷馬車が無いか聞いて回る。

 するとちょうど一台アストが向かう国に荷物を運ぶ荷馬車を発見する。

 その荷馬車を操縦する男は筋肉モリモリマッチョマンの大男で、確実に数十人は殺してそうな厳つい顔つきに話しかけようと近づいたアストはビビって立ち止まる。


「大丈夫だ少年。顔は怖いが心は俺たちの中で一番優しい良い奴だ。安心して話しかけてこい」


 他の商人たちに後押しされアストは恐る恐る優しいと評判の大男に声をかける。


「…あの、すみません」


「はい、なんですか?」


 大男の声は見た目通り力強く、それがかえってアストの恐怖を増大させる。


「あの…えっと……この馬車が、商業の国に…行くと……聞いて……もし可能でしたら、私も…乗せて行って、もらえないで…しょう、か……」


「そう言うことならいいですよ」


「ありがとうございます」


 恐怖で呂律が回りにくくもごもごとした口調になってしまったが大男は全く気にする様子を見せず、それどころかアストの動向を快く受け入れてくれた。

 見た目で人は判断できないとはよく言ったものだ、あの厳つかった顔がアストと話すときは素敵な笑顔になりこちらを怖がらせないように口調も優しくしてくれた。

 話を聞くに本人も初対面の人に怖がられることは気にしているようで毎日どうしたら怖がらせないように話しかけられるか研究しているらしい。

 コミュニケーションって大事だなと思いつつ大男の商品の荷運びを手伝いいざ出発。


 心優しい大男の商人のおかげで楽に国まで行けることになったアスト、荷台アクラを描いて座りながら国に着くまで外のファンタジー世界観満載の背景を眺めて過ごす。

 しかも荷馬車を引く馬は普通の馬ではなくダイヤモンドのような美しく輝く角を持ったユニコーンで新幹線のような速度で荒野を駆け抜けていく。こんなにスピード出したら商品どころか馬車がもたないと思ったが、どうやら馬車事態にかけられた防御魔法と演算魔術により速度に耐えるほどの強度を持ちつつ揺れをゼロに抑えることが出来ているらしい。


 そんなユニコーン馬車に揺られることだいたい半日くらいで目的の国に到着する。

 途中休憩で夕食までご馳走してくれた大男とは入国する門の場所が違うということでお礼を言って別れる。


 予定よりずっと早く到着することが出来たアストは早速入国審査をパスし国に入る。

 門をくぐると最初に目に入ってきた光景は卸売市場のように広がる超大規模な屋外マーケット。


 売っているのは食材や武器、生活必需品から黒魔術に使いそうな素材、さらにはそれはいつどこで使うものなんだという謎のオブジェクトまでまさに商業の国にふさわしい、売っていない商品なんてないのではないかというほど充実した品揃えに不思議とアストもテンションが上がる。


 その規模と物珍しさからいろんな店に目移りしつつも今後のクエストのために一目惚れした厨二心をくすぐるデザインの剣と前の国では売っていなかった補助アイテムをいくつか購入しつつ気になった店舗を見つけては寄り道の繰り返し。


「!?」


 屋台で小腹を満たしたりしながら武器屋を中心にいろんな店を転々と見て回っていたアストの視界に1人の幼女の姿が映り込む。

 寝ぐせのようなボサボサに伸びた長い金髪は不絹寝るそよ風にふんわりと揺れる。透き通るような白い肌とエメラルドグリーンの瞳を持った少女はフリルいっぱいのゴシック服を着ており、首にはアクセサリーの付いたシルバーのチョーカー。どう見てもこんなところに買い物に来るような身分には見えない。

 少女の周りにはボディガードとして雇われた冒険者数名が常に円を描くように四方八方を囲んでおり少女が道を歩くと進行方向の人の波をかき分けて進んで行く。


 性癖どストライクの幼女に目が釘付けになったアストはマーケットでの買い物を中断し、まるで操られているかのように幼女の後を追う。

 日本どころか異世界でもこんなことやってたら即通報モノだが、幸いにも衛生兵のお世話になることは無かった。


 卸売りマーケットを抜け国の中心に向かってしばらく歩いていくと幼女とその護衛たちは道のわきにある一軒の酒場に入っていく。もちろんアストも後をつけその酒場に入る。

 一見どこにでもあるごくごく普通の酒場のようだがいざ中に入ってみると先に入ったはずの幼女と護衛達の姿はどこにもなく、ただ酔っ払いどもがわちゃわちゃ騒ぐありふれた光景があるだけだった。


 ――絶対ここに入ったよな?


 そう疑問に思いつつアストは店内を見渡しながらマスターのいるカウンターへと向かう。


「すみません今ここに金髪の幼女が来ませんでした?」


 人探しに少女ではなく幼女と言ってしまうあたりアストの性癖がどれほど重症なのかが分かる。


「……会いたいなら入場料を払いな」


 そんな変態発言をするアストに内心引いたように一瞬言葉に詰まったマスターだったがすぐに幼女の居場所を知っているかのような返答をして右手を前に出してくる。

 なぜ酒場で入場料が発生するのか全く分からないが、とりあえず入場料を払えば会えるらしい。


「…いくらだ?」


 あたりを見渡してもこれといって入場料金が書かれた看板や張り紙があるわけでもなくいくら払えばいいのか分からないアストはマスターに料金を聞く。


「それはお前が決めな」


「俺が?最低金額とかあるのか?」


「それもお前が決めることだ」


 意味不明な回答を返すマスターに少し困惑するアスト。入場料を自分で決めていいという事なら1ゴールドで入ってやろうかと最初は思ったアストだったが、意味深なマスターの返答に何か裏があるのではないかと踏んでとりあえず1000ゴールドを支払う。


「ほらよ、せいぜい頑張りな」


 マスターに入場料を支払うと1000という数字が書かれた一枚のチップを手渡され、カウンターの奥にあるドアから奥に進むように案内される。

 なにがなんだか、全く頭の処理が追い付かず、頭の上に『?』をたくさん浮かべながらマスターに言われるがままドアへと向かう。ドアを開けるとその向こうには地下へと続く階段が伸びており、少し不安になってちらっとマスターの方を振り返るが、マスターは奥に進めの一点張り。仕方なく若干震えている足で恐る恐る階段を下りていく。

 等間隔に置かれた弱いランプの光を頼りに階段をしばらく下っていくとまたドアが現れる。

 そのドアからは賑やかな人の声と眩い光が漏れ出しており、アストはとりあえず地下にたくさんの人がいることに安心し扉を開ける。


 扉の先には本当に地下なのかと疑いたくなるほど明るく広い豪勢なつくりのカジノが賑やかで人や異種族で溢れかえっていた。

 施設内には地球にもあってみんながカジノと聞いて連想するテーブルゲームから異世界には珍しいスロットなどのゲームマシンまで、さらには魔法をつかった魔法の世界独自のカジノゲームまで実に多種多様なゲームが勢ぞろいしている。その規模はラスベガスにも引けを取らないほどでこんなものが一国の地下に設けられているところからこの国にどこか闇を感じてしまうアスト。

 初めてカジノに入ったアストはリアルカジノゲームをいろいろ見て回りたい……とは思わず本来の目的である金髪幼女を探すべく、ぐるぐるとカジノ内を歩き回る。


「うおおおおおっ本物だあああぁぁ!!!」


「来た来た来たあああぁぁ!!!」


「いよっ、待ってました!!!」


 それはそうと、さっきから異様な盛り上がりを見せ大勢のギャラリーを集めている卓が一つある。

 その卓はカジノの中心、周りよりも数段高台になっていてひと際注目を集められるうえに、上空にはテーブルの状況を映し出した投影魔法により遠目からでも対戦の様子がはっきりと確認できるようになっている。


「……いたっ!」


 そして見つけた、卓のわきにぽつんと座る金髪の幼女。見間違えるはずがない、アストが探していた幼女本人。

 すぐさま卓に群がるギャラリーの間をかいくぐり結界魔法が張られている最前列に出る。アストから見て卓の左側には幼女とその護衛の冒険者たち、右側にはこちらも同じく護衛を引き連れた宝石ジャラジャラのTHE大富豪が席に着く。

 大富豪の体はブクブクと太っておりアニメなら完全に悪役で出演する容姿をしていた。


「初めまして。私は――、」


「挨拶はいいわ、私との対戦のルールは知ってるわよね?」


「も、もちろんですとも。私が今日の対戦を――、」


「なら早く始めましょう」


 大富豪の自己紹介を幼女は退屈そうな暗い目をしながら遮る。


「おほんっ、では早速。勝負するゲームは『100面チョイス』!」


「本当にそれでいいの?」


「問題ない、私の運命はすでに決定されている」


「じゃあ始めましょう。あなたが先行でいいわよ」


 どうやら対戦するゲームはダイスゲームのヨットらしい、別名はたしかヤッティーとかヨッシーとかなんかそんな感じの呼び方だった気が…。このゲームは前世で流行っていたゲームソフトの中に収録されていたのでルールも知っている。

 しかし一つ違うのは使うサイコロが6面ではなく100面という事。普通に考えてこんなのでストレートやフォーダイスなどの大役が作れるとは思えない。大富豪がやけに自信があるのはいかさまでも考えているのかそれとも…。


「それでは遠慮なく」


 そう言って大富豪はダイスを容器に入れ、数回混ぜてから振るう。振るわれたダイスはほとんど球体に近い形という事もあり卓の上をころころと転がり枠に当たって跳ね返る。

 全てのダイスが停止するとギャラリーも含めた全員で出目を確認する。

 第一投で出た目は4が5つ、つまりヨットにおける最高点の役『ヨット』。最初の一投、しか100面ダイスでいきなりヨットを出した大富豪にギャラリーのボルテージも爆上がりする。

 イカサマはしていない。ダイスを握る時、容器に入れるとき、ダイスを混ぜる時、ダイスをふるう時、ダイスを振ってから停止して出目を確認する時、いかなる場面も投影魔法によって上空に映し出されはっきりと見えていた。イカサマをするスキなんてどこにもない。

 他のギャラリーたちも不正を疑うものは誰一人としておらず、むしろ「いいぞっ」「そう来なくっちゃ」「面白くなってきた」などもっとやれと言った雰囲気だ。


「おや、これは幸先がいいですねぇ~」


「………」


 ――あの絶対的な自信、イカサマじゃないとすれば能力の類か?


「しかし出目が不吉ですね、これは振り直しましょうか」


「………」


 アストが出目の結果を大富豪の能力が関係していると確信した時、大富豪はなんとやる必要のないふり直しをしたのだ。

 せっかく出たヨットを取り消すことになるが、もし能力で狙った目を出せるのだとすればこの行動にも納得がいく。

 もちろんふり直しを止める者がこの場にいるはずもなく、大富豪はふり直しを宣言してダイスを容器に入れると混ぜずに雑に振るう。

 転がったダイスは同じように卓の端や他のダイスと反発しほどなくして停止する。

 出た目は100のヨット。普通なら100面ダイスで二連続ヨットはイカサマを疑うが、ダイスの目を操作できる系統の能力なら当然の結果だろう。


「おやまたヨットですか、出目もキリが良くていいですね。うーん、しかしせっかくあと一回振れますしもう一度振っておきまs――、」


「どうせ次もヨットでしょ、イライラするから早く手番渡してくれないかしら」


 またしてもふり直しをしようとする大富豪に黙ってみていただけだった幼女が不機嫌そうに威圧する。小さく呟くように喋っているのにこの騒がしいカジノの中でもしっかりと聞き取れる不思議とよく通る声。


「…………釣りか。しかし残念でしたね、運命を操れる私にあなたの能力は無意味、私は三投目を振らせてもらうよ。それに役が出たら手番を渡さなければいけないというルールは無い、お嬢ちゃんに止める権利は無い」


 幼女は「あっそ」とだけ呟き自分の目の前に転がっているダイスを人差し指ではじき大富豪の元へと転がす。

 ダイスを回収し容器に入れた大富豪は今までと同様に余裕の笑みでダイスを混ぜる。そして三投目を振るう直前でハッと目を見開き時が止まったかのように停止する。


「どうしたの?早く振ってよ」


 何が起こっているのか全然分からないアスト、一つ言えることはついさっきまで椅子にふんぞり返って余裕しゃくしゃくだった大富豪の顔が、今は余裕のかけらもない恐怖と驚きに満ち、冷や汗を流した青ざめた顔になって震えているという事。


「早くしてくれない?ゲームが進まない」


「…嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」


「ねぇ早くしてよ」


「ありえない……私が選んだ運命は絶対のはず」


「止まってないでさ、早くしてくれない?」


「………こんな運命になるはずがない……絶対に私の勝利する運命はあるはずなんだ」


 淡々と喋る幼女に大富豪は一切耳を貸さず一人で震えながらぶつぶつと独り言をつぶやくばかりでダイスを振ろうとはしない。


「振らないなら私の番ね」


 一向にダイスを振ろうとしない大富豪にしびれを切らした幼女は護衛の一人に容器を奪わせると混ぜることなくすぐさま振るう。

 幼女が出した出目は1のヨット。幼女も大富豪と同様いとも簡単に、まるでヨットが出るのが必然化の様に超低確率を引き当てる。この幼女も大富豪と同じか似たような能力を持っているのだろうか?


「はい、次はあなたの番。早く振って」


 幼女がそう言うと容器を奪った時と同じ護衛がダイスを回収し容器に入れて大富豪の目の前に置く。

 しかし大富豪は未だに震えて独り言をつぶやくばかりでダイスを振るどころか持とうともしない。頭を抱え目を見開き発狂寸前の顔は誰がどう見ても精神が崩壊している。これはとてもゲームを続けられる状態ではない。


「うぅ…ぁ……いっ、いったい、いつ……」


「あなたにダイスを転がした時。あのまま手番を渡しておけば引き分けで終われたのに」


「グギギ…全て計算済みだったとでも?」


「あなたの能力は確かにギャンブル向きだけど私を倒すには全然練度が足りない。今の自分に満足して傲慢と怠惰に溺れた結果ね、負けて当然」


「……なら……なら貴様はどうなんだ!唯一無二の力を手に入れ、努力も鍛錬もせずにただただ能力に身を任せ、運命ですらあらがえない絶対的な勝利しかしてこなかった貴様とこの私に何の違いがあるというのだ!!!」


 冷たい視線を向け煽るような幼女のダメ出しに大富豪は納得がいかないようで、逆ギレして自分と何一つ変わらないのになぜこんなにも差があるのかと憎悪を剥き出しにする。


「話は終わり、ゲームを続けましょう」


 幼女は大富豪の問いには答えずゲーム続行を求める。しかし対戦相手の大富豪はギリギリと歯ぎしりを立て、数秒おきに暴言を吐き捨てながら台パンを繰り返すだけでダイスを振る気配は全くない。

 恐らく運命を操作する系の能力で何度も勝利の未来を掴もうとしているがことごとく失敗に終わっているのだろう。この調子ではおそらく大富豪が自分の勝ちを確信するまでゲームは再開されないだろう。


「振らないなら試合放棄ってことでいい?」


「いやっ、まっ、待てくれ頼む、それだけはやめてくれ」


 しびれを切らした幼女が大富豪を試合放棄とみなし強引にゲームを終わらせようとすると大富豪は急に顔色を変え人が変わったかのように慌てふためく。


「頼む、この勝負無効にしてくれないか?」


 仕舞いには大富豪が幼女の前に土下座し情けない声を挙げながらゲームの無効を頼み込む。

 その様子にギャラリー側からは「知ってた」「期待外れ」「つまらないゲームするなら最初から申し込むな」「最後までやらないならさっさと死ね」などと容赦のない失望の声が飛び交う。


「それは多分できない」


「いや、聞いてくれ。ゲームは始まったばかりで現時点では点数も同じ。そして勝負はまだついていない、これなら取り消しても問題なはずだ。だから今回の勝負は無かったことに――、」


「それは困りますね」


 幼女に縋りつきながら許しを請う大富豪の言葉を遮りながら白いスーツを着たマフィアのボスみたいな長身の男が一人、結界をすり抜けて現れる。


「ご主人様」


 ――ご主人様だと?なんてうらやま…じゃなかった、羨ましい!!!


 あんな可愛い子にご主人様と呼ばせているボスに嫉妬心を抱くアストに対して、大富豪は今度はそのボスの方に向かって土下座し必死に許しを請う。


「コレとの勝負のルール、まさか忘れたわけではないでしょう」


「あっ、いや…その……」


「この子とのゲームが始まった以上、いかなる事情があろうと勝敗が決着するまでゲームを続けること。そしてもし勝負に敗北し損失分を払えなかった場合、足りない分は自分の体で支払う」


 大富豪をまるで虫を見るかのように見下ろし淡々と話すボスに大富豪の顔がさらに真っ青になり震えが加速する。


「ですが今回の損失分は、あなたの臓器や体のパーツすべてを合わせてもまだまだ全然足りていない。なので残りはあなたの親族からもらいます。親族でも足りない時は友人や関係者から……全額払うまで誰一人として逃しはしません。この事はあなたから事前にお伝えしてもらえると助かります」


「そこを何とか、お願いだ。金はちゃんと用意する、だから命だけは――、」


「うるさいですね」


 大富豪の必死な訴えにボスは全く耳を貸すことなくそれどころか縋りつく大富豪を蹴り飛ばし、吹き飛んだ大富豪に右手を伸ばすと魔法を発動させ即死させてしまう。


「富も名声も失ったあなたに返済できるはずがないでしょう。さっさと死になさい」


 ここでは勝者が絶対、敗北者に生きる未来はなく助けてくれる味方は一人もいない。仲間や用心棒にすら見捨てられ孤独に死んでいく。

 ボスはスタッフに大富豪の遺体を雑に回収させ、何事もなかったかのように今日の余興を終えようとしていた。

 ここに集まっているギャラリーも大富豪には憎悪と罵声、ボスには尊敬と歓声。あの大富豪がどんな奴だったのかは知らないが、何も知らないアストの目には弱者いじめをするグループのリーダーとそのリーダーに逆らえない弱者の集団にしか見えなかった。


 ――ここにいるヤツら全員狂ってやがる


「先程は神聖な勝負に無能な猿を招き入れてしまい、皆様の気分を害してしまいましたこと誠に申し訳ありません。しかし、もうこのカジノにあのような底辺のクズはいないことと思いますので、明日のゲームからはいつも通り皆様存分に楽しんでいただけるかと思います。それでは、また明日この時間にこの場所でお会いしましょう」


「…ご主人様…今日はもう1ゲーム、あの人とやりたい」


 そう言って幼女が指名したのはアスト。なぜこの場にいる自分よりかも圧倒的経験値とステータスを持った凄腕ギャンブラーたちの中でアマチュアどころか初心者も同然の自分が指名されたのかアストにはよく分からなかった。が、幼女は確かにアストを指さしていた。


「お前が自分から指名するなんて珍しい事もあるものだな。いいだろう、超貴重なお前からのお願いだ。おいそこの少年こっちへ来い」


 ボスに呼ばれたアストが本当に俺か?と念のため自分を指さすと幼女がコクン頷く。


「あっ、でも結界が…」


 そう言って結界に手を触れ中に入ろうにも結界に遮られててしまう事を伝えるアスト。


「あぁすまない」


 状況を理解したボスがパチンと指を鳴らすと結界に手を触れ寄りかかっていたアストの体だけが通過し前に倒れ込むように中に入っていく。

 アストが結界の中に入ると幼女直々のご指名だったという事もありギャラリーたちのボルテージが一気に上昇する。


「初めまして少年。いろいろ聞きたいことはあるだろうがまずは挨拶から、私はカイ・ルーファ・サマ。見ての通りとある組織のボスをやっている」


「俺はアスト、一応冒険者をやっている」


「アスト君か、一応こっちも紹介しておこう。コレが今の私の右腕、名前が無いから私たちはそれぞれ適当に呼んでるよ」


 初対面だが、自分の性癖ドストライクの幼女をまるで物の様に言われカイに苛立ちを覚えるめんどくさいオタクアスト。


「右腕なら名前くらい付けてやったらどうだ?」


 基本的に他人にはさほど興味を示さないアストだが性癖が関わってくると話は別。悪く言われたりすると感情的になりやすいアストはそのイライラが無意識に口調に出てしまう。


「呼び方に関してはコレも賛同している、お互いの同意の上なら何の問題もないはずだ」


 アストのトゲのある言い方にカイも一瞬気分を害しそうになるが、自分には一切の非が無いという気持ちの余裕と何を言われようと勝負になればねじ伏せられるという絶対的な自信によりアストの無礼を水に流す。

 そんなカイの言い分に反論する言葉が見つからずアストは言葉に詰まる。

 人を人と思っていないようなクズの事だ、幼女を脅すなりして無理やり今の環境にならざる負えないようにした可能性もありえるが、結局憶測、妄想の域を出ない以上決定的な一打は与えられない。


「私は大丈夫,キミがあれこれ考える必要はない」


 全くイライラが収まる気がしないアストに幼女も答えるが言葉に感情は無くその目は虚空を見つめている、誰がどう見ても大丈夫とは思えない。


「本人もこう言っているしこの件はこれで終わり、話を続けよう。単刀直入に言うと今からアスト君にはコレと勝負してもらいたい」


 100面ダイスで当たり前の様にヨットを出すチートとギャンブルで勝負しろというのだ。当然だが無理ゲーを通り越して積みゲー、運命操作のチート能力者に勝てる実力がありながらなんでわざわざギャンブル初心者ではした金しか持っていないアストに勝負をお願いしているのか全くの謎。幼女の考えていることがストには分からなかった。


「とはいえこれは強制じゃない、今回の勝負はさっきの猿の様にあらかじめお互いの同意で決められたものじゃなくコレの気まぐれだ、勝負を受けるも受けないもキミの自由」


 チーターとの勝負に焦っていたアストだが、どうやら勝負を受けるかどうかは強制ではなく任意らしく、ひとまず逃げ道が確保できたことにより少し落ち着きを取り戻す。


「可能性はほぼゼロだと思うが、万が一コレと勝負を受ける場合特別ルールがいくつか会うから説明しておこう」


 ≪金髪幼女対戦用特別ルール≫

 ・掛け金はお互いの全財産。

 ・勝負に負けて損害分支払えない分は臓器を売るなり他人から借りるなりどんな手を使ってもきっちり用意してもらう。

 ・ゲームの途中棄権はできない。

 ・対戦するゲームの種類は挑戦者側が決められる。

 ・希望するなら挑戦者がディーラーをしてもよい。

 ・それぞれのゲームはこのカジノ内のルールによって進行される。

 ・待ったや一度決定した結果の変更はできない。


 そう言って説明されたルールはこちらがゲームの内容を決められたりディーラーが出来たりと超有利なハンデに聞こえるが、裏を返せばここまでやっても勝てるという幼女の能力の強さを示す暗示でもある。しかも一度負ければ全財産が飛ぶどころか足りない分を体で支払わないといけない、あの大富豪でされ自分の体だけでは清算しきれていなかったため次のゲームによる挽回が出来ない本当にすべてをかけた一発勝負になっている。


 ――運命操作の能力でもこの幼女には勝てなかった、そんなのどう考えたって俺が勝てるはずがない


 本当はなろう主人公の様にご都合展開で救ってあげたいがそれを現実にするだけの力が自分にない事にアストは無力感を抱く。別に負けて死ぬのが怖いんじゃない、むしろ2000回以上の死を繰り返したことで完全に死への恐怖はマヒしており自分が死ぬことに対してはにはもう何も怖くなくなっていた。

 最も重要なのは勝負に勝ってあの幼女を開放してあげること。負けることへの恐怖は一切無い、しかしこの勝負に勝てる未来が見えないことに最後の勇気が出ない。


 ――駄目だ…あと一つ、あと一言、あと一歩…勇気が足りない


「……○○○○」


 立ち止まり足がすくむアストに幼女がそっと語り掛ける。声には出さなかった、しかし確かに伝わった。そして貰った、これ以上ない一歩どころか無限に前に進めるだけの勇気を。


「よしっ、やろうか!!!」


「一度承認されればいかなる理由があろうと途中棄権はできなくなる。だからもう一度確認しておこう。本当に勝負を受けるか?」


「あぁ、逃げたりしねーで最後まで勝負してやるよ」


 完全に吹っ切れたアストは幼女に勝負を申し込み椅子に深々と腰掛け足を組む。

 初心者が敗北者の末路を目にしたにもかかわらず勝負を挑むという前代未聞の展開による期待と幼女のゲームが1日に2回も見られるという優越感により他でゲームをしていた者たちまでもがその勝負を見ようと押し寄せカジノ内は稀に見るお祭り騒ぎになっていた。


 ――……なんて言ったはいいものの、どうすっかなぁ


 勢いで突っ走ってしまったが別に幼女に勝つ算段があるわけではない、自分の能力がギャンブル向きなのかも分からないしハッキリ言って状況はかなり最悪。

 そうやってアストが頭を悩ませている一方、幼女とアストが向かい合う卓の隅で部下の一人がカイにそっと耳打ちする。


「ボス、どうやら奴はギルドユグドラシアの団長に認められるほどの器を持っているようで」


「…アイツか……なら少しは期待できるな。それに、そう言うことならアレが珍しくやる気なのも納得がいく」


 本当は何の勝算もないギャンブル素人のアストの株がみるみる上がっていく。

 そんなアストは自分が変に期待されていいるとも知らずにただただ幼女のチート能力にどんなゲームでどう対抗するかをかんがえていた。


「それではそろそろゲームを始めましょう。アスト君、勝負するゲームは決まりましたか?」


「…………よし決めた、勝負するゲームはブラックジャックだ」


 アストは少しでも勝率を上げるため自分が知る中で一番得意だったカジノゲームを選ぶ。勝負するゲームが決まると卓の中央にトランプが一束ワープしてくる。


「ブラックジャックですか。ではこのカジノでのブラックジャックのルールを説明します」


 そう言われ説明されたブラックジャックのルールは基本的にアストの知るものと同じだった。

 ただひとつ違ったことは『ベット額は格プレイヤーの所持金をすべて足した金額を共有して全額ベットする』ということくらい。つまり一度でも負けてしまえば莫大な借金を背負わされることになる。


「ルールは問題ないかな?」


「どうせルールを聞いたら気が変わったから棄権したいって言っても無駄なんだろ」


「よくご理解されているようで」


 カイの不敵な笑みにもう後戻りはできないと再度気を引き締めるアスト。


「一応、普通のトランプであることを確認してもらいましょう」


 そう言われアストは一枚一枚を裏表ともに細工がされていないか入念に確認していく。すべてのカードのチェックが終わると再び束にまとめ良く切って準備完了。


「それでは皆様大変長らくお待たせいたしました。これより挑戦者アストによるブラックジャック……ゲーム開始です」


 カイの合図とともにゲームが始まり、まず最初に特別ルールにより幼女とアストはお互い所持金を全額ベットする。アストは入場料としてもらった1000ゴールド分のチップ。一方幼女は一枚1万ゴールド分のチップを座席の横に自分の頭の高さに到達するほど高く山のように積み上げている。おそらくさっきの大富豪から勝ち取った分も含まれているのだろうが、正直言って合計でいくらあるのか数えるのすら面倒臭くなるほどの想像を絶する大金。日本なら経済が暴落しているだろう。


「じゃあ、始めるぜ」


「…………」


 アストが再びトランプをシャッフルし幼女に2枚、自分に2枚イカサマなしで配り1回戦が幕を開ける。

そして見間違いかもしれないがゲームが始まると同時に幼女の顔が少し微笑んだような気がした。


はじめましての方は初めまして、ご存じの方はおひさです。IZです。


大変お待たせいたしました。

【チートしかいないカオスな異世界でもチーレムしたい!!!】更新です。


ようやく引っ越しが終わったので少しは更新速度が戻ると思います。多分、おそらく、きっと、十中八九。


この作品は本家【チートしかいないカオスな異世界でも平和に暮らしたい。】のオリジナルキャラver.となっています。


本家の方はpixiv小説にて連載中ですので更新を待っている間にでも読みに行っていただけると嬉しいです。


https://www.pixiv.net/users/58648155/novels


それでは今回も登場キャラクターのプロフィール書いていきます。


今回紹介するのは上記の【チカ異世】でも登場する異世界最強ギルドの団長

冒険者リヒトです。


≪名前≫

リヒト・ロール


≪通称≫

リヒト


≪種族≫

人間


≪性別≫

男性


≪年齢≫

318歳


≪容姿≫

サンタのような白い髪と長い髭を持ち、318歳とは思えない筋肉をその身に装備している。

基本的に最小限の面積しか服は身に着けない。


≪性格と人柄≫

正義感に溢れ仲間のことを第一に考えて大切にする心優しい性格の持ち主。

戦場では必ず自らが最前線に立つなどとにかく頼れる存在。

気に入った相手はたとえ敵であっても仲間にスカウトするほど心が広い。

好きな言葉は「筋肉」と「(物理)」


≪所属ギルド≫

ユグドラシア


≪性癖≫

ゲイ(美しい筋肉の持ち主が好み)

筋肉フェチ


≪能力≫

不明


≪弱点≫

不明


≪戦闘≫

主に魔法を使って戦う。




それでは次回の【チートしかいないカオスな異世界でもチーレムしたい!!!】の後書きでお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ