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冒険の始まり

最近引っ越しすることになったので更新まで日が開きます。

という事でその間の読み物として『チカ異世』本家のURL貼っておきます。


チートしかいないカオスな異世界でも平和に暮らしたい。


https://www.pixiv.net/novel/series/1383788

 親の顔よりも見たこの空間。

 最初赤子で死んだ時は浮いていた体だったが年齢を十代後半にして自分で立てるようになってからは浮くことはなくなった。

 今回も完膚なきまでにモンスターにボコられ死んでしまったアストは転生の間に戻って来ていた。


『転生2060回目、10日と3時間6分55秒、おめでとう異世界ライフ最長記録を3分11秒も更新したよ』


 転生神イリスがベッドに寝転がりながら気だるそうに記録を伝えると転生の間そのものが()()()()()()の魔法陣となり発動する。

 これは転生の回数が三桁に入った頃に1日も経たずに即死してくるアストに対しいちいち魔法を発動させるのが面倒くさいと不満を爆発させたイリス様が不眠不休で開発し始め、アストの転生回数が四桁の大台に突入したところでようやく完成した魔法だ。

 簡単に仕組みを説明すると指定した生命(この場合アスト)が死んでこの転生の間に来ると自動で発動し同じ世界に転生させるといったものだ。ちなみに転生時の年齢を18歳に設定すれば変更しない限り18歳まで成長した状態で転生することができる。


「行ってきま~す」


『アスト早くしてくれないとキミの人生(ストーリー)が始まらないんだけど』


「俺に言われても困るんですが…」


 回数を重ねるごとに即死という展開はほとんど無くなったがそれでも異世界ライフは長くて一週間と数日が現状の限界だった。

 転生しすぎてチート能力の発動と制御もほぼ自在にできるようになってきたが、なぜかそれでも敵モンスターにあっさり負けてしまう。もちろん出会うモンスター全てに負けているわけではないが、運の悪さが影響しているのか超高確率で相性最悪、超絶不利の能力を持ったモンスターと遭遇して殺されてしまう。これだけ死んでいれば死に様も同じような結末を迎えることもそれなりにあった。

 そして人生リセマラ2061回目魔法が発動しアストの意識が途絶える。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 目を覚ますとアストは一本の大樹にもたれかかっていた。

 そこは森の中、青々と生い茂った草木が吹き抜ける風に揺れ木々の隙間からは暖かい日差しが差し込み幻想的な景色を生み出す。

 とても穏やかで心安らぐこの場所は起きたばかりのアストを心地よい眠りに誘ってくる。


「あぁ……だりぃ~…」


 本当はこのまま眠ってしまいたいが、これまでの経験から目が覚めたらすぐに周囲の安全確認をするということを学んだアストはやたら重たく感じる瞼を無理やり開け周囲を確認する。

 寝起きでぼやけた視界で辺りを見渡し空も確認、地中…はさすがに分からないのでスルー。周囲にモンスターや危険人物はおらず空にも怪鳥などの危険はない……はず。

 アストが2000回とちょっとの転生で最初に学んだことは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 眠いから、だるいからという理由でダラダラ油断していると寝ている間に殺されたり周囲や空からの敵の攻撃に反応できずに即死ということが幾度もあった。だから今も目をこすってあくびをしている場合では無い、一刻も早く身の安全を確保しなければならないのだ。


 ――ぷにっ


 とりあえずこんな開けた広場でいつまでも座っているわけにはいかないので、せめて茂みに身を隠すため立ち上がろうと右手を動かした時、手の甲がなにかに触れる。

 それはとても柔らかく弾力があるがグミでもゴムボールでもない、何物にも例えられない感触だった。

 違和感に驚きつつその()()()の方に目を移すとそこには青く半透明な丸い物体が一つあった。と、ここでようやく脳が完全に目覚め視野が広まる。

 改めて自分の周りを見渡すと驚くことに右手に触れたナニカと同じ青く丸い物体がアストを囲むように居座っていた。

 ついさっきあたりを見渡した時、既に視界には入っていたのだが、目の前がぼやけていたうえにこのナニカ自体ピクリとも動かないのでてっきり青い魔鉱石かなにかかと思っていたのだがまさかぷにぷにした物体だったとは。

 正体は分からないがアストは直感的にコレが生き物であることと自分に危害を加えないタイプの生物という事を感じ取る。

 明確な根拠があるわけでもないし自分でも何故そう思ったのか良く分からないが、直感的にこの生き物は今まで自分を殺してきたモンスターとは違う、安全な生き物だと思った。

 それでも安全なのは今のところこの生き物だけ、いつどこからバケモノが襲ってくるか分からない。アストはすぐさま立ち上がりその生き物たちを起こさないようにそっと間を縫ってその場から離れると広場から不自然に伸びた唯一の一本道…の横に生えた雑草に身を低くして隠れるようにして出口へと進んで行く。


 異世界に来てアストが今やるべきことは主に2つ。

 ひとつは身の安全の確保。今までの経験から一人で隠れ続けるよりもギルドなどの組織に入り誰かに助けてもらえる環境にいた方が生存率は高いのでギルドとまではいかなくてもどこかの冒険者パーティに入れればそれだけで気持ちに余裕ができる。

 もうひとつは情報収集。2000回以上同じ世界に転生したがこの場所には初めて来る。無一文でなおかつ持ち物無しのこの状況でできることは情報収集くらい。この森を抜けた先に町でもあれば大吉なのだが、果たしてどうだろうか。

 どちらにしろ森は抜けないといけないので一本道に沿ってひたすら進んでいく。


 何とか森の出口までたどり着き、辺りにモンスターの気配がないのを確認してから立ち上がる。

 一本道の先にあったのは地平線の先まで広がる草原、優しく吹き抜けるそよ風が草の擦れ合う音と匂いを運んでくる。

 ここまで見晴らしがいいと離れていてもモンスターに見つかってしまうかもしれないか、その分こちらもいち早く気づくことが出来るのでリスクは実質プラマイゼロだろう。

 引き続き周囲を警戒しながらまだまだ続く1本道を歩いていく。


 10分ほど歩いただろうか、左斜め前方に山のように大きな影を発見する。まだ遠すぎてそれが何かは分からないが少し気にしながら遠距離からの攻撃も警戒しつつさらに歩いていく。

 さらに10分後、道を進むにつれその影は次第に大きくなり、それと同時に周辺にも複数の影が浮び上がる。

 この頃になると周囲の警戒は薄れ徐々にその影の大群の方に意識が持っていかれる。


 森を出て30分くらい歩いたところでようやく一番大きな影の正体が判明する。

 影の正体は超巨大草食恐竜のようなフォルムをしたモンスター。胴体から伸びた頭がアストの目の前数十メートルほど先に転がっている。

 正体がモンスターと判明するとすぐさま歩みを止めてその超巨大モンスターが動き出さないか様子をうかがう。しかし待てど暮らせどそのモンスターは微動だにしない。

 寝てるのだろうか?しかし寝ているなら寝息とかで微かにでも体は動くはず。しかし目の前のモンスターの体は1ミリたりとも動いていない、そういう生態のモンスター?

 このモンスターからはさっきの青い生物の様な安心感を感じないので恐らく横を通り過ぎるタイミングで起きられると死亡確定。死んでいるのか生きているのかそれを確認しないからには迂闊に進むことは出来ない。


 ――チート能力で攻撃して万が一倒せなくても詰みだからな…ここは


 アストはそう思うと足元に転がっている石をモンスターの頭めがけて投擲する。

 これだけ頭が大きければ外す方が逆に難しいだろう。投げた石は必然的にモンスターの頭部に命中しカチンと金属のような高い音を立てて弾き返される。


 ――音、おかしくね?


 それからも何発か投倜してみるもすべて反応なし。まぁよくよく考えればあの体のサイズに石をぶつけたところで反応が無いのも当たり前だろう。人間で例えるなら砂一粒を投げられた程度のダメージだろうしまだまだ気は抜けない。アストは超巨大モンスターから十分に距離を置くように迂回して先を急ぐ。


 さらに数分足を進めると徐々に大気中に血の匂いが漂い始める。一応自分の体を見てみるも出血箇所は見当たらず、この血の匂いは自分以外の何物かの血であることが予想できる。

 そして血の匂いが濃くなるとともに複数の他の影の正体も判明する。


 ――うげぇっ


 正体はこちらもモンスター、今までの転生でアストが遭遇し殺されたことのあるモンスターから初めて見るモンスターまで実に数十種類のモンスターの死骸が草原のど真ん中に転がっていた。

 モンスターの死肉には他の肉食モンスターや怪鳥が群がっていて、一丁前に装備を身につけた知能のあるモンスターに至っては火をおこして焼いた肉を食している。


「……っ」


 幸いどのモンスターも死肉を漁るのに夢中でまだアストには気づいていない。もし気づかれれば一斉に襲い掛かられて即ゲームオーバー、息を止めゆっくりと足音を立てないよう極限まで集中して後ずさりする。


 しかし素人がどんなに上手に気配を消したところで野生を欺けるはずもなく、一歩後ずさっただけでそれまで死肉に夢中だったモンスター全員がいっせいにこちらに振り向く。


「あっ…」


 思わず絶望の一言を発し体がフリーズする。

 そしてその一瞬の判断ミスがアストの死を確定させる。()()()()体をフリーズさせたことによりモンスター全員がアストが自分たちに恐怖し動けない事を理解してしまい一斉に襲い掛かってくる。


「クソがっ」


 ここでようやく自分の判断ミスに気付いたアストは後ろを振り返り一目散に逃げようと試みるも既に周囲はモンスターに取り囲まれておりまさに袋の鼠状態。

 あの場で選択すべき行動は二つ、ひとつは堂々と近づき自分がこの場にいる何者よりも強者であると思わせること。モンスターとはいえ野生である以上危機管理能力は備わっているはず、なら臆せず堂々と近づいてくる相手にむやみに襲い掛かろうとはしないだろう。

 もうひとつは同じ立ち止まるにしても戦う意思を持つこと。どうやらこの世界のモンスターはチート能力の存在を認知しているようなので、立ち止まったとしてもちゃんと戦う意思を持っていれば相手の能力が不明な以上うかつには近づいてこない。


 つまりこの展開を招いたのは怖気づいて逃げ腰になったアスト自身、完全なる愚策。

 とはいってもこれは後々冷静になって考えてみればという話で、実際にあの場面でここまで冷静にいられたかと聞かれれば絶対に無理だろう。二千回以上の異世界転生による経験があってもそれに比例するトラウマが絶対に冷静な判断を鈍らせに来る。

 今更になって能力を発動させてみるも状況は変わらず今回授かった能力がこの状況を打破できるものではないことが証明されるだけに終わった。


 ――今回もダメだったか…


 チート能力でもどうにもならないならもう何をしても無駄、慣れすぎた死にアストは生きることを諦める。

 無防備に体を脱力させたアストにモンスターたちが牙を剥き出し武器を構え一斉に襲い掛かる。

 と次の瞬間、モンスター全員の動きが同時にピタリと止まったかと思うとその顔が恐怖に染まり慌てふためくように一斉にその場から逃げ出す。

 その場に残ったのは無数の死体とアストだけ、いまいち状況が呑み込めないアストは少しの間思考が停止する。


「……なぜ?」


 今回のチート能力の効果だろうか?それにしては今まで授かってきたチート能力に比べて効果が謎過ぎる。

 謎ではあるが何はともあれ、あの絶望的状況を打破できたことは最高に幸運だと思う。


 ――ぎゅるるる〜っ


 生き延びたことに安堵すると、とたんに空腹が襲ってくる。転生してから飲まず食わずで歩き続けたうえにモンスターに襲われた疲労とストレスも重なれば腹が減るのも必然か。

 幸い食料は目の前にごろごろと転がっているので探す手間は省けている。早速どれから食べようか品定めをするアスト。死体の間を縫うように目移りして歩いて行くと一か所だけ死体の無い開けたスペースに出る。

 いや、死体が無いというよりかはこの場所を中心に広い円を描くようにモンスターの死体が転がっていると見た方が正しいだろうか。そのスペースには逃げ出した高知能モンスターが使っていたであろう焚火とサバイバルナイフが落ちていた。


 いろいろ気になることは多いが今は飯の時間。アストは肉が腐ってないことを確認してから落ちていたそのナイフで死体の肉をそぎ落とし、十分に火を通すと豪快に食していく。

 これは前にイリスから聞いたことだが、この世界のモンスターの肉は細胞に残った残留魔力により死後一週間くらいまでは鮮度を保つことが出来るように進化しているらしい。というのも蘇生魔法が存在するこの世界では体がすぐに腐敗してしまうと腐った肉体で生き返ってしまうので、そうなることを防ぐためにモンスターたちが独自の進化を遂げているとのこと。

 つまり道端に転がっている死体も腐敗臭がしない死後1週間以内であれば普通に食べることが出来るという事。

 そしてモンスターの肉は見た目に反し大抵超うまい。アストは焼肉食べ放題でもしているかのように焼きあがった肉から次々に食べていく。


「これはキミがやったのかい?」


 唐突に背後から声をかけられ驚いたアストは肉をのどに詰まらせる。どんどんと胸を叩き何とか飲み込むと後ろを振りむきサバイバルナイフを片手に臨戦態勢に入る。

 そこに立っていたのはゲームで勇者が身につけるような最強装備のような鎧を身に着けたガチムチのおじさんと、そんなおじさんを先頭に同じように超高レアそうな重装備を整えた数名で構成された集団。いわゆる冒険者パーティーというものだろう。

 美味しすぎる肉に多少警戒が緩んでいたとはいえ全く気を抜いていたわけではない、しかも背後は最も警戒していたはず、なのに気づかなかった。

 ひとまずモンスターでない事に大きな安堵の息を吐く。


「すまない、驚かせるつもりはなかったんだ許してくれ」


 予想以上に驚いた反応を見せたアストにガチムチおじさんが謝罪する。


「えっと……どちら様で?」


「私はリヒト・ルーロ。ギルド『ユグドラシア』の団長をしている」


「ギルド『ユグドラシア』!?」


 この世界でその名を知らない人はいないと断言してもいいほどのビッグネーム過ぎるギルドの名前に思わずオウム返ししてしまうアスト。

 ギルド『ユグドラシア』。この世界に来て何度も何度も耳に胼胝ができるくらいその名前は耳にした。


 人呼んで()()()()()()()()


 言葉の通り今この世界に存在しているギルドの中で圧倒的戦力と規模でトップの座にいるのがこの『ユグドラシア』、実績も他のギルドとは一線を画している。

 さっきアストを襲ってきたモンスターが血相を変えて逃げだしたのもこれで納得がいく、チート能力でもなんでもない、モンスター達はこの開けた草原で姿も見えない超遠距離にいたこの人たちの気配を察知したのだろう。

 そんなギルドのしかも団長がなぜこんなところにいるのだろうか?ひとつ謎が解けるたびに数個謎が増える。


「あの、えっと……ユグドラシアの団長ともあろうお方がなぜこんなところに」


「モンスターの調査でね、この辺りは良く来るんだよ。それでとてつもない量のモンスターの死体を感知したから見に来てみたらキミがいたってこと」


 最強のギルドの団長自らが調査しなければならないほどのモンスターとはいったいどんな奴だろうとさらなる謎に少し興味が沸くアスト。


「それで、これはキミがやったのかい?」


「いいえ、俺が来た時には既にこのありさまでした」


「そうか……分かった、食事中すまなかったな」


 団長は少し考えこんでからアストの言葉を信じる。

 そもそもモンスターの大量死体なんてものはこの世界ではそう珍しいものではない。冒険者がモンスターの命の源である(コア)だけ取り出して肉体を放置したり、モンスター同士での縄張り争いなどこういう地獄絵図を生み出す要因は沢山ある。


 気になることがあるとすればどのモンスターも核が取られておらず、アストや他のモンスターが食べていた箇所にしか外傷が見当たらなかったという事。

 核は売ればお金になるしいろんな魔道具の燃料として必須の素材なので沢山持っていて損は無い。

 アストが1996回目の転生で出会ったモンスターを弄んで殺すことだけしか考えていないような快楽殺魔獣の冒険者ですら新しい武器や拷問器具のために核を回収していたというのに。超レアモンスターもちらほらいる中、冒険者がモンスターの命だけを奪って核を放置するなんてことは絶対とは言えないが無いに等しい。

 モンスター同士の殺し合いならそれこそもっと全身を負傷していたり、首や四肢がもがれて内臓がブチまけられているなど、今のこの地獄絵図よりも数十、数百倍はグロテスクになっていてもおかしくない。


 「うーん…?」


 殺すのに段階や条件が必要なモンスターがそれらを無視して死んでいるのもよくよく考えるとおかしい。

 何より不思議なのはモンスターの体内に無傷の核が残っているということと、核は無傷だが魔力が宿っていないただの丸い玉と化していたということ。

 モンスターの核は半永久機関なので砕かれない限り魔力を生み出し続ける。なので極論肉体が消滅しても核さえ生き残っていれば自分の肉体を蘇生することだって出来る。

 だからモンスターを完全に倒す方法は基本的に核を壊すか抜き取るかの2択。呪いですら最終的な効果は核や心臓を内側から破裂させるというものなので核が無傷で残っているのに死んでいるというのはとても不自然。

 このモンスター達を倒したやつの仕業だろうがどうやったのかは検討もつかない。

 焼きあがった肉を頬張りながら冷静になって考えてみるが、考察すればするほどこの状況が不自然に思えてくる。団長が少し考えこんだのもおそらく同じ考えに辿り着いていたからだろう。


「よしお前らこっちは後だ、調査に戻るぞ。……そうだキミ、キミはどこかのギルドに所属してたりするか?」


 団長が死体の山を見て回っていた他の団員を集め本来の調査に戻るためこの場を立ち去ろうとした時、突如思い出したかのようにアストが既にギルドに所属しているのかどうかを聞いてくる。


「いえ、フリーですけど」


「なら、うちのギルドに入る気は無いか?」


 アストが正直にどのギルドにも属していないことを伝えると、団長は急に眼の色を変えてやや興奮気味にアストを自分のギルドへと勧誘してくる。

 何をどうしたらつい数分前に会ったばかりの赤の他人を自分のギルドへ入れようなんて思えるのかは分からないが、相手は世界最強ギルドの団長。この短時間でアストからギルドに入れるに値する()()()を見出したという事だろう、そうに違いない、そう言うことにしておこう。


「いや、遠慮しときます」


 しかしアストは団長の誘いを考える素振りも見せずに秒で断る。

 世界最強のギルドからのスカウトなんて冒険者としては名誉あるお誘い、最強への挑戦のスタートラインにして自分の名を全世界に轟かすことが出来る絶好のチャンスでもある。それをアストは断ったのだ。


「そうか、それは残念」


「…………あれ?」


 この時なぜ断ったのかアスト自身も良く分かっていなかった。自分の発言に疑問を抱きつつ何故そう決断したのかを冷静に考え始める。

 そして辿り着いた答えは「なんとなく、直感で、ふとそう思った」というなんの根拠もないものばかり。

 しかし根拠はないが()()はあった。

 今回は何故かいけると思った。わざわざパーティやギルドを隠れ蓑にしなくても今回こそはこの世界を生きていける、そう直感的に確信してしまった。これが能力の仕業なのかはたまた何者かによる精神操作なのかは分からない、しかし今のアストには未来が見えているような…いや、運命を操ることが出来るような…そんな絶対的確かな自信が満ち溢れていた。

 自力で生きていけるならわざわざ他人の組織に入る必要はない。そもそもこの男、アストの目的は異世界で自分だけのハーレムを作ること。つまり主人公はアスト自身、主人公なら組織は入るのではなく自分で作れよって話だ。

 誘いを断ったことはこうして考えたあとでも後悔はしていない、むしろいつも通りの返答をしてこの好機を逃さなくてよかったと思う。


「まぁ生き方なんて人それぞれだ、最強のギルドに入ったからと言って最高の人生が送れるとは限らない、自分らしく自由に生きろ少年、それがこの世界で楽しく生きるための唯一の方法だ。あと一応これを渡しておこう。気が変わったらいつでも来るといい、私は歓迎するよ」


 そう言うと団長は自分のバックパックから手のひらサイズの黒い立方体の箱のようなものを取り出しアストに手渡す。真っ黒過ぎて素材に何を使っているのかは分からないが結構重量のある箱だ。


「……これは?」


「私の優秀な部下が作った小型化の転移魔道具、転移魔法が無くても発動させれば『ユグドラシア』の本部まで飛ばしてくれる優れものだ」


「ありがとうございます、貰っておきます」


 団長たちが調査に戻るとアストは残った肉を平らげ、十分に腹が膨れると資金確保のためモンスターからレア装備と素材として爪や羽を回収する。

 本来は最も価値の高い(コア)の方を優先して回収するのだが、どの核も魔力が宿っていない抜け殻なのでお金にはならない。

 なのでとりあえずお金になりそうなレアな装備と素材を持ち運べるだけ回収し、残りはアイテム袋を買ってから回収に来ることにした。


「……あっ」


 装備素材を回収し終え換金のため町に行こうとしたところでアストは団長から近くに町が無いか聞くのを忘れていたことを思い出す。

 色々情報量が多かったとはいえ完全に当初の目的を忘れていた自分の事を馬鹿だな思いつつ引き続き一本道に沿って歩いて行く。


 二時間ほど歩いただろうか、道の先にうっすらと人工物らしき壁と門が姿を現しアストはようやく密集地に辿り着く。

 時刻は太陽の傾きから察するに夕方ちょっと前くらいだろうか?町に入るのに特にこれといった検査は無く、歓迎されるようにあっさりと門をくぐったアストは早速道行く人たちに武器屋とアイテム屋がある場所を聞いてまずは武器屋に来る。


 「やっぱこういう店はテンション上がるなぁ」


 伝説の武器から近代兵器まで多種多様な武器が満載の店内に男心がくすぐられるアスト。目移りしたい気分を何とか押えカウンターでレア装備を売る。

 その世界では装備品は1番価値が付きにくいのだが非売品のレア装備という事もあり、たった数点でも1万ゴールド(日本円にして1万円)とそれなりの値段になった。

 次はアイテム屋。爪や羽、目玉などの小物しか持ち運べなかったがレアモンスターの素材ということもあり全部で9万ゴールド、装備の分と合わせて計10万ゴールドとまとまった資金を得る。


 その後軍資金を得たアストはアイテム屋でリュック型のバックパックや回復ポーション、ランプや地図など冒険者としての道具が最低限揃っている冒険スターターセット、武器屋で近距離用に剣を一本と遠距離用に銃を一丁購入する。

 これだけ揃えても費用は一万ちょっとしか掛かっておらず懐にはまだ余裕がある。

 ここまで出費が抑えられている理由としては購入したものがすべて駆け出し冒険者用のいわゆる低レアのものばかりだから。別に節約とかケチっているわけではなく、単に今高レアの装備やアイテムを持っていても意味が無い、宝の持ち腐れになるのが分かっているからである。


 例えば武器、剣は火属性のレーヴァテインで、銃は弾丸の代わりに魔弾を発射し自動追尾機能まで付いているハンドガンだがどちらもこの世界でのレアリティは最低で値段はたったの100ゴールド。

 もちろん高レアで値段が高い武器ほど強いのだが闇雲に強い武器を賞美すればいいというわけではない。武器を装備するにはそれを扱えるだけの器を持っていないと逆に力に飲まれ暴走したりそもそも体が衝撃に耐えられずに自滅してしまう。

 回復アイテムも上級アイテムになるほど使用場面が限られた特殊なものばかりになり値段も一気に跳ね上がるので『ユグドラシア』レベルのギルドでもない限り基本回復アイテムは低から中レアで十分間に合う。

 一応体力回復のポーションは質が上がるほど回復量や治癒の効能が上がるのだが、一番安いポーションでも今のアストの体力なら余裕で全回復できるし、切られた腕をくっつけるくらいはできるのでわざわざ高い方を買う必要は無いのだ。


 ようは強さや効果だけを見て考え無しに購入するのではなく、現状の自分のレベルに合った適切な買い物をしようという事。


「何度見てもカオスなインフレ世界だな」


 二千回以上もこの世界を経験していてもいまだに、駆け出し冒険者がいきなりレーヴァテインなどの神話レベルの武器が百均感覚で購入できて使えたり、最低レアですら千切れた腕をくっつけるほどの効果がある回復アイテムがあるこの世界は頭がおかしいと思うアスト。


 必要なものを手に入れたアストは後回しにした核の回収のため町を出て先ほどのモンスターの死体の山まで戻ってくる。

 死体にはまた死肉を漁るモンスターが群がっておりアストに気づくや否や食い損ねたエサが戻ってきたと言わんばかりにすぐさま取り囲んでくる。


 「よう、またあったな」


 「ギジィエアアアッ!!!」


 背筋がゾッとするような不気味な威嚇の声を上げジリジリとその間合いを詰めてくる。

 しかし今度のアストは無防備ではない。今回はちゃんと武器を持っており戦える状態。臆することなく格好つけたように好きなアニメキャラと同じ剣の構えでレーヴァテインを構える。

 レーヴァテインに鞘は無く剥き出しになった赤と黒の両刃はアストが戦闘の意志を持つと同時に炎の渦を纏う。


 「あっ…つくない…?えっ?」


 炎の渦はアストの腕や体を飲み込む勢いでどんどん広がるも、何故か熱さは感じず完全に炎が当たっているはずの服も燃える気配がない。


 「うん?…うーん……あぁーコレは()()()()()()()なのか?」


 しかし足元に生えた草原の草は当たり前ではあるが黒焦げになるほど激しく燃え広がっており、もしかして使用者にだけ影響しないタイプの炎なのかと思ったアストはこのご都合特性を生かし、剣を真っ直ぐ正面に構え直すと火力をさらに上げ自分の周囲半径3mを焼き尽くすほどの巨大な渦を作り出す。

 もちろんこれだけ火力を上げても周囲の草が炭になるだけで本人は全然熱さを感じないし持ち物も燃えない。


 「こりゃいいな、遠慮なく殺れる」


 この時点で知能が高いモンスターのうち、炎と相性の悪いモンスターは全員逃げ出し、どんなに自分と相性が悪い相手でも臆することなく襲いかかる低知能モンスターと炎に耐性があるか有利な属性のモンスターだけが残る。


 残ったモンスター達はこれ程の炎を前にしても、自分たちの炎への耐性に余程自信があるのか全く億さずどんどん距離を詰め炎の渦に入ってくる。

 さすがこの炎にビビらないだけあり渦の中に入って来てもピンピンしている。と思いきやそれは炎に耐性のあるモンスターだけで、怖いもの知らずの低知能モンスターは渦に入ると同時に鼓膜が敗れるような奇声の断末魔を発し骨まで燃え尽きる。


 「ざまぁねーな」


 過去に快楽を得るためだけにアストを無惨に殺したモンスター達がこうも簡単に倒せる。

 装備の大切さとパワーバランスの崩壊を実感しながらも、これほどの炎の中平気で近づいてくる耐性付きモンスターをどう倒すか考える。

 しかしモンスターが思考の暇を与えるはずもなくどうするか考えているアストに容赦なく襲いかかってくる。


「やべっ」


 しまったと思った時には時すでに遅し四足歩行の獣モンスターは音速で手足を食いちぎりに高速で距離を詰め、二足歩行で装備を身につけた高知能モンスターは手に持ったそれぞれの武器でアストの炎に負けないほど大規模な各属性の大技を繰り出す。怪鳥のとある種はアストの真上から直角急降下で脳天を貫きに音速で特攻し、別の種は破壊光線のようなレーザーを口から放つ。


 「……っえ?」


 四方八方から対処の異なる様々な攻撃が同時に襲いかかり思考も追いつかないその刹那アストの体に異変が起きる。

 突然敵の攻撃が全てスローモーションになる、いや、スローモーションなんてレベルじゃない。怪鳥のレーザーですらほとんど止まって見える。

 モンスターの動きはスローなのにアストの体はいつもの倍以上軽く身体能力が格段に上がっている事が直感的に分かる。どうやら今から走馬灯が始まるというわけではなさそうだ。


 「キタコレ」


 そんな無双タイムに突入したアストがまず最初に対処したのは上空の怪鳥共。人間離れした跳躍で飛び上がると真っ先に急降下してきた怪鳥を左右真っ二つに斬り分け、すぐさま切り倒した怪鳥を足場に跳躍すると隣の怪鳥に斬りかかる。そうやって斬って飛び移るを繰り返し地球の物理法則じゃ到底出来ないようなコンボで空中のモンスターを一掃する。


 空中に飛び上がってから約1秒後、フルコンボを決めたアストは元いた場所に隕石が衝突したかのような衝撃を持って着陸すると攻撃モーションに入っていた地上モンスターを炎の渦ごと数メートル後ろへ吹き飛ばす。


 「次!」


 空中から血の雨を降らしながら次々に墜落するモンスターの肉片に頭の回転の早いモンスターはあの一瞬で何が起こったのかを察しにやりと不敵な笑みを浮かべる。

 モンスター達は自分たちが負ける要素はないとでも言いたげに全く動揺を見せずすぐさま攻撃を放つもアストはこれを難なく回避する。


 「おせぇよっ!」


 全ての攻撃を回避し今度はアストが攻撃する番、今度は腰にぶら下げたハンドガンを取りだし視野内にいるモンスター全を目視でロックオンし引き金を引く。

 銃口から魔力弾が飛び出し最初にロックオンしたモンスターめがけて飛んでいく。狙いが自分だと分かったモンスターも余裕の表情でひらりと躱すがこの魔力弾は追尾機能付き、モンスターが避けたとほぼ同時に直角に曲がると避けた反動で回避できない対象の核を貫く。

 核を貫いた魔力弾は加速してつがのターゲットの核目掛けて飛んでいく。まるで意志を持っているかのように回避やガードなどの対策を全て不規則な動きで避け次々に核を貫いていく。

 しかしモンスターもやられっぱなしでは無い、対処法を知っているモンスターが同時に魔力弾に直接攻撃を叩き込むことで相殺しエンドレス追尾から逃れる。

 攻撃が途切れるとモンスターはすぐさま反撃に入ろうとするがアストはそれよりも先に追加で攻撃を仕掛ける。

 今度は魔力弾をモンスター1体につき1発をロックオンして発砲する。

 弾は100%魔力なのでアストの魔力が尽きない限り弾切れになることは無い。

 しかしこの世界のモンスター達も二番煎じで死ぬほど弱くはない、すぐさま自分に向かって飛んでくる魔力弾に攻撃し相殺する。


 「隙だらけだぜ」


 が、これがアストの狙い。各モンスターが魔力弾に攻撃する瞬間に音速を超えたその攻撃速度で背後に回り込み無防備になった体を両断して回る。

 鮮やかな剣さばきで全てのモンスターを駆逐しアストの闘争心がおさまるとレーヴァテインの炎が消え、それと同時に草原を焼き尽くしていた炎も一瞬にして鎮火する。


 他にモンスターが居ないことを確認しレーヴァテインをバッグパックに収納すると倒したモンスターの核を回収して回る。

 このバッグパックは中に4次元空間が10個ある5次元構造となっており、1空間につき1アイテムを収納することが出来る優れもの。

 しかも今回購入したのは中に入っているアイテムの時間が停止するタイプで、この効果のおかげで生肉は1週間以上たっても腐らないし火のついた松明を入れても燃え尽きることはない。


 そんな万能バッグパックの唯一の欠点をあげるとするなら中に入れれるアイテムはあくまでバッグパックの入口に入る大きさまでで、某ネコ型ロボットのように入口以上の大きさのアイテムを入れることは出来ない。

 核はストレージを圧迫しないように4次元アイテム袋にまとめて1アイテム扱いにし、他の素材も同様に種類ごとにアイテム袋にまとめ極力ストレージを圧迫しないようにする。


 アイテム袋が4次元なら全部そっちにまとめれば1空間で済むのでは?と駆け出し冒険者は考えがちだが、それは冒険者にとって便利と言うだけで換金側からすればかなりの迷惑行為。

 使用用途の違う素材が複数混ざったアイテム袋を渡されても仕分けという面倒な作業が増えるだけで換金側にはなんのメリットもない。

 なので本来は素材の種類ごとに細かく分けて収納するのが理想だが、駆け出し冒険者などはストレージ量も少ないので、せめて素材のジャンルくらいは揃えておくのが暗黙の了解。

 残りの装備と素材を回収できるだけ回収し再び町まで戻ると即換金してそのお金で新しい武器を購入する。


 今回購入したのはローランの歌に登場する『聖剣デュランダル』、低レアの魔術の杖、対物ライフル『バレットM82』の3つに追加でレーヴァテイン用の背負える鞘とハンドガンのホルスター。

 お値段5点で3980ゴールド、実にお買い得な値段だ。

 武器本体より鞘やホルスターの方が高いのは相変わらず意味不明だが、地球にいた頃プレイしていたゲームの物価と比べると断然安く感じる。


 レーヴァテインを背負いハンドガンをホルスターにしまうとそれ以外の武器をバッグパックに収納し、本格的なハーレム作りに入るため次の行き先を決める。

 地図を眺めること数分行き先が決まる。次に向かうのは東にある商業の国、期待を胸にアストは東門へと歩き始める。

はじめましての方は初めまして、ご存じの方はおひさです。IZです。


【チートしかいないカオスな異世界でもチーレムしたい!!!】更新です。


この際なので素直に言います。

ここ1ヶ月くらい小説書くのサボってましたすみません。


この作品は本家【チートしかいないカオスな異世界でも平和に暮らしたい。】のオリジナルキャラver.となっています。


本家の方はpixiv小説にて連載中ですので更新を待っている間にでも読みに行っていただけると嬉しいです。


https://www.pixiv.net/users/58648155/novels


それでは今回も登場キャラクターのプロフィール書いていきます。


今回紹介するのはこの作品に必要不可欠な存在

転生神イリス様です。


≪名前≫

アイリス・プウェーク


≪通称≫

イリス


≪性別≫

女性


≪性格≫

転生真の中では仕事熱心。

面白いことには乗り気だがつまらない事には一切興味を示さない。

意外と飽き性。


≪仕事≫

地球からの選ばれし死者をこのチートしかいないカオスな世界へと転生させる。

死者を蘇らせる。


≪性癖≫

バイという噂が…


≪能力≫

異世界転生

異世界転移

異世界召喚

全ての魔法を使えるが中でも回復系統が得意


それでは次回の【チートしかいないカオスな異世界でもチーレムしたい!!!】の後書きでお会いしましょう。

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