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昼下がりのある二人

書きたい事を書く精神が高じた結果。


甘いと感じられる事を願って。

 ──ビル・エルゲス。大〜〜〜昔の偉人が記した本にそう言及された世界。


 いわば剣と魔法の世界。我々地球の人類の言葉を借りれば、ファンタジー世界とも表せるだろう。


 そんな世界の宿命か、このビル・エルゲスはかなり長い間、魔王と呼ばれる存在に支配されている。


 ビル・エルゲスは、大陸とそれに従属する小さい離島のまとまりが五つほどあり、それぞれ○○島、○○の離島、といった具合に名付けられており、大陸と大陸、大陸と島の間は巨大な橋や船で繋がっている。まあ、転移魔法が使える者はそれで移動するのが常。


 その内の一つ、東に位置するクスカ大陸。緑の多いここを魔王が気に入り、資源を独占したのが事の始まりだ。


 というかこの魔王、倒されては復活し、封印されても自力でそれを解いて、といった具合の事を数百年、数千年と続けているのだ。


 ので、ぶっちゃけ今回もまたか程度の認識。しかも、魔王本人には悪意も何も無く、純粋に豊かな土地が欲しいという理由でちょこちょこ侵略しにやって来るのだ。


 実の所、配下が割とガチで人間世界を支配するつもりだが、そんな事を魔王は知らない。


 配下の魔族の数があまりにも、それこそ気が遠くなる程に多いので、逐一把握出来ないのだ。


 それでいてクソ強いのがまたタチが悪い。


『俺は侵略して、強者と戦い、倒されるまでが存在意義だ』


 と、何時ぞや魔王を倒した人間が魔王本人から聞いたらしい。


 恐らくこれは推測通りで、魔王が現れると必ず勇者と呼ばれる人間が出てくるのだ。それも一人や二人ではない。その時魔王がいる大陸以外の四大陸に、計何千人という規模で、である。


 魔王が現れると、神から神官たちにお告げがある。お告げを聞いた神官が勇者候補を集め、相応しいかどうかの試練を課す。そうして何千人もの人間が勇者として旅立つのだ。


 勇者となる人間には貴賤老若男女の区別がない。今回最高齢の勇者は御歳八十八歳のお婆さん、最年少は僅か六歳の少年である。


 んで、魔王が現れると、何故かビル・エルゲス中に非常事態が起こる。勇者達はその非常事態の解決も使命に含まれている。まあ、要は何千人規模の世直し旅が始まるということだ。



 ────────────────────────


「Zzz……」「Zzz……」


 大樹の下で、木漏れ日を浴びながら仲良く眠る少女と少年。


 少女は何やら紋様が描かれたワンピースと、これまた精緻な紋様のあるマントを着ており、マントに身を包み、少年の膝を枕にぐっすり眠っている。赤みがかった金髪に整った幼さの残る顔立ちは、美少女と言うに相応しい。


 少年は身体が完全に隠れるほど大きく白い服を着ており、フードで顔を隠し、大樹を背に座り眠っている。そこから覗く顔は優し気でイケメン、フードから出ている紫のメッシュが入った長い白髪は、木漏れ日に反射して輝いている。


 そんな二人だが、一向に起きる気配がない。確かに暖かく、眠気を誘う時間帯だが、昼寝程度ではすまないほどに熟睡してしまっている。


 が、どこからともなく飛んで来た小鳥が、少年の肩に乗り、首元をつつく。それに少年は身動ぎし、目を覚ました。


「ん……ん? ……またつられてしまったのか……私も甘いなぁ……ふあ〜ぁ〜」


 大きく伸びをしながら欠伸を一つ。そこでようやく、肩に乗る小鳥の存在に気がついた。


「チュン!」


「ああ、いつもありがとう、助かった。また今度お願いするよ」


 実はこの小鳥、少年の使い魔の様なものなのである。遠くへ連絡を入れる時や、今回の様にある程度時間が経った時に起きるためだけの使い魔である。普段は自由にさせているため、仕事を終えたらこの小鳥は帰っていく。


 飛び去る小鳥を見送った少年は、少年の膝を枕として使う少女の身体を揺さぶる。


「おーい、幸せそうに寝ているところだけど、そろそろ起きる時間だよ」


「……んむぅ……」


「おやかわいい……じゃなくて、ほら、そろそろ出発するよ」


「……あと十時間……」


「日が暮れるからダメ。早く早く」


「ぐぅ……」


「置いてくよ?」


「ヤダ」


「なら、早く起きなさい」


「ヤダァ……」


 一向に起きない、というか起きようとしない少女。少年の膝の上でゴロゴロとごね続けている。毎度の事に、少年は呆れている。


「やれやれ、困ったものだね……どうやったら起きてくれるのかな?」


「キス」


 即答。しかも目をバッチリ開けての発言。どうやらこう聞かれることを待っていたらしい。


 少年は、


「……全く、仕方ないな。ほら」


「んっ」


 それに応じた。


 少年と少女の付き合いはそこまで長いものでは無いが、その分お互いをかけがえのない存在として見れる様になるほど、濃密な時間を過ごした事もあり、二人は若いながらに夫婦の誓いを交わす程の仲となっている。


 唇を触れ合わせるだけのキスを一瞬。顔を話すと、少女の鮮やかな緋色の眼と、少年の深い碧の眼が合う。


「んふふ、朝チュン……だっけ?」


「もうお昼もいいとこだけどね。おはよう、私のリエル」


「おはよう。ボクのカロ」


「…………言っておいてなんだけど、これ結構恥ずかしいな。典型的なクサイ台詞じゃないか?」


「ボクは好きだな、こういう言い方。恥ずかしいのは同意するけどね」


 こんな調子でいつもイチャついている。







 ここで二人の紹介をさせて頂こう。


 少女の名は“リエル・アンタレス”、十三歳。非常にマイペースで昼寝が大好きな、名実共に今代、いや、歴代最強のボクっ娘勇者。


 少年の名は“カロ・シリウス”、十五歳。リエルと共に魔王討伐に向かう、魔法・医療・家事・戦闘なんでもござれな万能賢者。


 この物語は、そんな二人がイチャイチャしながらのんびりと魔王退治に向かう物語である。


「……あれ、あの町に用ってあったっけ……?」


「……着いたら思い出すんじゃないかな?」


 ……魔王退治を、忘れていないなら、だが。

しばらくはイチャつかせておきますので、戦闘描写はかなり後に。

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