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Never Lost in THE GAME  作者: 真山 優
第一章
5/23

目覚め

闇という恐怖が斗也を飲み込んで数十秒。

その事実を知らないトウヤは目を開けられずにいた。

ぎゅっと瞑った瞼の裏が魅せる暗闇。

子供の頃はそれが怖くて部屋の電気を消せずにいた。

薄い瞼を通してうっすらと差し込む光に温もりを感じるような気がしたから。

そう。丁度こんな―――――。光―――。



「――――うわぁっ!!」



悪夢にうなされた子供のようにぱちりと瞳を見開いて上半身を跳び起こす。

―――そう。浮いたはずの上半身を。


「あれ?寝て…た…?」


どうも頭が回らない。

自分は寝ていたのか?あの記憶は夢なのか?謎が謎を呼ぶ。

思考を巡らせ数秒後。パンクしたかのように小首を傾げる。


何はともあれ、こうして生きている。

瞬きするたびに実感する。体は動く。生きている。


生きている?


はっと真下に目を向ける。

腕、腰、足、手。

無事だった。

あんな記憶の後だ。未だ心は落ち着かない。

起こした上半身を倒す。

柔らかい感触と共にばふっと何かが舞った。


「なんだ…?」


生い茂る草木。そこらに生えているのは花だろうか。仄かに甘い香りがトウヤの花に届く。

木々の間からは淡い木漏れ日が差し込み、辺りを蝶やなにかがひらひらと飛んでいる。

引きこもりの気が強い斗也にマイナスイオンなるものを感じさせるほど気持ちの良い空気。


「あれ、もしかして俺…死んだ?」


咄嗟に天国を連想するトウヤだが納得はいかない様子。


「取り敢えず歩いてみないことには始まらないよな…。」


大の字に寝転んだ体をゆっくりと起こす。

重くも軽くも感じない。至って普通。いつもの体感。

起き上がって何となく木漏れ日が差す方へ目的を定めるとおもむろに歩き出す。


「いてっ。」


何かに蹴躓いた。

さて動き出そうと勇んだ瞬間にこれだ。つくづく締まらない男だと溜息をついて自分を躓かせた憎き原因に向け視線を落とす。


細長い木の棒。枝と呼ぶには太すぎる。幹と呼ぶには細すぎる。なんとも掴みどころのない棒だった。

こんなものに躓く自分が情けない。

ただ、不思議とその棒へ愛着が湧いた。

ガキ大将が探検する際に必ずと言っていいほどの確率で持つであろう木の枝に似た既視感。


「まぁ、気分出してこう。うん。」


屈んで木の棒を拾うと頭上でぶんぶん振り回してみる。

うん。なんかしっくりくる。丁度いいというか。なんというか。

調子に乗ってまるで剣のように腰に抱えてみる。

なんということか。素晴らしく丁度いい。

ふふんと鼻を鳴らすと木漏れ日の差し込む方へ気分を新たにトウヤは歩き出した。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



歩き始めて数十分。目覚めた瞬間から今の今まで景色は変わらない。

見渡す限りに木々が生い茂り、心地よい柔らかな風が吹き抜ける。

普段なら歩き疲れて駄々をこね始めるはずなのだが、自らの体に疲労を感じられないことにトウヤは戸惑っていた。


「全然疲れる感じがしないな…。マジで天国だったりすんのかな。」


依然視界は冴えわたり木の棒を腰に抱えている腕は疲れ知らず。

浄土と勘違いしてもおかしくはない。

断定するには判断材料が乏しいもののどうしたものかとトウヤは途方に暮れていた。


何を思ったかふと足を止めるとどこか遠くに川のせせらぎを感じる。

水の流れる音。時折ぽちゃんと水面を何かが跳ねる音。


「川だ!川が近くにあるっぽい!」


身体は疲れ知らずとはいえ、心は廃れる。

歩く以外に何か気を紛らわせるものに飢えていたトウヤは走り出す。

いつもより視界を流れる景色が早いような気もするが水を目前にした気の逸り故なのか気にはならない。

徐々に近づく水の音に期待は高まる。


背の高い草花を両手で掻き分けて進む。

突然トウヤの双眸はその景色に瞳を奪われる。



差し込む日の光を反射させるほどに澄んだ水面。

川のほとりでは小鳥が水面をつつく。

さぁあっと静かで清らかな音を立てて流れるその川は一片の穢れも知らぬような。


「うわ…。めちゃくちゃ綺麗だ…。」


美女のの花嫁姿でも見たかのような感嘆の声を漏らす。

今までトウヤが生きてきた中で景色というものにここまで感動したことはない。無論現状自分が生きているのかは不明だが。

ゆっくりと川のほとりに向かって歩くと、体を屈ませ川の水を両の手で掬い上げる。


混じりけのない透明で澄んだ水。

水を掬った両手を口元にあてがい一気に喉へと流し込む。

ごくっごくっと勢いよく喉が鳴る。


「―――ぷはぁっ!!うんまぁっ!!」


マラソン後の身体に飲む水が渇いた全身に駆け巡るような爽快感と覚醒感。

特段喉の渇きを感じてはいなかったトウヤだが、ただの水をここまで旨く感じたことはない。

続いて両手で掬った水を思いきり顔にぶつけてみる。


「――あぁ!!気持ちいいなぁ!!」


脳内にこびりついたもやもやを吹き飛ばすような一発。

濡れた前髪をかきあげて瞬きを数度。伸びもしてみる。

すると静かな川のせせらぎの向こう側、ざばぁっと水が跳ねるような音が聞こえる。

そういえばさっきもそんな音を聞いたなと呟き、音のする方へ立ち上がり、歩き出す。


川の流れに沿ってトウヤが歩く。

少しばかり斜度のついた地面に沿うように川の流れが速くなる。

両足を広げるだけで飛び越えられそうだった川の岸は広くなっていく。


音のする方へ呼ばれるまま向こう岸へ川を跳び超えると穏やかな小池が眼前に広がっていた。


「おぉー…。これまた綺麗ないけ…えぇっ!!」



濡れた長い茶髪が妙に艶めかしい。裸の美女が驚愕の表情でトウヤを見つめていた。

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