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Never Lost in THE GAME  作者: 真山 優
プロローグ
1/23

待望

「プレイすると死ぬゲームがある」


インターネットのゲームスレッドに投稿された書き込み。

スクロールホイールを下に回してレスを確認する。


[マジでそんなんあるのかよw]

[現物うpしてから書き込めよ]

[親戚がそのゲームをプレイして失踪した]

[もっと詳しく教えろよ]


「結局ねぇのかよ。」


添付ファイルがないことを確認すると両手を頭の後ろで組み、佐野(さの) 斗也(とうや)は溜息をついた。



「THE GAME」

2003年に発売されたアクションRPGゲーム。

陳腐な名前の割に凝ったストーリーやシステムが、当時話題となり異例の販売数を誇った。

キャラメイク時に能力値を割り振ったり、マルチエンディングが用意されていたり、現在でも通用するのではと思えるほどの内容だったという。

だが、このゲームは発売と同時に大々的なリコールが掛けられ、世界中が大混乱することになる。


プレイしていた人間が消えたのだ。


ロード中のプレイ画面と、無造作に投げ出されたコントローラー。

ただ、そこからプレイヤーが忽然と姿を消したのだ。


この現象は同時多発的に至る所で起こった。

年齢も、性別も、場所も。

「THE GAME」をプレイしていた、ということ以外失踪者達には何一つ共通点はない。


この事件を受け、国は「THE GAME」の開発元にすぐさまプログラムの開示と解析を要求。

同時に、全国の警察を動員し、国をかけた失踪者の捜索が行われた。

この事件による失踪者は凡そ10万人。

発売日に全国放送で警鐘を鳴らさなければゆうに失踪者は30万人を超えていただろうとも言われている。


必死の捜索もむなしく、結局誰一人として失踪者が見つかることがないまま約7年の歳月が経過し、世間からの大バッシングを受けながらも警察は捜索の中止を発表。

約10万人がその日、死亡者としての扱いを受けた。


事件発生から数か月のうちに「THE GAME」の制作会社は倒産。

国に預けられた「THE GAME」のプログラムデータは、今なお解析が続けられているものの一切の成果がないまま今日に至る。


原因不明の失踪事件を生み出し、全世界を恐怖させた謎のゲーム。

マニアの間では今なお噂は絶えずにいる。

時たま、ゲームをプレイした。という書き込みが掲示板に上がるものの、一切の証拠がないと知るや否やネットの住民や被害者遺族からの集中砲火を浴び炎上。

現在では、ごく一部の人間が「THE GAME」に固執し日夜、ネットの海に飛び込んで情報を探っている。



「実際ホントにあんのかよ。そんなゲーム。」


斗也もゲームを探す一人ではあるが、何の進展もないままの現状に疲れ果てていた。


「取り敢えず寝るか。明日も学校だし。」


ノートパソコンを閉じ、一息つくとベッドに横たわり目を閉じる。



いつもの日常。

起きて学校へ行き、授業を受け、帰宅後に学校のゲーム友達とオンラインゲーム。

就寝前に小一時間ほど掲示板で「THE GAME」の情報を探し、溜息を落とし眠りにつく。

日課となっているものの、2年間も何の音沙汰もなければ流石に心も折れる。

薄れてゆく意識の中で消えずにいる「THE GAME」への言い表せぬほどの興味。

そのうち、考えることに疲れたのか斗也は眠りについた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



―――ジリリリリリ...!


いつもの爆音で鳴る目覚まし時計を気だるげに止める。


「もうこんな時間か。」


足早に居間へと向かい、用意された朝食を口に運ぶ。

テーブルに置かれた1000円札は昼食用の食費とメモ書き。

仕事で忙しい母親からの最大限の愛情だろう。

居間の壁掛け時計に目をやり、ぎょっとすると一気に朝食をかきこみ、制服に着替えて家を出た。



学校の教室につくや否や見覚えのある男が手を振りながらこちらに近づいてくる。


「おーす!昨日の試合熱かったな!!」


派手な短めの金髪に細い眉毛。

スラックスをまくり上げて二カッと笑ういかにもな不良少年。

久遠(くどう) (いつき)は斗也の肩に腕を回す。


「朝っぱらから暑苦しいからそれやめて…。」


黒髪でやせ型なモブ生徒の肩に手を回す金髪のヤンキー。

傍から見ればカツアゲに他ならない構図だろう。

ただ、近くを通った教員が止めずに素通りするのは彼らが親友であるという認識があるからだろう。

現に今、斗也が絡まれているのも昨日のゲームの内容についてである。


「最後の1v1マジで緊張したわ!!」


「まぁ確かに。樹が負けてたら試合終わってたからね。」


肩に回された腕を振りほどこうと躍起になりながらも、斗也の貧相な腕力では叶うはずもなく、ずるずると教室まで引っ張られた。

席に着くも樹の話は止まらない。

珍しくゲームで樹が活躍したのだ。わからんでもない。



「――――ほらー。席つけー。」


がらがらと音を立てて扉を開けた担任教師が生徒に注意を促す。


「くっそ!こっからおもしれーのによー。」


担任の注意がほとんど自分に促されたと知った樹は斗也に回した腕をほどき、渋々自分の席へと戻った。今ばかりは担任に助けられた気がした。




「ふぅ。やっと昼飯か…。」


教師が教室から出ていくのを確認すると、斗也は立ち上がり、大きく伸びをして呟いた。


「斗也!購買いこうぜー!」


行き着く暇もなく樹は斗也を教室から連れ出し購買へ向かった。




「もうこんなに混んでるのかよ…。」


昼休みに入ったばかりだというのに購買は既に混みあっていた。

勿論手間や面倒を嫌う斗也は自ら人混みに飛び込みはしない。

目当てのものが買えないのならそれまで。余り物で済ませればいいのだ。

ただ、どうせいつもの菓子パンと牛乳しか残っていないだろうな。とげんなりしながら最後列で人混みを眺めていることにした。


「おい!どけって!焼きそばパンなくなるだろーがっ!」


そうだった。この男は違っていた。

樹は無理やり人混みを掻き分けながらずんずん最前へと突っ込んでいった。

考え方の違いだろうか。正直樹のこういう愚直なところは理解しがたい。

半面、自分にできないことであるが故に羨ましさもある。

あっ。と突然思い出したように斗也は呟く。


「俺の分も頼んどけばよかったな…。」



「よっしゃ焼きそばパンゲットー!」


高らかに焼きそばパンを右手に掲げる樹の顔は晴れやかだ。

はいはいよかったねと言わんばかりに斗也は雑な拍手を送る。

人気が減ったことを確認すると斗也はようやく購買へと歩き出した。


「うわ。やっぱり残ってねぇ。」


棚に陳列されていたのは勿論黒糖パン。

冷蔵庫には牛乳のみが残っていた。

分かってはいたが食べ飽きたものを買うのは正直気が引ける。

仕方がなく適当に黒糖パンを手に取ると、不意に声が聞こえてきた。


「―――斗也君。おにぎりでよければ譲ろうか?」


振り返ると見慣れた顔がそこにあった。


「マジ?助かるよ直人。有難く頂こうかな。」


おにぎりを片手に八木(やぎ) 直人(なおと)が近づいてきた。


「お、直人じゃん!お前も一緒に飯食おうぜ!」


今朝方斗也も喰らったヘッドロックが直人を襲う。

苦しそうに樹の腕をタップする直人を憐みの目で見つめる斗也。


「おにぎり。あげないよ…」


眼鏡の奥の直人の瞳は笑っていない。

これはまずいと斗也が樹に割って入る。

咳き込む直人からおにぎりを受け取ると240円手渡し、三人は屋上へ向かった。




じめっとした風が吹き抜ける屋上の日陰。

三人は昨日のゲームの話で盛り上がる。


「だろ?やっぱ持ってんだよなー俺って!」


「あの瞬間だけは樹君が勝利の女神に見えたよ。ホントに。」


ヒートアップする二人を眺めながら、斗也は物思いに耽る。

「THE GAME」。プレイすると死ぬゲーム。

本当に消えてしまうのだろうか。どのような原理なのだろうか。そもそも実在するのだろうか。

たまりにたまった「THE GAME」への疑念が頭から離れない。

ふと日常に空いた時間ができるたびにいつも考え込んでしまう。

今日はどこの掲示板を覗こうか。誰に話を聞こうか。

昼食を食べることさえ忘れ、ぼーっと空を眺める。


「―――おー―。―也君。聞―てる?」


視界を遮るように直人の顔がドアップで映り込む。


「うぉっと!びっくりしたぁ。」


突然のことに驚いて、斗也がのけ反る。

背中からコンクリートに倒れこむ形になりそうなところを樹がフォローした。


「あぶねーぞー。」


ケラケラ笑いながら斗也の背中をばしっ。と一発。

正直コンクリートに倒れこんだ方がまだマシだったのかと思うほどに痛烈な一撃。

背中を押さえる斗也を直人が訝しむ。


「…あのゲームのこと?」


「まぁ…ね。」


こういう時、意外と直人は勘がいい。

ずばっと切り込む度胸もある。樹とは別の意味で隠し事ができないなと斗也は頭をポリポリと掻く。


「見つかんねーモンはしょーがないんじゃね?」


対照的に底抜けに能天気な樹。

よくもまあこんなにタイプの違う三人組がつるんでいるものだなぁと改めて思いなおす。


「でももし、見つかったらタイムアタックで勝負するんだろ?負けねぇかんな!」


昨日のゲームの結果でよほど自信がついたのか樹は得意げに言う。

そう。俺たちは約束したのだ。

「THE GAME」をもしも見つけたら、自分たちでタイムアタック勝負をする。

負けたヤツは好きな女子に告白する。


くだらない遊びだ。

ただ、直人も樹もこんな俺の戯言を信じて一緒に「THE GAME」を探してくれている。

ゲームへの執着ももちろんあるがこの絆が今は何よりも嬉しい。



「今日も探すんだろ?例のゲーム。」


「もちろん。お前らに告らせてやりたいからな。」


にやりと笑う斗也にすぐさま襲い掛かる樹のヘッドロック。

こうして三人の昼休みは過ぎ去っていく。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「―――じゃ、今日も夜8時にいつもの場所な!」


「わかったよー!またあとでね!」


いつもの場所とはオンラインゲーム上の集会場。

いつもの場所で通じ合える関係が妙に心地よい。

斗也は二人と分かれ帰路に就く。

今日は2人とネットで会う前に掲示板を覗くことにした。

今日こそは。今日こそは。と意気込む自分の顔を両の手で挟み押さえつける。

期待しすぎるとロクなことがない。あくまでクレバーに。

駄目でもともとの精神だ。と自分に強く言い聞かせながらゆっくりと歩き始めた。




「ただいまー。っと。まぁ誰もいないよな。」


玄関を開けた瞬間にわかる。

母の靴がないのだ。どうせまだ仕事中だろう。詰まるところ今日の晩御飯も一人飯。

慣れた手つきで食材を切り、フライパンでさっと炒める。

自分一人の為に白米を炊くのは忍びないのでパックの白米で妥協する。

事実上の一人暮らしにも慣れたものだ。たったの20分で夕飯が出来上がった。

見もしないテレビを賑やかしのために点け、夕飯を口に運ぶ。


なかなか悪くない味付けだ。自分の料理の出来に満足しながらゆっくり味わう。

―――瞬間。思いもよらない単語が耳に飛び込む。


[――――「THE GAME」による全国的にも類を見ない大規模な失踪事件から今日で17年――]


「「THE GAME」!?」


勢いよく口から飛び出す料理を片手で塞ぎながら、テレビの音量を大きく上げる。


[――あの日の真実は今日に至るまで未だに解明されないままです―――――]


その後は特に当たり障りのない大雑把な事件の概要がニュースキャスターによって語られた。

技術が進化した今でさえゲームのプログラムに異変はみられないこと。

ただの一人も失踪者の消息が掴めていないこと。

今後も事件の究明を続けていくということ。



俺が知りたいことはそんなことじゃない。

斗也は軽く舌打ちをすると、夕飯も片付けずに自室へ向かった。

全国的に放送された悲劇から17年。きっと掲示板にもいつも以上の賑わいを見せるはずだ。

もしかしたらゲームが見つかるかもしれない。

果てない探求心が斗也の身体を突き動かす。


急いでノートパソコンを開きブックマークしたページに飛ぶ。


[今日で17年らしい。情報求む]


これじゃない。


[17年かかっても解析できない国とか無能じゃん]


―これじゃない。


[本当は誰かが作り上げたデマなんじゃね?]


――これじゃない。


[そんなゲームあったら俺もやってみたい]


―――これじゃない。


[プレイしたら死ぬゲームとか、どっかのラノベやんww]


――――これじゃない。



これじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃないこれじゃない―――――――――。


血眼になりながら片っ端からブックマークした掲示板の投稿をスクロールして読み進める。

無論何処にも探している情報はない。

野次馬とガセ情報のオンパレード。昨日と何も変わらない。

結果有益な情報は何一つ得られないまま斗也はノートパソコンを前にへたり込んでいた。


「―――まだだ。」


呟くや否やF5キーの連打。

一番投稿数の多い掲示板に絞り更新とスクロールを繰り返しながら張り付く。

無関係のレスに次第に苛立ちを覚えだす。


「―――ッ!―――なんなんだよっ!!」


我慢の限界に達し、拳を振り上げたその瞬間静止する―――。






[「THE GAME」のROMを見つけました。]






時刻は20時を回った頃のことだった。




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