表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/3

この世界で異世界転生は当たり前にはなったんだけど…

毎日更新(2000文字くらい)を心掛けますので、少しでも多くの方に読んでいただければとても嬉しいです。

読めない字、わからない言葉はコメントでお書きください。普通の異世界転生とは違いますので、不愉快に感じられる方もいらっしゃるでしょうので、ディストピアということを念頭に置いてください。

楽しんでもらえるように書きました。


数年くらい前から、どっかの偉い学者達は四次元理論とか、時間の歪みとか、そういう小難しいことを研究しだした。多数の失踪者、所謂神隠しが大流行してしまったために、国が本腰入れて対策を取らないといけなくなったのだ。2009年あたりだろうか、日本の大手の電子掲示板でとあるスレッドが建てられた。その内容はかいつまむと、異世界に行きたいと願うチャットを書き込めば、ここではない別の世界に行けるようになるというものだった。それはテレビに取り上げられることもなく、内輪ネタ程度の小規模なものだったが、それは小さな事件に繋がった。当時39歳、無職の男が1週間も姿を見せないと母親が捜索を出し、何日か草の根を掻き分け周辺を聞き込み、警察が捜索をしだしたが、男の後を追ったが欠片も発見することができなかった。近所の人はここ1年は姿を見ていないといい、男の同級生だった者たちは男のことは覚えていなかった。母親はパートで、普段は家に居らず、その間息子が何をしているのかはまったく把握していなかった。そのため、息子の交友関係は知らないが、ネットに熱中していたことは知っていた。他者からどこそこへ行こうという連絡でも貰っていたのかと捜索のカギに繋がるかと思い、男の机の上でスリープ状態になっていたパソコンを起動した。

男のメールボックスにはアダルト系サイト、チェーンメールやスパムなどろくなものはなく、全てのフォルダが大多数に向けた、ただの迷惑メールだった。

しかし、男は別の手がかりを残していた。

どうやら開きっぱなしだったらしく、検索サイトに履歴が残っていた。それがその異世界に行こうという、タイトル、正式タイトルは『うはwww異世界楽しすぎwwこの世界クソゲーすぎんだろwww』で、それからおまいらも来いよと最初にコメントされており、タイトルになっていた異世界への行き方が好き勝手に書き連ねられていた。IDは同じだが、同一人物の投稿だろうか。行き方と評されたまことしやかな内容は、この世界にはどんな場所でも異世界への狭間があり、そこを無意識的に避けて俺たちは生きているのだというとんでも設定から始まった。男も書き込みをしているようで、疑ってかかった内容が投稿されていた。その後、試してその感想を書き込むといった内容を投稿。囃し立てられつつも試したのか、一文字だけ投稿した画面で固まっていた。男の投稿にいたずらか、釣りかと続くチャットは男が一切入ってこなくなったのを不審がっていた。まさか、ではあったので、警察はただの失踪事件としてこの事件を片付けた。

しかし、その後も失踪事件は続いていった。27歳フリーターの男がバイト先で、15歳女子学生が彼氏の部屋で、72歳高齢の男性が老人ホームの特別ルームで、その姿を消した。県境をまたぎ、北に南に関係なく、老若男女問わず消えていった。これらの人々の共通点は、パソコンを弄っており、そしてこの異世界へ行くという電子掲示板を見ていたことが判明した。この関連性には何か法則があるとしか思えず、警察は予算を大幅に取り、大規模の捜索を開始した。この時点で、失踪者は32人、スレッドが建てられて3カ月が経過していた。

消え失せた人間の数があまりに多く、遂にマスメディアの目にさらされた。テレビは連日特番を組み、ネットが関わる、神隠し的事件なので、ネット隠しと名付け、失踪者を取り上げてはインタビューをし皆の不安を煽った。

ネット状ではテレビ以上の熱狂に包まれており、異世界にいけるといった内容のスレッドは大量発生し、怖いもの見たさでアクセスするものもどんどん増加していった。最初の失踪者が見ていたスレッドは管理者によって削除されていたが、それでも失踪は止まらなかった。

それから1年、遂に三桁を記録してしまったので、メディアは学者たちに頼るようになった。眉唾物だったので信じようとは皆ちっとも思わなかったが、とある一人が報酬に目がくらみ、今では普通となった異世界理論を研究しだした。

スレで賑わっていたやり方を助手やその他大勢が見守る中試したが、何も起きず恥だけかいた。法則があるのかもしれないと場所や人を入れ替えたり、様々な要因を調査したが、変化せず、異世界には行けるわけがなかった。

そうした学者の徒労はさしてメディアの目に留まらず、やはり異世界など存在しないというごもっともな結論に落ち着いた。しかし、事実は常識を打ち破り、事態は急速に変化を遂げた。

失踪者の一人が見つかったのだ。身分証明書を持っており、そこから本人確認が取れた。少女は一連の失踪事件で初期段階の時の一人で、15だった少女は16になっていた。すぐさまニュースになり、彼女はロングインタビューを受けることになった。様々な夢物語のようなことを語り、これまでの常識が打ち砕かれていった。内容をかいつまむと、こうなる。

彼女は中世ヨーロッパ辺りの街に飛ばされ、前後不覚のまま王女に抜擢された。

その街を領土とする国はかなり知能が低かったらしく、彼女のなすこと全てに驚いたという。

賢者の一人と知恵比べをしたり、眉目秀麗の騎士と恋に落ちたり、美味しいものを食べ、それはもう夢のような日々だった。彼女がうっとりと目を細める様子は番組関係者だけ見ることができた。

架空の生物が登場し、最終的にはドラゴンに見初められ、彼らも配下に置いて、国は世界を彼女を筆頭にし、約9カ月ほどで支配したという。

最も興味深く、

世界を統一した後、二つの選択肢が与えられたらしく、彼女はそれで戻ってこれたという。この国のトップとして君臨していくか、元の世界に帰るか。元の世界に何の未練も…と即答しようとしたが、その時付き合っていた男性のことを思い出し、帰ることを選択し、次の瞬間眩い光に包まれ、制服姿で深夜の病院前に放り出されたという。

未練となっていた、彼氏は音信不通となっており、とっくの昔に見限られていたらしく、このことをしっていたなら、こんな世界に戻ってこようなんて、思わなかった。と、彼女は嗚咽を出し、泣く場面で番組は終わった。

彼女は未成年であったため、実名は報道されなかったが、何処からか嗅ぎつけた一般人に行き方を教えろと連日押し掛けられ苦労をしたようだ。後日、彼女はその体験談をまとめ、ベストセラーになった。

その後、ほそぼそと失踪者は見つかりだした。どの人間もやはり今とはまったく違う文明の遅れた国か、もしくはSF的なサイバー都市でいずれも崇められたり、優秀な人材と奉られた。中には神様だと(今でいう神様コース)無条件でハーレムを形成し、酒池肉林を毎夜楽しんだ者まで現れた。そしてどの人間も戻ってくるという選択肢をしてしまったことを後悔していた。外国籍の女性の名前を呼び、自殺した男性もいた。死ねばまた異世界に行けると思い込んだ故らしい。


人々は異世界が現実味を帯びたことに驚き、そして夢のような毎日を送れることに目がくらんだ。

美女や、美青年、美少女と、造形の整った人々にちやほやされるのも、自分がした何気ないことで褒められ崇められるのも、金が面白いくらいゴロゴロと入り、好きに遊び、飲み暮らせる生活は極楽と同等で、異世界へ行こうとする者の数も桁違いになっていた。ネットでは憶測や行き方が細かく掲載しだし、アクセス数もうなぎ上りになっていった。

しかし、失踪者はあまり増えず、失敗した体験談ばかりが巷に溢れだした。

遂に国は重い腰を上げ、国家予算から、転生費をひりだし、対策を取り出した。多数の論文、本が出版されたが、異世界の謎や、何故行けるものと行けないものがいるのか、その違いを判明することはできなかった。




「えー、田村は異世界に行ったんで欠席だ。はい、起立礼」


担任が出ていき、俺は右隣に座っている俊介が頬杖を付き、いいよなぁとぼやくのを耳にし、そちらに顔を向けた。俊介の後ろに座っている川上がずりーと相槌を打った。

「あいつまた異世界行ったのかよ、やっべー。金持ちは得しかしねーよな」

「俺だって庶民様じゃなけりゃ親に頼み込んで一度は行ってみて、死ぬほど女に囲まれてみたいわ」

「でもあいつんちハリボテなんだろ?結局いつかは破産するっつーの。そん時が見ものだな」

「田村マジなんだよ」「あいつ嫌いだから一カ月見ないでいいのはいいわ」「ニキビ面で出っ歯で口くせぇあいつ好きになってくれんの、異世界人だけだからな」

好き勝手に言い出す友人二人の会話は主に田村の悪口主体だったが、これは僻みである。田村仁徳の家は名こそ平凡だが、父親が中小企業の社長であり、田村も異世界留学を推進され、学生の権限を利用し、数カ月に一回は異世界に行っている。確かに田村はそうかっこいいとは思えない顔つきだが、口は梅仁丹みたいな匂いでそこまでではないと思う。

「なぁ、澁也は異世界行くとしたどこ行きてぇ?」

「場所とかどうでもいいだろ。どういう女と遊びてぇ?俺はやっぱ巨乳で清楚な子とやってみたいわ」

「わかってないな、お前たちは。考えるとしたらどういった恩恵を自分に振るかだ」

現実じゃ見えづらいことこの上ないまっるい眼鏡をクイと上げ、長谷川は話に入り込んできた。長谷川は結構なオタクでどこか上から話しかけてくる。

「は?うぜ、つーか話に入ってくんなよ」

「お前の話、誰も聞いてねーから」

「そういってやるなよ。なんだ、長谷川?恩恵って」

俊介と川上の言いぶりに少し動揺し、左手を痙攣させたが、怯まず長谷川は続けた。

「異世界に行くと最近はまずステータスが目の前に現れる。それで、自分の立ち位置が常に見えた状況になっているそうで、経験値も見えるそうだ」「オプションは高いが、その時神からの恩恵を受けることができる。俺はその恩恵を商業スキルに全て振って、市場を支配し金回りを自分のものにしようと思っている」そうすればこの世界に戻ってきたときに社会経験として履歴書にも書けるし、金利系の仕事に就きやすくなれると、続けた。つまり、異世界に行くということを娯楽にせず、スキルアップに繋がる場所として行くのが一番だということか。

「お前はまず女の経験してもらってからにすれば?」

川上が言い放ち、長谷川は不愉快に顔を歪めた。「後容姿に全振りな」俊介が煽り、長谷川は小さく口を動かし、左手を痙攣させた。これだから低能は困る、と言っているようだった。


学者たちの内一人が異世界への抜け穴を見つけ、異世界は実在すると議論の終止符を打った。特定の条件下で、もしくは運が左右するのだと理論付けられていたが、その抜け穴はどんな人間でも受け入れるようで、ランダムに異世界へと旅経たせた。

世間に知られたら、とんでもない騒ぎになってしまうと国家秘密にしていたが、何処から漏れたのか、旅行会社がそれに目を付けた。一人の勇敢で無謀な社員が抜け穴へと飛び込んだ。戻ってきた後、彼は興奮し他の者と同じく夢物語を語った。しかし、それだけに終わらず、どうやら管理者である者と話を付けれたようで、望む人材を数カ月単位で寄越すことを契約できたと契約書を手にしていた。それは初期段階の契約だったので、今は大分変化しているが、とにかくその契約を境に、異世界への行き来が安直なものへと徐々に変貌していった。

最初は異世界人の望む優秀な人を選別し、送り込んでいたが、能力はそこまで重要視していないようだった。彼らは異世界から来る、その一点だけを望んでいる様だった。今では当たり前となった転生系も、馴染みやすく進行に邪魔が入りにくくするためで、どんな人間でも異世界へ行く資格はあった。選別をし出したのはその異世界を管理することになった我らだった。民間企業としてがめつく、当然の権利のように、金を大量に絡める道筋へと転がしていった。金もうけの道具へと成り下がってしまった。


「でもよ、1日コースでも20万って払えるわけねーよな」

俊介は移動教室の準備もせず、雑誌片手にシャーペンを回していた。どうやら、サボるつもりらしい。2限からサボるなんていい度胸しているなと俺は思いつつ、話に乗っかった。

「1カ月丸ごとは最低500万て、やっぱくっそ金持ちじゃないとダメだよな。大人になってコツコツ貯めるしかない」

「俺はいますぐ行って、愛しのリンフィちゃんに会いてーわ」

雑誌の表紙を飾っているロップイヤーが特徴的な小柄な少女。彼女は異世界案内人の中でもトップクラスの人気を誇る、リンフィだ。俊介はどうやら彼女のファンらしく、毎日そう呟いては、虚しさを募らせていた。

異世界に行くこと自体に旅費は掛からないし、準備品は何もいらない。生身一つで十分なので、元手はほぼゼロに近かった。それでも今、それを望むと莫大な費用が掛かってしまう。個人で異世界に行くことは叶わなくなってしまったからだ。国の重要な資金源となり、最も高額な旅行に変貌したのだ。年々値段は吊り上がり、コース内容は幅広く様々なニッチを網羅していった。利用者の数が右肩下がりになったことはなく、今も300人程度が異世界を満喫している。

異世界は俺たち一般人にとっては夢の又夢で、しかし一生に一度は行ってみたいユートピアだった。

「俺だったら剣で無双して俺つえぇするな」

「あー、無双は確かにテンション上がる。絶対気持ちいいし、爽快だろ」

「逆に嫌われたりよえー状態から始める奴いるけど、あれは絶対嫌だね」

「マゾだよな。最強が一番だし、リンフィちゃんにキッスしてほしー」

癒し魔法よ、あなたの心に届け☆とセリフらしき文の横で胸元の開いた服を前かがみにしてリンフィは見せつけている。投げキッスに近いポーズで、照れた笑みを浮かべていた。


俊介と俺はお互いに帰宅部で、放課後はいつも示し合わせてすぐ、学校を飛び出していた。校舎を出ると大通りになり、その先の横断歩道までいつも競争していたのだ。その後渡り切った先にあるコンビニで負けたほうが買ったほうに肉まんを奢る賭けをしているので随分真剣に競争していた。

昨日は俺が勝ち、俊介はもう二回も負けこみたくないらしく、出だしのスタートからいつもより早かった。

俺が上靴から運動靴に履き替えている間にもう玄関の扉を通っていて、かかとを潰したままに全速力を出そうとする構えをしていた。

まずい、とすぐに俺も飛び出し、俊介の後を追う。振り返る余裕すらある俊介は数メートル後ろの俺に向けて高らかとピースを繰り出し、横断歩道の一歩目を踏み出した。


その時、明らかに信号は赤で、そして道路上に存在していなかった筈の…、物理的に無理なトラックの出現に、後ろを振り向いていた俊介は気付かなかったらしい。

「!俊介!!おい、避けろ!!!」

俺は持っていた鞄を道端に投げ捨て、全速力で駆け寄った。俺の焦り具合で、異変に気付いた俊介はトラックを目の前にし、あ?と一言言い、全身全霊で跳ねられた。

俊介の体が当たった、と同時にトラックも俊介自身も消え、辺りには開きっぱなしで残された鞄と、横断歩道の前で立ちすくんだ俺だけが残った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ