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マージナル・ピープル  作者: 篠崎京一郎
Case1.十人十色
6/8

5.コラボレーション。シアン、イエロー、それからマゼンタ。

 いつものように、僕達は中庭で昼食を迎える。

 昨日は降らなかった筈だけれど、何故か僕達の座る芝生は少し湿っていた。


 はてさて、寺木音小春はすっかり伊藤の話に感動してしまったらしい。一日経った今日の昼でさえも彼女は興奮が覚めやらぬ様子できゃんきゃんと騒いでいた。

 芝生の存在も相まって、その光景はまさにドッグランへと遊びに来た仔犬である。



「……いや待て、そもそも何故貴様がここにいる」

 言うのはあぐら姿勢で弁当を広げる甲斐龍之介だ。先日読書の邪魔をされたことが相当腹に据えかねているのだろう、龍之介の中で寺木音の呼称はデフォルトのお前から貴様へと格下げされていた。


「そりゃあもちろん、感動のおすそ分けですよ! ね? だから聞いてくださいよ伊藤さんの感動エピソード! 甲斐先輩も号泣間違い無しです!」

「要らん。帰れ」

 相変わらず感情のわかりやすい男である。彼は露骨に表情を歪めながら、鬱陶しそうに彼女を手で払う。一方彼女は彼女で同じくらいわかりやすくぶんむくれながら、腕を組んでそっぽを向いた。

 寺木音が犬っぽいだけに、犬猿の仲といったところか。というかそれよりホント、なんでこの子はここに居るの?


「むぅぅ……じゃあもういいです、教えてあげません。すっごくいい話なのに。ふんだ」

「そうしてくれ。ついでに帰ってくれるともっとありがたいがな……して、波瑠よ」

 ポリポリと頭を掻きながら、龍之介は僕を見る。その細目は珍しく、やけに輝いていた。




「……伊藤の号泣エピソードとは、なんだ?」

「あーーーーーーーっ!!!! ひどい!!!!!!!」

 どうやら輝きは好奇心によるものだったらしい。にしても流石に寺木音が気の毒である。せめて本人のいないとこで聞けば良いのに、と僕は閉口した。


「阿呆。貴様の説明は主観ばっかりで理解に苦しむ。聞くだけ無駄だ」

「イーだ! 先輩の感受性が死んでるだけですー!」

「それは読書家として聞き捨てならんな。殺すぞ」

「罵倒が全力ストレート! ……え、もしかしてマジギレしてます⁉」

 聞いておいて、僕をヨソに二人は口論を続ける。仕方なく、僕はエピソードの代わりに薄々抱いていた疑問をぶつけることにした。


「あの」

「「うん?(はい?)」」

 息ぴったりの反応。この時点で僕はほとんど確信したが、話し掛けた手前僕はそのまま尋ねた。



「もしかして、二人って知り合い?」

「「……そうだが(ですけど)」」

 先程まで睨み合っていた二人は、そう言いつつ顔を突き合わせる。それから数秒の後、納得した様子でまたこちらを向いた。


「あれ、言ってませんでしたっけ。私達、家隣なんですよ」

「それと母親の勤め先が同じだ。両方パートだがな」

 はぁ、なるほど。

 知るや否や一気に疎外感が訪れる。別に嫉妬するようなものでもないが。


「まぁ、それだけに過ぎん。相談役の存在を知ってからはやたらとこうして付きまとわれるようになったが……」

「だって、相談役の助手やってるって聞いて」

「無責任な噂だな、踊らされる方も大概だが」

 知る人ぞ知る程度の知名度のつもりであった僕の相談役という業務であるが、この調子だともしかするとそれなりに広まってたりするのだろうか。いや、だからなんだという話だが。


「とにかく、そっちはどうでもいい。波瑠よ、俺は号泣エピソードとやらを早く聞きたいのだ」

「あ、あぁ……でもな、そんなペラペラ喋るような内容じゃないんだよ。伊藤さんが嫌がるかもしれない」

「それなら大丈夫ですよ」

 言ったのは寺木音だ。校則で禁止されているはずの携帯をひらひらさせながら、彼女は笑う。


「今聞いたら、波瑠さんのご友人である甲斐さんなら別に構いませんって」

「……それより連絡先を知ってることに驚きなんだけど」

「昨日交換してもらいました!」

 ということは、伊藤も校則違反の携帯を持っているということになる。いや、ぶっちゃけほとんどみんな持ってきているのだけれど。

 自慢気に掲げるその画面には、"♡さあな♡"と可愛らしい文字列が表示されている。彼女の性格というか振る舞いからは少し意外なユーザーネームだが、まぁ花の女子高生ならそこまで不思議なことでもないだろう。


「ふむ、問題なさそうだ。それでは聞かせてもらうか、号泣必至の素晴らしいエピソードとやらを」

「ハードル上がってない?」

「上げたのはそこのお調子者だ。つまらん話だったならそいつをはっ倒すまでだな」

 ぎろり龍之介が睨むと、寺木音は冷水でもかけられたようにビクリと肩を跳ねさせる。それから先程のものとは打って変わって引き攣った笑みを浮かべて、彼女は声を張り上げた。


「大丈夫です!多分、恐らく、もしかして……」

「じゃあ、話すけど。ええと、どっから語ればいいのか……」

 僕は昨日の伊藤の姿を、脳裏に思い返す。


 一字一句、とまではいかないけれど。

 なんとなく昨日彼女の語った道筋をなぞるよう、僕は心掛けながら。


 そうして、僕達の追想は始まった。



 **


 けれどその追想の旅は、ものの数分で終わりを迎える。


「……それで?」

 聞き終えた龍之介がぼそりと漏らした言葉は、もっとも僕が、何より寺木音が恐れていたものだった。


「……いや。これで終わり、です」

「ほう」

 謎の覇気に思わず敬語になると、龍之介の視線は寺木音に移る。彼女は慌てて僕の背後に隠れ、結果として視線はまた僕の元へと戻った。


「いや、無論現実の話に劇的さを求めるのがナンセンスというのは承知の上だが、しかしお涙頂戴が過ぎると言うかな」

 龍之介は無表情で僕を見つめたまま、感想だか講釈だかよくわからんものを垂れていく。背中越しにぶるぶると寺木音が震えているのが、よく伝わっていた。


「言ってしまえば、小異はあれども誰にだってよくある話ではないか。それ」

「……」

「多かれ少なかれ、挫折なり壁にぶち当たる経験は誰しもする。彼女の経験を悪く言うつもりはないが、いくらなんでも号泣必至は言いすぎだろう。CMだったら誇大広告と炎上間違い無しだ」

 なぜ僕は彼の話を正座で聞いているのだろうか。

 柔らかい芝生の上なのに、その居心地は最悪である。恨むぞ、寺木音小春。



 いつしか彼女の震えは感じられなくなっている。離れたのだろうか、僕が振り返ろうとした時。


 事態は、急転した。



「そもそもにだな――」

「よく喋りますね、先輩」

 それは、先程の龍之介の言葉を借りるならばまさに『劇的』であった。(まさ)しく劇のクライマックスシーンのように、その場の空気が彼女の言葉で一変する。



「まるで文豪? を語ってる時みたいです。珍しいですね、先輩」

「……」

 憮然。

 龍之介は腕組みの姿勢で硬直する。怒りか、それとも別の感情なのか。それは僕には読み取れなかった。


「ん?龍之介……」

 しかし同時に、僕は発見する。



「お前、泣いてるのか?」



 彼の瞳が、潤んでいることに。


 ちっ、と龍之介は舌打ちして顔を背ける。それが肯定であるのは誰の目にも明らかであった。


「わーーー! ほんとだ、泣いてる! あれだけ『所詮この程度か』みたいな態度取っておいて‼」

「陳腐と言っただけだ。別につまらんとは言っとらんだろう」

 素直なのか意地っ張りなのかよく分からない龍之介の反応を、ここぞとばかりに寺木音は周囲をグルグル回って面白がる。それを見ていると僕も、思わず笑いがこみ上げてきた。


 珍しい龍之介の姿に少し意地悪な感情になり、僕はさらなる追い打ちを試みる。


「あっ、そうだ。それからは今でも誕生日にはラベンダーの球根をお母さんと一緒に植えてるんだってさ。ほんと、いい話だよな」

「波瑠」

 寺木音から逃げていた龍之介の動きが、止まる。その声はただでさえ低い龍之介のバリトンボイスの中でも、ドスの効いたと表現したくなるほどに強く荒い声であった。


 まずい、調子に乗りすぎただろうか。僕は半笑いのまま凍りつく。


「波瑠よ、もう一度言ってみろ」

「え、いや……」

「ラベンダーの……球根だと?」

 龍之介は、僕にそう問いかける。その目に涙は残っておらず、代わりに獲物を捉えるかのような鋭い眼光が宿っていた。


 僕が頷くと、龍之介は弁当箱もそのままにいきなり走り出す。なんとなくついていかねばならない気がして、慌ててその背を寺木音とともに追った。


 しかし、彼は速い。背丈によるストライドの問題もあってその差はどんどんと広まってゆく。校舎の中に入って尚、彼は失速する気配を見せなかった。


「どうしたんでしょう、先輩」

「さぁ……てか、この先って」

 ゼェゼェ息を切らしつつ、僕は言う。女子に余裕で並走されるのが情けなくて仕方なかった。


 予想通り、龍之介は遠く先で美術室へと飛び込む。やや遅れて僕達も入室すると、龍之介は布の被せられた伊藤の絵の前で立ちはだかっていた。


 龍之介は乱暴にそれを引き剥がし、まるで喧嘩でも売るように天枠を片手で掴み上げる。そうして鼻が付きそうな至近距離で彼は絵の中の少女の持つ花を凝視すると、それから絵を下ろして近くの机へ飛んだ。



「波瑠、寺木音!」

 画用紙を広げ、龍之介は手近な絵の具を取り出す。それは伊藤の私物であったが、今の龍之介を止める勇気は僕達に無かった。


 見回して筆を探すも見つからなかったのだろう。龍之介は指に絵の具を付け、それから二度、三度と画用紙に指を擦り付ける。



 そうして出来たブツを僕達に掲げると、龍之介は僕達に怒鳴った。


 いや、怒鳴るように問うたのだ。



「なぁ。『これ』をお前達は、どっちの色の名で呼ぶ?」

 龍之介が『これ』と示した画用紙に描かれたのは"あお"と書き殴られた文字。



 だけどそれは、どうしてか()()()()()()()()()


「……どうしたんだ、龍之介」

「いいから、答えろ!」

「え、えぇ……悩むけど、俺なら赤って言うかな」

「私も赤、ですかね?」

「そうか……俺もそうだ。くくっ、ははは!」

 ぐしゃり、龍之介はそれを握り潰して笑う。魔王の如き高笑いは、美術室に随分と響いた。




「あぁ、あぁ。全部理解した。俺達はどうやら、くだらん勘違いをしていたらしいな」

 心から面白そうに、龍之介は笑いながら机に座る。涙を見られた恥から遂に壊れたのかと心配する僕と、ただただドン引きしている寺木音を交互に見ると、龍之介はまた笑い声を上げた。


「……龍之介?」

「おう、どうした?」

「理解したって、一体なんの話だ?」

「なんだ、まだ分からんのか」

 龍之介は振り返り、伊藤の絵を見遣る。

 それからとても優しい声で、彼は言った。



「……彼女の絵が、落選し続けた理由だ」

「サーナイト」について お話しします

みんな「サーナイト」って 知ってるかな? 「サーナイト」というのはね

たとえば 最速スカーフにして ドラパの上からムンフォを叩き込むと 気持ちがいいとか

あるいは トレースですいすいやすなかきをコピーして 相手のエースを上から飛ばせると 気持ちがいい

といったことを 「サーナイト」というんだ

今 サーナイトを 使っていない子は これから先 サーナイトを 使うようにしようね

今 サーナイトを使っている 良い子は これからも使おうね!

そして トゲキッス 冠で来るカプ・テテフを含めた 上位互換的存在を クビにして

使用率上位に 入れようね!

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