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5話


 正直に言えばの、もうちょっと荒っぽく避けると思っとった。こう、「カッ!」とか叫んで蹴り飛ばすとかそういうのじゃ。実際殴り込みかけてきたときには完全に乱神のそれじゃったしの。しかし今回は斜め前に半歩進んだのみ。薄皮すらも掠らせず六本の矢は地に刺さる。


「─────ッ!?」


 明らかに動揺する気配が六つ……、いや、『七つ』かの。伝わってくる。まぁ、そりゃそうじゃろう。簡単そうに見えて異常この上ない光景じゃからの。


 盤面を見通す神の視座ならいざしらず、駒の視点しか持ち得ぬ者が待ち伏せされている事実を把握し、矢が放たれる瞬間を察知し、弾道を予測し実行する。そのようなことは未来を見通すか、神域に至るほどの才でもなければ不可能よ。


 距離にもよるじゃろうが、いつ来るかもわからぬ瞬きよりも速き物を御するんじゃからな。


 しかし、羅睺も大概じゃが、射手らも悪くはないの。個体差はあれど動揺した後の持ち直しが早い。もう次の矢を番えておるわ。さて、この間に羅睺はどう動──────。


「けぴゃッッ!?」

「邪魔だ。適当に座っとれ」


 羅睺が真っ先にしたのは妾を地面に投げることじゃった。


 痛い。すごくお尻が痛い。腰も痛い。頭も打った。いかん、涙も出てきた。ひどし。羅睺ひどし。いじめっ子じゃ。此奴いじめっ子じゃぞ。鬼じゃ、鬼畜じゃ。


 妾はとっても傷ついたので甘いものを所望する。あいすじゃ、あいすを持ってくるのじゃ。栗まんじゅうでも良いぞ。あんころ餅でも許すぞ。


 ……なんかもう痛みとかどうでもいいから甘い物食べたいの。妾はすいーつに飢えておる。


 そんなことを考えながらもジリジリと這って羅睺から距離を取り、木の根元に腰を預ける。妾の玉のような肌に傷でもついたらどうしてくれるんじゃ。痛む箇所を両手でさすりながら前を見ると、妾の笏が落ちておる。


 そういえば今、笏をもっとらんの。せっかく這ってきたのに取りに行くのは嫌じゃのぅ。……うむ、置いてくか。


 雷鳴よりも速く、妾が苦渋の決断を下したのを察したのか、笏が突然反り返り、反動を利用して立ち上がる。ピンッとそそり立つさまは地に打ち立てられた塔のようじゃった。笏のくせに器用じゃの、此奴。そして徐々に徐々にしなってゆく。引き絞った弓のように。


 何やっとるんじゃろという疑問は次の瞬間に解決した。戻る反動のまま、大地を蹴って妾に向かって飛んできたからじゃ。ぶつかる直前に器用に体を捻じ曲げて、角をぶつける徹底ぶりじゃ。なんじゃ此奴。痛めたでこを摩りながら、もう一度やられるのは嫌じゃからしっかりと笏を握って、動きを封じる。


「お主、仮にも妾が主じゃってこと忘れとらん? あの爺から渡されたからって今は妾が主ぞ」

『教育的指導!』

「今の暴挙のどこに教育があったんじゃ、教育が」

『落下不可! 我大事扱也』

「お主、わりと適当じゃの。あと、とりあえず漢字並べとけばいいと思っとるじゃろ。もっとわかりやすくすりゃいいじゃろうに」

『いーやー!!』

「物分かりいいのか、悪いのかわからんの」


 しかし、流石に何もせんのもあれじゃのう。羅睺の今の動きを見ればよく分かる。あやつ、矢の時といい妾に気を使ったな?

 足元に落ちとったどんぐりを弄りながら考える。


 妾、大切にされるのは大好きじゃけど、侮られるのは好かんのじゃけどぉ。


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