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4話

 大層なことを言ったが、ちょー暇じゃ。何も出てこん。もう一時間以上歩きっぱなしじゃし。いや、妾は肩に乗っ取るだけじゃけど。そうじゃそうじゃ、あんまりに暇じゃから笏としりとり始めたぞ!


「りんごじゃ」

野卑(やひ)

「火じゃ」

野暮(やぼ)

「……坊主じゃ」

安手(やすで)

「お主さっきから妾けなしとらんかの?」

『勝利、勝利!!』

「最初から思っとったけど微妙にルール理解しとらんじゃろ!?」



 こんなやり取りをずっとしとるんじゃけど、さっきから羅睺(らごう)がすっごい目で見てくるのよねぇ。いや、悪いとは思っとるよ? 肩の上で騒がれたらうざいじゃろ。そこんところはわかっとるよ?


 でも暇じゃもん。右見ても左見ても森ばっかりじゃし。上見ても葉っぱでほぼほぼ遮られとるし。びーじーえむなんて鳥の鳴き声くらいしかしないしの。うるさいくらいじゃ。


「のう、羅睺」

「……なんだ」

「ちょっと両腕をの、軽く交差しての。こんな風に小さな輪っかを作ってもらえんかの」

「……?」


 なんか訝しげな顔をしておるが、言うとおりに動いてくれる羅睺。なんか此奴、最初のときの印象より物分りが良いの。素直なのは良い事ぞ。褒めたろ。


「よいぞ、良いぞ~。お主はなかなか良い子じゃな」


 いいこいいこと頭を撫でるとガチの殺気を込めて睨んできた。木々はざわめき、元モヒカン三人組は恐怖で足がもつれ転んでおる。これ、気の弱いものじゃと心臓止まるんじゃなかろうか。


 え、妾? 大丈夫大丈夫。賽の河原に浮き輪浮かべて、亡者小突いて遊んどったのを見つかったときの爺の方がやばかった。流されないように紐持っとった赤鬼なんて泣いとったからの。鬼の目にも涙を地でいっとったわ。まぁ、泣いとるほうが愛嬌があって良いんじゃがな。鬼の形相で笑っとるほうがよっぽど怖い。


 そんな鬼みたいになっとる羅睺の殺気をどこ吹く風と受け流し、肩から飛び降り両腕の中に。絵面にするとこう、赤子を両手で抱いたような感じじゃの。赤子より妾の方がぷりてぃじゃけど。丸太のような両腕にすっぽりと両腕に収まった妾は、羅睺を見上げこう言った。


「羅睺よ、妾はの、少々飽きた」

「……」

「故に、寝る。暇じゃったら笏としりとりでもすると良い。此奴は強いぞ、ルール無用じゃ」

『勝利、勝利!!』

「まだ言っとるのか。どれだけ嬉しかったんじゃ、お主」

「……」

「では、寝る。目的地についたら起こすが良い」


 それを最後にまぶたを閉じる。麗らかな春……、春? かは知らんけどほんのり温かい日差しを浴びながら、ゆっくりゆっくりと力を抜いてゆく。頬を撫でる風は心地よく、まさに天にも登るような夢心地。……うむ、こうやってのんびり自由に生きるべきよの。


 三食昼寝を楽しみながらごろごろ生きるべきなのじゃ、全人類。まさに理想の自堕落生活を夢描き、夢の世界に旅立とうとした─────はずじゃったのに。


「……ああ、何じゃ。もう着いとったのか」


 閉じたまぶたを再び開く。全力で走り出す元モヒカン達。それと同時に放たれる『矢が六本』。前後左右、見事統率の取れた六方向。全ては死角。それもそのはず、木の上からの狙い撃ち。一矢として外れる軌道の物はなく、すべてが羅睺を狙い撃つ。しかし、忠告の言葉は紡ぐまでもない。


 その代わりに微かにため息を。それはそれは気怠げに。理由はそりゃもう、簡単じゃ。まぶたを開いたその先に、『嗤った鬼』がおったからじゃ




 ああ、本当に本当に、嗤う鬼こそが恐ろしい。


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