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3話

 妾が今何をやっとるか、ナイフでモヒカン剃っとるよ。赤モヒと青モヒは剃り終わり、今は黄モヒをただのハゲに変えとるよ。


 ほら、追いかけられたしの。なんの罰も無しはいかんじゃろ。しかし、ハゲが三人になるとあれじゃの。誰が誰かわからんわ。アイデンティティを奪ったと考えるとこれはなかなかの罰かもしれんの。心の中の閻魔帳に新たな罰則として加えとこ。


 なんでこんなことにと言ってしまえば大男が現れたとほぼ同時に此奴等は全面降伏したからじゃ。じゃから妾が正座するように指示を出し、今モヒカンを剃っとるというわけよ。モヒカン共はちょうどよく、というより当然というべきか、狩猟用か対人用か剣とナイフももっとったしの。


ま、じゃから剃る、罰として。じゃから剃る、楽しいからの。そこに理由なんてないのじゃ。楽しいことは良いことよ。ちなみに大男は胡座をかいてモヒカン共が持っとった干し肉を噛みちぎっとる。なんかぶすーっとした顔での。


 此奴は此奴で思ったよりは道理が通る。モヒカンに戦えという死刑宣告はせんかったしの。白旗振って干し肉差し出したからかもしれんが。


 そういえば、モヒカン……、いやもうただのハゲじゃな。今剃り終わったし。ハゲ共は見た目通りアホそうなのに、状況判断が嫌に正確じゃったの。そういう教育、命令でもされとるのかの。勝てないと思ったら降伏しろ、絶対戦うなとか。そもそも三人だけで森の真っ只中で自給自足してるとは思えんのもあるのう。


 頭はおると考えたほうが良いか。ならば其奴はどんなやつか。仲間思いかもしれぬが、手駒を無駄に失いのが好きじゃないやつかもしれんのう。ま、どちらにしろ、右も左もわからぬ身。会ってみんことには─────。


「あ、あのー」

「何じゃ、ハゲ」

「ハゲ!? 俺らにはちゃんとした名前がッ」

「うるさいわ、ハゲ三号。妾はお主らをツルツルにして疲れたのじゃ。要件だけを述べよ。さもなくばあれじゃぞ、あれ」


 くいくいと顎で大男を指し示すとビクッと肩を揺らして怯えよる。しかしこの元黄モヒちょっと肝が小さいの、黄モヒだけに、黄モヒだけに。……うん妾ながらつまらぬ。


「お、おまえ……あ、あなた?達は森の民じゃない……ですか?」

「無理に敬語は使わんで良いぞ。気楽に話すが良い。罰は下したしの」

「あ、そ、そうか? かしこまった喋りはなれてねえので助かりやす」

「で、そもそも森の民ってなんじゃ?」

「え……?」


 妾の言葉を聞いて動揺するハゲ三人衆。なんか一般常識みたいじゃの。『森の民』。というか、何を持って『森の民』って判断しとるんじゃ此奴等。


「なんか妙な格好してるからつい」

「そうそう、アイツラはみんな妙に小奇麗な格好してやがるから」


 ここまででわかったことをまとめると、『森の民』は変な格好や小奇麗な格好をしとる集団らしい。……うん、さっぱりわからぬの。何言っとるんじゃ此奴等。説明能力なさすぎじゃろ。いや、そもそも知識の問題か? 


 このまま質問をしていってもよいが日が暮れそうじゃの。もう、天の神様の言う通りにでもしようかと考えている妾を遮るように、干し肉を食い終わった大男が地の底から響くように唸りを上げる。


 おお、もうハゲ共が怯えてしもうとる。気持ちはわからんでもないぞ。熊だって生木をへし折りながら進みはせんからの。


「お前等に問うことは一つだ、答えろ」

「「「は、はいぃぃぃぃいいいいッッ!!!」」」

「お前たちが知る最も強き者は誰か」

「「「へ……、ええっと、お頭?」」」

「ならば其奴のもとへ案内せいッ!!!!」

「「「ひぃッッ!!」」」


 お、やっぱり頭はいたみたいじゃの。しかし、それは悪手じゃないかのう。いきなりこんな大男と国の宝と言わんばかりにかわゆい妾を頭目に会わせるようなことはせんじゃろ。『お頭』と此奴等が言ったときの語感から尊敬の念を感じたしの。


 脅すか痛めつければ言うことも聞かせられるじゃろうけど、そこまでするほどではないと思うんじゃよね。ほら、もうハゲにしちゃったし。しかし、大男の声でかすぎじゃろ。おかげで鳥が「きゅいきゅい」騒いでうるさいの。


「わかった。お頭のところへ連れていけばいいんだな」

「え、まじかの?」

「なぁ、別に構わねえよな?」


 元赤モヒ、現ハゲの言葉に残りのハゲも慌ててうなずく。う~~ん?? なんか妙じゃの。物分りが良すぎる。大男に怯えとるのは怯えとるが、今は安堵のほうが勝っとる。その『お頭』とやらはこの男より強いのかの。いや『ありえん』な。


 こやつ、人界の枠ならば紛れもなく最強なんじゃないかのう。いや、巨大ロボットと素手で戦うようなのがおる基準の世界があれば別じゃが。この元モヒカン達をみるにはなさそうじゃし。


 ……ま、考えておっても埒が明かんの。なんとかなるじゃろ、なんとか。そうこうしとるうちにハゲ共と大男も歩き出そうとしとるし。と、いかん一番大事なことを忘れとった! 大男の道着を数度引っ張り呼び止める。怪訝そうな顔をする大男に、妾は両手をいっぱいに広げて────。


「ん!」

「……何をしている?」

「何ってわからぬか、抱っこじゃよ抱っこ」


 うわ、何いってんの、こいつみたいな目をしとる。いやいやいや、今回ばかりは妾が正しいぞ。いやどちらかと言うと妾はずっと正しいぞ。だって妾ってエンマじゃし。


「走り通しで妾のちっちゃなあんよはパンパンぞ。おぶるのじゃ、おぶるのじゃ。でなければ妾は動かぬぞ」

『死ネ、愚物』

「お主には言っとらんわ、お主には!!」

「……」


 大男は大男でなんかゴミを見るような目で見とる!? 何故じゃ何故じゃ、こんな可愛い妾を抱っこできるんじゃぞ。それはもう満面の笑みでするべきじゃろおおぉぉぉおおおおッッ!!


 頭、頭を鷲掴みにするでないわ。あかん、西瓜みたいに潰されそうな感じできまっとる。こういう構図なんか見たことあるぞ。グチャって潰されるやつ! または背骨から引き抜かれるやつ!! 嫌じゃ嫌じゃ。妾痛いのは嫌いぞ。楽しいのは好きぞ!!


 お……? 持ち上げられた妾の体はそのまま大男の肩にちょこんと乗せられて、男は男で無言のままに進んでゆく。凄まじく広がった視界と歩幅に、ほんのり赤鬼を乗り物代わりに使っていた時を思い出しつつ、ふと気づく。


「そういえばお主の名を聞いておらんかったの。妾は」

「知っておる。地獄の王よ」

「う~ん。まぁ、良いか。で、お主はなんと言うんじゃ、答えよ」

「我は……『羅睺(らごう)』だ」

「それはまた、大層な名前じゃ。うむ、可愛くないの。『らっくん』と呼んでもよいか?」


 うおう、一睨みで熊を殺せそうな目をしおる。これはいかん、いかんのう。しかたない。


「嫌か。ならば引き換えに妾のことは『えっちゃん』と呼んでも良いぞ。呼んでも良いぞぅ? 譲歩ぞ、名誉ぞ?」


 うおう、今度は阿呆を見る目を向けおった。此奴はひどいやつじゃ。悪いやつじゃ。かわゆい妾を見て癒やされておらん。心が歪んでおる証左。これは妾が導いてやらんとなぁ。


「のう、お主。妾について来るが良い。妾も手早く帰りたいのでな。望む強者に導いてやろうぞ」


 肩の上で胸を突き出しふんぞり返る妾のキュートさに全世界の妾ファンが呼吸困難になっておる中、相も変わらず冷ややかに見つめる羅睺。不機嫌そうに鼻を鳴らしこちらを見ずにただ告げる。


「ふん、あの御仁はお主とともに行けと言った。当てもなし。言葉に偽りなしと信を置ける間はいてやろう」

「うむうむ、素直なのは良い事ぞ。安心するが良い。閻魔としては見習いなれど、世界の一つや二つ正してくれよう!」


 フハハと笑い、歩みを促す。甚だ不本意なこの状況、しかし、いやいやだからこそ、楽しまねばもったいなきこと。衆生全ては気の持ちよう。天にも地にも己次第。ならば楽しまぬのは損というものよ!

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