82 狂犬
俺は現在、訓練場である練習をしている
「準備いい?ルシオ」
「うん、いつでもいいよ」
「それじゃいきますよ」
目を瞑って突っ立っている状態の俺の周りをウィルとリリーがグルグル歩きだす
それを少し離れたところでセレナとマルクとアリスが見学している
すると後ろからいきなり『ウォーターボール』が飛んできて後頭部に直撃した
「うっ!?」
当然頭はビチョビチョに濡れてしまう
「くっそ~・・・もう一回!」
「はいは~い」
「風邪ひきますよ?」
「大丈夫!後で乾かすから」
それから何度も『ウォーターボール』をぶつけられる
結果、上から下まで全身ずぶ濡れになってしまった
「どうやったらできんだよ!こんなの!」
「本当にそんなことできるの?」
「できるはず!赤竜は多分これができると思うから」
一体何をやっているのかというと
おそらく赤竜がやっていたであろう、目に頼らず魔力を感知することの練習だ
これができるようになると死角からの攻撃に気付けたり
潜んでいる敵に気付けたりと、戦闘において非常に有利に立ち回ることができるだろう
しかし今まで目に頼ってきたからか、気配を感じるという感覚が掴めずにいた
「はぁ~、また後でお願い。攻守交替ね」
そう言い温風魔法で水を吹き飛ばしながら一気に乾かす
「わかった」
「う~・・・避けるの禁止なんですよね?」
「もちろん。避けたら練習にならないでしょ?」
ウィルとリリーは足を止め俺の方を向いて身構える
二人は俺の時とは違い、目を見開いて俺からの攻撃を警戒している
「じゃあ行くぞ~」
「いつでもいいよ」
「あ、なるべくゆっくりお願いします」
ウィルにはテンポよく三発の『ウォーターボール』を
リリーには要望通り少し間を空けて三発放とうとする
二人がやるのは魔法をレジストする練習だ
魔法というのは魔力を使って地水火風等の現象を再現する
しかし魔力が魔法を形成しようとするところに同等以上の魔力をぶつけることで、魔法を形成すること自体を防ぐことができる
俺はレジストの方はもうかなりできるようになったので二人の練習に付き合っている
ウィルは上手に三発ともレジストしてみせた
しかしリリーはレジストがまだ苦手なようで一発目はなんとかレジストできたのだが、二発目は中途半端に、三発目は全くレジストできず
顔面に水をかぶることになってしまった
「うぅ~・・・」
「乾かしてあげようか?」
「お願いします・・・」
リリーの綺麗な長い髪が痛んではいけないので自分の時と違い、丁寧に乾かしてあげる
「はぁ・・・二人ともよくこんな難しいことを簡単にやってのけますね・・・」
「俺も最初は難しかったよ?」
「ボクも最近ようやく慣れてきたところだよ。それにルシオが『ウォーターボール』を使うってあらかじめ分かってるからできてるようなものだしね」
「ま、練習あるのみだな。リリーだって一応できてはいるんだし、あとは回数こなすしかないと思うよ?」
レジストするには相手の魔力の流れを見極めて魔法を形成する前にこちらの魔力をぶつけなければならないのだが、これが結構難しい
魔力を何処に・どのくらいぶつけるのかを相手の魔法が形成されるまでの間に判断して実行しなければならない
つまりこちらが後出しになるので相手の攻撃速度を遥かに上回らなければならないということでもある
なので実戦で格上相手に使うのは不可能に近いだろう
「さて・・・んじゃ二人もやってみるか?」
「うん!」「やってみる」
見学していたマルクとアリスに声をかける
やり方は事前に説明していて、それをウィルとリリーの練習も兼ねて実践してみせたとこだ
そしてマルクとアリスは二人そろってずぶ濡れになった
「う~・・・全然できない・・・」
「難しい・・・」
「まあ最初はそんなもんだって」
ずぶ濡れになった二人を乾かしていると
二人組がこちらに向かって歩いてきた
「あの~、すみません」
「ん?」
「ルシオ先輩ですよね?」
「うん、そうだけど?」
「私はカミリアといいます。それでこっちがアーロンです」
カミリアと名乗る少女はリリーと同い年くらいだろうか?
アーロンと紹介された子はマルクやアリスと同じくらいか?
カミリアは年上の俺達が怖いのか低姿勢だが、アーロンは俺を睨みつけている
「よろしく。俺に何か用?」
「お前がこの学園で一番強いんだろ?俺様と勝負しろ!」
(なんか懐かしい感じだなこれ・・・入学したころのアレンを思い出す。なんか名前も似てるし)
「こ、こら!なんて口のきき方するの!すみませんすみません!」
「え~っと・・・二人は姉弟なのかな?」
「はい、不躾な弟ですみません・・・」
「いいよ、慣れてるから。んでなんで俺と勝負したいの?」
「学園で一番強いお前を倒して俺様がこの学園最強だってことを証明するからだ!」
「二、三年に一人はいるんですよねこういう子・・・」
「チビは黙ってろ!」
「んなっ!?私よりあなたの方が背が低いじゃないですか!」
リリーがボソッと口にしたのに対してアーロンが噛みついた
「っていうかなんで学園最強が俺になってるの?」
「アルベド先輩かルシオ先輩で悩んだんですけど・・・アルベド先輩はいつも学園にいないし」
「それで俺なわけ?消去法?」
「わ、私はルシオ先輩の方が強いと思ってます!本当です!」
「別に怒ってるわけじゃないから安心して」
「は、はい・・・」
低姿勢すぎて逆にこちらが気を使ってしまう
「まぁ確かにこの学園内だとルシオが一番強いんじゃない?アルベド君にも一回勝ってるし」
「一回負けてもいるけどな」
「私もルシオ君が一番だと思いますよ?」
「そんなの当然ですわ!」
ウィルとリリー、セレナの三人はそう言う
褒められて嫌な気はしない
しかしマルクやアリスと同じくらいの子供と真剣に戦うのはあまり気乗りしない
おそらくアーロンは本気だろうし
「う~ん・・・」
「俺様に負けるのが怖いのか?」
(テンプレすぎてなんか滑稽なんだよな~、本当に強いのかな?この子)
「ん~・・・丁度いいや、もうすぐ大会があるからそれの無差別の部に出場しなよ、俺も出るからさ。君が最強だって言うなら決勝までに俺とあたるんじゃない?」
「わかった。約束だぞ!」
「はいはい」
「すみません・・・アーロンはちょっと前に特待生として入学したばかりなんですけど、『この学園で一番強い人に会わせろ』ってきかなくて・・・」
「大変だね、お姉ちゃん」
「はい・・・あ、でもアーロンは家族の贔屓目を抜きにしても凄い才能を持ってるのは本当です」
「へ~、アーロンは何歳なの?」
「・・・」
「・・・8歳です」
アーロンが返事しないのでカミリアが申し訳なさそうに答える
「マルクとアリスの一つ下か・・・カミリアは?」
「11歳です」
(ふ~ん、11歳にしてはしっかりしてる方なのかな?まぁ弟がこれじゃ姉がしっかりしないといけないか・・・)
「話はそれだけだ!逃げるなよ!」
それだけ言ってアーロンは速足で去っていった
「もう!すみません。失礼しました」
深く礼をした後カミリアは先に行くアーロンを追いかけていった
「8歳の少年がルシオ様に敵うとはとても思えませんが」
「わからないよ、天才ってのは結構どこにでもいるものだから」
マルクとアリスだって9歳になったばかりだが、その辺の大人なんかじゃ相手にならないだろう
セレナなんかもっと小さい頃から強かったみたいだし
本当に天才というものは結構そこら中にいるものだ
子供だからと言って油断すれば痛い目に合うかもしれない
「ちょっと楽しみだな・・・アーロンが年齢別の部にも出場するなら二人も戦うかもしれないぞ?」
「え~・・・あの子ちょっと怖い・・・」
「アリス大会面倒くさい・・・出なきゃダメ?」
「二人とも特待生だからどれかの部にはでなきゃいけないんだよ」
「はぁ~・・・一回戦でマルクとあたって負けたい」
「アリスは戦うの嫌いか?」
「面倒くさい・・・痛いのも嫌だし」
「そりゃそうか」
女の子なんだしそれも仕方ないか
俺もアリスが怪我するのは見たくないし、もちろんマルクもだが
「んじゃアリスの分もマルクが頑張らないとな」
「・・・うん、僕頑張る」
アリスと違ってマルクはやる気のようだ
「僕、兄さんに強くなったところ見てほしい!」
「あぁ、もちろん。しっかり見てるからな」
そう言ってマルクの頭を撫でてやる
「っ!?」
それにアリスが反応した
「アリスも!頑張るっ」
『だから私も撫でて』と言わんばかりに俺の手をゆすってくる
可愛い妹におねだりされて何もしないわけにはいかない
当然アリスの頭も撫でてやる
「でも無茶はするなよ?二人とも」
「「うんっ!」」
二人の成長を見るのも楽しみだし
アーロンの実力がどれほどのものか
今から楽しみだ




