78 マヤ 其の弐
図書館でのいつものアタシの日常
ただルシオがいない
あとついでに、ルシオがいないからか今日はセレナも来ていない
「今日も帰って来なかったわねルシオ・・・」
「そうですね・・・本当にウィル君も行先を聞いていないんですか?」
「うん、聞いてないよ。皆と同じで『行きたいとこがあるから留守にする』って言われただけ」
「ルシオの行きたいところってどこかしら?」
「さあ?秘境とか?だけどもし一人で行ったんだったらさすがにボクも怒るけど・・・」
「そうですよね、それなら少なくともウィル君は誘うでしょうし」
「もしかしたらルシオにしかわからない何かが起こったのかもね」
「・・・あぁ、なるほど。それはあり得るかもしれませんね」
「ルシオにしかわからないことって?リリーも何か知ってるの?何のこと?」
「さあ?ルシオにしかわからないことだからボクには分からないよ」
「そうですね、私にもわかりません。まぁそのうち帰ってくるでしょう」
「そうだね。・・・っていうかリリアーナも知ってたの?」
「はい、ローリスの村の方は皆さん知っている事ですよね?」
「うん、ローリスだとそれでルシオは有名人だから」
リリーとウィル君が小声で話している
「ローリスの村がなんとかかんとか」と、ほとんど聞き取れなかった
「何の話?」
「えっと・・・ルシオが帰ってきたら直接聞いてみて?ボクの口から言っても大丈夫だとは思うけど、一応ね・・・」
「ん~?」
リリーの方を見る
「私の口からは何も・・・」
ということはリリーもルシオの秘密を知っているのだろう
「なによ・・・アタシだけ・・・」
「リ、リリアーナにも話してるんだったら聞けばマヤさんにも話してくれるって。多分ルシオにとっては秘密にするほどのことじゃないからわざわざ話題に出さなかっただけだと思うよ?きっと」
「そ、そうですね。帰ってきたら直接聞いてみるといいですよ」
「・・・・わかった。はあ・・・もう今日は帰るわ」
「う、うん・・・バイバイ」
「また明日・・・」
寮までの道のりをトボトボ歩く
同郷のウィル君はともかくリリーも知っていることをアタシは知らない
リリーよりアタシの方が付き合いは長いのに
もしルシオに直接聞いて教えてくれなかったらどうしよう
そんな不安が湧いてくる
そんなネガティブなことを考えていたら寮へ着いた
「あ、マヤさん。ちょうどよかった、手紙が届いてるわよ」
「手紙?」
寮の入り口で寮母さんが声をかけてきた
どうやらアタシ宛てに手紙が届いているようだ
手紙を受け取り部屋に入る
誰からだろう?
『元気にしているかい?パパとママは元気だよ。ただ、あまりマヤが帰って来てくれないからパパもママも寂しいです。マヤはもうすぐ学園を卒業する訳だけど、卒業後のことはもう決めたのかな?この手紙を書いたのは卒業後についてマヤの考えを聞きたいと思ったからなんだ。一度帰ってきて話を聞かせてくれないか?-パパとママより-』
パパとママからの手紙だった
確かに最後に帰ったのは前の誕生日だから、もう10ヶ月近く帰っていない
卒業したあとのことか・・・
治癒魔法くらいしか取り柄のないアタシが就職するとなると病院くらいしかない
ルシオやリリーのように魔法がたくさん使えるなら仕事は選び放題だろうけど
一応王都にある病院をヴァイス先生から紹介されているがあまり乗り気ではない
かといってウェルクシュタットに帰って就職したとしても、結局見つかるのは病院くらいだろう
それか家の手伝いをするくらいか
決して病院で働くのが嫌な訳ではない
寧ろアタシの唯一の取り柄である治癒魔法で沢山の人を助けられるのなら、それは喜ばしいことだ
ただ今の生活が楽しすぎるだけ
リリーとウィル君、あと喧嘩ばかりだけどセレナもいて
そしてルシオがいる
アタシだけ学園を卒業したくない
どうしてみんなと同い年じゃないんだろう
きっとみんなと会える時間はとても少なくなってしまうだろう
もうすぐ卒業なのに、アタシは大人になれないでいた
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翌日ウェルクシュタットへ帰るために転移魔法陣をつくってもらうことにした
ルシオがいないのでリリーに事情を話す
「というわけで転移魔法使わせてくれない?リリー」
「構いませんよ。ウェルクシュタットの転移魔法陣は以前使った物と変わっていませんよね?」
「ええ、なにもいじってないはずよ」
「なら私の家から繋ぎましょうか」
「え?寮のアタシの部屋からで構わないわよ?」
「私はまだルシオ君程上手に魔法陣を描けませんから、マヤさんの部屋だと荷物が邪魔で空いているスペースに描ききる自信がありませんから」
「・・・・最近は割と綺麗にしてるわよ」
「ふふっ、寮の部屋だと別の人に見つかる可能性もありますからね。私の家なら使用人含め皆転移魔法陣を見慣れてますから」
「そうなんだ」
「よく魔法陣を描く練習をしてましたからね。練習で使っていた空き部屋があるのでそこから繋ぎましょう」
「わかったわ、ありがとうリリー」
「いえいえ」
「それにしてもルシオに挨拶できなかったな~」
「マヤさんがいない間に帰ってきたら説明しておきますよ」
「ありがとう」
そうしてリリーの家からウェルクシュタットの自分の家まで一瞬で帰ることができた
「ただいまパパ、ママ。手紙読んだわよ」
「おお!お帰りマヤ!」
「おかえりなさい、会いたかったわ」
久しぶりに両親と再会したのでお互い話したいことが沢山あった
パパとママは仕事そっちのけでアタシの話に付き合ってくれた
「おお、もうこんな時間か・・・」
「晩御飯の支度しなくちゃね、手伝ってくれる?マヤ」
「はーい」
「そうだ、つい話し込んでしまったが食事のときにでも卒業後について話そうか」
「あ、わかったわ。パパ・・・」
はぁ~、なんて話そう
晩御飯の時間が来るのが憂鬱だ
そして夕食の時間
「それで、マヤは卒業したら何かやりたいこととかあるのか?」
「・・・・えっと」
「マヤのことだから治癒魔法を活かせるところとかかな?」
「うん、一応そうしようって考えてるんだけど・・・」
「そうか、パパとしては家に帰ってきてほしいんだが・・・就職先は王都にするのか?病院ならウェルクシュタットにもあるぞ?」
「まだ病院に就職するって決めた訳じゃないの・・・」
「うん?そうなのか?でもあと少しで卒業だろ?」
「うん・・・」
「もしマヤがまだ決めかねているのならパパの考えを聞いてくれないか?」
「なに?」
パパの考えはこうだ
卒業したら家に帰って来てほしい
そしてパパがやっている店の手伝いをしてほしい
子供がマヤ一人だけで男の子が生まれなかったが、親としてはやっぱり子供に店を継いでほしい
そこで、もう十年近く働いているコリーがそろそろ一人前として認めてやってもいいほど成長している
なのでコリーと結婚して二人で店を継いでくれないか?
というものだった
「どうだ?そうなってくれるとパパは嬉しいんだが」
「・・・・」
いきなり出てきた縁談に言葉が出てこない
コリーのことは小さい頃から知っているし
アタシにとってはお兄ちゃんのようなものだ
コリーはたしか10歳の時から家で働いているらしいので今は20歳くらいだろうか
どちらかというと好きな人物ではあるが、恋愛感情はない
アタシが好きなのはもう何年もずっと、ルシオただ一人だ
「・・・いや・・・です」
「・・・ま、まあ急な話でビックリしたかな。だがパパはそうなってくれたらいいなと思っているんだ、少し考えておいてくれ。さあ、冷めないうちに食べよう」
そうだ、もうすぐ学園を卒業しなくてはならない
アタシだっていつまでも子供でいられるわけじゃない
卒業までに、いい加減この気持ちに決着をつけないといけない
でもルシオに拒絶されたら?
アタシはどうすればいいのだろう
好きでもない相手と結婚して、やりたくもない仕事をしながら生きていかなければいけないのだろうか?
「どう?マヤ。今日はマヤの好きな物ばかり作ったけど美味しいかしら?」
「うん、美味しいよ。ママ」
晩御飯の味なんてわからなかった
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翌日の夕方
結局話は何もまとまらず学園へ帰ることにした
すぐにでも家から王都へ戻りたかった
「ただいま」
「おかえりなさい。早かったですね、向こうで数日滞在するかと思ってましたよ」
「うん、卒業後についてアタシもまだ決めかねてるし。ちょっと話しただけよ」
「・・・何かありましたか?」
「ううん、別に何も」
「そうですか・・・あ、そういえばルシオ君帰ってきましたよ。なんでも西の山に籠もってたそうです」
「はあ?なんでそんなこと・・・本当ルシオが何考えてるのかわかんないわ」
「ですよね、私も男の子の考えることって理解できません」
「ね~」
「今日は早めに解散したんですけど、ルシオ君は調べものがあるって図書館に残ったので急げば会えるかもしれませんよ?」
「そっか・・・わかった、行ってみる」
「はい」
「転移魔法ありがとうリリー」
「いえいえ」
学園へと走った
ルシオに教えてもらった強化魔法を使って
ルシオに会えるかもと考えただけでさっきまでの沈んだ気持ちが嘘みたいに晴れている
やっぱりアタシはどうしようもないくらいルシオのことが好きみたいだ
図書館に着いたとき、ちょうどルシオが帰ろうと出てきたところだった
「ルシオ!」
「マヤ!?ウェルクシュタットに帰ったって聞いたけど、どうしたの?息切らして」
「ルシオが帰って来たってリリーから聞いて走って来たの」
「別に明日会えるじゃん」
「今日会いたかったの!」
「そう・・なんだ。家に帰って何かあった?」
「わかる?」
「なんとなく」
「えへへっ」
「何?」
「なんでもない。それよりルシオ、西の山に言ってたんだって?なんで黙ってたのよ!」
ルシオがアタシのちょっとした変化に気付いてくれるのが嬉しい
いや、リリーも気付いていたみたいだしアタシがわかりやすいのかも・・・
「リリーから聞かなかった?ちょっと危ないことだったから心配かけたくなくて黙ってたんだ」
「聞いてない!危ないことって何?大丈夫だったの!?」
「今目の前で元気にしてるでしょ?それより場所変える?座って話しようか」
「そうね!」
二人で近くのベンチに並んで座る
座れる場所を探している間も会話は途切れなかった
「そうだ!ウィル君とリリーが知ってるルシオの秘密って何?」
「俺の秘密?なんのこと?」
「とぼけないでよ。『ローリスの村がなんとか』って二人は言ってたけど・・・」
「ローリスが?どれのこと言ってるんだろう?」
「ウィル君は『ルシオは別に気にしてないかも』って言うし、でもリリーは『自分の口からは言えない』って言うし・・・」
「ん?・・・あ!あぁ、あのことかな?」
「アタシに言えないこと?」
「まさか。多分俺が神子だってことを二人は隠したのかも」
「神子?」
「そう、ユダ婆の話だと天啓の神子とか言うんだって。あ、ユダ婆ってのはローリスにいる妖怪ババアのことなんだけど」
「なにそれ?」
ルシオに天啓というものが降りてきて村を救った話を聞いた
他にもリリーを助けた話も聞いた
だからリリーは知っていたのか
「別に隠してるつもりもなかったし、いずれマヤにも話すつもりだったんだけどね」
「そっか、やっぱりルシオって凄いわね」
「そうでもないよ。天啓のおかげで上手く立ち回れているだけだよ」
そんなわけない
魔法に剣術に、ルシオは凄く努力している
それに結果がついてきているだけだ
「そういえばマヤは卒業したら何するのかもう決まったの?」
「それが・・・」
今だ決めかねている事
更に、パパから結婚して家を継いでほしいと言われたことも正直に話した
ルシオがどんな反応をするのか見てみたかった
「そっか・・・マヤのことだから病院とかで人の治療をする仕事につくと思ってたけど。でもテッドさんの気持ちもなんとなくわかる気もするし・・・」
しかしルシオは動揺する様子もなく淡々と話している
ルシオはアタシが他の誰かと結婚しても何も思わないの?
もしかしてセレナかリリーのことが好きなの?
ルシオにとってアタシってどういう存在なの?
「ねぇ・・・ルシオ・・・」
「マヤはどうしたいの?」
「へ?」
直接ルシオに聞こうと声を絞り出したら逆に質問されてしまった
「どうしたいって?」
「マヤは何かやりたいこととか、こうなったらいいなって思うことない?」
そんなの決まっている
ルシオと一緒にいたい
それさえ叶えば他はどうだっていい
「アタシは・・・」
「マヤの人生なんだからマヤが決めないと。テッドさんの言うこともわからなくもないけど、マヤはそれでいいの?後悔しない?嫌なこと我慢してこれからずっと生きていくのは辛いと思うし、そりゃ生きてたら嫌なことだってたくさんあるだろうけどさ。どうせなら一度きりの人生楽しく生きないと損じゃない?」
「そんなこと言ったって・・・」
アタシにできることなんてたかが知れている
「自分にとって良い環境をつくりたければ自分が動かないと駄目だよ?」
「アタシが・・・」
「うん。で?マヤはどうしたい?」
「アタシは・・・」
アタシの気持ちは
「アタシはルシオと一緒にいたい」
「・・・・・・ん?」
「ルシオと結婚したい!これからもずっと一緒にいたい!」
「え?・・あ、いや・・・えっと、進路について聞いたつもりだったんだけど・・・」
「うん、そうよ。ルシオのお嫁さんになりたい。それがアタシの一番なりたいものだから」
「え?・・あ~・・・えと、その・・・」
顔を真っ赤にしてルシオはあたふたしている
見たかったものがようやく見れた
対してアタシは告白したことで開き直れたのか、ドキドキはしているが頭の中はハッキリしている
隣に座るルシオの手に手を重ねる
「それがアタシの夢なんだけど・・・ルシオはどう思ってるの?」
「あ、えっと・・・マヤ、顔近い・・・」
「ルシオなら簡単に避けられるでしょ?」
「んっ・・・」
何度も妄想したルシオとのキス
それが現実になった
今までしてきた妄想とは少し違うアタシからの強引なキスだが
「ちょ、ちょっと待って!」
ルシオが落ち着くためか深呼吸をする
あれ?これグイグイ押せば上手くいく?
そんなことを考えているとルシオがこちらを見た
ルシオが一瞬で冷静になったような気がして少し違和感があった
もしかして振られる?
そんな嫌なことを考えてしまう
「あ~・・・えっと、うん。俺もマヤのこと好きみたいだ」
「・・・・・・・」
幻聴ではないよね?
今たしかにアタシのこと好きって言ったよね?
「ただせめて俺が卒業するまでは待っててくれないかな?テッドさんにも俺から話してみるよ。だからこれからも一緒にいよう?俺もマヤと一緒にいたい」
「・・・・・うん・・・うん!!!」
夢のようだ
嬉しくてルシオに抱きつく
ルシオの肩に頬をこすりつける
まるでアタシの物だとマーキングするように
「えっと、あらためてこれからもよろしく。マヤ」
「うん!ずっとずっと一緒にいようね!ルシオ!」
「うん」
「ルシオ!」
ルシオが居てくれるなら他はなんだっていい
例えこの先仕事がどんなに辛くても耐えられる
リリーとセレナには悪いけど
もう絶対離さない




