73 最強の敵?
季節は春
しばらく会ってなかったのでサラに会いに教会へ向かうことにした
サラを助けてから三ヶ月以上経っただろうか
最初はちょくちょく様子を見に来ていた
教会の人達はサラに親切にしてくれているようで意外と元気そうだった
そのため最後に会ってからかなり間が空いてしまっている
「春になってから本格的に仕事を探す」と言っていたのを思い出し、居なくなる前に会っておこうと思いやってきた
(信仰心とか全くないからか教会ってなんか居心地悪いんだよな~)
中に入ると椅子に座りお祈りしている人たちが数人いた
その中にサラの姿は無かったので奥にある神父等教会関係者が使っている部屋へと足を運んだ
「すみませ~ん・・・」
「はい。おや、君は確か・・・」
ノックして声をかけながら扉を開けると神父がいた
この神父さんとはサラに会いに来た時何度か話したことがある
一応顔を覚えてくれていたみたいだった
「お久しぶりです、神父さん」
「サラさんのお知り合いでしたね」
「はい。サラいますか?」
「少し前『仕事を見つけた』と教会を出ていかれましたよ」
「え!?もういなくなっちゃったんですか?」
「ええ、何も聞いていないのですか?」
「はい・・・どこで何の仕事をとか聞いていませんか?」
「司教様のお話ですと、彼女を雇いたいという方がいらしたそうでその方のお世話になるそうですが・・・どこのどなたかはお聞きしていません」
「そうですか・・・」
(まあ個人情報とかもあるだろうし仮に知っていても教えてくれないだろうな)
「わかりました、挨拶できなかったのは残念ですけど無事仕事が見つかったならよかったです」
「ええ、彼女はとても真面目なのできっとどこへ行っても上手くやっていけるでしょう」
「そうですね」(そうだといいな)
神父に挨拶して学園に帰ることにした
サラに会うのが目的だったのでサラが居ないなら教会に用は無い
部屋を出ると大きなステンドグラスが目に入った
ステンドグラスは縦に長いものが五枚あり、かなり迫力がある
特に真ん中の一番大きなステンドグラスは一際目立つ
(こういうのってどうやって造ってるんだろう・・・)
暢気なことを考えながらボーっと眺めていると、今居る場所から一番遠い反対側にある一番左のステンドグラスに違和感を感じた
少し近くに寄って目に魔力を籠めて見てみると、どうやら幻覚魔法が施されているようだった
(このステンドグラスの下の方の部分だけ幻覚魔法か何かでガラスに見えるようにしてるのか?)
目を凝らして注意深く観察すると、どうやら人が一人通れる程度の隠し通路があるようだった
ちょうどこの位置は広間から見ると大きな柱で死角になる
さらにこちら側には部屋もないので人が近づくこと自体少なそうだ
(教会にある隠し通路か・・・ゲームとかなら貴重なお宝とか置いてそうでワクワクするところだけど・・・)
実際ゲームの主人公のように勝手に入って物を盗ったりするのは普通に犯罪だ
と、わかっていても好奇心が襲ってくる
(別に何かを盗むつもりもないし、そもそも本当に隠し通路があるのかどうか確認するだけ・・・)
そう思いステンドグラスに手を伸ばした
「掃除が大変なのでステンドグラスに触らないでいただけますかな?」
「っ!?」
急に背後から声を掛けられたのでビックリした
(この人見たことがある、っていうかいつの間に・・・全く気配感じなかったぞ!)
そこには司教が立っていた
とても長い白い髭と高級そうな真っ白なローブが印象的な真っ白なおじいちゃんだ
この教会で一番偉い人らしく、王都の中でも五本の指に入るくらい偉い人なのではないだろうか
「司教様・・・ごめんなさい、すごく綺麗だったので・・・」
「ほっほっ、そうでしょうとも。しかし素手で触ると人の油がついてしまうから掃除が大変でねぇ、眺めるだけにしてくれますかな?」
「はい、わかりました」
そして少し速足で教会を出る
(あ~~びっくりした・・・心臓いてぇ)
教会の隠し通路には強力な番人が居るみたいだ
____
__
_
学園に戻り何かめぼしい授業はないか掲示板を眺めていたら
「あら、ルシオ。何か授業受けるの?」
「あ、マヤ。何かないかな~と思って」
「じゃあ一緒にこれ受けない?」
「治癒魔法の授業か・・・」
「いつもアタシ一人だから退屈なのよね」
俺は転移魔法などの特殊な授業を除くと戦闘訓練や複合魔法の授業を受けることが多い
ウィルも大体同じでよく一緒に授業を受けている
リリーとは複合魔法等魔法系の授業で、セレナとは戦闘訓練等格闘系の授業で一緒になることが多い
だがマヤは基本的四元素の魔法をようやく詠唱ありで中級を使えるようになったレベルだ
格闘に関しては少し興味を持ち始めたのだが、「授業についていけるか心配」と及び腰だ
なので授業で一緒になることが殆どない
学園に入学したての頃、一緒に治癒魔法の授業を受けたことはあったのだが
俺がチンプンカンプンで勉強にならなかった
「言ってることマヤはわかるの?」と聞いたら、「なんとなく」と言われたのを覚えている
それからは転移魔法の研究で忙しかったので治癒魔法の授業は受けなくなった
「ま、たまにはいいか・・・」
「ホント!?やった!それじゃ行きましょ」
マヤに手を引かれ教室へ向かう
久々の治癒魔法の授業はやっぱりよくわからなかった
「マヤは本当に先生の言ってること理解できてるの?」
「なんとなく」
「じゃあ怪我と病気の治癒の使い分けとかどうやってるのさ?」
「怪我したときの治癒はギュ~って感じで、病気のときはフワ~って感じ」
「『ギュー』と『フワー』の違いは分かるけど、俺はそれを治癒魔法で再現するのは無理・・・」
「でもそれだとすぐ疲れない?」
「疲れるよ?だから治癒魔法は難しいんじゃん」
「そうなのかしら・・・」
「改めてマヤは凄いと思うよ、感覚で治癒魔法を理解してるんだから」
「ルシオに褒められると照れるわね、アタシから見たらなんでもできるルシオの方がずっと凄いけど」
「治癒魔法だけはマヤの足元にも及ばないな~」
「それくらいはルシオに勝っててもいいじゃない」
「別に悔しい訳じゃないよ?頼りになるな~って思ってるだけ」
「そう?ルシオが怪我したらすぐに治してあげるからね!」
「うん、ありがと」
マヤと話しながら廊下を歩いていると
前方から見覚えのある人物がこちらに向かって歩いてきた
「うっ・・・」
「ん?どうしたの?ルシオ」
(シェーネだ・・・)
授業を受けるつもりなのか男を三人引き連れまっすぐこっちに歩いてくる
不幸にも治癒魔法の授業は廊下の一番端の教室で行われたためシェーネの居る方へ歩いて行かなければいけない
長い廊下には教室がいくつもあり空き教室もある
しかし空き教室は使われない場合一日中鍵が掛かっていることも多いので逃げ込めないかもしれない
かといって現在授業が行われている教室にマヤと飛び込むのは他の生徒の迷惑になるだろう
なによりシェーネの目的の教室がわからないのでどの教室に避難しても遭遇する危険はある
「あら?たしかシェーネとか言ったかしら?あの生徒」
「うん・・・」
「いつも男連れてるわよねあの人」
「うん・・・」
「それに、あんな大胆な服着て・・・」
「うん・・・」
「ね、ねえ。ルシオもやっぱりああいう美人なナイスバディが好きだったりするのかしら?」
「うん?・・・う~ん・・・」
「・・・そうでもないの?」
「いや、綺麗な人だとは俺も思うよ?でもあの人はちょっと苦手・・・」
「そ、そう」
隣でマヤが安堵しているようだが俺はそれどころではない
(どうしよう・・・絡まれないのが一番なんだけど、男連れてるからわざわざ絡んでこないかな?Saveしておくか?んでどこか入れる教室探して鉢合わせないように・・・)
そんなことを考えているとシェーネと目が合った
(やば・・・)
向こうの視線は完全に俺を捉えている
目が合った後ニヤリと笑った気がしたのは気のせいではないはずだ
(どうする?Saveももう間に合わないし、Loadってどこからだ?あ~完全にこっち来てる・・・ちょっと歩くペース速くなってるし・・・)
「どうしたの?ルシオ、具合でも悪い?アタシが治してあげようか?」
「あ!」(それだ!)
魅了は状態異常のようなもの
だったら治癒魔法で回復できるのではないだろうか?
勢いよくマヤの手を握る
「え!?な、なに?ルシオ!?いきなりどうしたの?」
「マヤ、もし俺の様子がおかしくなったら治癒魔法を使って」
「そ、それはいいけど。もう十分おかしいような・・・」
「俺からは絶対にこの手を離さないから」
「わ、わからないけどわかったわ!」
そうこうしているとシェーネが目の前までやってきた
目を合わせないよう斜め下を見る
「あなたルシオ君よね?セレナさんから話を聞いてるわ。この間の大会凄くかっこよかったわよ」
「そうですか、ありがとうございます・・・」
「その子は、彼女かしら?」
「はい」
「え、ええええ!!??ルシオ!?」
マヤとは離れないよう手をガッチリ恋人つなぎしている
なので恋人と思われるのは自然だろう
それに彼女が居るならあきらめるかもしれないという希望が少しだけあった
(くっ、やっぱりシェーネの声に魅了の作用があるのかもしれない・・・話をしているだけで動悸が激しくなってきた)
「もう、いくら彼女の前だからってそれはあんまりじゃない?ちゃんと目を見て話しましょうよ」
「どわっ!?」
「ル、ルシオ!?」
シェーネが無理やり俺の視界に入ってくる
斜め下を見ている所に下から覗き込まれたので思いっきりシェーネの胸の谷間が強調される
希望はいともたやすく砕け散った
そりゃそうだろう、こういうタイプは彼女が居てもお構いなしに略奪するタイプだろうさ
そして一瞬目が合っただけでさらに動悸が激しくなってきた、もう苦しいくらいだ
(やば・・・頭がボ~っとしてきた)
だんだん抵抗する意識が薄れてきて、吸い込まれるように視線がシェーネに向いてしまう
「やっと目を見てくれた」
「・・・・はい、すみません」
「ふふっ・・・セレナさんに話を聞いていたから少し話をしてみたかっただけなの、そんなに怖がらないで?それとも照れているだけなのかしら?」
シェーネはナチュラルに胸の下で腕を組み胸を強調している
(あ~、やっぱエロい体してるなこの子・・・)
「えっと・・・怖がってなんか・・・」
「あら、じゃあやっぱり照れてるのかしら?可愛いわ~」
だんだん何も考えられなくなってきた
マヤと繋いでいた手から力が抜けていく
そのとき繋いだ右手から暖かいものが流れてきた
それと同時にもやがかかっていた思考が一気に晴れ渡った
「ルシオ?大丈夫?」
「うん」
心配そうにこちらを見るマヤの方を見て大きくうなずく
マヤは安心したように微笑んでくれた
(マヤが女神に見える!)
今ならさっきマヤが言っていた『フワ~』って感覚がわかる気がする
マヤから伝わってくる暖かいものに包まれているとシェーネの目を見ても体に何も変化がない
先ほどまでの動悸はすっかりおさまり、驚くくらい心が落ち着いている
「シェーネさん、あなたはそんな手を使わなくても十分魅力的な人だと思いますよ?それじゃ!行こ、マヤ!」
「え?うん」
「ちょ、ちょっと!」
マヤの手を引き逃げるようにその場を去る
シェーネが追いかけてくることはなかった
「はあぁーーー、やばかった・・・」
「どうしたの?ルシオ?」
「ありがとう!マヤ!」
「え?何が?ちゃんと説明して」
「えっとね・・・」
おそらくシェーネが魅了魔法を使っていること、だから苦手だということ
魅了魔法にかかり何も考えることができなくなっていたこと
それをマヤが助けてくれたことを説明した
「ありがとう。マヤが居なかったら俺、あの人のおもちゃにされてたかも」
「は?・・・・・アタシのルシオをおもちゃにですって?おもちゃって何よ、あんなこととかこんなことを好き放題やれるっていうの?そんなことアタシだって妄想するだけなのに・・・」(ボソッ)
(小声で何か言っているけど聞こえなかったことにしておこう・・・)
「あ、それよりごめん・・・つい彼女だって言っちゃった」
「そ、そんなの全然いいのよ!むしろこれからはいつあの女が襲ってくるかわからないんだから恋人のふりは続けた方がいいと思うわ!うん!」
「それはまぁ、ありがたいんだけど。いいの?」
「いいの!いいの!」
「みんなにはなんて説明しようか?そのままのこと話してもいい?」
「う・・・う~ん・・・えっと・・・いや・・・・・・・・・・・そうね・・・」
長い葛藤の末、皆には本当のことを説明することにしたようだ
「ありがとう。あ、もう大丈夫だから手を離すよ?」
「え・・・む、本当かしら?まだ魅了がかかってるんじゃない?ルシオからは絶対に手を離さないんでしょ?」
「そうは言ったけど・・・」
マヤは恥ずかしいのか顔を赤くしながら、それでも俺をからかっているようだ
「じゃあこのまま皆の所に行く?」
「えっと・・それは・・・」
「恥ずかしいでしょ?手を離してもいいよ?」
「いいえ!このままで大丈夫よ!それにいつあの女と遭遇するかわからないんだから、これからはずっと手を握っててもいいくらいよ!」
「それは・・・気持ちはありがたいけど生活しにくくない?」
「それくらいの心意気ってこと!」
「ははっ、ありがとマヤ」
その後図書館へ向かう間ずっと手を繋いだまま学園を歩いた
当然色んな人に見られたし妬みの視線も向けられた
「あ、そういえば。ルシオ」
「ん?なに?」
「ルシオもやっぱりあの女みたいに胸の大きな女の人の方が好き?」
「え!?」
突然そんなことを言われマヤの胸に視線が向く
マヤは成長期なのかここ数ヶ月ですっかり女性らしく成長してきている
シェーネと同じ年になるころにはきっといい勝負になるだろう
「・・・えっち」
俺の視線に気づいたのか
顔を赤くしながらニヤニヤ笑うマヤは反則的に可愛かった




