71 雪と氷の町
「今ネーベという町で雪祭りをやっているんですが・・・もしよろしければルシオ様、一緒に行きませんか?」
ということで
俺は今王都から少し北にあるネーベという町に向かっている
少しと言っても馬車だと片道10日程かかる道のりなのだが
そこは貴族のお嬢様であるセレナの招待ということでかなり快適な旅となっている
10日もかかるので道中さぞ退屈になるだろうと思ったが
馬車の中には俺とセレナをはじめ、ウィルフレッド、マヤ、リリアーナのいつものメンバー、そしてマルクとアリスの双子まで参加することになり賑やかな日が続いている
丁度セレナと双子を一度会わせてみたいと思っていたので
「弟と妹も連れて行ってあげてもいいかな?」と尋ねたところ、「それならみんなで行きましょう」ということになりこのメンバーが揃った
(あの時のセレナの口振りからすると、もしかして俺だけ誘うつもりだったのかな?もしそうだとしたらちょっと悪いことしちゃったかな・・・)
デートのお誘いに他のメンツも誘うという異性に対してとても失礼なことをしてしまったかもしれないと気にしていたが、セレナはなんだかんだ道中いつものメンバーと楽しそうにしているのでとりあえず今は気にしないことにした
子供7人を乗せた馬車とは別にもう一つ、セレナの両親と使用人数名を乗せた馬車が前を走っている
なんでも毎年雪祭りの時期に合わせてネーベに住む祖父母に会いに行っているらしい
なのでセレナ家の旅行にお邪魔する形になっている
セレナの父はかなり厳格な雰囲気の人だったので、もし誘われたのが俺一人だったら気まずくてしょうがなかっただろう
貴族の愛娘であるセレナに対して俺は平民の息子
俺がセレナの父に気に入られる要素はない
なので誘われても家族旅行に俺一人割り込むことになるとわかったらおそらく断っただろう
俺にそこまでの度胸はないし、愛娘に悪い虫がついたと邪険に扱われる気しかしない
そう思っていたのだが
旅の途中、日が暮れる時間になっても近くに集落も小屋もない日があった
大きい馬車なので中で寝ることもできるのだが野外なので当然危険もある
獣はまだ冬眠しているだろうから危険度は低いが、山賊などがいないとも限らない
そんなとき俺が土魔法で即席の小屋をつくったところ、えらく褒めてくれた
それからは休憩の時などに話しかけられることも増えた
セレナの父はセオドアといい、話してみるとなんということはなく
基本無口な仏頂面というだけで、笑顔をつくるのが苦手な不器用なだけの人だった
セレナの母はヘレナといい、セオドアと正反対の朗らかな人でとても気楽に話しかけてくれる
ヘレナはおそらく俺のことをセレナから聞いているみたいで、道中何かと俺の個人情報を聞いてきた
そんなこんなで少し長かった旅も終わり、ネーベの町に到着した
ネーベの東側には大きな山脈が広がっていて
寒気が山脈にぶつかることでネーベ周辺は毎年大雪になるそうだ
そして寒気が落ち着き始めるこの時期、大量に降り積もった雪を利用した雪祭りが開かれるようになり
もう何十年も前から町の名物となっていて、外からも人が集まってくる程になった
ネーベで滞在する数日間はセレナの祖父母の家にお邪魔することになるので皆で挨拶に行き
その後雪祭りを見学することになった
「兄さん、あれ何?」
「あれは『かまくら』って言って、雪で作ったお家なんだ」
「寒くないの?」
「外より全然暖かいらしいよ?入ったことないからわからないけど」
「兄さん、あれ凄い!見て!」
「お~!でっかい雪像だね、どうやって造ったんだろう?」
「あれ動く?」
「さすがに動きはしないと思うよ?」
左手でマルク、右手でアリスと手を繋ぎ雪祭りを見て回る
二人の好奇心は凄まじく、マルクに引っ張られたら今度はアリスに引っ張られ
あっちへこっちへと世話しなく走り回る羽目になった
まぁ楽しいから全然構わないけど
「ルシオ様は良いお兄様ですわね」
「そうだね、マルクもアリスも人見知りだからあそこまではしゃいでるのはボクも見たの初めてだよ」
「そういえば私が初めて会った時もルシオ君に隠れてましたね」
「アタシももっと二人と仲良くなりたいのにいっつもルシオに隠れちゃうのよね~」
マルクとアリスに引っ張られている後ろで四人がそんな話をしていた
せっかくだからこの旅行の間にマルクとアリスには皆と仲良くなってもらおう、同じ出身のウィルはともかく
そんなことを考えながら小一時間歩いていると開けた場所に出た
「セレナ、ここは?なんか整備されてるみたいだけど」
「雪祭りのイベントの一つに雪合戦があってその会場ですわ」
「「!?」」
雪合戦というワードに双子が反応する
「兄さん!あれから練習して雪玉いっぱい出せるようになったよ!」
「アリスも、曲げるのもできるよ」
「ええ!?もう操作もできるようになったの?」
「「うん!」」
「頑張ったんだな~えらいえらい」
「「えへへ~」」
「何の話?ルシオ」
「ちょっと前に二人に氷魔法教えたんだけど、遊びながら練習できるといいなと思って魔法で雪合戦したんだよ。ウィルとはやったことあるだろ?」
「ああ、あれか。二人ともできるんだ、凄いね。結構力加減難しいと思うけど」
「二人ともすぐにできるようになったもんな」
「「うん」」
「それと魔法を操作するやりかたもついでに見せたんだけど、こっちは説明が難しかったからなんとなくしか教えられてなかったのに・・・」
「あれもできるの!?」
「みたい」
「末恐ろしいね・・・」
「間違ったことに力を使わないようしっかり教えておかないとな、兄として」
(まあ二人ともいい子に育ってるし大丈夫だと思うけど)
「さて、端っこまで来ちゃったし一旦戻ろうか。お腹空いて来ちゃった」
「そうだね」
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祖父母の家に戻り昼食をいただく
その後まったりしているとセレナに呼び出された
「実はルシオ様に是非お見せしたい物があるんですの」
「俺に?」
「はい、少しお散歩しませんか?」
「いいけど・・・みんなは?」
「みなさんにも後で見ていただくつもりですわ。でも先にどうしてもルシオ様だけに見てもらいたいので」
「・・・わかった。じゃぁマルクとアリスのことウィルに頼んでくるからちょっと待ってて」
「はい」
ウィルにマルクとアリスの面倒を頼み、外で待っているセレナの元へ向かう
「少しお散歩」と言っていたからそう遠出はしないと思っていたら
セレナはランタンを持っていた、そして町を出て東にある山脈の方へ向かって歩き出した
歩いて数十分、洞窟のようなところにやってきた
そしてセレナに導かれるまま洞窟の中を一時間くらい歩いただろうか
おそらく出口だろう、光が差し込んでいる
「ルシオ様お疲れ様です。もうすぐですわ」
「結構歩いたね。山一つ分抜けたくらいかな?」
「はい。それで・・・ここからは目をつぶっていてくださいませんか?」
「ん?わかった」
「・・・・失礼します」
そう言いセレナが俺の手を握る
目を瞑っているので誘導してくれるのだろう
少し歩くと外に出たのか頬に冷たい空気があたった
「まだ?」
「もう少しですわ、あと少しだけ我慢してください」
言われるがまま手を引かれ歩く
数分歩いた頃
「よかった・・・」
セレナが声を小さく零したのが聞こえた
「ルシオ様、もう目を開けてもよろしいですわよ」
「わかった、開けるよ?」
「はい」
目を開くとそこには幻想的な景色が広がっていた
例えるなら氷でできたサンゴ礁だろうか
地面からつららが上に向かって伸び、それが枝分かれしている
まるで氷の樹木のように
それらが光に照らされキラキラ光り、まるでダイヤモンドのように輝いていた
「・・・・・」
あまりの美しさに言葉が出てこなかった
全身に鳥肌がたった
「・・・どうでしょう?お気に召しましたか?」
「・・・・・・・・・うん」
なんとか言葉を絞り出せた
そんな俺を見てセレナがくすくす笑っている
「あ・・・えっと・・・凄いね、こんなの初めて見たよ」
「これをルシオ様に見せたかったんですの。初めはルシオ様だけに・・・」
「俺だけに?」
「だって・・・マヤさんやリリアーナさんはルシオ様との思い出が沢山あるのに私だけ何もないんですもの、不公平じゃありませんか?」
「ああ・・・ははっ、うん!最高の思い出になったよ」
「喜んでいただけて私も嬉しいですわ」
セレナとは仲良くなってからまだ日が浅い
なのでマヤとリリアーナの二人と比べると一緒にいる時間が圧倒的に少ないので当然なのだが
改めて景色を眺める
「あれって氷だよね?つらら?なんであんな形になるの?」
「詳しくは私も知らないのですけど、ここの地形が関係しているのだと思いますわ」
「もっと近くで見てもいい!?」
「え?はい」
はしゃぐ俺を見てまたセレナが微笑む
「ん?」
氷のサンゴ礁に近づくと気流が乱れているのか下から風が吹き髪の毛がふわりと持ち上がった
極小の竜巻ができているのかサラサラの新雪が小さく渦を巻くように動いている
(山と山の断崖に挟まれた地形に風が吹いて・・・この辺の岩とかにぶつかって気流が乱れてるのかな?それが小さな竜巻をつくって、つららが上に向かって伸びるのか?いやでも・・・それだけでこんな風になるか?)
おそらく風の動きだけではこの景色の説明にはならないと思う
「わかんね・・・」
まあなんでもいい、そう思えるくらいこの景色は美しい
セレナの隣に立ちまた景色を眺める
「セレナ・・・」
「はい」
「俺さ、学園を卒業したら世界中を旅して回って、自分自身でこういった景色を見て回りたいんだ」
「・・・それは、冒険者になるということですの?」
「そうなるかな。今までは漠然と世界中を歩いて回りたい!って思ってただけなんだけど、この景色を見たおかげでより明確に思えたよ」
「・・・・」
「この景色は俺の夢の第一歩だ。ありがとう、セレナ」
そう伝えるとセレナは顔を真っ赤にして前を向いてしまった
照れくさいので俺も景色を眺める
少しして視線を感じたのでセレナの方を見ると目が合った
とりあえず微笑んでみるとセレナはまた顔を真っ赤にして下を向いてしまった
「そ、そうだ!みんなにも見せてあげないと」
「そ、そうでしたわね!」
このまま二人でもう少し景色を眺めていてもいいのだが、のんびりしていると日が暮れてしまうだろう
少し急いで皆の所に戻ることにした
その後皆を連れてまたこの場所に戻ってきた
さきほどセレナがしたように皆には目を瞑ってもらって
セレナがマヤとリリアーナを、俺がアリスを負ぶりながらマルクとウィルの手を引く
「わ~、綺麗・・・」
「すごい・・・」
「「兄さん、あれ何?」」
「マルクとアリスには見せるのが少し早かったかな?」
リリアーナは俺と同じで感銘を受け声も出ないようだ
皆それぞれ違った反応をするので見ていて楽しい
セレナと顔を見合わせ笑い合う
「ねえルシオ!あれって氷だよね?なんであんな風に上に伸びるのかな?」
「俺も考えたけどよくわからなかった、ここの地形が特殊で気流が複雑な動きをするからだと思うんだけど・・・」
ウィルも俺と同じような疑問を持ったようだ
マヤとリリアーナは美しさにただうっとりしている
双子もおとなしく景色を見ているのでこっそりとウィルに話しかける
「なあ、まだ五年も先のことだけど卒業したら世界を見て回るって話。当初の予定では最初はローリスの西の森の奥にある秘境を見つける予定だったけど、北を目指すのもいいかもな」
「そうだね、そこから大陸をぐるっと回ってくるのもいいかも」
「だよな」
俺の世界を見て回るという夢はウィルにはとっくに話している
話をすると自分も行きたいと言い出したので、卒業したら二人で旅をする予定だ
村に居た頃にすでに話していたし、学園に入ってからは徐々に計画を立て始めた
といってもまだまだアバウトな計画だが
「二人で何コソコソやってんの?」
「「内緒」」
女性陣は訝し気にこちらを見ている
セレナは少し感付いているようだが
「さてと、暗くなる前に帰ろうか」
マルクとアリスの手を引きながら帰路につく
後ろで女性陣が感想を言い合っているのが聞こえる
隣でウィルはまだつららが上に伸びていた理由を考えているみたいだ
(あの景色と今日のことは一生忘れないだろうな、セレナに感謝感謝)
世界は美しい
それはきっと自分が思っている以上に
漠然としていた自分の夢がより明確に見えた日だった




