69 リリアーナ
「リリアーナ様、朝です。起きてください」
「・・・ん~、おはようございます」
「はい、おはようございます。朝食の支度ができています、レイラ様がお待ちですのでお早めに」
「あ、はい。ありがとうございます」
「それでは」
今までは自分で起きれていたのに、ここ数日自分で起きることができなくなってきてしまった
いけない、義母がいなくなってからというもの朝ゆっくりしていても誰にも文句を言われないので弛んできてしまっている
それだけ今までが家に居るときでも緊張感を持っていたということだが
義母が捕まってからもうすぐ一月が経つだろうか
私の生活はかなり良い方向に変わった、お姉ちゃんは少し忙しそうだけど
使用人の方達にもよくしてもらっている
義母が居た時は使用人の方達もどこかよそよそしいというか、私の身の回りのお世話はほとんどしてくれなかった
おそらく私の知らない所で義母に何か言われていたのだろう
それが義母が居なくなってからというもの、先ほどのように朝起こしてくれたり着替えを用意してくれたりと、義母やお姉ちゃんにやっていたことを同じように私にもやってくれるようになった
少し体を起こすと冷たい空気が布団の中に入ってくる
窓から外を覗くと雪が降っていた
「う~、布団から出たくない・・・」
一度布団に包まると残っている温もりが心地よくまた眠気が襲って来た
このまま二度寝してしまおうか・・・
「リリー!いつまで待たせるの!」
「はい!!!」
「・・・・・と、レイラ様が仰っておりますよ」
勢いよく体を起こすとそこにお姉ちゃんの姿は無く先ほど起こしてくれた使用人のカミラがニコニコしながら立っていた
「・・・・・カミラさん、お姉ちゃんの真似上手ですね」
「そうですか?ありがとうございます、これからはレイラ様の声真似で朝起こしに来ましょうか?」
「勘弁してください・・・」
「かしこまりました。それでは食堂でお待ちしております」
カミラは私をからかって満足したのか満面の笑みで部屋から出ていった
使用人の方達は今まで私に対して無関心だったので正直まだ少し違和感がある
だけどまぁ、無関心よりはマシなので悪い気はしない
「う~寒・・・よしっ!」
急いで着替えをして顔を洗い食堂へ向かう
「お待たせ、お姉ちゃん」
「おはよう、リリー。最近お寝坊さんね」
「ごめんなさい・・・」
「私は別にいいけど、大人になってもそれだと自分が困るわよ?」
「うん、わかってる」
「それにルシオ君もだらしない子は嫌いなんじゃない?」
「ル、ルシオ君は今関係ないでしょ!」
「そうでもないわよ~、昨日ルシオ君と話してまた遊びに来てもらうことになったから」
「えっ!?いつの間に」
最近はルシオ君に氷魔法の使い方を教わっている
昨日も練習した後いつものように私を家まで送ってくれた
そのときすでに帰ってきていたお姉ちゃんがルシオ君を夕食に誘ったのだけど
いつの間にそんな話をしたのだろうか?
「ルシオ君が来てすぐよ、リリーが着替えに行ってる間にちょっとね」
「え、いつ来るの?」
「さあ?」
「さあって・・・」
「いつでもいいわよって言ったら『近いうちにまた遊びに来ます』って言ってたからすぐじゃないかしら?泊まる準備もしといてねって言ったら『わかりました』って言ってたわよ」
「ええ!?泊まるの?」
「なによ、嫌なの?」
「嫌じゃないけど・・・」
「はは~ん、恥ずかしいのね」
「う・・・」
「最近リリー弛んでるからね~、大口開けていびきかいてるところなんかルシオ君に見られると幻滅されちゃうかもしれないものね」
「そんなことしてないもん!」
「あら、どんなふうに自分が寝てるのかわかるの?凄いわね」
「・・・・・本当?」
「ふふっ、いびきは冗談よ。でも口開けて寝てることはよくあるわよ?」
「本当に?・・・」
「そんなリリーも可愛いけどね」
本当なんだ・・・恥ずかしい
「別にわざわざ泊まってもらわなくても・・・」
「そう?じゃあ、リリーが嫌ならルシオ君には私と一緒に寝てもらおうかしら。冬は寒いからルシオ君抱きしめて寝ると暖かそうだし」
お姉ちゃんがルシオ君を抱き枕にしているところを想像してしまった
するとちょっと胸がチクッとしたのと同時に、確かに暖かそうだとも思って羨ましくなった
ルシオ君は私に魔法を教えてくれる時に上手にできると頭を撫でてくれる
その手はとても暖かい
なので褒めてくれるのが嬉しくてつい頑張ってしまう
手があれだけ暖かいのできっとルシオ君は全身暖かいのだろう
確かに冬のこの時期に布団に入ると暖かくなるまでが長くて辛い
ルシオ君と一緒に・・・
「リリー顔が真っ赤よ?何を想像してるのかな~?」
「はっ!べ、別に何も想像なんかしてないもん!それに普通に客間を用意すればいいでしょ!?」
「あははっ、ほんとリリーは可愛いわね~。これで今日一日頑張れるわ」
「はい!頑張って来てください!御馳走様でした!」
「あ、学園に行ったらルシオ君にいつ来るのか聞いといてね。私は別に今日でもいいからって」
「知らない!」
支度をして学園へ向かう
家を出るときカミラさんが笑いを堪えながら見送ってくれた
きっとお姉ちゃんとのやり取りを聞いていたのだろう
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いつも通り学園の図書館へ向かうとすでにマヤさんが居た
そして二人で話をしているとセレナさんもやってきた
男性陣は今日も図書館には来ないようだ
なので話しても迷惑にならないように学園の食堂へと移動することになった
「・・・ということがあったんです」
「ふ~ん」
「ふ~ん、ってひどいと思いませんか?みんなして私のことからかって」
「う~ん・・・リリーをからかいたくなるお姉さん達の気持ちもわかるからアタシはなんとも言えないわね。そんなことより・・・」
「そんなことって!?」
「そうです!ルシオ様がお泊りに来るってどういうことですの!?・・・ずるいですわ!」
「そうね、どういうことかちゃんと説明してくれる?」
「えぇ~・・・」
この前ルシオ君が家の問題を解決してくれて、その時家に泊まったことは話していた
あれはどういった経緯でそういう話になったのだったか・・・
たしかマヤさんとセレナさんがいつものようにルシオ君絡みで言い合いになって、マヤさんが「アタシはルシオとデートしたことあるもの!」と自慢していたのに少し対抗したくなってしまい、「この前ルシオ君、私の家に泊まっていきましたよ」と言ってしまった
すると予想以上に二人が食いついてきたのが面白くて、自分でも恥ずかしかったはずなのに背中を撫でまわされたことも話してしまった
バレたらルシオ君に怒られると思ってお姉ちゃんのお下がりを着ていたことは黙っておいたけど
するとセレナさんが「私だけ何も・・・」といじけて帰ってしまった
まぁそのすぐあとセレナさんの「ルシオ様~♡」という声が聞こえてまた合流することになったのだけど
以前その話をしていたのでルシオ君が家に泊まるのは別に問題ないと思って話したのに
「前のは家庭の事情があったらしいし、まあ良しとしたけど・・・今度のは?どういう理由でルシオがお泊りするのかしら?」
「まさかプライベートでなんて言いませんわよね?」
「ええと・・・」(完全にプライベートなんですけど・・・)
二人の笑っていない笑顔が非常に怖い
「あれ?マヤ達こんなとこに居たんだ」
私が返答に困っているとルシオ君がやってきた
私にとって助け船となるか、はたまた火に油を注ぐことになるか
「ルシオ!丁度よかった。聞きたいことがあるの」
「ルシオ様!今度リリアーナさんのお宅にお泊りなさるんですの?」
「え?うん、まだ決まったわけじゃないけどそうなるかも。いいんだよね?リリー」
「は、はい・・・私は構いませんけど」
「それって単純に遊びに行くってことなの?」
「ん?」
ルシオ君は私の顔を見て少し考えてから
「それもあるけどレイラさんに招待されたんだよ、『ちゃんとこの間のお礼がしたい』って。断るのも失礼だと思って。そういえばいつ行けばいい?俺はいつでもいいけど」
「お姉ちゃんもいつでも構わないって言ってましたよ」
「そっか、今日も送っていくからレイラさんが居たらその時にでも話してみるよ」
「わかりました、ありがとうございます」
「む~、ルシオがそういうなら本当なんでしょうけど・・・」
「・・・・色々とずるいですわ」
「はっ!、もしかしてルシオ・・・レイラさんが目当てなの?」
「え、ええっ!!!そうなんですか!?だから昨日も私が居ない間にコソコソ話をしていたんですか?」
「はい?」
「ルシオ様は年上の女性が好みなんですの?」
「うん?好きだよ?まあ俺まだ10歳だから会う人大体年上だけど」
「「「そんな・・・」」」
「それを言ったらマヤだって年上じゃん」
「え?あ、そうね!ルシオってしっかりしてるから私の方が年上って自覚あんまりないのよね」
「ルシオ様!レイラさんの毒牙にかからないよう気を付けてください!」
「毒牙?ってかさっきから何の話してたの?」
「実は・・・」
かくかくしかじか
「レイラさんがそんなことを?まぁ確かに最近凄く寒いからな~。俺も実家に帰って寝るときは必ずってくらいマルクとアリスが布団に入ってくるよ?三人で寝ると暖かいからすぐ眠れるし」
「マルクとアリスは兄弟だからいいけどレイラさんは駄目よ!」
「そんなのわかってるよ!さすがにレイラさんとは俺が恥ずかしいって!」
「そ、そうですよね?」
「それに、それはレイラさんが俺とリリーをからかうために言った冗談でしょ?何本気にしてるのさ」
「う、まぁ冷静に考えればそうよね・・・」
「私としたことが冷静さを欠いていましたわ・・・」
「いや・・・お姉ちゃんなら本気かもしれないですけど・・・」
「もしレイラさんが寒くて眠れないっていうなら俺が普段使ってるいい方法があるから大丈夫だって」
「ん?わかりました」
「相変わらずだね、レイラさんは」
「はい・・・それに最近は使用人のカミラさんまで私のことからかうんですよ・・・」
「嫌なの?」
「嫌って程ではありませんけど・・・」
「みんながみんなリリーをからかうから疲れちゃった?」
「そんなところです・・・」
「そっか・・・えっとね、みんながリリーをからかうのはみんなリリーのことが大好きだからってのは気づいてる?」
「うぇ?」
突然のことで変な声がでてしまった
「レイラさんもマヤも、きっとそのカミラさんもみんなリリーのことが大好きでリリーとお喋りしたいから、ついからかうようにちょっかい出しちゃうんだよ。もちろん俺もリリーのこと大好きだよ?」
「あぅ」
「まぁ、そうね。ルシオの言う通りだわ」
「リリーの反応が可愛くて、それが見たくてつい色々ちょっかい出しちゃうんだ」
「え、えっと」
「でもリリーが疲れちゃうのは本望じゃないからこれからは自重するね」
「いや・・・今まで通りでお願いします」
「そう?ありがと」
「・・・どういたしまして」
ルシオ君は卑怯だ
平気な顔でこういう恥ずかしいことを言ってくる
マヤさんも以前言っていたが、こっちばかりドキドキしてちょっと悔しい
「というわけで!三人のこの後の予定は?無いならウィルも誘ってまた何かやろうよ」
「いいわよ」「いいですわね」「わかりました」
「あ、その前に俺ご飯食べに来たんだった」
「そういえばルシオはさっきまでどこに居たの?」
「教会」
「教会?なんで?」
「アフターケア」
「は?」
「こっちの話」
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結局次の日にルシオ君が遊びに来ることになった
お姉ちゃんは割と本気でルシオ君と一緒に寝ようとしていたみたいだけど、ルシオ君が温風魔法で布団を温めてくれたのでルシオ君が抱き枕になることはなかった
そしてその日はちょっとだけルシオ君の匂いがする布団でぐっすり眠ることができた




