67 奴隷と商人
今俺は王都の下水道に居る
かれこれ五時間は経つだろうか
寒さと匂いは風魔法で体の周りに空気の層をつくることで凌ぐことができる
だが何もせずただ息を殺して待つというのは思いのほか疲れる
なぜこんなところで何時間も待っているのかというと
リリアーナの家の件が片付いた数日後にまた被害者が出たからだ
早朝街をランニングがてら見回っているときに人だかりを見つけてこのことを知った
被害者は若い女性で、やはり切り刻まれていたらしい
直接死体を見たわけではないのでわからないが、おそらく今度は連続切り裂き殺人の真犯人の仕業だろう
その後Loadして同じように日々を過ごし、被害者が見つかった前日の夕暮れから発見現場である下水道に身を潜めて犯人がやってくるのを待っているということだ
念のため夕方ここに来た時死体を探してみた
しかし見つからなかったので、おそらく夜の間に犯人が運び込むのだと思う
これでは被害者が二度殺されることになってしまうが、あてもなく犯人を捜すより確実に犯人を見つけることができると思いこの方法を選んだ
(今何時頃だ?夕方からここにいるから時間の感覚がなくなってきた・・・朝まで半分は経ったかな?)
季節はすっかり冬で下水道の中は恐ろしく寒い
念のために用意した食料と水もすっかり冷たくなってしまっている
(水はともかくパンとか下水の湿気を吸ってそうで食べたくないな~・・・まあ朝までくらいならなんとかなるか)
待ちくたびれて暢気なことを考え始めた頃
足音が少しだけ響いてきた
(来たっ!)
音に集中しながら気づかれないよう気配を殺す
暗闇でも動けるよう目と耳を強化して様子を伺う
少し待っていると近くでバシャーンと水に何かを投げ込むような音が響いた
しかし陰から顔を覗かせても姿は見えない
おそらく少し先にある分かれ道の先にいるのだろう
(まずい、思ったより奥だったか。逃げられる)
足音を消し音が鳴った方へ向かう
すると分かれ道を左に曲がろうとしたとき水路から死体が流れてきた
先ほどの音は死体を水路に投げ込んだ音だったのだろう
(すまない、必ず助けるからな)
死体が流れてきた道の先を覗くと人影が見えた
(ここで拘束してもいいんだけど・・・あいつの家を特定しておいた方がいいか)
そう思い犯人を尾行する
犯人が何度か振り返ったりしてヒヤッとした瞬間はあったが暗闇のため気づかれることはなかった
しばらく下水道を歩き別の出口から地上に出た
(ここは・・・)
街の東の関所から少し離れた場所に出た
ランニングでこの辺りを数回通ったことがある
この辺りはリリアーナの家などがある西側の貴族街と違い、スラム街というほどではないが貧しい人が多く住む区画だ
死体が発見されたのはここから少し南の区画だ
そして犯人は一軒の民家に入っていった
倉庫のような建物と繋がるように建っているので結構大きな家だ
民家の一室に明かりがついた
(さて・・・どうするかな)
犯人の根城はわかった
一度乗り込んで情報を仕入れておくか
それともやり直してここを見張っておくか
犯人の顔や性別、体格、戦闘スキルの有無などを知っておくため乗り込むことにした
しかし扉には鍵がかかっている
(どうせやり直すんだから手荒にいくか)
明かりのついている部屋の窓を破壊しながら中に入る
「な、なんだ!?」
突然家の窓を壊され、子供が飛び込んできたことに驚きワタワタしている
犯人は細身の男だった、平均的な身長で特に目立つ特徴はない
街ですれ違っても特に印象に残らないタイプだ
「お前が切り裂き殺人犯か」
「な、なんのことだ!小僧!こんなことしてただで済むと思っているのか!」
犯人は子供の俺を見て少し余裕が出たのか逃げ出す様子もなくゆっくり近づいてきた
『ストーンボール』を顔に向けて放ってみた
「がっ!」
「あれ?」
そのまま顔に受け犯人は痛みでのたうち回っている
(よわ~~~。もういいや、こんな男に殺された女性が不憫だ)
_______
Loadしますか?
►はい/いいえ
_______
そしてリリアーナの家に泊まった翌日に戻る
「ごめん、俺これから用事あるから先抜けるね」
「用事って?」
「ちょっとね」
「何かアタシに手伝えることある?」
「ううん、ありがとうマヤ。本当に大した用事じゃないから」
「そう・・・」
昼過ぎに勉強会を抜け出す
「ルシオ君!」
「あれ?リリーどうしたの?」
「用事って、昨日言っていた切り裂き魔と関係が?」
「え~っと・・・うん、犯人はベルクラじゃなかったからいずれ新しい被害者が出るかもしれないんだ」
「私も手伝います」
「ありがとう。でもマヤにも言ったけど本当に大丈夫だから」
「でも・・・」
「多分あっさり片付くと思うよ?」
「・・・・ルシオ君がそう言うんでしたら」
不満そうではあるがしつこく食い下がってくることはなかった
(リリー達に心配かけさせちゃったな)
学園を出て犯人の家へと向かう
家に着き玄関を叩いたが誰も出てこない
(いないのか?)
家の周りをぐるりと回ってみたがどうやら留守のようだ
仕事に行っているのかもしれないので日が暮れるまで少し離れた所で待つことにした
そして日が暮れる
しかし待てども犯人が帰ってくることはなかった
(いや~な予感がしてきた・・・)
被害者である女性が今この段階で既に殺されている可能性もある
なので面倒だったがこの数日間をやり直していたのだ
もしリリアーナを助けた段階で殺されていたら、もう女性を助けることはできなくなる
(数日あったから大丈夫だと思ったけど失敗だったか?でもSaveしておかないとまたリリーが危険な目に合うことになるし・・・)
夜中になっても犯人が帰ってくることは無かったので仕方なく寮へ戻ることにした
____
__
_
そして次の日朝から犯人の家に向かったが、まだ犯人は帰ってきていなかった
その日はただ待つだけではなく周辺の住民に聞き込みをしてみた
どうやら犯人は商人を名乗っているらしく、馬車で東の関所から外へ行くことが多いようだ
しかし王都に店を構えているわけではないので、王都から少し東にある集落と取引している行商人のようだった
犯人について近所の住民から良い印象を聞くことはなかった
愛想が無いだとか、行商の旅に連れている徒弟が毎回変わっているだとか
そのため奴隷商と繋がっていて人身売買の手伝いをしているのではといった噂もあった
そして結局死体を下水道に捨てる日まで犯人は帰って来なかった
帰って来た犯人を待ち伏せて拘束し、馬車の積み荷を確認したところ樽の中に入れられた女性の死体を発見した
尋問したところ今までの切り裂き殺人もこいつの仕業のようだった
徒弟として奴隷を買っては人目につかないところで切り刻み、殺して、捨てる
女性も行商の手伝いをさせるため奴隷商から買ったらしく、王都と東の集落の間にある休憩用の小屋で昨日殺したそうだ
殺した理由は単純に人を切り刻むのが好きという理由の快楽殺人だった
なぜ死体を王都の外の山や森で処理せずわざわざ持ち帰って来たのかと聞くと、死体は犯人にとって芸術作品なんだそうだ
「人の目に触れて初めて作品が完成する」と、わけのわからないことを言い出したのでとりあえず顎を砕いておいた
ならばなぜもっと人目に付きやすい広場等に死体を置かなかったのか?と疑問もあるが、王都は夜中でも憲兵がパトロールしていることが良くあるので見つかるのを恐れたのだろう。中途半端なやつだ
犯行が昨日なので女性を助けられるとわかりホッとした
犯人が嘘をついている可能性もあるが、犯人の悲鳴で人が集まってくるほどの拷問をしたのでおそらく本当のことだろう
_______
Loadしますか?
►はい/いいえ
_______
そしてまた勉強会の景色に戻る
(はぁ~・・・こんなことなら犯人の家を特定したときにもっと情報聞きだしておくんだった・・・)
犯人の証言が本当なら今頃東の集落へ向かっているところか、すでに集落で行商しているところだろう
皆に勉強会を抜けることを話し、準備をして東を目指す
(こんどこそ、こんどこそ助けてみせるからな)
東の関所を抜け集落を目指し馬を走らせる
半日ほどで休憩用の小屋を見つけた
しかし利用している人はいないようだ
そのまま集落を目指しすっかり夜になったころ集落についた
こんな夜中に子供がやってくると怪しまれるので集落から離れた場所で野宿することにした
翌日集落の中に入り犯人を捜す
小さな名前もない集落だったのであっさり見つけることができた
(よかった、生きてる)
鞭を打たれながらも懸命に働く女性の姿がそこにはあった
見た目だとマヤより少し年上くらいだろうか、女性というより少女という方がしっくりくる
(ごめん・・・もう少しだけ我慢して)
そしてそのまま集落の外で犯人の乗った馬車が出てくるのを待つことにした
____
__
_
翌日の朝
犯人が御者台に乗った馬車が集落から出てきた
俺は気づかれないよう街道を逸れてかなり離れたところから尾行した
おそらくこの王都と集落を繋ぐ街道を利用する人間はほとんどいないのだろう
すれ違う人は一人もいなかった
そして夕方小屋へとたどり着いた
小屋から離れた場所に馬を繋ぎ、気づかれないよう近寄る
窓から中の様子を見ようと思った時中から悲鳴が聞こえた
中を覗くとナイフを持ち興奮した様子の犯人が見えた
扉を勢いよく開け犯人の注意をひく
「さんざん手こずらせやがって!」
「な、なんだお前は!?」
いつもみたいに氷漬けにすることはせず
むかついていたので思いっきり殴った
「ぎゃんっ!」
犯人は強く壁にぶつかり気を失った
「大丈夫!?」
「・・・・は、はい」
「はぁ~~~よかった~」
(やっと終わる・・・)
「あの、あなたは?」
「ん?え~っと・・・」
(なんて説明しよう・・・)
通りがかりにしてはタイミングが良すぎる
「正義の味方?」
「は、はあ・・・」
「そんなことより怪我はない?」
「え?えっと・・・」
「あ!?血出てるよ!」
女性は手から血を流していた
幸い切り傷は浅く、治癒魔法で簡単に治すことができた
「ありがとうございます」
「うん、それよりこいつの荷物にロープとかなかった?」
「あ、あります!」
その後ロープで犯人を拘束して夜が明けるのを待った
女性の名前はサラ
生まれは貴族だが数か月前両親が悪事に手を染め牢獄に入れられることになり、サラは路頭に迷うことになってしまった
そしてホームレスのような生活をしていた所を奴隷商に捕まり犯人に買われたということらしい
歳は13でマヤの一つ上だった
「なので王都に戻っても私に居場所なんてないんです・・・」
「・・・・」
なかなか言葉が出てこなかった
何を言っても安っぽい言葉になりそうで
「それでも・・・」
「はい?」
「それでも、生きてさえいれば・・・なにか良いことがあるかもしれないし・・・いや、ごめん。無責任なのはわかってるんだけど・・・」
「いいんです。ありがとうございます」
その後何も励ましの言葉をかけることができず朝になった
王都へ戻り犯人を憲兵に突き出す
顔見知りの憲兵もいた
「あれ?君はこの前の、ルシオ君だっけ?」
「この間はどうも。こいつが最近起こってた連続切り裂き殺人の犯人だと思うよ憲兵さん」
「は?本当かい?」
「うん、んでこの子が被害者」
「えっと・・・」
「とりあえずこいつがこの子を殺そうとしたのは事実だし牢屋に入れといてよ。んでその間切り裂き殺人が起こらなかったらこいつの仕業だったってことにならない?」
「とりあえず詳しく話してくれないか?」
サラと一緒に事の顛末を詳細に説明した
「なるほど・・・わかった、しかし君は凄いな~私たちでも捜査に苦労していたのに・・・」
「どっちも偶々だけどね」
「偶々ねえ・・・」
「そ、それよりサラの住むところとかどうにかならない?」
「ああ、それなら教会か孤児院に話をしてみよう。サラちゃんの場合もう大きいから孤児院は厳しくても、教会なら一時的に住まわせてくれると思うよ」
「ホントですか!?ありがとうございます」
「よかったね、サラ」
「はい」
「とはいっても一時的にだからね、仕事とかは自分で探さなきゃならないだろうから大変だとは思うけど」
「はい、頑張ります」
奴隷としてでも働いていれば生きていける
そう思っていたら主人に殺されそうになり働き口を失い、また路頭に迷うことになる
昨日のサラはこれからのことに絶望していたが今では目に光が宿っている
衣食住さえしっかりしていればあとは生きる気力があればなんとでもなるだろう
「ルシオ君の言うようにとりあえず生きてみます。生きてさえいれば何か良いことが起こるかもしれませんから」
「困ったことがあったら俺も力になるよ、俺は王立学園にいるからいつでも来て」
「はい、ありがとうございます」
これでようやく日常に戻れる
久しぶりの長い長いやり直しはこうして幕を閉じた




