64 打開策
ようやく連続殺人犯らしき人物を見つけることができたのはいいのだが
まんまと犯人にリリアーナを人質にされてしまった
今回はリリアーナに事情を説明していない
なのでリリアーナ自身の警戒が弱かったのかもしれない
(だとしてもこんな路地裏を、しかも夜道で油断するなよリリー。夜道は危険が潜んでいるってお母さんに習わなかったのか?・・・習わなかったんだろうなぁ義母だし・・・ってそんなこと考えてる場合じゃない!)
「人質なら俺がなるからその子を解放してくれませんか?」
「無理だ」
「俺のことならどうしたって構わないから!」
「あまり大きい声を出すな。今すぐここから消えろ、じゃないとこの子を殺すぞ」
「ルシオ君、私のことはいいですから・・・この人やっつけちゃってください」
「リリーを見捨てることなんてできないよ・・・」
「ルシオ君・・・」
元気な男の子より気弱そうな女の子の方が人質としては扱いやすい
(だからといって『はい、わかりました』とここから離れるわけにはいかないんだよ)
フードをかぶっているせいで犯人の顔を確認しにくい
目元あたりがよく見えない
しかし声等から察するに男のようだ
(どうすれば・・・)
Loadしてリリアーナが家を出たタイミングで声をかけ注意を促すのが利口な判断だとは思う
しかしやり直したらまた何かが変化して犯人と遭遇できなくなってしまうかもしれない
もちろんリリアーナの無事が最優先なのだが
今この場でリリアーナを救い、犯人を捕まえることができるのが理想だ
(一つ方法はある・・・)
アルベドから理論は聞いているし何回かLoadしてやり直す羽目になったため練習は何度もできた
ちゃんと成功したことはまだ一度もないが
(幻覚魔法を使えれば・・・ふぅ~、集中しろ・・・)
「早くどこかに消えろ、この子を殺すぞ」
「うぅ・・・」
犯人がリリアーナの首元にあてているナイフを少し動かした
「くっ、わかった・・・わかったから」
そう言いながら犯人に対して幻覚魔法を使用する
俺が後ろを向いてゆっくり離れていくのをイメージした
だが実際の俺はすぐ横の細道に隠れる
そのまま犯人の方に近づいてもいいのだが幻覚魔法が成功している保証はない
もし失敗していた場合犯人がリリアーナを本当に殺してしまうかもしれない
なので成功しているかの確認のためにまず横道に隠れた
(どうだ?)
陰から顔を出し犯人の様子を見る
犯人はずっと正面を見続けていた
しかしリリアーナとは目が合っている気がする
(上手くいったか?)
ゆっくり音を殺し犯人に近づく
リリアーナにはわかるよう『静かに』というジェスチャーをしながら
幻覚魔法を使っていても俺自身が声を発したり、第三者などの介入で対象者の意識がズレた場合簡単に解けてしまうらしい
アルベドの幻覚魔法はかなりのレベルに達しているため幻聴も聞かせられるそうだが
もうすでに犯人の斜め前、かなり近くまで来ている
例え暗くても目が慣れていれば視認できる距離だろう
それなのに犯人は正面を見続けていた
幻覚の俺が見えなくなるまで離れるのを待っているのだろう
(いける!)
犯人の持つナイフの刃を左手で掴み、リリアーナを羽交い絞めしている方の手を右手で掴む
そして犯人の手をリリアーナから外すと同時に、犯人とリリアーナの間に風魔法を使いそのまま犯人を吹き飛ばす
反動でリリアーナが俺の方に飛ばされるがしっかり抱き留めた
「リリー!大丈夫!?」
「今のが言っていた幻覚魔法ですか?凄いですね・・・」
「何を暢気に・・・リリーこれ!?」
抱き留めた手に変な感触がしたと思ったので確かめるとリリアーナの背中は真っ赤に染まっていた
「これ背中・・・刺されたのか!?」
「はい・・・でも大丈夫ですよ・・・一応治癒魔法だって使えるんですから私・・・」
「だったら捕まってる時に治しとけよ!」
「えへへ・・・すみません」
おそらく最初に犯人に後ろから襲われたときに刺されたのだろう
今もリリアーナの背中からは血が溢れ続けている
自分に治癒魔法を使うというのは実は結構難しい
治癒魔法を使う際、マヤのように得意な人なら違うのだろうが俺やリリアーナのように特別得意ではない場合結構な集中力が必要になってくる
しかし自分が怪我をしている場合痛み等のせいで治癒するだけの集中力が続かないのだ
そのため以前俺が風邪で寝込んだ時も上手く治療できず、結局アニーにお世話になった
急いでリリアーナを治療しようと思った時、路地の奥の方で犯人が立ち上がるのが見えた
「お前はそこでじっとしてろ!」
氷魔法で犯人の動きを封じる、死なないように顔は出した状態で
力余って路地一帯を氷漬けにしてしまった
今すぐ犯人をボコボコにしてやりたいほどの怒りが襲ってくるが順番を間違えるわけにはいかない
「ルシオ君、顔が怖いです・・・」
「今すぐ治すから」
「すみません・・・」
目いっぱいの魔力を使いリリアーナの怪我を治療する
「もう大丈夫です、痛みもありませんよ」
「もうちょっと」
「もう大丈夫ですって」
「もうちょっと!」
「もう・・・フフッ」
女の子の体に傷が残ったら大変だ
じっくりと十分すぎるほどの治癒魔法をかけた
「ちょっと!ルシオ君も手から血が出てませんか!?」
「あれ?ホントだ。さっき刃を握ったからかな」
「なんで刃を握るんですか!?」
「あいつの腕を掴むとナイフがぶれてリリーに当たるかもしれないだろ?」
「もう!無茶しないでください!私が治します」
今度はリリアーナが治癒魔法をかけてくれる
「ありがとうリリー」
「こちらこそありがとうございます」
「後で傷が残ってないか確かめるからね」
「別にいいですよそれくらい・・・」
「よくないよ!リリーは女の子なんだから」
「自分で確認しますから」
「背中なんだから見えないでしょ」
「脱げって言うんですか!?」
「脱げって言ってるんです!」
「家に帰ったら鏡で確認します!」
「むぅ~・・・」
「なんで残念そうなんですか・・・」
「ははっ・・・・・・・・・さてと」
(次はこいつだ)
「ここ最近起こっていた連続切り裂き殺人の犯人はお前か?」
「・・・・・」
「喋らないか・・・」
「ぐあっ!」
雷魔法で電気を流す
リリアーナを傷つけられた怒りで今ならこいつに対してかなり残酷なこともできそうだ
「犯人はお前か?」
「・・・・・・」
「チッ」
このまま憲兵に突き出すのでは俺の気が済まない
(さて、どうしてやろうか・・・)
「おじさん、どうしてこんなことしたんですか?」
「殺人犯の心情なんて俺達にはわからないよ」
「それはそうかもしれませんけど」
「お前の母さんに頼まれたんだよリリアーナ」
「義母に・・・?」
「・・・・・・・は?」
話の流れについていけない
「どういうこと?ってかなんでこいつリリーの名前知ってるの?それに・・・」
「この人は私の義母の弟で、一応私の叔父にあたるんです」
「叔父?・・・さっきの『おじさん』って『おっさん』って意味じゃなくて『叔父さん』ってこと?」
「はい」
「・・・・」
あまりの展開に言葉が出ない
(じゃあこいつは自分の姪っ子を殺そうとしたのか?ってか義母に頼まれたって・・・じゃあ他の連続殺人はこいつが犯人じゃないってことになるのか?ちょっと待ってくれ・・・)
リリアーナが油断したのは顔見知りだったからだろう
しかしこいつが連続殺人の犯人じゃないとすると真犯人がいることになる
(でも最初リリーが殺されたとき体を切り刻まれていた・・・あれはこいつの仕業だったのか?いや、口にしないだけで本当はこいつが連続殺人犯ってことも・・・)
わからなくなってきた
とりあえず目の前の問題から処理することにしよう
「さっき義母に頼まれたって言いましたよね?それって本当なんですか?」
「そうだよ、姉さんはそうとうお前のことが嫌いみたいだな」
「・・・・・・そうですか」
「リリー・・・」
「ま!私だって義母のことは大嫌いですけどね!ルシオ君この人憲兵に突き出しちゃいましょう!」
「あ、あぁ」
どう見たって無理をしているのがわかる
九歳の女の子が義理とはいえ母である人に命を狙われたんだ、平気なわけがない
「こいつは良いとして・・・お義母さんの方はどうするの?」
「どうしましょう・・・このまま帰って義母に『私の命を狙っても無駄ですよ』とか脅してみます?」
リリアーナがふざけたように言う
「義母も憲兵に突き出す」と言わないのはきっとレイラのことを思ってだろう
リリアーナにとっては義理の母でもレイラにとっては実の母親だからだ
「レイラさんに話をしよう」
「駄目ですよ」
「リリーが話さないなら俺が話すよ」
「駄目です」
「レイラさんが悲しむかもしれないから?」
「・・・・・はい。私にとっては意地悪な義母ですけど、お姉ちゃんにとっては本当のお母さんなので」
「でもレイラさんにとってはリリーだって本当の妹なんだよ?」
「それは・・・」
「リリーの言う通りにしたらリリーばっかり我慢することになる。リリーだけが毎日怯えて暮らすことになる。俺はそんなの耐えられない」
「ルシオ君・・・」
「リリーが辛い日々を送ることになるなら俺はレイラさんに話をするよ」
「・・・・・」
「大丈夫、俺が何とかする。してみせるから」
「ルシオ君がそう言うと本当にどうにかしちゃいそうですね」
「もちろん!どうして俺がここにいるのか不思議に思わない?」
「・・・あ!」
リリアーナには俺が神子と呼ばれていることを話している
なぜ俺がここに居るのかをすぐに理解したようだ
「俺に任せて。少なくともリリーとレイラさんが笑っていられるようにしてみせるから」
そういうと緊張の糸が切れたのかリリアーナは大粒の涙を流し始めた
「はい・・・お願いします」
「うん」
泣きじゃくるリリアーナの頭を撫でる
(さ~て、啖呵切っちゃったし頑張るか!)




