42 九歳の大会 参
大会五日目、決勝戦
いつもなら念のためSaveしておくとこだが
昨日のリリアーナの様子が気になりSaveはしないでおいた
まあ別に優勝にこだわっているわけではないので、決勝でセレナに負けてもかまわないし
決勝の前に3位決定戦が行われるそうなのだがアレンの姿がない
セレナに負けたことがよっぽどショックだったのか
ヴァイスに話を聞いてみたら俺とセレナとリリアーナは三人とも前回の大会後からの一年間で特待生として入ったようでアレンもセレナの強さを知らなかったみたいだ
結局アレンは開始時刻になっても現れなかった
そのためリリアーナが不戦勝で3位となる
喜ぶこともなくリリアーナは相変わらず元気がない
俺に何かできることがあればいいが
とりあえず目の前の決勝戦に集中することにする
「それでは9歳以下の部決勝戦を始めます。ルシオ、セレナ、舞台へ」
(この子が肉弾戦でアレンに勝ったのか・・・見た目では信じられないけど)
今は動きやすい恰好をしているが、俺が見覚えのある普段のセレナはいかにもお嬢様な格好をしていた
ひらひらのついた服を着て、長いブロンドの髪を巻いて
口に手を当てて「オーホッホ」とか笑いそうな雰囲気だ
そんな笑い方をしているとこは見たことないが
(さて、どう来るかな?)
内心ちょっとワクワクしている
いつも通り相手の出方を見てみよう
「それでは決勝戦、始め!」
開始の合図と同時にセレナが凄い勢いで突進してくる
(なるほど、強化魔法か・・・かなりの魔力だな)
俺も全身に強化魔法をかけて迎撃する
セレナの攻撃はかなり直線的なパンチとキック
攻撃は読みやすいので避けやすい
だが一撃一撃がかなり重くて強力だった
(戦い方はシンプルだな、まあシンプルが故に力量が下の相手からしたら厄介なんだろうけど)
セレナの戦い方はとても単純だった
ただ強く、ただ速く
それを膨大な魔力を使った強化魔法で成し遂げている
強化魔法は込める魔力を増やせばそれだけ効果も上がる
セレナの戦い方に合わせて俺も強化魔法を使い攻撃をかわし続けている
(完全に脳筋だなこれは・・・だったら)
舞台上に霧を充満させ視界を塞ぐ
「くっ、卑怯な・・・」
セレナは霧の中で何も見えていない様子だ
そして死角から蹴りを入れる
蹴とばされ舞台の端までセレナが吹っ飛んだ
(あれ、場外にするつもりだったのに)
ダウンをとったがすぐに立ち上がる
そして蹴りが入ったところに治癒魔法をかけ始めた
(治癒魔法も使えるのかよ!?)
まともに戦うと非常に厄介な相手だ
膨大な魔力で強化魔法を使い、ダメージを与えてもすぐに回復される
このまま場外に押し出そうかなと考えていると
「卑怯者!正々堂々戦えないのか!」
「・・・・いや、これも戦法なんだけど」
視界を妨害しただけで卑怯者と言われてしまった
「君も男だったら正々堂々正面から来い!昨日戦ったアレンはそこだけは見所があったぞ!」
「わかったよ・・・」(どこまで脳筋なんだよこの子・・・)
アレンのそれは男気というか油断だと思うけど
舞台を覆う霧を消す
(まあいいか、観客からすれば何が起こってるのかわからない試合はつまらないだろうし。セレナの攻略法は他にもある。それに最近体動かす量も減ってたし、いい機会だ)
「これでいい?正々堂々やろうか」
「ああ!それでこそ戦いだ」
(英雄物語でも読んで感化されてるのかなこの子)
息抜きに図書館で読んだ、英雄が魔王と一騎打ちをして勝ち世界を救うという物語
その英雄は正面から魔王城に乗り込み魔物を倒しながら魔王のもとへ向かって、魔王相手でも正面から堂々と立ち向かった
なんというか熱い
ある意味アレンより熱いと思う
正直俺の苦手なタイプだ
「女の子殴る趣味は無いんだけど・・・」
「今の私はただの戦士だ!気にするな!」
「・・・・」
「来ないのならこちらから行くぞ!」
最初と同じようにセレナが攻撃をしてくる
俺は適度な強化魔法でそれを避けたり受け流したりしながら隙を見つけては軽く攻撃を入れる
「くっ、やるな。ならこれならどうだ!」
セレナのスピードが一気に上がった
攻撃は相変わらず単調だがとにかく速い
「ははっ、凄いなセレナ」
「そういいながら攻撃は全然当たってないじゃないか!」
(一体セレナの魔力はどれだけあるんだ?)
さっきから隙をみてはちょくちょく攻撃を入れている
ある程度ダメージを入れるとセレナは治癒魔法を使い回復している
治癒魔法は普通の魔法より魔力を使う
それをこれだけの強化魔法を使いながら何度もだ
魔力の底が見えない
(けどまだ子供なんだし、こっちが温存しながら戦えば先に向こうがガス欠になるはず)
それが俺の作戦
セレナがただ力任せに戦うのなら、ばてるのを待てばいい
そう思っていたのだが
「くそっ、埒が明かないな。これで決める!」
「うわっ!?」
セレナのスピードが更に上がった
今までのは力を抑えていたみたいだ
(これは・・・まずいな・・・)
今のままでは攻撃を避けるのが難しくなってきた
それほどセレナの動きは速い
こちらも温存している余裕などなくなった
「どうだ!」
「ぐっ・・・くそ」
セレナの攻撃を一発まともに食らってしまった
華奢な女の子からは想像もつかないほどの重い一撃
このギャップは、それだけ強化魔法に魔力を使っている証拠だ
(もういいや・・・受けて立ってやるよ)
ここで地味に負けず嫌いな性格が発動してしまった
俺も残りの魔力を強化魔法に使う
(セレナと同じ戦法で勝ってやる)
そこからはもうただの殴り合いだった
俺はセレナの攻撃をある程度避けながらだが、俺の攻撃はほぼセレナに当たっている
だが俺もギアを上げたのでお互い治癒魔法を使う暇がない
(ははっ、なんか・・・こういうのも楽しいな)
お互い痣だらけになりながら殴り合う
殴られて痛いはずなのにそれでも楽しい
思えば全力を出したことなんて今までほとんど無かった
「ぐぅ・・・うぅ」
セレナの右ストレートを左手で受け流しながら鳩尾に右でカウンターを入れる
そしてセレナが膝から崩れ落ちる
「戦闘不能とみなします、勝者ルシオ!」
審判が俺の勝ちを宣言する
次の瞬間観客席から歓声が上がった
「はあ・・・はあ・・・」
(勝った・・・きつかった・・・でも、楽しかったな)
立ち上がれないセレナに治癒魔法を使ってあげる
「君は治癒魔法まで使えたのか・・・完敗だな・・・」
「ありがとうセレナ、楽しかった」
「あ・・・ああ!私もだ!」
「ん?あ・・・あれ?」
セレナの回復の途中で魔力が切れてしまった
フラフラしてその場にへたり込む
「ははっ、ギリギリ勝てたみたい」
「ふふっ、私が治してさしあげますわ。ルシオ様」
「・・・・・口調が違うんだけど」
「ああ・・・普段はこんな感じですわよ?戦ってる時は気持ちが高ぶっているので」
「なるほど・・・今の方が俺は好きかな」
「まあ!わかりましたわ、ルシオ様」
(お嬢様キャラの方がしっくりくるのに。あの戦い方のせいですっかり忘れてた)
セレナの治癒魔法のおかげで体の痛みはすっかり治った
魔力切れで体はだるいが
それでも久しぶりに思いっきり体を動かしてスッキリした
その後は表彰式があったが出たのは俺とセレナだけ
アレンは相変わらずだが、リリアーナまでいなくなってしまった




