36 友達から
王立学園に入学することを決めてからも毎日のルーチンは変わらない
午前中は剣術、午後は魔法
魔力強化や筋トレも欠かさない
だが稽古で今まで以上にウィルと一緒にいることが増えた
「しばらくしたら王都に行く」と知らせるとウィルも寂しく思ってくれたのか、今までは二、三日に一回程度だったのがほぼ毎日一緒に稽古するようになった
「王都に行っちゃう前に教えておいてほしい魔法がいっぱいあるな~」
「中級までは一応全部使えるだろ?上級はこの辺じゃ危ないし」
「まだ氷魔法とか使えないもん、雷魔法だって」
「氷魔法は水魔法の派生形だよ、寒くなると水って氷になるだろ?」
「それはわかってるけど・・・ねえ、ボクに魔法教えるのってルシオの練習の邪魔になってない?」
「は?別に?」
「ルシオと違ってボクは才能ないから覚えるのも遅いし、無詠唱もできないやつあるし・・・」
「ウィル?」
「・・・・」
ウィルは何か思うところがあるのかうつむいてしまった
「覚えるのが遅いってことはないと思うけど、魔法障壁は使えるようになるの結構早かったじゃん」
「あれはルシオの教え方が上手だったから・・・」
「はあ?」
マヤが帰ってからウィルにも魔法障壁を教えた
すると十日ほどでできてしまった
そのときは俺もビックリしたし、なにより嬉しかった
たしかにウィルの言う通り俺の教え方も上手くなっているのかもしれないが
だが習得の速さはウィルの才能だ、実際ウィルはコツを掴むのが結構早い。地頭がいいんだ
素直にそこも褒めたはずなのだが
(ウィルが何を悩んでいるのかわからないけど、ウィルの悪い癖が出てるな・・・)
ウィルはできないことや苦手なことに直面すると露骨に消極的になる
何度か挑戦してできないと拗ねたりしてもう一度やる気が湧くまで時間がかかる
「ウィル、どうした?なにか悩み事でもあるのか?」
「悩み事っていうか・・・」
また俯き黙り込む
(う~ん、ちょっとイライラしてきたな・・・)
「思ってることがあるならハッキリ言えよ、じゃないと俺もわからないし」
「・・・・・」
俺に促されてウィルは顔を上げた
俺の顔をジッと見て何か言いたげにしている
そしてポツリポツリと気持ちを吐露し始めた
「・・・ルシオはボクの目標なんだ、ボクもルシオみたいになりたい。色んな魔法を使えたり、剣術もできて・・・なんでもできて・・・。悪い奴らも一人でやっつけて、オーガとか魔物より、村の誰よりも強くて・・・でも、ボクはルシオみたいに天才じゃないし・・・ルシオみたいに上手くやれない・・・。それなのにルシオは学園に行って、もっと色んな魔法を使えるようになるだろうし・・・ルシオみたいにボクは一人で魔法の研究なんてできないし、そうなったらもうボクはルシオに追いつけないよ・・・それにルシオが居なくなったら・・・寂しいよ・・・」
大粒の涙を流しながらウィルが話してくれた
目標に追いつきたいけど追いつけないその歯がゆさ
人は妬む生き物だ
他人の地位、才能、権力、名声・・・自分の持ってないものを他人が持っていたら羨ましくなる
そして友人との別れ
今のウィルはきっと色んな感情が入り混じって整理がつかないんだろう
「・・・・・よし!ウィル、俺と勝負しよう!今までの稽古なんかじゃなく本気の勝負だ!」
「え!?・・・勝てっこないよ」
「ルールはそうだな・・・水魔法、風魔法、魔法障壁、強化魔法以外の魔法を禁止。三回ダウンを取った方の勝ちってことにしよう」
「ちょ、ちょっとルシオ・・・」
「準備運動が終わったら始めるからウィルも体ほぐしとけよ」
「ルシオ!」
「・・・」
「うっ・・・」
心を鬼にしてウィルを睨む
ウィルは何も言ってこなくなった
そんなウィルを無視して準備体操を始める
正直嬉しかった
俺が目標だと言ってくれて
俺との別れを寂しいと言ってくれて
だからこそ俺がいなくなるだけでウィルが腐ってしまうのは嫌だ
ウィルに足りないのは根本的なところ、自信だ
自分に自信がないからできないことがあるといじけて挑戦することをやめてしまう
たしかに俺はウィルよりずっと強いと思う
だけど実際のところ、すでにウィルはその辺の大人よりもずっと強い
だがウィルは俺と一緒にいることが多いから俺と自分を比べてしまう
そのせいで自信を無くしてしまうならいっそのこと力の差を見せてみようと思った
もしそれで力の差に絶望して諦めるならそれまでだ
友達としてはこれまで通りだけど稽古を一緒にすることはなくなってしまうだろう
俺はウィルなりに自分のペースでいいから魔法の稽古を続けて欲しい
「準備はいいか?ウィル」
「・・・・」
「俺とウィルがどれくらい違うのか、実際に自分で確かめてみろ」
「・・・・・・・・わかった」
「いくぞ!」
まずは小手調べに『ウォーターボール』をウィルに向かって連続で放つ
ウィルはビックリしながらも魔法障壁をつくって防いだ
ウィルの横に素早く回り込みさらに『ウォーターボール』を打ち込む
それをウィルは魔法障壁を使い防ぎきる
(まあこれは予想通りか)
こんどは強化魔法を使いウィルの周りを素早く移動しながら水魔法で攻撃してみた
四方八方から『ウォーターボール』だけでなく『ハイドロスネーク』を使い障壁を躱すようにウィルを狙う
ウィルはそれを上手く防ぐ、『ウォーターボール』には魔法障壁で、『ハイドロスネーク』には同じ『ハイドロスネーク』を使い相殺する
俺はただ動きながら水魔法で攻撃しているだけだがウィルは魔法障壁と同時に『ハイドロスネーク』を使っている
(魔法障壁を覚えてから一か月も経っていないのにもう他の魔法と同時に使えてるじゃないか、何が才能がないだ!)
予想通りではあるがこれでは埒が明かないので一転近接戦闘に持ち込む
強化魔法を更に強くしてウィルの横に潜り込みボディブローを打ち込む
ウィルは急接近してきたことに驚きながらも脇腹あたりに魔法障壁をつくりパンチを防ぐ
そのためかなり強く魔法障壁を殴ってしまった
「いってーーー!!このっ!」
「うわっ!」
ウィルの体を浮かせるように風魔法を使いバランスを崩させる
そしてしゃがみ込みながら足払いをしかける
足を蹴られウィルは後ろ向きにすっころんだ
(これで1ダウン!)
と思っていたらウィルは自分の背中に魔法障壁をつくり転倒を防いだ、それだけじゃなく俺の風魔法を利用して後転しながら上手く着地して少し距離をとった
「チッ」
「はぁー、びっくりした・・・」
「めちゃくちゃ魔法障壁使うの上手くなってんじゃん!それで何が才能無いだ!むかつくなー!」
「え、ええ!?」
「絶対ダウンとってやる!」
大人げなく本気でイライラしてきた
正直ここまでできるとは思っていなかった
魔法障壁の使い方に関してはもうウィルに追いつかれているんじゃないだろうか
そんな不安がよぎった
(今ので駄目なら今度は・・・)
今度は俺も少し本気を出すことにする
水魔法で辺りに濃い霧をつくりそれを風魔法を使ってウィルの周辺に密集させる
ウィルがまるで雲の中にいるみたいになりこちらから見えなくなる
多分あっちからも見えていないはず
「わっ!ずるい!」
「ずるくない!」
ウィルはこういう変則的な魔法はまだあまり使えない
だが別にルール違反はしていない
風魔法が苦手なウィルが悪い
『ハイドロスネーク』でウィルの足元を払う
しかし手ごたえがなかった
目に魔力を込めて見てみると霧のなかでウィルが魔法障壁に乗って宙に浮いている
そしてさらに四方にも障壁をつくり完全防備している
その様な魔力の形が見える
(くそ~、上手いな・・・だけど!)
上には障壁をつくっていなかった
高くジャンプして上からウィルに掴みかかる
「わっ!」
「とった!」
ビックリして集中が切れたのかウィルは魔法障壁を維持できなくなったようだ
そのまま地面に押さえつける
「これで1ダウン!」
「うう~、ずるいよルシオ・・・」
「何が?ルールは破ってないぞ!」
「くっそ~・・・」
「守ってばかりじゃ勝てないぞ!次二本目!」
二本目になると俺の忠告通りウィルの方から攻めてきた
さっき俺がやったみたいに『ウォーターボール』を打ち込んでくる
俺は魔法障壁を使わずにそれを避ける
そして避けながらもウィルとの距離を詰める
今俺は魔力を強化魔法だけに使っている
全身を強化しているので目や耳、全身の皮膚でウィルの動きを感じ取れる
ウィルがどんな攻撃をしてきても躱しきる自信がある
それにウィルに攻撃を促したのは作戦でもあった
魔法障壁の扱いが上手いならそれだけこっちが攻めにくくなるということだ
正直さっきみたいに魔法障壁に籠られたら面倒くさい
「くっ!?」
「どうした?魔法障壁なんか使わなくても簡単に懐に入れたぞ?」
ウィルは俺との距離が近すぎて魔法を使うのをやめたようだ
俺と同じように強化魔法に魔力を使い始めた
しかしディルクと格闘の稽古もしている俺と違いウィルは魔法中心の稽古なので肉弾戦になると俺にはかなわない
殴りかかってきたウィルの手を掴み一本背負いした
「いでっ」
「はい2ダウン!どうした?ウィルの苦手なことで俺に勝てると思うなよ」
「んんーーー!」
挑発が効いたのか珍しくウィルが怒っている
「くっそー!」
「三本目!これで最後かな?」
2-0で俺のリーチだ
しかしウィルの目はまだ諦めていなかった




