281 増えた手札
日も昇っていない真夜中
俺は一人でグラシエールの居る塔から少し離れた場所へとやって来ていた
(奴の心を読む能力の効果範囲が分かればいいんだけど・・・)
グラシエールの意識外からの攻撃ならチャンスはあるかもしれない
それはずっと考えていたことではあるのだが、グラシエールは結界内に居るため長距離からの攻撃は効果が無い
王都にある自分の家でリアンの指輪を外した時はグラシエールが襲ってくることはなかった
なので流石に世界の反対側まで効果範囲は広くないはずだ
そんなに広いとなればリアンやイアンがグラシエールを鏡海で閉じ込めようとした時にも、事前に作戦を悟られてしまっていただろう
(リアン達に関してはグラシエールと同じ位謎だから心を読ませない方法とか知っててもおかしくないけどな)
だが俺が千里眼を使えるようになったようにグラシエールも遠視の魔法くらいは使えるだろう
その遠視が届くくらいまでなら有効範囲だと考えておいた方が良いだろうが、グラシエールの使う千里眼なら世界の反対側まで見える可能性もある
いくら考えても『結局は分からない』という結論になるだけだった
(考えるだけ無駄なんだろうけど・・・んな訳にはいかねえしな~)
色々頭の中で無駄な事を考えながら
胸の前に掌を上にして右手を突き出した
(あの結界を一撃で破壊して尚且つそのままグラシエールに命中するような攻撃ができれば一番なんだけど・・・)
そして掌の上に魔力を凝縮していく
ビー玉程度の大きさの魔力球にどんどん魔力を籠め続ける
(あの結界もレジストはできたんだ、ならレジストに必要な魔力を遥かに超える魔力をぶつければ結界は破壊できる)
しっかり狙いを定め
時間をたっぷりかけて魔力を籠めた魔力球をグラシエールの居るであろう塔の最上階へ向けて放つ
掌の上にあったビー玉のような魔力球からレーザーのような一筋の光が伸び
音速を遥かに超える速度で飛翔した
しかし放たれたレーザーは結界に当たった所で斜め上に弾かれ
星空へと進路を変え、やがて見えなくなる
(あれだけ籠めても駄目なのかよ!明らかにレジストした時の魔力より籠めたつもりだったんだけどな・・・)
超長距離からの狙撃もやはり無理
ならば
_______
Loadしますか?
►はい/いいえ
_______
今度は千里眼で塔が見えるギリギリの場所へやって来た
先程と同じように右掌に魔力を籠める
だが今回は純粋な魔力の塊ではなく熱を持っている火魔法の塊だ
「せーのっ」
魔力を籠めつつ同時に千里眼で塔を見る
そして瞬間移動して塔のすぐ傍、結界内に転移した
転移した瞬間溜め込んだ魔力を爆発させると同時に再び瞬間移動をして自分は避難する
「っぷぅ、ちょっと熱かった・・・」
傍から見ると結界の形に赤黒い爆炎が広がり、マグマの卵のようにも見える
以前は結界外から腕だけ突っ込んで同じようなことしたが
当然のようにグラシエールは涼しい顔をしていた
(今回は一応俺のできる最長距離からの奇襲だが?)
爆炎と黒煙が収まり始めると塔の頂上付近にグラシエールの姿が現れた
いつもと同じように椅子に座って頬杖をついている
「はいはい・・・」
俺が千里眼で見ることのできる距離はやはりグラシエールも見ることができるだろう
心を読まれたのかどうかは分からないが、俺が何かしようとしていることには気付かれ対策をとられたといったところか
「わかってたっつうの・・・」
_______
Loadしますか?
►はい/いいえ
_______
今度は塔を覆う結界の境目までやって来た
結界内に右手だけ入れ
音魔法で結界内に激しい振動を起こす
どうやら結界は音も遮断するようで、結界外にいる俺の耳には何も聞こえない
突っ込んでいる右手が振動で激しく痺れるくらいだ
だが結界内にはジェット機のエンジンのような爆音が響いているはず
「腕一本くらい千切れても構わないから、少しくらい嫌な顔してくれよ!なあ!」
魔力を更に使って音魔法を駆使すると
石でできた塔は振動に耐え切れず、まるで砂浜に造った砂の塔のようにサラサラと崩れて行った
そして姿を現したグラシエールはいつものように頬杖をつき
まるで眠くなる音楽を聴いているかのように穏やかな表情で目を瞑っている
「マジで腹立ってきた・・・」
_______
Loadしますか?
►はい/いいえ
_______
ここまでくるとグラシエールにダメージを与えるという事よりも
グラシエールの嫌がる事をしてやろうと目的がすり替わってきた
(これ、普通の人間なら発狂してもおかしくないと思うけど・・・まぁ普通じゃねえしな)
まず塔を覆う結界をレジストした
そしてここへ来る道中、街や森で使役しながら集めた害虫毒虫を塔の天辺目指し侵入させる
ゴキブリ、ゲジゲジ、ヒル、百足、蠍、蛾、蟻、蜂、蜘蛛、毒蛙
ありとあらゆる、普通の人間なら見るだけで不快に思うような虫たちを大量に集めた
使役している俺自身が虫嫌いなため自滅しているくらいだ
使役した虫たちは俺の指示通り塔の最上階を埋め尽くし
溢れた虫がぽたぽたと地上に落ちてきてしまうくらいだ
使役と同時に毒を持つ虫たちの毒を魔法で何十倍にも強化している
普通なら毒蟻一匹で簡単に誰かを暗殺できる恐ろしい魔法
塔の最上階にはグラシエールの物と思われる魔力を感じる
だがきっとグラシエールは椅子に座って頬杖をつき眠そうにしていることだろう
虫たちはグラシエールの張った魔法障壁を越える事ができず覆い囲むことしかできないはずだ
だがそれでいい
(少しでも嫌な気分になってくれたらとりあえず俺の気が済むんだよ)
こちらがどれだけ頭を悩ませ、苦しい思いをし、全力でぶつかっても
グラシエールは俺に対し、まるで子供を相手にしているかのように涼しい顔を崩さない
「・・・反応がない」
グラシエールの魔力は感じるが中の様子は分からない
もしかしたら俺はこんな気持ち悪い思いをしながら全く無駄な事をしているのかもしれない
なんて不安が頭を駆け巡る
「ちゃんといるよな?」
上空へと飛び上がり、少し離れた所からグラシエールが居るであろう場所に向かい
手刀で魔力の斬撃を十字に飛ばしてみた
「ほっ」
放った斬撃は塔の外壁を破壊し、最上階で蠢く虫達を弾き飛ばし何かに命中した
「やっぱいるじゃねえか・・・」
命中したのはグラシエールが張った魔法障壁で
やはりその中では椅子に座り頬杖をつきながら涼しそうな顔をしたグラシエールがいた
虫達が斬撃に弾かれ中の様子が分かったがそれも一瞬のことで
すぐに使役する虫達が魔法障壁を取り囲むように覆いつくす
(ダメージは無さそうだけど、あの中に居ると思ったら・・・まあいいか)
魔法障壁のおかげで実害は無いだろう
だが視界を全て塞ぐように自分の周りを虫達が覆いつくしている
普通なら精神的ダメージを負ってもおかしくはない、普通なら
(お前が涼しい顔してるならこのまま何日でもこの状態にしてやるぞ)
魔力は無限に湧いてくるので使役はいつまででも続けられる
更に仲間を増やすことだって可能だ
そして俺自身は少し離れた上空でそれを眺めていればいいだけ
Saveの自動更新のある30日後までこのままだって俺は構わない
(流石に気が狂うだろ・・・元から狂ってるから平気か?あ?)
なんてことを考えていると
遠くから黒い雲が近づいて来るのに気付いた
(何だ?雨雲?)
最初は雨雲かと思ったが千里眼を使うとその正体はすぐに分かった
「っ!?マジか・・・」
それはバッタの群れ
蝗害だ
「お前そこに居ながら同じことが出来んのかよ!?」
あっという間に黒い靄はこちらへと近づき
塔の周辺を覆いつくし、同時に俺の方へとバッタは飛んでくる
「キモッ!」
グラシエールと同じように自分の周囲に魔法障壁を張りバッタの接近を阻む
だが結界の周囲をバッタに囲まれ、あっという間に視界は真っ暗になった
そして時折できる隙間から指す太陽の光が蠢くバッタのお腹や無機質な目を照らし、強烈に吐き気を誘う
(こ、根競べか?いいぞ!?受けてやる!)
魔法障壁の維持さえしていれば後は目を瞑っていればダメージは無い
条件はグラシエールと同じだ
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「ごめんなさい、無理なもんは無理でした」
「な、何?どうしたのいきなり?」
結果は一日も経たずに俺が根負けした
「ムシ、キライ・・・」
「「「?」」」
Loadして隣に座るマヤに縋りつき泣き顔でそんなことをこぼす俺を見て皆が不思議な顔をしていた




