275 必須条件
サラを連れてグラシエールの元へと向かう
その道中で事情を説明した
もちろんサラと一緒に戦うつもりはない
サラにはグラシエールの相手をするのは荷が重すぎる
サラだけでなくウィルにも荷が重いだろう
そもそもサラ達は塔を覆う結界内に入る事もできないだろうし
心を読むことのできるグラシエールが相手ならば、囮に使うような事もできないだろう
それに元よりそんな事やるつもりも無い
「ここだ」
サラと共に塔までやって来た
今度は上空ではなく地上から攻めてみよう
「もうすぐ見えない結界があるはずなんだ。サラにはその境目を示してほしい」
「承知しました」
「急に壁にあたるだろうから気を付けろ」
サラを連れて塔へと近づく
念のためいつでもLoadできるように意識しながら
俺の真似をして手を前に突き出しながらゆっくり歩くサラ
「っ!?ここですルシオ様」
サラは俺が通り過ぎた場所で足を止めた
サラが何か言っているが結界内に居る俺には何を言っているのか聞こえない
(音も通さないのか・・・だったら)
足を止め少し手前に居るサラの方へと歩き出した
(やっぱり俺以外は、というよりリアンの指輪を装備している人以外は通れないのか?)
サラの居る場所まで戻り、サラが触れているであろう結界の境目辺りに手をかざす
「ここです、ここに見えない壁があります」
「なるほど、魔力を探れば境目は分かるな」
結界は非常に薄いのでわかりにくいが、その薄い結界のある場所には膨大な魔力が籠っている
黒い魔力を使ったとしてもレジストできるかどうか・・・
「さて・・・」
「ルシオ様?」
(どうせ俺がここに居る事なんてとっくに気付いてるんだろ?)
グラシエールがどの程度離れた場所まで索敵できるのかはわからない
だがこれだけ塔に近づいているので既に俺達の存在は感知されていると考えておいた方がいいだろう
「考えが読めるっていうのなら、防ぎようのない攻撃法を試すまでだ」
「?」
サラが触れている結界の境目
サラの隣にピッタリとくっつき、そこから右手首だけを結界内に入れた
そして風魔法を使い、結界内の空気を全て右掌へと集める
急速に右手に空気を集めているというのに自分の背後から風が吹いてこない
音を遮断したのでもしやと思ったが、予想通り空気も結界をすり抜けないようだ
黒い魔力も使って全力で空気を集める
これで結界内は真空に近い状態になっているはず
「人間は、と言うより生物の殆どは真空状態では生きられない。それどころか空気が無ければ一瞬で気を失うはずだ」
「はぁ・・・なるほど?」
「普通の生物なら・・だけどな」
グラシエールといえど人間である以上呼吸をし、腹が減れば食事をするだろう
空気を奪われればひとたまりもないはずだ
だがこれで倒せるなんて微塵も思っていない
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かれこれ三十分程はこうしていただろうか
(これ以上続けたところで結果は変わらないだろうな)
空気を奪うことで倒せる相手ならとっくに死んでいるだろうし
この結界のように、グラシエールなら真空状態になるのを防ぐ術などいくらでも持っていそうだ
このまま魔力と時間の続く限り続けても構わないのだが
俺が使う黒い魔力が尽きないのならば、グラシエールの魔力も尽きないということだろう
「・・・もういいか」
風魔法を解くと凝縮した空気が結界内に広がり、土埃が舞った
(ちゃんと空気は集められてたんだよな?)
さあ、問題はグラシエールが生きているのか死んでいるのか
(どうせいつものように頬杖をついて椅子に座ってるんだろうな・・・)
「さあて、どうするかな~?」
「ルシオ様?」
「このまま上に昇って確認するならサラは留守番だな」
「っ!?危険です!何か他に方法は?」
「前みたいに塔をぶっ壊してもいいんだけど・・・」
「それでは私が確認してまいります!」
「はあ?」
結界を通れないのにどうやって?と思ったが
リアンの指輪をサラが嵌めれば塔の中に入ることはできるだろう
だがそれは俺が指輪を外すことでもある
「その方がひっじょ~~~に危険なんだよな~・・・」
「ですが・・・」
「でも待てよ?」
「?」
この結界を通るのにリアンの指輪が条件になるというのはあくまで俺の予想だ
グラシエールとの決着の為にも不確定要素は減らしておきたい
(少しだけなら・・・俺が死ねば奴の寿命を肩代わりする者が居なくなる、それは奴も少しは困るはずだし・・・)
まあ全てグラシエールの嘘という可能性もあるのだが
「確認しない事には始まらないよな・・・」
「ルシオ様?」
「サラ、ちょっといいか?」
用心しながら指輪を外しサラの指に嵌めようとする
「この指輪を嵌めてその結界の中に・・・」
説明しながらサラの指にリアンの指輪を嵌め、俺の指がリアンの指輪から離れた瞬間
顔面に人の掌のような物が覆いかぶさって来た
指のような物の隙間から驚いて目を見開くサラの顔が一瞬だけ見えた
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Loadしますか?
►はい/いいえ
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体がビクッと激しく動き、座っていた椅子が『ガタッ』っと大きな音を立てる
「ルシオ!?どうしたの?」
「旦那様?」
「ルシオ様!?」
「・・・・・はぁ・・はぁ・・」
(何が起こった?)
目の前の景色はSave地点である食堂の風景だ
いつもと同じようにマヤが隣に、シシルが正面に座り、サラが斜め後ろに立っている
「ちょっと、大丈夫なの?ルシオ」
呼吸を荒げる俺の背中をマヤが優しく擦ってくれる
(Loadできたよな?グラシエールに幻覚を見させられてる訳じゃないよな?)
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Saveしますか?
はい/いいえ
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_______
Loadしますか?
はい/いいえ
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SaveもLoadもいつものように使えそうだ
おそらく・・・きっと、グラシエールに操られている訳ではない・・・はず
「はっ・・・外した途端これかよ・・・」
「「「?」」」
力なく椅子の背もたれにしな垂れる俺を見てマヤもシシルもサラも、食堂にいる全員が不思議そうに俺を見ている
顔面に覆いかぶさって来たのはグラシエールの手だろう
リアンの指輪を外した途端本性を現しやがった
俺を殺そうというのならば、後ろから首を斬ったり、魔法を使い一瞬で終わらせることもできるはずだ
だがそうしなかったのは、俺を殺せばContinueされてしまうから
だから殺すのではなく俺の意識を奪おうとしたのだろう
「な~にが『君の事を気に入ってる』だ・・・糞ジジイが」
用心の為、常にLoad画面を意識していなければ今頃はグラシエールの人形にされていた事だろう
「ははっ・・・」
乾いた笑いが零れる
そう考えると震えが止まらなくなってきた
震えを止めるため足と腕を曲げ椅子の上で小さく丸まり、ギュッと全身に力を入れる
そんな俺の様子に皆が近寄って来て心配そうにしている
皆が口々に俺に声を掛けてくれている事はわかるのだが、今の俺はそれどころではない
(落ち着け・・・起こった事を整理しろ・・・)
リアンの指輪が手を離れた途端グラシエールは襲ってきた
予想通り真空状態で殺すという作戦は効果が無かったようだ
そして指輪を外した瞬間襲われたということは
姿を消してすぐ近くに潜んでいたということか、もしくは千里眼のような遠視の魔法や能力があると言う事だろう
(それがオプションの可能性も・・・ってことは今この瞬間も監視されてるかもしれないってことか、だとしてももう驚かねえけど)
グラシエールの索敵可能な範囲が分からない
例え世界中だと言われても信じられる程厄介な相手なのは間違いないが
(そもそも奴はどうして襲ってきたんだ?俺がLoad画面を意識していることがわからなかった?だとすれば塔の天辺と地上程距離が開いていれば心を読むことはできない?もしくは心を読んだうえでいけると判断したってことか?)
真実に近づけそうで近づけない
グラシエールの手の内がわからない
だが一つだけ確かな事がわかった
(絶対にもうこの指輪は外せないな)
グラシエールとまともに戦う為にはリアンの指輪の装備が必須条件だと言う事
(ありがとう、リアン。君のおかげで俺はまだ戦える)
絶望の中の微かな微かな一筋の光
左手の小指に嵌めている指輪を大事に右手で包み込んだ




