274 人を越えた存在
黒い魔力の正体が分かった
それはグラシエールが生き永らえるため、俺に寿命を肩代わりさせる対価として与えた物だった
勿論グラシエールが嘘を言っているという可能性もある
だが仮に黒い魔力を使うことでデメリットがあるとしても
この力に頼らなければ俺に勝ち目は無い
(もっとも、この力を使ったとしても勝てる気があんまりしないんだけどな・・・)
グラシエールを動かすことに成功してからも攻撃の手を休めなかった
既に黒い魔力を使い強化魔法を施している
クレルティアに強化されたジオラが反応すら出来なかった程の速度
それを連続で、殺すつもりで、振るい続けている
だというのに一度もグラシエールに触れる事すらできていない
俺の攻撃は全てグラシエールの寸前で見えない壁に阻まれてしまう
そして時々、グラシエールは見えない壁で受けるのではなく避けたりもするので
来ると思っていた衝撃が来ない為、空振りになった時に攻撃のリズムが崩される
俺の攻撃に反応して防いだり避けると言う事は、グラシエール自身も同じように強化魔法を使っているということだろう
でなければこんな骨と皮だけの老人が今の俺の攻撃速度に反応したり紙一重で躱すことなんてできやしない
こちらのリズムを崩されるのなら、こちらもリズムを崩してやろうと考え
合間合間にフェイントを織り交ぜる
だが俺のフェイントは全てグラシエールに見切られてしまう
当然だ、グラシエールは俺の心を読むことができるのだから
どの攻撃がフェイントでどの攻撃が本命なのか手を取るように分かるのだろう
『はっはっは、こんなに体を動かすのは久しぶりだよ。楽しいなあ』
『おちょくりやがって!』
黒い魔力を使い強化魔法を施した今の俺が繰り出す攻撃は、そのどれもが一撃必殺の攻撃になっているはずだ
それをグラシエールは涼しい顔をしながらいなしている
(元々この黒い魔力がこいつの物なんだとしたら、強化魔法を使った殴り合いでも俺が不利かもしれないってことか?)
強化魔法は使用する魔力を増やせば増やすほど強化の度合いが上がっていく
ガリガリでヨボヨボなグラシエールでも、膨大な魔力を強化魔法に使えば人外レベルの怪力を発揮することもできるだろう
肉弾戦でも不利
魔法戦は圧倒的不利
こんな相手に勝てるのかという不安が更に大きくなっていた
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(チッ、埒が明かない)
『おや?逃げるのかい?』
『そうだよ!』
『ではまた会おう』
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Loadしますか?
►はい/いいえ
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見慣れた我が家の食堂
夕食前のSave地点へと戻って来た
(くそっ、何もかもお見通しってのがムカつく!)
いい加減嫌気がさしてきたので一旦落ち着こうと思った事も当然のように読まれていた
「どうしたの?ルシオ」
「・・・・なんでも・・なくはないけど」
「?」
俺がイライラしているのに気付いたのか隣に座るマヤが声を掛けてくれた
事情を知らないマヤはキョトンとした顔で俺を見る
そんな普段通りのマヤが今は無性に愛おしく思えた
マヤの肩に頭を預けるようにもたれかかった
勿論全体重を預ける訳ではなく少しだけだ
身重なマヤに負担をかけるわけにはいかない
「わっ。大丈夫なの?」
「駄目・・・心が折れそう」
「ええ!?よ、よしよし」
俺のオプションの秘密を知っているメンバーは『何かあったんだ』と察した様子だが
秘密を知らない他の家族もいる状況で事情を聞くわけにもいかないと思ったのか、サラやシシルも心配そうな顔をするだけで何も聞いてこない
マヤも対応に困ったのか何も聞かず、優しく俺の頭を撫でてくれるだけだ
だが今はそんな簡単なことが癒しになる
マヤの暖かくて柔らかな手と、安心する匂いが俺に活力を与えてくれる
まるで撫でられて喜んでいる犬や猫のようにマヤに頭をこすりつけた
「「・・・兄さん?」」
そんな俺の様子を見てマルクとアリスが驚いていた
普段俺は家族の前でマヤとイチャイチャしたりしない
マヤの方から甘えてくることはあっても俺の方からこうして甘えることはほぼ無かった
それは俺自身、身内にそういう所を見られるのが恥ずかしいというのもあるし
今ではシシルが居る手前、マヤとだけ堂々とイチャイチャするのは憚れるからだ
「兄さんは今もの凄く心も体も疲れてるんだ・・・だからあんまり見ないで」
「そ、そうなんだ。ちょっとびっくりしただけだよ」
「・・・・」
(マルクは優しいな~・・・アリスは目が冷たいけど)
マルクは本当に初めて見る兄の意外な一面に驚いている様子だが
アリスは今まで一度も俺に向けたことの無いような冷たい視線を向けてくる
弟妹の前では威厳のある兄でいたかった
だが情けない所を見せたとしても関係ない
どうせまたやり直すことになるだろう
「・・・・・・ん~、よし!元気出た!サラ、ちょっと手伝って欲しい事があるんだ」
「はい!」
まだまだ試していないことはある
グラシエールに対して何が有効なのか、一つ一つ試していくことしかできない
だが果たして
そのどれもが通用しなかった時
俺の心が平常でいられるのかどうかはわからない
心配した様子のマヤ、シシル、エルダをそのままに
サラを連れてグラシエールの元へと向かった




