273 恩恵と代償
つい先程までの恐怖心も、ビルを殺されたことによる怒りで消えていた
だがそれでいて頭は冷静だ
「君もそれなりに修羅場を経験してきたんだね」
「・・・・」
「友を殺されたというのにもう既に激情を沈め、如何に効率よく私を殺すかを考えている」
「・・・・」
「それもこれも、そのオプションのおかげか。やり直し、それは死者を生き返らせられるのと同じ・・・・・あの頃の私にその発想は無かった」
「・・・・」
「君の力は神の領域の物だ。私程の力を持ってしても死者を蘇らせる方法も時を越える方法も実現できなかった」
「・・・・」
「ふふっ。だんまりを貫いていても、興味をそそられる話題には頭が反応してしまうものさ」
「・・・チッ」
グラシエールの発する言葉、一挙手一投足
それら全てを最新の注意を払って観察する
だから聞きたくなくても聞いてしまうし、聞いてしまえば頭の中で反応してしまう
そうすれば例え返事をしなくてもグラシエールには知られてしまう事になる
(話題さえ振ってしまえば後は俺が勝手に頭の中で反応する。最強の誘導尋問ができるって訳か)
「その通りだ」
「・・・・はぁ。ならはっきりと聞くことにするよ。どうすればあんたを殺すことができる?」
「君には不可能だと、さっきからそう言っているではないか」
「この世界で不可能なことなんてそうそうないだろう?あんたでも『死者を蘇らせることはできない』って言ったけど、俺はビルの死を『無かったこと』にできるぞ?」
「そうだな、この世には私達がまだ知らぬ事が沢山ある」
「だったら不可能ではないだろ?」
「いいや、君には不可能だ」
「頭硬いのか柔らかいのかどっちだよ・・・」
「生まれたての赤ん坊が大人に勝てると思うかい?」
「ゼロではないんじゃない?」
「いいやゼロだ。蹂躙されてお終いだよ」
「大人が自滅する可能性だってあるだろ?」
「揚げ足をとっているようでは君に勝ち目は無いままだよ?」
「・・・・わかってるよ」
「可能性がゼロに等しいという事は、それは最早ゼロと同義だ」
「・・・・」
「油断して自滅する可能性は勿論ある。だがそれは『油断すれば』だ。私はそこまで君を過小評価していない」
「そりゃどうも」
「君にとってのタイムリミットは30日なのだろう?そのくらいなら私は寝なくても平気だ」
「・・・寝ろよ」
「君も知っているだろう?強化魔法を使えば体を無理矢理動かすことができる、私はそれに慣れているからね。30日どころか、その気になれば何十年でも、何百年でも平気だ。実際君を見つけてからは興奮して一睡もしていない」
「・・・いや寝ろよ」
「時間が惜しいのだよ」
「・・・ってことはやっぱりあんたも不老不死ではないと」
「当たり前だ。そんなものに何の価値がある」
「ならやっぱり、可能性はあるじゃないか」
「はっはっは、無意識か。私程ではないが君も誘導尋問が上手いではないか」
「ん?」
「それとも単に私が喋りすぎなだけか」
「どんどん喋ってくれていいぞ?俺もあんたの事をもっと知りたい」
「構わんよ。最早隠す意味も無い。寧ろ君を諦めさせるために全てを話してもいいくらいだ」
「ならお前がもっているオプションとか、お前が使える魔法とか、なんで1300年も生きられたのかとか、洗いざらい全部話してくれよ」
「まあまあそう慌てるな。少しずつ、少しずつ話してやるさ」
「・・・あっそ」
話さないのならばと『ファイヤーボール』をグラシエールへ放つ
雷槍を二度、エクスプロージョンを一度の計三度、グラシエールへ放った
だが全てがその一発で仕留めるつもりの大魔法だったので、閃光や爆炎で視界が悪くなり、グラシエールがどうやって防いでいるのかちゃんと見れていない
なのでここからは相手の手の内を探るための動きに切り替える
放った火球はグラシエールの目前で何かに衝突し霧散した
(何だ?見えなかったけど・・・魔法障壁?)
今度は『ストーンボール』を放つ
同じようにグラシエールの目前で見えない何かにぶつかり下へと落ちていった
(この塔の周りの結界みたいに見えない障壁で防いでるのか・・・昔の魔法の方が進んでたんじゃないのか?)
俺の使う魔法障壁は蜂の巣のようにハニカム構造になっていて、板状にも球状にも対応できる
これでも十分画期的で、発明したときには嬉しかった
因みに透けてはいるが一応目視することができる
だがグラシエールが使っている魔法障壁?は、ここの塔を覆う結界と同じ完全な透明で、何処に張っているのかがわからない
グラシエールのオリジナルなのか、それともリアンやイアンのような天才がいたように1300年前の時代の方が魔法が発達していたのかもしれない
(もしかして塔を覆う結界もこいつが?・・・でも何のために?長距離からの攻撃を防ぐためか?)
相も変わらずグラシエールは椅子に座り頬杖をついた態勢のままだ
そして先ほどからぱたりと何も喋らなくなり、ニヤニヤと笑みを浮かべながら俺を見ている
まるで『まずは私をここから動かしてみろ』とでも言いたげで腹が立つ
(それなら)
同じように『ストーンボール』を放ち
それと同時にグラシエールへと距離を詰める
強化魔法のおかげで『ストーンボール』に追いつくことができ、石礫と同時にパンチを繰り出してみた
「ほう」
石礫は『カンッ』と何かにぶつかったが、拳には石礫が止まった所を通り過ぎても壁に当たるような感触は無く
そのままグラシエールへと届きそうになった
だが拳がグラシエールに届くと思った瞬間、グラシエールは椅子ごと姿を消した
(転移魔法か!?)
「その通り。こっちだよ」
死角からの攻撃を警戒したが、グラシエールは俺が元居た場所に転移しこちらを見ている
相変わらず椅子に座り頬杖をついた態勢だ
「安心したまえ、そんなに警戒しなくても私は君に危害を加えたりはしない。前回の私もそう言ったんだろう?」
一応グラシエールと対峙してからずっと、いつでもLoadできるように意識はしていた
グラシエールの実力が分からない以上そうでもしておかなければいつ傀儡にされたり殺されたりしてもおかしくない
グラシエールは俺に危害を加えるつもりはないと言うが、それ自体が偽りの可能性だってある
「酷いなあ・・・私は君に嘘なんてついていないというのに・・・」
「俺がお前を信用していないってことくらいわかるだろ?」
「私には君を殺せない・・・いや、殺したくない理由がある。だから君に危害を加えたり、ましてや命を奪うようなことはしないよ」
「・・・つまり俺が死ぬと困るってことか?そりゃいいや、最悪自殺すればお前に一泡吹かせられるってことだ」
「そうなれば君の代わりを見つけるだけだ。君はもう最低限の仕事を済ませてくれている。君が居なくなれば私も心置きなく世界に復讐できるというものだ」
(代わり?・・・最低限の仕事ってのは鏡海を壊すことだとして・・・)
「君は私と同じ転生者で、私にはどうしても扱えなかった力を扱える。だがそれだけだ。君が居なくとも復讐はできるし、君の代わりはいくらでもいる」
「その“代わり”ってのが引っ掛かるんだけど、俺を殺して世界に復讐してハイ終わりってのじゃ駄目なのか?」
「さっき『不老不死ではない』と言っただろう?私の時間も無限ではない」
「1300年も生きていてよく言うよ・・・」
ずっと疑問に思っていた事
『どうやってグラシエールは1300年もの時を生きられた?』
本人は『不老不死ではない』と言う
見た目通りの老人なのだとしたら不老ではない
『そんなものに何の価値がある』と言うくらいなので不死でもないのだとしたら
どうやって1300年もの時間生き続ける事ができたのか
グラシエールは時を操る魔法を使えないとも言った
ならばどうやって
「・・・・・代わり?」
「君は本当に頭が良い。いくつか思いついた可能性の中に正解がある」
「・・・・でも、リアンの指輪があればそんなこと・・・」
「ああ、本来なら一方的に“背負わせられる”のだがね・・・その忌々しい指輪のせいで君には無理だった」
「だったら・・・俺とは別の誰かが・・・」
「いいや、今は君だけだ。それに鏡海を壊すためにもこの方が都合が良かった」
「どうやって!?」
俺が考えた可能性はそう多くない
その中でも一番可能性が高いと思った物
強制的に“寿命を肩代わりさせられる”事ができるなら
もしそんな方法があるとすれば不老不死でないグラシエールが1300年もの時間を生きられた説明がつく
その証拠か『背負わせられる』という発言もあった
だがグラシエールと初めて会った時には既にリアンの指輪を付けていた
ビルの言葉を信じるなら、リアンの指輪があれば負の魔法は一切効果が無くなるはずだ
(やっぱりあの日、俺が寝ている間に外されたのか)
だがグラシエールはさっき『その忌々しい指輪のせいで君には無理だった』とも言った
そして『鏡海を壊すために都合が良かった』とも
「チッ・・・考えが纏まんねえ」
「はっはっ、まあ君が考えていることは大体合っているよ」
「・・・・ってことは、見た目死にかけのあんたが今こうして生きていられるのは・・・俺が寿命を肩代わりしてるからってことか?」
「寿命・・・まあ正解だ。正しくは“魂その物を”だがね」
「だから俺が死んでも代わりを見つければ生きながらえることはできると?」
「その通り」
「・・・最後の手段だと思ったけど自殺も無しか」(ボソッ)
「そうしたまえ、これでも私は君を気に入っている。君の心が折れたら、その時は共に世界の終焉を見届けようじゃないか」
「・・・・」
自殺は無しだと言ったが
心が折れたら、その時は死を選ぶだろう
それがグラシエールへの最後の抵抗だ
「リアンの指輪があればそういった魔法は効かなくなるって聞いてたんだけど?」
「ああ、だから君には別の秘術を使わざるを得なかった」
「秘術?」
「『命魂の友引』・・・私が編み出した秘術の一つさ」
「いやだから、そういう魔法から防いでくれるって・・・」
「これは君にとってもマイナスだけではないからね。ちゃんと魂の負担を肩代わりさせるだけの利点を受け取っている」
「・・・・あ~、納得がいった」
リアンの指輪は俺にとって『負の魔法』を防いでくれる
当然強化魔法のようなプラスに作用する魔法は遮断しない
つまり『寿命を肩代わりする』ことと等価値な、何か俺にとってプラスになる物を代償として支払えばリアンの指輪は効果を発揮しなくなるのだろう
「・・・・・“これ”のことか」
体の奥底から黒い魔力を引き出し
爆発的に強化魔法をかける
まるで瞬間移動したかと錯覚するほどの速度でグラシエールへと殴りかかった
しかし俺の拳はグラシエールの目前で制止する
さっきはすり抜けたはずの障壁に阻まれた
「少しだけスッキリしたよ。得体の知れない力だったから使うのを躊躇ってたんだ」
「そうか、それは勿体ない。せっかくの私からのプレゼントだ、存分に使ってくれたまえ」
「俺の寿命削っておきながら何言ってんだ糞ジジイ!」
見えない結界に触れ、レジストするために大量の魔力を流し込む
黒い魔力のおかげで魔力切れの心配をする必要はない
今まで扱ったことのないほどの魔力を引っ張り出し、ようやく見えない結界をレジストすることができた
「むっ?」
「くたばれ!」
拳を振れば衝撃波が起こる程の力と速度
グラシエールが見た目通りの老人ならば
いや、例え屈強な大男でも当たればひとたまりもないだろう
「驚いた。もう既にある程度は使いこなせているじゃないか」
声は俺の背後から聞こえる
俺の目には俺の拳で砕けた椅子が落ちていく光景が映っていた
「ようやく立ち上がったな」
「その程度で喜んでいては先が長いぞ?」
「最初からそのつもりだ・・・」




