271 恐怖
「ごめんねルシオ、疑ったりして」
『そうですよね・・・ルシオさんが私なんかを・・・』
誤解を解いたマヤとクレアは、理由は違うが二人とも落ち込んでいる
「アタシ寝ぼけてて・・・」
「いや、紛らわしいやり方をした俺が悪いんだ。こっちこそゴメン、マヤ」
愛する夫の事を疑ってしまった事への自己嫌悪で落ち込むマヤと
『早とちりしてしまって恥ずかしいです・・・』
『ゴメン・・・かなり焦ってたのもあって、配慮が出来てなかったよ、クレア』
プロポーズだと思ってしまった事を恥じるクレア
因みに指輪は既に返してもらっている
兎に角、誤解が解けたので本題に移ることにしよう
『そんなことよりもクレア、もう一度質問したいんだけど』
『はい、何でも聞いてください!』
『俺が君と初めて出会った時。リラ達を助けて帰った後、俺が村長の家に一晩泊めてもらうことになったのは覚えてる?』
『はい、ちゃんと覚えています』
『その時村長をしていたお爺さんの事を聞きたいんだけど』
『お爺さん・・ですか?私の村ではもうずっとパメラさんというお婆さんが村長をやっていますが・・・』
パメラというのがさっき会った村長の名だ
『俺が村長の家に泊めてもらった時はそのパメラさんの父を名乗る爺さんが村長をやっていたんだ』
『パメラさんの父・・・ですか?・・・・・あれ?』
『どうした?』
『パメラさんの父はもうずっと昔、私が生まれる前にお亡くなりになっていたはずです・・・それよりも・・・・何か、思い出せそうで、思い出せない・・・』
やはりリアンの指輪のおかげでクレアにかかっていた術が解けたのか、グラシエールがなりすましていた村長については記憶が無いのだろうか
「サラ、イルミラを呼んできてくれ」
「はい」
もっと緻密な記憶の擦り合わせが必要だ
あの時俺と一緒に泊めてもらったイルミラも呼ぶことにした
その後イルミラも交えてクレアにいくつも質問を繰り返したが
クレアからグラシエールのことに関しての情報は何も得られなかった
因みにイルミラは操られていないのかちゃんとグラシエールのことを、村長であるお爺さんのことをちゃんと憶えていた
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場所を食堂に変え、起きてきたシシル達も加わった
そしてクレアへの質問が一段落し、ここで初めて皆にグラシエールの事を説明することになる
『私の村でそんなことが・・・』
『いつグラシエールが俺の存在に気付いたのかはわからないけど、俺に接触するためにクレアの村が利用されたんだと思う』
『私、気付かない間にルシオさんにご迷惑を・・・』
『ううん、それは違うよクレア。クレア達村人も被害者だ。気にすることないよ』
『ですが・・・』
『無理だよ。この世界にグラシエール相手に抵抗できる人間がどれだけいるんだろうな・・・そんなのが相手だ』
『北の大賢者が、まさか実在したなんて・・・』
『それもそうなんだが・・・』
俺にとっては「北の大賢者」ではなく、千年以上過去の時代に生きたグラシエールだ
「まさか人間が千年以上生きてるなんて思うわけないだろ・・・」
頭を抱える俺を皆が心配そうに見る
グラシエールの事を考えると弱音しか出てこない
「アタシにはルシオの言ってることがいまいちピンとこないんだけど・・・ルシオならどうにかできる?」
「・・・・・正直、わからない」
普段弱音を吐かない俺が自信なさげにしているのを見て皆が不安そうな顔になる
「もちろんなんとかするつもりだよ?このままグラシエールを放っておくと人類が滅ぶことになる・・・・・でも」
あれに勝てるビジョンが全く見えてこない
俺はあのたった一度の邂逅で、グラシエールに強烈な苦手意識が芽生えてしまっている
「荷が重い・・・」
「私にできることがあれば何なりと仰ってくださいルシオ様」
「・・・ありがとう、サラ」
もちろん利用できるものは全てを利用するつもりだ
サラだけでなくウィルにも、騎士団の人達にも協力してもらうことになるかもしれない
だがそれでも・・・
「それでも・・・リアン達過去の天才が世界の半分を犠牲にしてまで、『倒す』じゃなくて『閉じ込める』っていう選択しかとれなかった相手を・・・」
(俺がどうにかできるのか?)
「「「・・・・」」」
重苦しい空気が漂う食堂にテラが入って来た
「失礼します。ルシオ様、騎士団の方がルシオ様をお呼びなのですが」
「そういえばルシオ、仕事はいいの?それどころじゃないだろうけど」
「リオーシスへの転移魔法陣についてだろう?その事については『既に独断で行動している』とメリアムに伝言を頼んでおいてくれ」
「・・・承知いたしました」
来客だというのに動こうともしない俺を見て、テラは少しだけ困惑しながらも伝言を頼まれてくれた
だがリオーシスの現状もその原因も俺は既にわかっている
今はメリアム達に説明することよりも、グラシエールをどうにかすることが最重要だ
「リオーシスがどうかしたの?ルシオ」
「ん?ああ・・・・・はぁ・・・」
グラシエールの事は説明したが、リオーシスの半分が消滅したことはまだ説明していなかった
マヤが気になってリオーシスの事を聞いてきたが正直説明が面倒だ
(こうやってやり直す度に説明するのか?グラシエールの事も・・・リオーシスの事も・・・)
自分の体からどんどん気力がなくなっていくのが分かる
もう何をするのも面倒だ
(なんで俺がこんな面倒な目に遭うんだ・・・どこで間違った・・・)
元を辿ればブランの魔法に飲み込まれたのが原因だ
(あの時俺がもっと冷静にブランを追い詰めることができたら)
そうすればタナトスに落とされることもなく、グラシエールが俺を見つけることもなかった
(でもそうすれば・・・)
シシルとエルダ、イルミラとクレアを見る
四人共俺を心配そうに見ている
(タナトスの人間とこうやって一緒に居ることもなかったのか)
「なぁシシル、未来視でグラシエールが生きていた事は見ていないのか?」
「・・・はい。申し訳ありませんが、最後の未来視で見た未来はもう既に過ぎ去っています。なので私にも何が起こるかわかりません」
「そうか・・・」
「・・・・申し訳ございません」
何も悪くないのにシシルは申し訳なさそうにしている
だがそれをフォローする気力すら湧いてこない
(ああ・・・なんかもう・・・全部が怠いな~・・・)
体が重い
体のどこにも力が入らず、全身が泥のようにだらけていく
「しっかりしなさいルシオ!」
「っ!?」
一瞬アリシアがやって来たのかと思ったが、叫んだのはマヤだった
「アタシの質問にも答えてくれないし、シシルだって何も悪くないでしょ!?」
「あ、ああ・・・」
「もちろんアタシはルシオと違って直面している問題の重大さがいまいちわかってないけど・・・」
怒っているのかと思ったがどうやら違うようだ
「今までみたいになんとかしてよ!」
(無茶を言う・・・)
マヤはだらしない俺を怒っているのではなく
「ルシオがちゃんと言ってくれないと、アタシ達は何もできないじゃない・・・」
「・・・・ごめん」
何もできない自分に苛立っているのだろう
「鏡海を壊したことを後悔してるの?」
「・・・・いや」
鏡海を壊してタナトスを救ったことを後悔はしていない
「だったら何とかしないといけないじゃない」
「わかってるよ」
「グラシエールって奴も人間なんでしょ?無敵ではないんじゃないの?」
「・・・だといいんだけど」
「グラシエールの魔法だってその指輪を使えば防げるんでしょ?」
「・・・多分」
「鏡海はグラシエールをちゃんと封じ込めることができてたんでしょ?」
「・・・・・・ああ」
(そうだ・・・)
「だったら何か方法があるんじゃないの?」
グラシエールは塔に居ながら塔にあった大筒を使わなかった、使えなかった
『触れない』と言い、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた
マヤの言う通り鏡海はグラシエールを千年以上タナトスに封じ込めていた
今は分かっていないだけでグラシエールに対抗する方法は何かあるはずだ
そんなことはマヤに言われなくてもわかっていたはずなのだけど
「ちゃんと全部終わらせて。そしたらこの子の名前つけてもらわないと・・・困るんだから・・・」
「・・・そうだな」
もうすぐ臨月になるマヤのお腹を見る
あと一月もすれば俺は父親になるんだ
「正直な事言うとな・・・俺、グラシエールが怖いんだ・・・」
どんな手札を持っているのかがわからない
だがグラシエールは俺の手札を全て覗くことができる
人が亡霊を恐れるように
得体の知れないグラシエールが恐ろしくてたまらない
「傷つくのはまだ平気なんだ・・・死にさえしなければ・・・いや、最悪死んだって良いんだ」
「し、死ぬのは駄目ですよ師匠!」
イルミラが俺の発言にツッコミを入れてくる
クレアは言葉が解らないからかきょとんとしているが
発言の意味を理解しているマヤ達四人は『言っていいの?』といいたげな表情でお互いを見合っている
「俺の意識がハッキリしてさえいれば何度でもやり直せる」
「・・・師匠?」
「でも、グラシエールがどんな魔法を使ってくるのかわからない・・・もし俺がグラシエールに操られたらって考えるとな・・・」
俺がグラシエールの傀儡になること
それが一番恐れていることだ
そうなれば俺の力はグラシエールの望むままに使わされることになるだろう
「グラシエールは俺の力の事を知っている。だからもしそうなれば、グラシエールは更に三つのオプションを得ることになるのと同じだ」
「「「?」」」
グラシエールが転生者だという事は伏せているので皆の頭に『?』が浮かんでいる
(だからお前が命綱だ、頼んだぞ)
リアンの指輪を見ながら心の中で呟く
リアンの指輪はグラシエールの魔法にも通用するはずだ
でなければとっくに俺はグラシエールの便利な人形になっているはず
(必要なのは情報と・・・勇気か)
情報はこれから集めればいい
何度もやり直せば自ずと情報も集まってくるだろう
勇気はマヤ達がくれる
「何とかするさ。父親になるし・・・シシルとの結婚もあるしな」
「ルシオ」
「旦那様」
いつまでも怯えてはいられない
「アタシ達にできる事があれば何でも言ってね?アタシ達皆ルシオの味方なんだから。勿論ウィル君とかリリーもセレナも、ルシオの力になってくれる人は沢山いるでしょ?」
「わかってる」
「ところで・・・秘密の事話しちゃっても良かったの?」
「ああ、いいんだよ。どうせやり直すから」
「へ?」
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同じ食堂の同じ席
だがさっきまで居たクレアの姿は無い
隣に座るマヤを見ていると目が合った
「ん?どうしたのルシオ?」
「名前何がいいかな?考えておかないと」
「いい名前考えてね?お父さん」
「わかった」
まだまだ元気は足りない
でも少しずつ立ち向かう為の気力は湧いてきている
やって来るのかもわからない未来へ思いを馳せながら
目の前の大問題を解決するため行動を始めた




