19 アリシア
「あら、ふふっルシオったら泣きながら眠っちゃったわ」
「走って魔法使って疲れたんだろう」
「ほら皆ちょっと静かにして、ルシオが起きちゃう」
「おっとそうだな、それじゃあ俺たちは帰るか」「どうする?無事を祝って宴会でもするか?」「お前が飲みたいだけじゃないのか?主役はルシオだろ」「そうだな、じゃあ明日にするか」「俺はちょっとグレッグの様子を見てくるよ」
口々に喋りながら皆が帰っていく
「ディルク、ルシオをベッドに運んでくれる?私はマルクとアリスを寝かせてくるから」
「わかった」
ディルクがルシオを抱っこする
「ずいぶん重くなったなぁ」
「ほんと、子供の成長って早いわね」
「ああ」
「さっ、二人ももう寝ましょ」
「「あーい」」
私はマルクとアリスを寝かしつける
二人ともすでに眠かったのかすぐに寝息を立て始めた
二人が眠ったのを確認してリビングに戻る
食卓にはまだ片付けできずにいたままの冷めた料理が並んでいる
ディルクは椅子に座りお茶を飲んでいた
「なんか、すごい夜だったな」
「そうね、私たちは何もしてないけど」
「さっきユダ婆が言ってたことって本当なのかな?」
「ルシオが神子って話?う~ん、どうなのかしら?」
「そうでも考えないと今日のルシオの行動は説明つかないだろ?」
「そうだけど・・・突然変な行動するのは昔からよ?」
「今日のは今までのとは比べ物にならないだろ」
「まあ、そうね」
ルシオは赤ん坊の頃から独特な行動をとる子だった
私にとっては初めての子供だからこういうものなのかと思っていたけど
村の女性たちと話をしてルシオが普通の子とはちょっと違うことに気付いた
赤ん坊の頃からあまり、というかほとんど泣かない子で夜泣きもほとんどなかった
もしかしたら一度もなかったかもしれない
このことを村の子持ちの女性に話したら羨ましがられた
まあ中には気味が悪いなんて言い出す人もいたけど、ほんと失礼しちゃうわ
そのかわりルシオはよく笑う子だった
初めて見るものが面白いのかなんにでも反応していた
初めて外に出してあげた時なんてもう大変だった
目を輝かせてずっとキョロキョロして
抱っこしているのに落としてしまいそうになるくらい
「ふふっ」
「ん?どうした?」
「いや、ちょっとルシオが赤ん坊の頃を思い出して。ほら初めて外の景色を見せた時のことよ」
「あ~、あれは凄かったな。お前が抱っこしてるのに身を乗り出して何度も落ちそうになって、見ててハラハラしたよ」
「マルクとアリスの時は真逆だったわね」
マルクとアリスを初めて外に出したときは拍子抜けするほどおとなしかった
二人とも「だから何?」みたいな顔をして私とディルクに抱っこされていた
ルシオの時が凄かったぶん正反対の二人の反応におかしくなったのを覚えている
「マルクとアリスは、特にアリスはもうちょっと俺になついてくれないかなぁ・・・」
「あら、ちゃんとなついてるわよ?お兄ちゃんのことが大好きなだけで」
マルクとアリスは兄であるルシオのことが大好きみたい
マルクはともかく、アリスは赤ん坊の頃からルシオがあやすとニコニコしていた
あやすといってもルシオはディルクみたいに変顔をしたりくすぐったりしない
ただ軽く手を握り優しく微笑むくらいだった
それだけでアリスもニコニコ笑う
「きっとディルクは構いすぎなのよ、スキンシップが過剰なのね。だからアリスがちょっと鬱陶しく感じちゃうんじゃないかしら?」
「そうなのかな?ルシオの時はそれで喜んでくれたけど・・・」
「マルクも割と喜ぶわよね?やっぱり女の子だからかしら」
「俺も魔法使えたらルシオみたいになついてくれるのかな・・・」
確かにちょっと前にルシオが庭で二人に魔法を見せてあげたことがあった
その日から特にマルクがルシオにくっついてまわるようになり、そのせいで元々一緒にいたアリスが怒ってよく喧嘩をしている
ルシオがいつも上手に宥めてくれるから大喧嘩にはならないみたいだけど
「魔法といえば、多分私よりルシオの方が魔法使うの上手になったんじゃないかしら?」
「そうなのか?でもお前上級もいくつか使えるだろ?」
「でもルシオみたいに覚えてる全部の魔法を無詠唱はできないわよ?得意な魔法だけ」
「そんなにすごいのか?それって」
「魔法で苦手なものがないってことだもの、普通は火が得意なら水が苦手とかあったりするものよ」
「ふ~ん」
「全属性を無詠唱できるから使える複合魔法の数も増えるし、本当に将来は大賢者になれるかも」
「まあ今でも大人顔負けなわけだしな。今日だって凄かったんだぞ、西の森がルシオの魔法で火の海になったんだから。ちゃんと自分で火も消してたし」
「あら、明日見に行ってみようかしら。ルシオに話で聞いただけだから」
そこでふと思う
「・・・・褒めてよかったのよね?」
「今日のことか?」
「うん、私は実際に見たわけじゃないからまだ実感がないの。山賊が居たこととかそれをルシオがやっつけたこととか」
「実感がないのは俺も一緒だよ、俺が駆け付けた時にはもう全部終わってたんだし」
「でも本当に山賊は居たんでしょ?」
「ああ、エドワードが言ってた通りだよ。グレッグが内通者ってのもルシオは気づいてた。俺が駆け付けた時にはもうグレッグが縛られて気絶してたし」
「それもルシオがやったの?凄いわね」
「バーナードが殺されるとか言ってたしそうなんだろう」
「へぇ~、神子って凄いのね」
「神子ってだけじゃ無理だろ、ルシオが凄いんだよ。グレッグを捕まえて山賊を一気に全滅させるなんて大人でも無理だ」
「そうね・・・でも」
ルシオは確かに凄い子だ
自分の血をひいてるとは思えないくらい優秀だ
本当に鼻が高い
でもまだ8歳の男の子
「あの子があんなに泣いてるとこ初めて見た気がする」
「・・・・そうだな、俺が駆け付けた時も泣いてた」
ルシオは喜怒哀楽の哀をあまり見せない子だ
物分かりがいいので「我が儘を言って怒られて悲しくて泣く」、そんな普通の子供が見せる一面を全く私達に見せない
でもそれはルシオが「親の顔色を気にするあまり、良い子でいようと無理をしている」というわけではなさそうだからまだいい
親としてはもう少し我が儘を言ってくれてもいいのだけれど
そんなルシオが隠そうともせず感情のままに涙を流していた
「・・・うん。やっぱり神子とか関係ないわ、ルシオはルシオだもの。私達の子よ、私達から神子なんて大層なもの生まれるわけないじゃない。仮にそうだとしてもルシオにだけ辛い思いをさせる気はないわ」
「そうだな」
「そうよ、家族だもの」
結局今までと何も変わらない
ルシオがまたちょっと成長してたってだけの話
山賊を殺したことをルシオは気にしていた
村を襲おうとしていた山賊をだ
大人なら殺して当然とまで考える人もいるだろうに
本当に優しい子に育ってくれたと思う
「もし誰かがルシオのこと腫物を触るみたいに扱ったらひっぱたいてやるわ!」
「ほどほどにな・・・」
周りがルシオの敵になっても私達だけはルシオの味方
うん、やっぱり今までと何も変わらない




