112 早朝の来訪者
早朝、俺はいつも通り庭で剣術の稽古
マルクとアリスは昨日へとへとになるまで稽古したからまだ眠っている
しかしそろそろ起きる頃だろう、準備をしたら家から出てくるかもしれない
マヤとサラはテラ達と一緒に朝ご飯の準備をしてくれている
庭で素振りをしているとリリーとレイラがやって来た
「おはようルシオ君」
「おはようございます」
「あれ?おはよう、リリーはともかくレイラさんは珍しいですね?」
「ちょっとお話があって、今大丈夫かしら?」
「はい」
レイラの話はこうだった
近いうち赤竜討伐があり、それにレイラも参加することになった
ただ部隊編成で少し揉めたようで、なんやかんやあり俺に赤竜討伐部隊への参加をお願いすることになりそうだと
『なんで俺が?』とも思ったが、どうやらメリアムの差し金らしい
優秀な後方支援を探していて俺に白羽の矢が立ったとレイラは言っていた
友人であるメリアムにそんなことを言われて悪い気はしない
それにリリーがついてきているところから察するに、リリーも姉が赤竜討伐という危険な仕事に向かうことを心配しているのだろう
リリーのためならそれくらいお安い御用だ
「なるほど・・・俺は別に構わないですけど」
「ありがとう!ごめんなさいね、騎士団の仕事に巻き込んでしまって・・・ルシオ君のことは必ず私達騎士団が守ってみせるから安心して」
「はい、頼りにしてます」
「ルシオ君、ちょっと・・・」
「何?リリー」
リリーが俺に近寄りレイラに聞こえない大きさの声で尋ねる
「天啓とやらはありませんでしたか?」
「あぁ・・・えっと、今のところないかな。心配しなくてもレイラさんのことは必ず守ってみせるよ」
「ありがとうございます。でもルシオ君自身も無茶はしないでくださいね」
「わかってる。前に赤竜と戦った時の改善点とかも見つかってるから今度はもっと上手くできると思うし、何も心配ないよ」
「心配しないというのは無理な話ですが・・・信頼しています」
「ありがとう」
「何?リリー、イチャイチャしちゃって・・・お姉ちゃんには言えない話?」
「家の愚姉をよろしくと言っていたんです」
「あ、ひど~い!私が仕事で留守にする間カミラに『夕食はリリーの苦手な物ばかりにして』って言っちゃうわよ」
「それはやめて!あの人本当にやっちゃうから」
「あはは」
(本当に仲が良いなこの姉妹は)
「おや?先客かの?」
「あん?レイラじゃないか」
「た、隊長!マホン殿もおはようございます!」
三人で談笑していると別の客がやって来た
一人はマホンだが、もう一人は知らない
褐色の美人だ、立ち姿から自信に満ち溢れているのがわかる
レイラが隊長と呼んだのでレイラの上司、所属する隊の隊長なのだろう
「この間ぶりじゃのルシオや」
「マホンさん!おはようございます」
「ふ~ん、お前がルシオか・・・」
「は、初めまして・・・」
褐色の美人は俺を値踏みするように上から下までじっくりと見てくる
「おい爺さん、ホントにこいつに一本取られたのかよ?」
「本当じゃよ、のう?ルシオ」
「あれは・・・まぁ不意打ちの技だったので」
「不意打ちだとしても儂から一本取れるような奴は騎士団でも隊長連中しかおらんよ」
「そうだよな~・・・オレでも難しいってのに」
「えっと、こちらの方は?」
「おう悪い、オレはジオラっていうんだ。伍番隊の隊長やってる、よろしくな!」
「よろしくお願いします」
「なぁ、ちょっとオレにお前の実力見せてくれよ」
「えぇ!?」
「これジオラ、その前に要件を話さんか」
「どっちが先でもいいじゃねえか」
「そ、そういえばお二人はどうしてここに?なにか用があって来たんですよね?」
「そうなんじゃ、実はの・・・」
マホンの説明はレイラと同じものだった
まぁ先にレイラに話を聞いていたので二人が来た理由も大体予想はついていたが
「わかりました、俺なんかでよければ協力します」
「そうか、すまんの」
「ただし・・・オレはまだお前を信用したわけじゃねえ、お前の実力見せてもらおうか」
「えっと・・・何をすればいいですか?」
こんな朝っぱらから隊長格を相手にするのは正直しんどいのだけど
「実力を見るってんだから、んなもん決まってんだろ」
(やっぱりそうなるか~)
ジオラは俺に対し構えをとった
どうやらやる気満々だ
こちらはさっきまで素振りをしていたので短剣を持っているが、見たところジオラは素手のようだ
素手相手に武器を使うのはどうだろうか?と考えていると
「来ねえんならこっちから行くぞ」
しびれを切らしたジオラが仕掛けてきた
しびれを切らしたと言ってもまだ5秒も経っていないのだが
見たまんまのそうとうせっかちな性格のようだ
(速っ!?)
ジオラは俺に対して右のハイキックをしてきた
あまりのジオラの動きの速さに目で追いかけることしかできなかった
もしかしたらノワール並みに速いかもしれない
騎士団の隊長というのはどいつもこいつも化け物ばかりのようだ
『やられる!』と思ったがジオラは俺の左側頭部ギリギリのところで寸止めした
そしてさらにそこから足を上にあげたと思ったら、俺の右側頭部をかすめるようにかかと落としを繰り出した
一瞬の出来事で俺は目で追うのが精一杯でピクリとも動けなかった
あまりの蹴りの速さのせいか両耳が「キーン」と耳鳴りしていた
リリーがこっちを見て絶句している、俺と同じでジオラの動きの速さに驚いているのだろう
(ビ、ビビった~・・・)
目の前でジオラは縦に大股を開いた状態で立ち俺を見ていた
片足で立っているのに体の軸が全くぶれていない
「ふ~ん・・・」
がっかりさせてしまっただろうか?
しかし言い訳させてもらえるなら、こちらはちゃんと身構えてすらいなかったのだ
あんなに早くしびれを切らして突っ込んでくると思わなかったから
というかそんなことより
「か・・・」
「か?」
「かっこいいーー!」
「お、そ、そうか?」
クラウスの剣技を見た時も思ったが達人クラスの技術は見ていて惚れ惚れする
いつか自分もこんな風に、なんて淡い夢を持ってしまう
ジオラはかっこいいと言われ少し照れているようだ
隊長で腕も確かなんだから隊員達に普段からそれくらい言われているだろうに
もちろんお世辞なんかじゃない
蹴りの速度はもちろん、それを寸止めする脚力
さらに寸止めしてもぶれない体の軸
そして膝から先だけのスナップで繰り出したかかと落としのスピ-ド
それらすべてを片足立ちの状態でやってのける安定感
全てが素晴らしい」
「お、おう・・・照れるぜ」
「はっ!」
興奮のあまり少し声に出てしまっていたようだ
独り言を聞かれてしまった時のようにこちらも恥ずかしい
「す、すみません・・・不甲斐ない姿を見せてしまって」
「いや、合格だ。お前が討伐隊に入るの認めてやるよ」
「へ?」
「だってオレが寸止めするって見切ってたんだろ?証拠に視線はちゃんとオレの蹴りを追ってたし」
「え、いや・・・」
「オレの動きは今お前が褒めてくれた通りだ、よく見えてる。爺さんが認めるだけあるぜ!気に入った!」
「ちょっ・・・」
そう言ってジオラは俺と肩を組んできた
といっても身長はジオラの方が大分高いので肩を組むというよりは羽交い絞めの方が近いだろう
そのため頬に胸が押し当てられる形になってしまう
筋肉質に見えるが胸はちゃんと柔らかかった
その様子をリリーがジト目で見ている
後でマヤには内緒にしといてと頼んでおかないと
ジオラの言う通り確かに目で追うことはなんとかできたが、仮にジオラが本気で当てに来た場合
今頃俺は地面に倒れているだろう
どうやらジオラは良いように解釈してくれたようだ
弁明するのも情けないので赤竜討伐の際に頑張るとしよう
ただ気になることが一つ
「マホンさんもジオラさんも滅茶苦茶強いのに俺なんか必要なんですかね?」
「お主には基本的に魔法で援護をしてもらうことになる。なぁに、よっぽどのことがない限りお主の出番は少ないじゃろう」
「そうだぞ!オレ達が守ってやるからな」
「なるほど、ありがとうございますジオラさん」
「お主魔法は得意かの?この間は治癒魔法も使っておったが」
「どちらかというと魔法の方が得意です」
「そうなのか?魔法使いってどいつもこいつも陰湿なイメージしかねえけど、お前は違うな」
「お前さんの魔法使いの印象はブラマンシュの印象そのものじゃろ」
「あぁ、それでか・・・チッ、思い出しちまった・・・」
「ブラマンシュ?」
「捌番隊の隊長じゃよ。魔法に関しては王都一じゃろうな」
「へぇ~」
「性格の悪さも王都一だな」
王都一の魔導士、凄く興味がある
ジオラはそのブラマンシュって人のことを嫌ってそうな感じだが
「昨日王都の西の方で爆発があったのを知らんか?」
「あ!ありました」
王都北の学園の訓練場で稽古していたらいきなり遠くでキノコ雲が昇ってビックリしたのを覚えている
事件かとも思ったがすぐに『騎士団の任務中の出来事で被害者もいない』との情報が回り、それっきり気にしなくなっていた
「あれはブラマンシュの魔法じゃよ。『エクスプロージョン』、お主も使えるか?」
「使えますけど、あれほどのは・・・どうだろ?本気で使ったことないからわかりませんけど」
やっぱり世界は広い
この王都内だけでも俺より遥かに強い人が沢山いる
うかうかしてられない
「なんにせよ治癒魔法が使えるのは心強い。お主には怪我人の治療を頼むことになりそうかの」
「ま、オレの後ろでのんびりしてろよ」
「わかりました。それじゃ俺はリリーの頼み通りレイラさんを守ってようかな・・・」
「そういやお主らは知り合いじゃったのか?」
「はい、ルシオ君は妹の友人なんです。もう何年も前からの付き合いで、なので会議の時ルシオ君の名前が上がってビックリしました」
「ルシオー?お客さん?」
「ルシオ様朝食の用意ができました」
話をしていると家からマヤとサラが出てきた
それぞれに紹介したあと世間話を少しして
マホンとジオラ、それにレイラもそろそろ仕事に行かなければいけない時間になった
「それじゃルシオ君、任務の詳細が決まったらまた知らせに来るわね」
「わかりました」
「ルシオ君が私の事守ってくれるなら、私がルシオ君のこと守ってあげるからね」
「はい、頼りにしてます」
「いえ、ルシオ様は私がお守りします」
「あ、そういやサラはどうしよう。連れて行ってもいいですか?」
「あぁ?こいつ戦力になんのかよ?」
「足手まといにはなり・・・」
そこまでサラが口にしたとき
ジオラが俺にしたように右ハイキックをサラに繰り出し寸止めした
しかし俺の時とは違いハイキックの寸止めだけだった
「駄目だな、ルシオと違って話にならねえ」
サラは突然の出来事に、俺と同じで微動だにすることができなかった
ただ俺と違うのは目で追うことすらできなかったところだろうか
「お前何か魔法とか使えるのかよ?」
「い、いえ・・・魔法は・・・」
「前衛は必要ねえ、もっともお前を前衛として使う気もねえけどよ。ルシオだけで充分だ」
「し、しかし!私はルシオ様の護衛を・・・」
「必要ねえよ、ルシオのことはオレがちゃんと守ってやるから。お前はお留守番してろ」
「くっ・・・」
実力の差を見せつけられサラは何も言い返せないようだ
「悪い、サラ。今回は家に居てマヤ達を守っててくれないか?」
「ルシオ様・・・」
サラはまるで雨の中捨てられた子犬のような顔で俺を見てくる
サラの気持ちは素直に嬉しいので良心が痛むが、今回は騎士団の仕事に参加するのでマホンやジオラの言うことに反発するわけにはいかない
(これは説得に時間がかかりそうだな・・・)
「そういうことだ。それじゃまたなルシオ」
「よろしくの、ルシオや」
「はい、また後日」
「今日の夕方か明日には詳細な予定を伝えに来るわね」
「はい、じゃあなるべく家に居るようにしますね。いつ来ても大丈夫ですよレイラさん」
「ありがと、それじゃね」
サラは帰っていくジオラの後姿を憎々しそうに眺めていた
「ねぇリリー、よかったら朝ご飯一緒に食べていかない?」
「えっと・・・いいんですか?」
「もちろん」
「ではお言葉に甘えて・・・」
「サラのことよろしくねルシオ」(ボソッ)
「わかってる・・・」(ボソッ)
「それじゃリリー、こっちよ」
「お、お邪魔します」
マヤの誘いでリリーも朝食の席に参加することになった
普段なら俺もリリーの参加を喜ぶところなのだけど
リリーはサラの様子を見て気まずそうだった
俺も隣で泣きそうな顔をして見てくるサラをどう説得しようかと考えると気が重かった




