111 騎士のお仕事
-王都西部ドラセルク山脈麓-
大量のワイバーンが山脈から現れ、散り散りに飛翔していた
王都へ向かってくるワイバーンも多数いるため騎士隊がその討伐を行っている
「ふ~む・・・ちと数が多いのう・・」
「雑魚もこう多いと鬱陶しいな。っておい!マホンの爺さん、一匹逃がしてるぞ!」
「わざとに決まっとろうがジオラ。儂が全部片づけては下が育たんからの。ほれ小僧!逃がすなよ!」
「りょ、了解であります!」
「大丈夫なのかよ・・・」
「お主は自分の隊を過保護にしすぎとるんじゃよ。そのせいで揃いも揃って腑抜けておる」
「ああ?」
「ほっほ、ほれ見ろ。お主が全部片づけてしまうからあ奴等オロオロしとるだけじゃないか」
「あん?・・・てめえら何サボってやがる!」
「隊長が全部片づけておいてそりゃないっすよ~」
「チッ・・・なら後はお前等だけでやってみろ!オレは休憩する!」
「どれ・・・大分落ち着いたの、儂も少し休憩させてもらうわい」
「「「了解です」」」
「なぁ爺さん、ワイバーンの数が例年より多くないか?」
「そうじゃの・・・こりゃ今回の赤竜討伐は骨が折れそうじゃわい」
ワイバーンがドラセルク山脈からやって来たのには訳があった
冬眠から覚めたワイバーンが餌を求めてやってくることはよくあるが、ここまで一斉に大量のワイバーンが山から下りてくることはまずない
そしてとっくに冬眠から覚める時期は過ぎている
考えられる理由としては、赤竜が縄張りを求めて他所からやって来たというところだろう
複数の赤竜か、それとも強力な個体か
「隊長!応援が到着しました」
「げっ、よりにもよってお前かよブラマンシュ」
「相変わらず失礼ですね。こういう仕事は僕が適任だとメリアム様の御指名です、それを『よりにもよって』なんて・・・あとでチクッときますよ黒猿」
「ワイバーンの前にお前を殺してもいいんだぞ?青鼠」
「やめんか二人とも」
「チッ・・・」
「では隊を引かせてください。あとは僕がやりますから」
「うむ、頼むぞ。皆の者引けい!」
マホンの一声でジオラの隊も一斉に後ろへ引く
そして入れ替わるようにブラマンシュがワイバーンの群れへと歩みを進める
ブラマンシュは方々に飛翔する群れから突出したワイバーンを風魔法で少しだけ押し返し、ワイバーンの群れの密集度を上げる
そこに『エクスプロージョン』を放った
平原に巨大なキノコ雲が立ち昇り
衝撃で大きな地鳴りがするほどだった
爆風で平原に面するドラセルク山脈の木々はなぎ倒され一部が禿山になってしまっている
しかしブラマンシュの張った結界で後方のマホン隊とジオラ隊は無害
結界を張っていなければ衝撃波が王都まで届き、脆い建物なら崩壊させる可能性もあるほどの威力だった
それほどの威力の魔法を放つこともだが、それを防ぐことができるほどの魔法障壁
それも超広範囲にわたって展開できるほどの魔力をブラマンシュは内に秘めていた
そしてこれが全力ではなく、当然余力も残している
「終わりましたよ」
「うむ、ご苦労」
数十、もしくわ百近くいたワイバーンはどれも黒焦げになったり爆発で粉々になり辺りに散らばっている
跡形もなく消し飛んだものも少なくないだろう
新米の兵士はこれほどの魔法を初めて見たのか腰を抜かして震えている
「それでは僕は先に帰りますね。掃除はお願いします」
「ほいほい、任されたわい。メリアム様によろしくの」
「さっさと帰れ!」
「黒猿がサボっていたと報告しておきますよ」
「テメェ!ぶっ殺すぞ!」
「喧嘩する暇があったらさっさと片づけを始めんかジオラ!ブラマンシュもさっさと報告に戻るんじゃ」
「は~い」
「メリアム様に余計な事言ったら殺すからな青鼠・・・」
「はぁ~・・・いい加減にせんか・・・」
騎士団の隊長というのはどいつもこいつも癖がある
そのうえ実力も確かなので余計に質が悪い
マホンは隊長だけでなく騎士団の中でも最古参で、腕も確かなうえ面倒見も良い
なので全ての騎士から尊敬される人物ではあるが、そんなマホンでも隊長格同士のいざこざには手を焼いていた
ジオラは伍番隊の隊長で、主に素手での格闘術を使う
しかし剣や槍、斧など武器なら何でも使いこなせるほどの戦いのセンスを持っている
その圧倒的才能で若くして伍番隊の隊長へと上り詰めた
口調は荒っぽいがこれでもれっきとした女性だ
戦闘スタイルからか無駄な肉は一切なくキュッと引き締まりスタイルは抜群、南方の大陸が出身で健康そうな褐色の肌をしている
しかし学は無く頭が悪いため、同世代のブラマンシュに「黒猿」と呼ばれている
ブラマンシュはワイバーンを一掃できるほどの魔法を扱うことができる
こちらも若くして実力で隊長の座まで上り詰めた正真正銘の天才だ
魔法に特化しているからか身体つきは華奢で、そのため周りから舐められることも少なくなかった
しかしそういった相手を全て実力で黙らせてきた
入隊したころからブラマンシュを見てきたマホンですら彼の本当の実力を測れないでいる
隊長というのは基本的に壱から捌(八)番隊まで上から順に実力で並んでいる
ブラマンシュは捌番隊という隊長の中では最弱の位にいるが、ルール無しの殺し合いをしたなら隊長内で最強の可能性もあるとマホンは考えていた
剛と柔、武と知といった感じでジオラとは犬猿の仲で、まさに水と油だ
「黒猿」と呼ぶブラマンシュに対抗して「青鼠」とジオラに呼ばれている
犬猿の仲なんだから「青犬」でいいだろとマホンは初め思ったが、ジオラは犬を好きなので薄汚い鼠を選んだらしい
青の要素は単純にブラマンシュが好んでいつも青い服を着ているからだ
焦げたワイバーンの片づけを進めながらマホンは思う
「まったく・・・本当にルシオのような素直な者が隊長になってくれたらどれだけ楽か・・・」
「ん?誰だそいつ?」
「こっちの話じゃ、さっさと仕事を続けんか」
「なんだよ?教えてくれよ」
「機会があったらの」
「気になるじゃないか・・・」
ぼそっと口にしたルシオのことが気になるのかジオラはマホンの後ろをちょろちょろと付きまとってくる
マホンは気にしないようにして作業を進めた
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城の会議室にメリアムをはじめ
アルスパーダ、マホン、ジオラ、ブラマンシュの四人の隊長
さらにそれぞれの隊の数名ずつが集まる
「以上が今回の報告になります!」
「ご苦労・・・例年よりワイバーンの数が多いのが気になるな。どう思う?マホン」
「おそらく流れてきた赤竜が例年より多いのか、それともとびきり強力な赤竜がやって来たのか・・・あたりでしょうな」
「そうだな・・・」
「メリアム様・・・西からやって来た行商人が『山のように大きな赤竜を見た』という報告も届いています」
「それは本当かいアル?・・・ふ~む、強力な個体がやって来たと考えるべきか」
「山のように大きな赤竜って・・・もしかしたらアルスパーダさんの先祖なんじゃありませんか?」
「・・・・・」
「冗談ですよ。怖い顔しないでください」
ブラマンシュが言った「巨大な赤竜がアルスパーダの先祖」というのは
アルスパーダが竜種の亜人というのに関係している
アルスパーダだけでなくこの世界の獣人などの亜人種は先祖を辿っても未だ出生が解明されていなかった
なぜ人の姿をした者に動物の血が混じっているのか
その理由の一つとしてお伽噺がある
『千年生きた獅子が不思議な力を授かって人の姿に化け人間の女性と恋に落ちる』といった内容だ
そのお伽噺を信じる者も実は少なくはない
赤竜は生きていれば成長を続けると言われている
山のように大きな赤竜なら千年生きていてもおかしくはない
ブラマンシュはそれで先ほどの冗談を口にした、決してお伽噺を信じているわけではない
「赤竜の寿命は長くても500年程度と言われている。最長寿の竜種ですら半分だ、千年も生きられる生物はこの世に存在しないだろう。・・・それにお伽噺に出てくるような赤竜ならそもそも竜の姿をしていないんじゃないか?あまりアルを怒らせないでやってくれブラマンシュ」
「・・・・失礼しました」
「クックック」
メリアムに怒られるブラマンシュを見てジオラが心底嬉しそうに噴き出すのを堪えながら笑う
「しかしその話が事実なら若い赤竜を数匹討伐するよりも大変になりそうだな」
「そうですのう・・・」
「被害を抑えるため隊長数人だけの編成で討伐に向かわせるか・・・」
「ただの噂かもしれないんだろ?オレとマホン爺の隊だけで大丈夫だってメリアム様」
「それじゃ心配なんだよジオラ。例年よりワイバーンが多いということは噂を抜きにしても強力な赤竜がいる可能性は高い。そうなった場合マホンとジオラは大丈夫でも兵士たちに甚大な被害が出るかもしれないからね」
「よくわかんねぇ・・・オレの隊の兵くらいオレが守って見せるけどな」
「僕が一人で行って討伐してきましょうか?」
「お主が行ったらまた山の形が変わってしまうじゃろうが」
「今度は上手くやりますよ」
「参番隊と伍番隊、それに捌番隊も加えて討伐隊を編成しようか・・・」
「こいつと一緒に!?それだけは勘弁してくれメリアム様!」
「優秀な後方支援も必要だろ?」
「こいつに背中任せられるわけねえだろ!」
「メリアム様の御指示なら僕は構いませんよ?」
「儂は別の意味で心配じゃのぅ・・・」
「ティアはいねえのかよ?マルヴェールでもザルトイでも、こいつじゃなけりゃどの隊でもいいからさ!」
「クレルティアとザルトイは遠征中じゃろうが。マルヴェールもずっと南の仕事で帰ってきておらん。それくらい把握しておれ馬鹿者」
「ならクラウスでもいいよ!」
「クラウスが入ったところで後方支援は期待できんじゃろ」
「じゃあアルスパーダ!」
「アルは私の護衛だ、外すわけにはいかないな」
「ぐっ・・・勘弁してくれ・・・」
ジオラが口にしたティアという人物は漆(七)番隊隊長のクレルティア
ザルトイという人物は陸(六)番隊隊長
そしてマルヴェールが肆(四)番隊隊長だ
ザルトイとマルヴェールはともかく、クレルティアは同じ女性の隊長ということもありジオラと仲がいい
クレルティアはジオラと違いとても女性らしい穏やかで優しい人物だ
ブラマンシュと同じようにジオラとは正反対の性格だが、こちらはお互いの違いを尊重しあえる仲のようで戦闘面でも組むと非常に相性が良い
クレルティアとザルトイは遠征中で王都に居ない
マルヴェールは大陸の南にあるバブレスという国が不穏な動きを続けているため国境付近で監視を続けている
「だったら爺さんと青鼠の隊だけでやってくれよ!」
「クラウスの隊は去年の討伐で犠牲者も出ている、それに順番的にジオラの隊を外すというわけにもいかないし・・・」
「そうですよ、僕の隊は去年も参加しているんです。そのうえで今年も参加してもいいですよと言っているのに、本当にわがままですね・・・まぁ猿だから本能に抗えないんですね、仕方ありません」
「てめぇ・・・」
「メリアム様の前で見苦しい真似をするでない二人とも!」
赤竜討伐というのはほぼ毎年のように行われていて、相手が竜種である以上当然危険も付きまとう
なので腕に自信のある隊長格以外は基本的にやりたがらない
そのため各隊がローテーションで討伐隊を編成している
今年は二年連続で参加していないジオラの隊に回ってくる番だった
「まいったな・・・無理にジオラとブラマンシュを組ませても悪影響だろうし」
「まったく・・・メリアム様の心労を増やしおって馬鹿共め」
「後方支援もできそうな腕の立つ人物か・・・一人知ってるけど、さすがに学生に国の仕事を手伝ってもらうのもなぁ」
「・・・・・」
「メリアム様・・・」
メリアムの考えている人物に心当たりのあるアルスパーダとマホンが同時にメリアムを見る
「こいつじゃなければ誰でもいいぜオレは!」
「僕も討伐隊に参加しなくてもいいのなら元の仕事に戻らせてもらいますけど」
「メリアム様・・・もしやルシオのことをお考えですかな?」
「あ、わかる?」
「ルシオ?・・・さっき爺さんが言ってた奴か?強いのかそいつ?」
「強いよ。実力を見る試合だったけどマホンが一本取られたんだから」
「んなっ!?マジかよ!」
「それは凄いですね・・・僕も興味があります、学生と仰いましたが?」
「王立学園の生徒なんだ」
「ならそいつに頼めばいいな!それで解決だ!いいよな?メリアム様、爺さん」
「ルシオなら頼めば協力してくれそうですが・・・無償というわけにはいきますまい?」
「そこなんだよね~。今度は何をプレゼントしようかな?」
「何を楽しそうにしとるんですか・・・まったく」
「今度は?・・・一般の者なら金を積めばそれで喜ぶでしょう、それでは駄目なんですか?」
「ルシオは金で動くような奴じゃないよ、それに金には困ってないだろうし・・・アルといいルシオといい、あまり私の友人を軽く見ないでくれるか?ブラマンシュ」
「・・・・申し訳ありません」
「いや、わかったのならいい。君はまだルシオのことを知らないわけだしな」
「クックック」
ブラマンシュはマホンから一本取るほどの実力と
メリアムに友人と言わせるほどのルシオという人物に興味が湧いていた
そしてジオラも同じように思う
そして間接的とはいえブラマンシュに惨めな思いをさせてくれたルシオに
まだ会ったこともない人物に好感を抱くほどだった
(ルシオって・・・ルシオ君のことよね?)
そして会議で一言も発言していないが伍番隊の兵の中にレイラの姿があった




