110 それぞれの思い 参
『アリスの反抗期?』
兄さんの周りにはいつも人が集まっている
「ルシオ!どう?お義母様に習った通りできてるかしら?」
「うん、母さんが作ってくれたのと一緒だと思う。おいしいよ」
「ホント!?やった!」
「お兄様お兄様!そっちのスープはどうですか?シエロちゃんが作ったんですよ!御口に合いますか?」
「おぉ!これおいしい!シエロちゃんって料理も上手なんだ、凄いな」
「えへへ~嬉しいです」
もとい、お邪魔虫が寄ってくる
「にいさ・・・」
「兄さん!食べ終わったんならさっきの続きやろうよ!」
「そうだな・・・よし!やるかマルク」
「・・・・」
「アリスはどうする?」
「やらない・・・」
「・・・・そっか」
(どいつもこいつも・・・アリスの邪魔ばっかり!)
ようやくマヤとシエロが落ち着いたと思ったら
今度はマルクに兄さんをとられてしまった
(やっぱりこんなことなら学園の寮に居た方がマシだったかも・・・)
でもそれでは兄さんに会いたいときに会えないかもしれない
それはそれで嫌だ
それに兄さんがどうしてもって頼むから
兄さんがアリスと、ど~~~しても一緒に居たいって言ってくれるからしょうがない
兄さんはマルクを連れて庭に出て行ってしまった
それにサラとシエロもついていく
マヤはまたローリスにお母さんに会いに行った
テラとマルは食卓の片づけをしている
(はぁ~・・・暇だな)
「アリス様。食後に紅茶でもいかがですか?」
「いい」
「左様でございますか」
いつまでもここに居るとテラとマルが気にしてくるから鬱陶しい
やることがないから自分の部屋に戻ってベッドにもたれかかるように座りこんだ
ここ最近兄さんがあまりアリスに構ってくれない
兄さんはマヤとサラの事ばっかり気にしてる
兄さんがマヤと愛し合っていて、もうすぐ結婚するってことはちゃんとわかってる
サラも今まで大変な思いをしてきて、それを兄さんは優しいから放っておけないのもわかる
(でも・・・もうちょっとアリスに構ってくれてもいいじゃない・・・)
最近はマルクが熱心に兄さんに稽古をつけてもらっている
兄さんはその度にアリスにも「一緒にやるか?」と聞いてくれる
でも疲れるのは正直嫌いだし、なんかマルクのついでって感じがして嫌だ
兄さんにそういうつもりがないのはちゃんとわかっているんだけど・・・
まぁマルク達はまだいい、兄さんの方から気にかけているところがあるから
本当に邪魔なのはシエロだ
(なんなのあいつ!兄さんの事『お兄様』とか呼んで!兄さんの妹はアリスだけなのに!)
シエロは何かあるとすぐ「お兄様!お兄様!」と兄さんに甘えるように近寄る
さっきだって、ちょっと料理ができるからって兄さんに褒めてもらっていい気になって
でも・・・
シエロが兄さんだけじゃなく家族みんなのことをちゃんと見ていることも知っている
お風呂に入ったら着替えを用意してくれてたり
アリスの好きな食べ物と嫌いな食べ物をたった数日で覚えて気を付けてくれていることもわかっている
わかってはいるんだ
(でもそれとこれとは話が別だもん!メイドなんだから当たり前じゃない、お仕事なんだし)
アリスって本当に嫌な子だ・・・
(はぁ~・・・)
__
_
「アリス!これから街に買い物に行くんだけど、アリスも一緒に行こう?」
「買い物?行く!」
マルクとの稽古が終わったのか兄さんが部屋までやってきた
ぼ~っとしてたら結構時間が経ってしまっていたみたい
兄さんと買い物
やっぱり兄さんはちゃんとアリスのことも気にかけてくれている
(なのにどうして・・・)
兄さんに呼ばれて外に出ると、兄さんだけじゃなく
マルクとサラ、そしてシエロまで居た
(マルクとサラは分かってたけど・・・シエロまで一緒なのか)
「はぁ~・・・」
「行きましょう!お兄様」
「はいはい、引っ張らない引っ張らない」
(せめてマルクだけならな~・・・)
兄さんとマルクとアリスの三人で居ることはよくあった
本当は今までだって兄さんと二人っきりが良かったんだけど
シエロが兄さんを引っ張ってどんどん進んでいく
そのすぐ後ろをサラがついていく
更にその後ろで並んで歩くマルクに目的地を聞いてみた
「マルク、買い物ってどこに行くの?」
「僕もよくわかんない・・・なんかシエロちゃんが欲しいものあるとか言ってたけど」
「買い物ってシエロの用事なの?・・・来るんじゃなかった」
「でも僕たちの欲しいものも買ってくれるって兄さん言ってたよ?」
「シエロのついでなんでしょ?」
「・・・何で怒ってるの?アリス」
「怒ってない」
「えぇ~・・・」
後ろで不貞腐れながら黙って兄さん達についていくと
キラキラしたアクセサリーを売っているおしゃれなお店にやってきた
「これなんかどうですか?お兄様!」
「可愛いね。あ、こっちもいいんじゃない?」
「お兄様って装飾選びのセンスもいいんですね!?お兄様が選んでください!」
「いいよ。ん~・・・それじゃ、これとか似合いそうかな」
「きゃー!可愛いですぅ」
(キーキーうるさいなぁ・・・)
視界にシエロが入ると鬱陶しいから陳列棚を眺めることにした
(あ、これ可愛い・・・)
「兄さんこれ・・・」
「これなんかサラに似合うんじゃない?」
「私にこのような物似合うでしょうか?」
「試しに付けてみてよ」
「わ、わかりました・・・」
「うん!やっぱりよく似合ってる」
「そ、そうでしょうか」
「凄く似合ってますよサラさん!やっぱりお兄様って見る目があります!」
「サラは他に気に入ったものとかある?」
「いえ、特には」
「じゃあそれ買おうか。プレゼントするよ」
「そんな!私には勿体ないです」
「そんなことないって。これからはもっとおしゃれもしてみなよ。凄く似合ってるんだから」
「わ、わかりました。ルシオ様がそう仰るなら」
「うんうん。・・・アリスはそれが気に入ったのか?」
「いらない・・・先に帰る」
「え?アリス?」
シエロやサラばっかり!
全然楽しくない!
アクセサリーショップを飛び出し速足で歩き出す
ここ何日かずっとそう
兄さんはサラかマヤのことばっかり気にしてる
マルクとシエロは兄さんにちょっかい出して
アリスが兄さんと一緒に過ごす時間が少しも無い
どんどん歩いていたら周りが知らない風景になった
(どこだろ、ここ・・・)
まさか迷子になってしまったのか
「もう・・・最悪・・・」
何もかもが上手くいかない
悔しさや悲しさで泣きそうになってしまった
でも迷子になったなんて認めたくない
道行く人に道を尋ねることもできずトボトボと歩くだけだった
そしてさらに見たことのない風景になり
気付けば周りに人の気配すらなくなってしまった
(どうしよぅ・・・)
マルクと違ってアリスは用事がなければ外を出歩いたりしてこなかった
マルクはよく暇を見つけては王都をあちこち探検していたみたいで地理にも意外と詳しいのに
「お嬢ちゃん一人でどうしたの?」
「っ!?」
いきなりおじさんに後ろから声をかけられてビックリした
いつの間に後ろにやってきたんだろう?
「・・・・」
「怖がらなくていいんだよ?迷子なのかな?おじさんが案内してあげようか?」
怖がらなくていいと口では言っているがそんなの無理だ
おじさんは顔に下卑た笑いが張り付いていた
アリスは知っている
これは悪いこと考えている人の顔だ
「いい・・・ほっといて」
「困ってるんだろ?おじさんが道案内してあげるからね。それにしても君可愛いねぇ~」
「触らないで!」
おじさんが腕を掴んできた
怖くて思いっきり振りほどこうとしたのに振りほどけない
強化魔法を使ってもおじさんの手を振りほどくことができなかった
「お嬢ちゃん随分力が強いんだね。でもおじさんも強いでしょ?」
腕をもの凄い力で掴まれたまま逆の手でよしよしと頭を撫でられた
(いや・・・気持ち悪い、怖い・・・離して)
恐怖で声が出ない
体が竦む
今まで兄さんと一緒に稽古してきたのに
いざというとき全く体が動いてくれなかった
「そうそう、おとなしくしててね。おじさんが良いとこに連れて行ってあげるから・・・コペッ!」
「それ以上触んな」
声も出ず体も思うように動かないので絶望しかけていたら
いつの間にかやって来た兄さんがおじさんを吹っ飛ばしてくれていた
「アリス、大丈夫か?」
「・・・・兄さん・・・兄さん!」
「よしよし」
嬉しさのあまり兄さんに抱き着いた
すると兄さんが頭を撫でてくれる
おじさんと違って凄く心地よくて安心できた
兄さんの肩越しに吹っ飛ばされたおじさんが起き上がりこちらに向かってきているのが見えた
「兄さん!危ない!」
「大丈夫、わかってるよ」
「お、お前!邪魔しやがって!」
「うっせえな・・・」
「ひ、ひいいい」
兄さんは土魔法でおじさんの手足を拘束しながら、そのまま周りに建つ家より高いところまで石柱を伸ばして持ち上げた
まるで磔にされた罪人のようだ、いい気味
「この子のトラウマになったらどうするんだ!」
「お、おろしてくれ~」
「憲兵呼んでくるまでそこで頭冷やしてろ!」
「ひい~~」
「まったく・・・どこの世界も暖かくなると変な奴が湧いてくるのは一緒なんだな・・・」
やっぱり兄さんは凄い
アリスが怖くて何もできなかったおじさんをこんなに簡単に捕まえてしまった
「あんな奴いつものアリスなら簡単にやっつけられるはずなんだけど・・・怖かったな、怖くて動けなかったんだろ?」
「うん・・・怖かった・・・」
「もう大丈夫だからな。兄ちゃんから離れるなよ?」
「うん」
言われるまま兄さんの腰にしがみつく
大丈夫、もう怖くない
「これから憲兵呼びに行くから、これじゃ歩きにくいな・・・ほら」
兄さんが手を差し出してくる
「うん!」
兄さんと手を繋ぐ
アリスの手と比べるとおっきくて、暖かくて、力強い
でもさっきのおじさんのように乱暴さは全くなくて、穏やかで優しい
歩きながら兄さんと話をする
「どうしてアリスのいる場所がわかったの?」
「上から探したんだよ」
「おお!さすが兄さん」
「でもシエロちゃんに感謝しろよ?シエロちゃんがアリスはこの辺りに詳しくないだろうから家に戻る前に念の為この辺りを探した方が良いって言ってくれたからすぐに見つけられたんだぞ?」
「え・・・シエロが?」
「うん。シエロちゃんの助言がなかったら俺も一回家に戻ってただろうから、来るのが遅れてさっきの奴に連れていかれてたかもしれないな」
「・・・・」
想像しただけでも恐ろしい
さっきのおじさんの顔を思い出したら鳥肌が立ってしまった
「わかった・・・帰ったら『ありがとう』って言っておく」
「それがいい・・・あ、そうそう」
「?」
突然兄さんは立ち止まりアリスの正面で顔の高さを合わせるように膝をついた
そして左耳に何かを着けてくれた
「これ・・・」
「さっき見てたのってこれで合ってるか?アリスに似合うかなと思って買っておいたんだけど」
兄さんが着けてくれたのはさっき陳列棚にあった耳飾りだった
「ありがとう!兄さん」
「よく似合ってるよ」
やっぱり兄さんはアリスのこともちゃんと見てくれている
最悪な一日だと思っていたけど、なんだかんだ最高の一日になった
帰ったらちゃんとシエロに感謝して
それから、少しだけアリスが大人になってあげよう
そんなことを思った
__________________________________
『???』
「ごきげんよう、セルドロ殿」
「お、おお!ブラン!」
「お静かに、兵に気付かれます」
「おっと・・・よく来てくれた、ブラン。私をここから出してくれ」
「その前に一つお聞きしてもよろしいですかな?ノワールと連絡がつかなくなったのですが、今ノワールはどこに?」
「ノワールは・・・殺された・・・らしい」
「・・・・・・・・・・・ノワールが?御冗談を」
「私も本当かどうかは知らんのだ。ただ王立学園のルシオとかいうガキに殺されたということになっている」
「ルシオ・・・」
「と、とにかく私をここから出してくれ!そのためにこんな所まで来てくれたのだろう?」
「ノワールが・・・まさか・・・」
「おい!聞いているのかブラン!・・・・ひぃっ」
「・・・・・・まずはノワールが死んだかどうか、その真偽を確かめる必要がございます。それまでもうしばらくご辛抱ください」
「わ、わかった・・・」
ノワールが死んだ?
それも王立学園の生徒如きを相手に?
まさかそんなことあり得ない
急いでノワールを探さなければ
あのような豚のことなぞどうでもいい
いっそのこと始末しておけばよかったか?
まぁいい
「待っていてくれ兄弟・・・」




