101 プラータという暗殺者
サラ(?)の目が覚めるのを待っていると隣の礼拝堂が騒がしくなった
クラウスが外の憲兵に指示でも出したのだろうか?
何人もの足音が聞こえる
しかしこの部屋に入ってくるものはいない
「ん・・・・」
「目が覚めた?」
「っ!?」
サラ(?)が目を覚ましたが状況がわからないのかベッドの上でこちらを警戒している
持っていたナイフを探しているのかゴソゴソと手を動かしていた
戦闘中に持っていたナイフはクラウスに預かってもらっているので今は無いはずだ
もう一本持っていたら話は別だが
武器がなくて観念したからか、もしくはこの場に俺しかいないからなのか
依然警戒はしている様子だが逃げようともせず俺と向き合ってくれた
「最初に確認しといていいかな?もしかして・・・サラ?」
「・・・・・・・はい」
「そっか・・・また会えて嬉しいよ」
「私は・・・こういった形で再会したくありませんでした・・・」
「それもそうか・・・」
やはりこの人はサラだった
四年前、連続切り裂き殺人犯から助けた少女
その後すぐ誰かに引き取られ、それからずっと会っていなかった
まさかこんな形で再会するとは思っていなかった
「セルドロは捕まったよ。セルドロとサラの間に何があったのかは知らないけど、もうこんなことしなくてもいいんだよ」
「・・・・・」
するとサラは大粒の涙を流し始めた
セルドロの傀儡術といい、やはりサラは好きでこんなことをやっていたわけではなかったようだ
「教会から居なくなってからのこと教えてくれないか?どうしてサラがセルドロに仕えていたのかとか、聞きたいことがいっぱいあるんだ」
「・・・・わかりました」
サラが話してくれた内容はこうだった
俺に助けられた後、少しの間教会で過ごし
冬が明ける頃、教会でセルドロと出会った
ずっと昔からセルドロは時々教会に出入りしていたようだった
サラも後になってわかったことなのだが、セルドロは身寄りをなくして教会や孤児院に新しく入った人物の中から価値のある人物を探していたようだ
価値というのは、奴隷として高値で売れるかどうか
そして自分の護衛者もしくは暗殺者として利用できるかどうか等だ
そして新参者であるサラに目を付けた
サラは美人なので奴隷として売ればかなりの値がつく
そして色気を使えば暗殺者としても利用できる
セルドロはすぐにサラを引き取ることを決めた
そしてサラ自身に「奴隷として生きるか、それとも暗殺者として生きるか選べ」と迫った
セルドロの使用人として引き取ってもらえたとばかり思っていたサラは絶望した
人として生きることができると思っていたら、また奴隷に戻る羽目になりそうで
それを拒めば暗殺者として人を殺さなければならないと
しかしそれ以外の選択肢はサラには提示されなかった
奴隷に戻ればまた買い主に命を狙われるかもしれない
鞭で叩かれながら働かされるかもしれない
性的な目的で買われ凌辱の末廃人にされるかもしれない
どれも死にたくなるほど辛い未来しか見えなかった
辛い思いをするだけして、最後はボロ雑巾のように捨てられるかもしれないくらいなら
他人の命を踏みにじってでも生きていたい
そう思い暗殺者として生きることを選んだ
しかしそれも間違いだった
暗殺者として戦闘技術と男を惑わす術を教え込まれた
元々貴族として裕福に育ったサラは当然戦闘技術など皆無だ
昼は血の滲むような稽古をこなし
夜はセルドロ相手に男を喜ばせる術を叩きこまれた
奴隷の方がまだマシだったかもとサラは後悔した
暗殺者になることで自分自身も命を狙われる可能性がある
戦闘技術を身に着けるため何度も蹴られ殴られた
色気で男を虜にするためにという理由でセルドロの性の捌け口にされた
結局『奴隷になったらこういう目にあうかもしれない』と予想したこと全てを味わう羽目になってしまった
しかしサラに暗殺者になることから・・・セルドロから逃げる術は無かった
殺人に抵抗のあったサラを操るために傀儡術をセルドロが使ったからだ
それからセルドロは事あるごとにサラを人形のように扱った
傀儡術で操られていても多少の記憶は残るようで、自分の意に反する行動をとることがひどく辛かったようだ
そしてセルドロにプラータと命名され
命令されるがまま暗殺対象に近づき、抱かれ、殺す
そして帰れば辛い訓練があり、その後はセルドロに抱かれる
サラの心が休まる場所は何処にも無かった
「何度も死のうと考えました・・・でもそのたびにルシオ君に言われた『生きてさえいれば、何か良いことがあるかもしれない』って言葉を思い出して・・・何とか生きてこれました」
「・・・・・・・ごめん」
「?・・・どうして謝るんですか?」
(俺のせいだ・・・俺がそんな・・・呪縛になるようなことを言ったから・・・)
「俺が軽率だった・・・中途半端に助けて、それで満足して・・・サラが居なくなってからも、元気にしてるかな?とか思うだけでどこに行ったのか調べもしないで・・・」
「いいんです。ルシオ君が助けてくれなければ私はとっくに死んでいました。それに、ルシオ君が『生きてさえいれば』って言ってくれたから・・・またこうやってルシオ君と会うことができたんです」
「でも・・・」
サラを助けたあの時、ローリスにでも連れて行ってディルクあたりに働き口を紹介してもらっていればサラが地獄のような日々を過ごす必要は無かっただろう
どうしてあの時そうしなかったと後悔の念ばかりが湧いてくる
「いいんです。ほら、ルシオ君の言った通りになったじゃないですか」
「?」
「辛いことがあっても、またこうやって良いこともありました」
「・・・・」
「だから自分を責めないでください」
(この子は・・・)
「サラ」
「はい?」
「もう二度と同じような目に合わせないから、俺がそんなことさせないから」
「・・・・ありがとうございます。でも大丈夫です、私はもう一人でも生きていけると思いますから」
「駄目だ」
「えっと・・・」
サラが困ったように苦笑いしている
「今はまだ何をどうすればいいのか思いつかないけど、サラが生きてて幸せだと思えるように俺が協力する!もう中途半端には助けない!」
「・・・・ルシオ君」
「よし!まずはクラウスさんに直談判しないと!」
「ちょ、ちょっとルシオ君!?」
「大丈夫、任せて。いるんでしょ?入ってきてくださいクラウスさん!」
俺が声をかけるとすぐ扉が開いた
「気付いていたのか」
「ノワールと戦った後でまだ感覚が研ぎ澄まされているんで」
おそらく扉にもたれかかるように盗み聞きをしていたのだろう
ずっと気配は感じていた
「どこから聞いてました?」
「サラ君が暗殺者として生きることを決めたあたりから」
「結構最初の方ですね、なら話が早い。聞いた通りです、確かにサラはこれまで何人も暗殺してきたかもしれません。でもそれは全てセルドロに強制的に操られていたからです。情状酌量の余地はあると思います。というか寧ろ無実でもいいくらいだと思います!」
「いや・・・本人の私が言うのもなんですけどそこまでは・・・」
「サラはちょっと黙ってて」
「・・・・はい」
「どうですか?クラウスさん」
「う~む・・・私の立場ではなんとも・・・私が罰を決めるわけではないしなぁ」
「だったら・・・今回のことは黙っててください」
「君の気持ちがわからないわけではないが、それはできない」
「なら弁護してください、サラは被害者だと」
「・・・・ふぅ」
俺が滅茶苦茶なことを言っているのは分かっている
それでもサラが罪を被るのは納得できなかった
「冷静になりたまえルシオ君。私も同意見だ、最初からそのつもりだよ」
「クラウスさん!」
「司教殺害の件・・・セルドロは完全に黒だ、あの憲兵三人も自業自得だろう。ノワールは死んだ。そしてプラータと呼ばれる暗殺者はセルドロに操られる人形だった・・・今回の事件の顛末はこんなところかな?まぁセルドロ一人に全て擦り付けてしまえばいいさ」
「さすがクラウスさん!話が分かる!」
「ですが・・・私が暗殺者として殺めた人が3名いるということも事実です。その罪は償いたいと思っています」
「サラ・・・」
「・・・・それについては後で詳しく聞かせてもらおうか。まずは君を連行させてもらう」
「はい」
「クラウスさん!」
「大丈夫、話を聞くだけだ。まあ一時的に牢屋には入ってもらうことになるだろうが」
「私なら大丈夫ですよ、ルシオ君」
「・・・・明日会いに行くから。面会くらいできますよね?クラウスさん」
「それくらいは大丈夫だろう。多分ね」
「じゃあ、待ってますね」
「うん」
にっこりと笑いサラはクラウスに連れられて行った
(これで良いんだよな?クラウスに任せて正解なんだよな?)
一抹の不安は残るが
ようやく長い長い一日が終わろうとしていた




