表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

飽き


自分のここ最近の思いを文にするというのはとても良いものです。自信の感情を客観視することで、冷静になれます。それの一貫としてというのが理由の一つ。

もう一つは友人が「書いたら?」と言ってくれたのがきっかけです。どうせ冗談半分だったのでしょうが、最近チャレンジ精神に目覚めたので、あれは後押しと受け取っておきます。


始めから長編はなかなかきついのでは?と今では思うのですが、書いてみたい!という衝動に駆られたら長編の路線に乗っていました。一章で終わるかどうかは今後の創作意欲に委ねたいと思います。



この人生で、私は何がしたいんだろう。部活はしてないし、得意な、そして特異なスキルを持っている訳でもない。


今は高校生という名札が、私の立ち位置を示してくれる。しかし期間限定だ。3年という時間で使えなくなる。大学生でも4年。80年という大体の平均寿命を生き抜くためには心もとないことこの上ない。


?疑問に思う。『生き抜く』のか?何故?


これは、生きることの『目的』が『生きること』になっているのではないだろうか。


ビキッ


心の底で、何かにひびが入る音がした。

。。

。。。


三ヶ月は本当に早い。「1月は行く、2月は逃げる、3月は去る」という言葉があるが、「4月は死に、5月はGO!そして6月は霧散する」と付け足しても過言ではないだろう。


時の流れの速さをまじまじと感じ目を覚ました「田中あかね」は、覚醒の兆しをみせる夏の暑さに嫌気を指していた。この様子だと、あっという間に冬の寒さにも同じ感情を抱くのかもしれない。


着けていたアイマスクを外し、それが涙で濡れている事に気がついた。だが眠気のせいで深く考えられない、おもむろに勉強机に置く。あかねは電気を消してもアイマスクを着けて眠る派なのだ。何だか安心できる。


カーテンを開けるために立ち上がり、その場でグゥっと伸びをする。開くと、日の光が斜めに指し、窓の銀の枠に反射した。ギラっとする光はあかねをより覚醒へと促す。


高校生への憧れがキラキラしていた中学時代が懐かしい。まるで遠足前にわくわくが止まらないアレと似ているだろう。「300円まで!」とか「チョコ、飴禁止」という制限つきでのおやつ選びや、行き帰りの友とのトランプやUNOは、遠足の影の主役だったのだ。そして遠足当日だと、なんだか思っていたのと違うガッカリ感に襲われる。ここ最近がそれだ。



あかねは高校の夏服に袖を通し、ボサボサの紙を束ねた。朝ごはんの支度はいつもあかねの仕事だ。


キッチンでエプロンを身に纏い、冷蔵庫から卵、味噌、ウインナー、豆腐、食器棚の下の収納スペースから玉ねぎ、乾燥わかめを取り出した。片手鍋に水を3/4入れ、火にかけておく。


その間、玉ねぎの皮をめくる。まな板の上で丸裸の玉ねぎをスライスする。沸騰したお湯に乾燥わかめ、玉ねぎ、食べやすい大きさに切った豆腐を入れる。そして味噌をお玉で掬い、お湯に放置しておく。食前に温めるのがベストだ。


平面のステンレスに卵を一回打ち付け、ボウルに中身を移す。軽く混ぜてから塩コショウで味付けをし、油を引き、熱された卵焼き器に卵液を半分流し込む。

じゅわー。

黄金色と半透明が入り交じる卵液はたちまち固まり、キラキラの絨毯に変わる。それをくるっと丸め、油により光沢のある黄色めの焦げ目が現れた。残したもう半分の卵液を空いた卵焼き器のスペースに流し込む。

じゅわー。

一度丸めた卵を核とし、年輪のように丸めていく。それを4本作る。あかねの家族は両親と弟と私で四人いるのだ。


卵焼きをお皿に避難させ、空いた卵焼き器でウインナーを焼く。ウインナーを焼く際に少し水を入れサイズの合わない蓋をする。不完全だが蒸し焼き状態になる。たまにウインナーに切れ目を入れる人がいるが、私は断然切らない派だ。

じゅわわー。

これがウインナーの食感を最大限に活かせるとYouTubeで見たことがある。実際美味しい。


避難場所にウインナーを入れ、放置していた味噌汁を加熱する。この時、両親と弟が居間にやってきた。おはよーと挨拶し、テレビを付ける。ただいま午前7時過ぎ。ちょうど朝の番組が始まっていた。



最後の最後でレタスをちぎり、卵焼き、ウインナーの皿に添える。味噌汁を居間のテーブルに配膳し、ホカホカご飯をよそって、まばらに「いただきます」。


テレビのトピックは「今話題!天才女子高生フィギュアスケーター神薙若葉(16)にインタビュー!」だそうさ。同い年でテレビに取り上げられる程のフィギュアスケーター。学生時代が全国にさらされるなんて私はゴメンだ。心底。


だが、「同い年で、自分最大の強みを持っていること」は羨ましかった。自分の得意分野を見つけ、それを最大限に活かす生き方。誰にも引けを取らない自分が一番という能力。


口に運んだ米を咀嚼しながら、自分の日常を振り返りそれに該当しそうなものを考える。

...料理はどうか?んー、駄目だ。料理人なんていくらでもいる中で私がなったところで、ほそぼそとやっていくのが関の山だろう。それに、できたとしても家庭料理に毛が生える程度。とても輝けるほどとは思えない。


他には?

...。

わからない。そもそも、自分の特技を早くに見つけてそれを追求し続けるってのが稀なのかもしれない。大抵の人はそんなこと考えてないだろうけど、ちゃんと生きている。なあなあでもやっていけるのが人生というものだろう。

気づけば咀嚼を止めており、口の米は唾液の消化酵素により、ブドウ糖特有の甘みへと変化していた。


インタビューでは、神薙若葉のフィギュアスケーターのきっかけについての内容へ。


「何故、フィギュアスケートをやろうと思ったのでしょうか?」


「5年前くらいに、友達にスケート行こって誘われたんですよ。寒いから嫌だなって思ってたんですけど、お母さんがせっかくだから行ってみなってうるさく言うものですから。試しに行ってみるとめちゃくちゃ楽しくて、今現在めちゃくちゃはまってます!友達には感謝ですね、あのスケートとの出会いがなければ今の私はありません。」


元気一杯、にっこりスマイルで彼女はマイクに向かって返答。自信に満ち溢れている事がテレビ越しでも伺える。


「食べないならたまご貰おうか?」

弟の「田中まさと」は、14歳のバリバリ成長期である。私は、伸ばされた手の先端にある箸を掴み、「無理っ!」と睨む。卵焼きはあかねも好きだ。

冷めかけてしまった朝御飯を食し、流しへ食器を持っていった。



7時45分。そろそろいつもの登校時間が迫っていた。いつもの如く洗い物は母に任せて、部屋に戻り寝癖を直す。


ニコッ!


鏡の中の私の自信なさげな笑顔は、余計に何も持たない自分を嘲笑うかのようだった。

これが本当の自虐というものか。ふわぁと口を大きく広げ酸素を取り入れる。さっきの笑顔が涙に流れた。



登校にはいつも電車を使う。大抵の学生がそうだ。だが電車というものは、登下校の効率化を重視して早く進むために、道中の楽しみを享受できない難点を持つと個人的に感じている。

だが仕方がないのだ。学力レベルが合っていたのだから。


なので登下校の駅までの道のりを噛み締める。

野良猫がいたり、コンクリートの隙間を植物が茎を伸ばしていたり、発見があって色々と楽しい。こういう些細な楽しみがなければ、高校生などやっていられない。


歩を進めるうちに、気がつけば最寄り駅が見えてきた。駅の隣では、甘い香りを漂わせている一つの出店。


クレープ屋「ぷれーく」。


私は小学生の頃からよくここのクレープ食べていた。今でもだ。だが電車での飲食は流石にマナー違反。更に、以前食べ過ぎたせいで、体重計の針を大幅に動かした経験がある。金銭面、健康面共に考慮した結果、毎週一度の帰りしなに頂く事を自分でルール付けしているのだ。


イチゴ味は至高。異論は認めない。



肩に垂らすカバンが、つり革の動きとシンクロしている。中から読みかけの文庫本を取り出す。と言ってもライトノベルだ。まさとが読んでいるのを自分も読んでみたかったので、最近借りて読んでいる。これがなかなかバカにならない。ライト故のハードルの低い文体、若者受けを狙うハイファンタジー。男女比はハーレムがかっているものの、しっかりした内容となっている。


主人公に共感は無いとして、異世界に転生するのは少し羨ましい。別に異世界に転生することで、魔法の力がどーたらこーたらといった、中二病的な側面での憧れではない(妄想だ)。


異世界に転生することは、世のルールが一変することなのだ。確かに、今生きる世界は法律というルールが私たちの生命を、生活を守ってくれる。しかし、異世界は異世界のルールがある。モンスターを倒して素材を換金したり、色んな所を旅したり。命懸けではあるものの、私には生き生きしているように感じたのだ。


気がつけば読み終わってしまった。オタクの海域に漂流するのも悪くない...のかな?カバンへ本をしまう。顔を上げると、見慣れない景色が、電車の窓に。

へ、何処!?まさか本当に異世界転生したの?電車で?


なわけもなく、単純に電車を降り損ねてしまったのだ(しまったー)。一駅だけだったため、遅刻はまずないとほっと一息。通学というものを忘れさせるとは、ライトノベルは末恐ろしい。直近の駅で降り、反対方向の電車へ。




学校からの最寄り駅には、すでに何人かの同じ制服が見えた。その中に、見覚えのある姿。


「あれあかね!どうしたの?今日は少し遅めだねぇ」


村上千尋は可愛らしく片手を振り駆け寄ってきた。ぱちくり開いた二重の両目は確実にこちらを捉え、伸ばされている髪が左右する。入学当初、名前順も席が近いと仲良くなるのは必然?いいや違う。これは村上のなせる技だ。だって左隣の人はもう覚えていないし。


「ちょっと電車に降り損ねちゃってね、千尋この時間なんだね。」


「うんそう。まさか電車でうたた寝でもしてたの?駄目だよ、痴漢とかのターゲットにされるかもしれないからねぇ」


にゃっと、人差し指を突きつけられる。


「寝てたんじゃないよ、本が終わりかけだったから読み進めたら気づけば...ね。」


「あかねが夢中になる本...か。どんな本なの?」


「ライトノベルだよ、弟から借りたんだ。興味本位で読んでみたけどなかなか良く出来てるよ。」


「そうなんだぁ、ラノベも捨てたもんじゃないんだねぇ」


腕を組み、うんうんと納得する仕草。普通の女子高生なら「なにそれ~、あかねってオタクかよ~www」と他人の趣味を引っ掻き回すのだろうが、彼女にはそれがない。偏見をもたず、ありのままを感じる。これも彼女の美徳だ。それか私が、「非オタはオタクを馬鹿にする者」と偏見しているのかもしれない。



最寄り駅から学校までの道のりを、私たちは流れるように進んで行く。その流れに異議を申し立てる一人の男が、村上の肩に手を触れる。


「おっはよー村上さん!今日はなかなかいい天気だね!」


「おはよー北村君。」


村上は他人行儀をはらませ、人間としての当然の行動を取る。

春が過ぎ、北村和真が良く村上に話しかけるのを何度か目撃したことがある。これも偏見に当たるのかもしれないが、恐らく北村は村上のことが好きなのだろう。邪魔しないように影を薄めるよう努める。


「聞いたことある?この学校の噂」


唐突な話題を村上に向けた。彼は私たちと同じクラスで、スポーツ万能と定評がある。だが運動部には入っていないらしい。朝早くに起きられないのだと声高に言っていたのを小耳に挟んだことがある。

「学校の噂」?七不思議的な?


「いいや知らないけど、なんかあったかなぁ?」


「なんかね、

『真夜中の学校に行くと、そこにはあの世へ誘う扉がある』

っていうのがらしいんだ。俺も昨日柏木から聞いたんだけどね」


「へー、生徒会の柏木君だよね、あの人そんなのに興味あるなんて意外だね。」


柏木は、定期テストでも上から数えるのに片手で足りる秀才で、生徒会の役員をしている。眼鏡も相まって、オカルトは二の次三の次なイメージを抱いてしまうのは無理もない。


「だよなぁ、なんか部員募集の掲示板にそんな紙が貼り出されていたらしくてね。そんで柏木が

『何者かが夜中に学校でたむろってるのかもしれない、調査しないと』

って息巻いてやがったの。」


ほう、調査ね。でも警備員とかいそうだし、そこは問題ないように思うのだが。それに何故その話を村上に?


「そうなんだぁ、張り切ってるね。」


「そこでなんだけど、先輩から夏休みの宿題には『作文』があるらしいんだ。読書感想文じゃなくて。自分の夏休みのエピソードを作文にするんだと。良い題材だと思わない?」


「ふん、確かに話題性はあるね。」


「それでさ、俺も柏木の調査に行くんだけど、村上さんもどう?一緒に行ってみない?」


なるほど、それが本題か。散々大義名分を並べた結果『好きな女の子を肝試しに連れていきたい』と。真っ直ぐな男の子だ。意気地がないよりはまだ好感が持てた。人柄は好かないけれど。


「そうだなぁ、うーん。」


村上は数秒悩み、私の裾を引っ張って


「あかねが行くなら私も行こうかな」


なんだと!?明らかに無関係を装っていた企みは儚く散り、客観視して非行と取れる行動のお誘いが来てしまった。ちょっと待ってよ、なんで私が出てくるの?

村上は片目をぱちくりさせている。行けと、道連れになれと。



一瞬、はっと思い出した。脳裏に映ったのは朝のテレビ。出会い。人生の転機。凝り固まった意識に、勇気のしずくが滴る。


これがそうなのか?自分に問いかけてみる。わからない。

だけどそうな気がする。

きっとそうだ。

そうに違いない。

そうに決まっている。



「そう...だね、面白そうだし行ってみようかな...なんて」


「ほんっとうに!?あかね...ちゃん?ありがとう!」


村上がジト目でこちらを見る。あれ?違った?道連れサインじゃなかったの??どうやら村上は乗り気ではないらしかった。そしてその流れで、私たちは北村とLINEを交換する羽目になるのだった。

村上...ごめん。



負い目を抱えて、最終の授業が終了した。

駅までの帰り道、村上が右腕を私の右肩にまわし


「あ~か~ね~、朝のウインクなんだったと思う~?」

口角は上がっているものの、その目はジト目だった。


「えぇ~と

『私だけじゃあ心細いから、道連れになってね!』

かな?」

顔と目を合わせず、バタフライする。


「やっぱり伝わってなかったか~。正解は

『直接は断るのはなんだから、あかね一緒に断って!』

でした。はぁ。」


乗せられた右腕がだらんと垂れ落ちる。

でしょうね。しかし、期待させてから「やっぱり無理です」というのも心象が悪くなるため、それは村上の本望ではないだろう。


「ここは諦めて行こう、道連れになるから。」


今度は私が左手を村上の右肩にポンと添えた。

伏線入れつつ、話の深部には触れずに終わりました。てか長くなりそうなので。


『バクマン。』曰く、「勝負の二話目!」ってことで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ