4話
とうとう正念場が来たと緊張しながら頷く華怜を確認し右手に生み出した光球を横に放り、人差し指を立てて円を描くようにクルリと回した。
すると光球はその動きに合わせてクルリと回りながら遠心力ではじき出したかのように、光で出来た長剣を12本生み出して消滅した。
光で出来た剣達は宙を舞い、モモの前で切っ先を地面に向けて整列して宙に浮く。
「『ソードダンサー』……! 生で見られるなんて!」
そんな魔法らしい魔法に先ほどまでの空気をすっかり忘れて華怜は目を輝かせてはしゃいでしまった。
「ソード、ダンサー……? これにも名前がついてるの?」
その華怜の反応にモモは軽く苦笑してしまった。
モモの戦闘風景は彼女が撮影したものをたまにリークさせているので本人が思っている以上に広く知られている。
その結果、見た目が印象に残る魔法の数々はモモが名を明かさない限りファンの間で通称が与えられて広まっている。
モモからすれば強い思い入れがない魔法は名前など与えないので魔法の名前を呼ばれると少し不思議な気分になるのだが特に問題があるわけではないので放っておいている。
ただ『これはそれほど大した魔法じゃないのに』とも少し思っている……そう思っているので自分の魔法の数々がファンサイトでデータベース化されているなんて思いもよらない。
「とりあえず3本を貴女の守りに割り振るけど、これは最後の守りだと思って頼る事が無いよう私の後ろをついてきてね」
モモは気を取り直しそう告げると3本の剣が華怜の周囲をガードするように周回しはじめた。
「わかりました。それで、あの、私も戦えます。ですから……」
「武器が欲しい、と続くの?」
モモを抱きしめた時に華怜は武器を手放してしまい、モモについていく際に拾い忘れてしまっていたので華怜はモモにそう望んだがモモは険しい表情をした。
「あなたは強い人、だから武器は渡せない」
「な、何故ですか……!?」
「あなたはデモニアを倒せる?」
そう華怜に問うモモの視線は言い逃れを許さないという強いもので華怜は一瞬怯むがその視線に負けない様に気合を入れる。
「出来ます、3体倒しました」
「命は奪った?」
「い、いえ、でも必要なら!」
華怜は意気込んで告げるが、モモは目を閉じて首を横に振る。
「口ではいくらでも言えるけど、まず無理よ」
「覚悟なら……!」
「強ければデモニアは倒せるけど、命を奪うのは魔法少女にだって難しい。それが人型のデモニア、ゴブリンともなれば殺すには人として狂っていないと無理よ」
モモは華怜が激昂しそうな気配を察して手のひらを華怜に向けて突き出して言葉を遮ると自分の判断を伝える。
「ゴブリン……?」
「あなたを襲ったデモニアの種類、弱くて数が多くて醜くて小賢しい知恵が回る厄介な人型のデモニアよ――そして半人前が1人前になるための試金石でもある」
狂っていないと無理、とまで言われて華怜は怯んで別の方向から何とか情報を引き出そうと知らない単語を口にし、モモも華怜には諦めて欲しいので正直に答える。
「なんで、ゴブリンが試金石になるんですか?」
「獣型は害獣駆除で済むけど、人型だと相手がデモニアだと頭で理解していてもストレスが強いみたいでそこで戦えなくなる子が少なからず居るの」
モモにそう告げられて華怜は言葉が続けられない。それだけ、見てきたモモの言葉には重さがある。
「命のやり取りになれている魔法少女でさえそうなのに、あなたがいきなり殺してしまったらきっと想像以上に傷が大きいよ? 私みたいに普通の生活を諦めたくないのなら、私を信じて私にあなたを守らせて?」
「わ、わかりました……でも、モモさんは狂ってないと私は思います、だって私を守ろうとして下さっていますから」
モモが華怜の事を案じて告げると華怜は自分の望みを引っ込めた。しかし、モモが狂っているという発言だけは認められず、笑顔でモモを真っすぐ見つめながら素直に告げるとモモは意外な事を言われたという風に目を丸くした。
「私がもう十分に人間離れしているのは事実なんだけど……そういう意見があった事は憶えておきます」
モモは途中から顔を俯かせて消え入るような小さな声で返答した。その姿に華怜はモモが照れていると気づいて少し笑みの質が変わるが、モモが少し赤さの残る顔をガバッと上げた事に驚いて目を丸くする。
「違うの! こんな事をしている場合じゃないの!」
モモは華怜の体を片手で押しながら自分と一緒に壁際に移動させると注意深く身を隠しながら敵地を伺った。
駅前の十字路は幹線道路であり片側2車線とかなり広く、人通りも多いためしっかりとガードレールが付けられた歩車分離式である。
幸い鏡界内のため車の通りは無いが、それは広々と遮るものが無く移動も制限が付くという事である。
駅前にあるバスターミナルと歩道の間には街路樹が等間隔に並んでいるだけでそこまで渡れれば移動範囲は広く上からの攻撃に対する遮蔽物がある事が救いかもしれない。
そこまで短い時間で把握するとその場から離れる。
「立体駐車場に陣取ったみたい……馬鹿正直に拠点攻めをするなら面倒ね」
華怜に目的地だけを伝えるとモモは片手を顎に当てながら思案を始めた。
「もし、私が居なかったらどうするんですか?」
「ん? 建物ごとぶっ壊して生き残りを潰してく。簡単、確実、安全の三拍子」
華怜が問いかけるとモモは事もなげに即答した。
「ご、豪快ですね……でもそんなことをして大丈夫なんですか?」
「鏡界ではどれだけ物が壊れても、それこそ更地にしたって向こうに影響はでないの……だけど、最短であなたの安全を考えるならその次の手ができないのよね」
常識を置き去りにしたモモの回答に若干引き気味になりつつ華怜が続けて問うと、モモは華怜に伝えていない事情があるようでその手は使えないらしい。
「迷っている時間ももう無くなったみたい、別動隊が私達の後ろを突こうとしているわ」
「ど、どうするんですか!?」
「私が先に出て敵の遠距離攻撃を潰すから、その後合図をしたら私の後をついてきて」
そう告げると気負いなくモモは魔法の剣を連れて十字路に飛び出した。
モモは車道まで移動して立ち止まるとゴブリンのこもる立体駐車場に目をやる。
そこは駅ビルに隣接する形で建てられた5階建ての駐車場で最上階は屋根なしであった。
立体駐車場内の目的地が4階にある事をモモは自分の目と魔法で確認し、自分の前に剣を5本空中で高速回転させて立体駐車場から放たれた矢から身を守る。
射手は2階から上に4~6匹で駐車場の壁を胸壁のように使って矢を射てくる。
モモの想像通りといえばその通りだが、完全に要塞状態である。
こちらが本来防衛側だというのに守るに易く攻めるに難い厄介な立地に拠点を作られてそれを攻略する格好である。
モモは自分の防衛をさせていない剣を2階から上に1本ずつ突入させる。
モモが直接制御しない場合はある程度の自立行動可能な光の剣達は主に与えられた命令通り射手の排除と担当階層の掃討を開始する。
いきなり射手を襲われるなど考えてもいなかったのか戦力不足だったのか射手を護衛するデモニアはほとんどおらず、縦横無尽に空を舞う剣によりあっという間に統率が失われて矢による攻撃が途絶える。
それを確認しモモは更に自分を守らせていた剣を一本ずつ、目的地の4階には追加でもう一本増援として送り込んで華怜の方を向いて叫ぶ。
「今! 走って!」
立体駐車場って遠距離攻撃手段を持って多数でこもれば攻め込みづらいだろうな、と常々思ってました。




