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2話

 自分の名を呼ぶ華怜の声にモモは反応しなかった。


 モモは自分に最も近づいていた2体のデモニアの間をすり抜けて背後に回ると華怜の方を向いて刀を振りぬき終えていた。


 それは少し離れて見ていた華怜の目にも殆ど追えない早業であり、2体のデモニアはモモが血振りを行った時にようやく切られた事実が追いついたかのように両断されて崩れ落ちた。


「直ぐ終わる! 動かないで!」


 目の前で起きた凄惨な光景に腰を抜かして座り込んだ華怜にモモは短く指示を出し、ギイギイ騒ぎ始めたデモニア達の中で5体の集団に向けて飛ぶような速さで間合いを詰めた。


 モモは最も先頭にいたデモニアが振り下ろしてくる石器を切り落とすことなく受け流すとデモニアの武器を持つ腕を切り上げて切断し、回り込んで攻めようとしてきたデモニアに先ほど振り上げた刀で流れるように振り下ろす。


 腕を切断されて叫ぶデモニアをモモは蹴り飛ばして2メートル程離れた別のデモニアにぶつけて転ばせ、その隙をつこうと飛びかかって両手で石器を振り下ろしてきたデモニアの攻撃を半身になって上体を逸らすことで紙一重で避けると右腕一本で握った刀で首を刎ね飛ばした。


 5体目のデモニアはあまりに呆気なく味方が倒された事とモモの視線が自分に向けられた事に慌てて制動をかけ、手にした武器を防御に回したが両手持ちで放たれた袈裟斬りにより防御ごと切り倒された。


 腕を切られたデモニアをぶつけられて転ばされたデモニアは何とか起き上がろうとしていたがモモは容赦せずに残った2体のデモニアの息の根を止めて5体のデモニア集団を壊滅させた。


 仲間を倒されて復讐に燃える幸運にもモモに狙われなかった為に生き残ったデモニア達であったが、モモが彼らの方向を向いて次は自分たちの番になったと理解すると足を止めて狼狽えた様子を見せ、一度叫び声をあげて逃走した。


「スタイル『アヴェレージ』」


 デモニアが逃走したことを確認し、モモは血振りを行い納刀するとそう呟いた。その直後にモモの手から手袋と刀が消え、ズボンが消えて代わりに天下原女学院の制服のスカートに変わり上着からは多少ついてしまっていた返り血が消え、そしてポニーテイルを結んでいたリボンが消えてストレートヘアへと変わった。


 その後モモは華怜に近づきながら右手の人差し指だけを伸ばして指先に光の玉を生み出すと軽く上に放るように手を動かして光の玉を空に打ち上げる。


 華怜の方といえば腰が抜けて動けないまま彼女が近づいてくるのを黙って待っていた。


 モモは華怜の手に幟旗が握られている事から自分が来るまで抵抗をしていたことを理解して片膝をついて華怜と目の高さを合わせて笑顔を作った。


「安心して、もう安全だから」


 その言葉に華怜は緊張が途切れて涙が零れ、モモは華怜の頭を抱きしめた。


「怖かったね、頑張ったね、もう大丈夫だよ」


 華怜は自分よりずっと小さいモモの体に抱き着き、デモニアを呼び寄せたりしないよう、しかし必死に自分の奮闘と感謝をモモに分かって欲しくて声を抑えながら今回の事を伝えた。


「君は強い子だね、現実から逃げず冷静に最善を尽くして運も掴んだ」


 モモは最後まで華怜の発言を聞いて華怜の事をたたえた。その言葉に腕の力をゆるめて顔を上げた華怜にモモは微笑んで華怜の目元の涙を拭った。


「随分昔にあげたそのリボン、持っていてくれて助かったよ――そろそろ立てる?」


 モモが実は重要な事を言ったがいっぱいいっぱいだった華怜はその事を認識できず、ただ最後の確認に華怜は頷いて立ち上がる事で返答する。


 立ち上がると華怜が改めてモモの幼くて華奢な体躯に目がいってしまう。華怜の身長は四捨五入すると170に届くという同い年の少女の中では背が高い方という事もあるが、モモは華怜の胸の高さまでしか身長が届いておらず小学生か中学生にギリギリ見える位である。


 そしてモモの手足は鍛えている気配を感じさせない女児のそれであり、とても自分が倒せなかったデモニアを鎧袖一触で倒した相手には見えない。


「どうしたの? 何処か痛い?」

「あ、違います――その、テレビで存じ上げてはいたのですが、実際にお会いしてみるとあんなに強いのに御身体が小さくて少し戸惑ってしまいまして」


 立ち上がってからじっと自分を見てくる華怜にモモは首を傾げながら訊ねた。その可愛らしい仕草と自分の失礼な態度に華怜は少し慌てながら返答し……華怜は自分の初めて会ったかのような発言に一瞬だけ言葉にならない違和感を覚え、先ほどモモの発した言葉が頭の中で再生されそうになった。


「ま、こう見えてベテランの魔法少女ですし」


 しかしモモが一瞬キョトンとしてすぐに笑いながら胸を叩いて返答するとその違和感がスルッと抜けてしまい言葉の再生もされなかった。


 モモの言葉は決して大げさではない――なぜなら、モモは少なくとも遡る事7年前の第二次関東デモニア災害以前から戦い続けている歴戦の魔法少女であるのだ。


 そんな高い実力の魔法少女モモはそっくりさん騒動の後にマスコミに出るようになると魔法少女という話題性と天衣無縫を体現したような性格に輝くような魅力的な笑顔に加え、歯に衣着せぬ物言いの為に痛烈な皮肉を放ってみたり、全ての発言をそのまま受け取るとシャレにならない闇を仄めかす内容になったりと、どこまで本気か不明な女の子として今ではかなりの人気を集めている。


 しかし、モモが人気を得た最大の理由はやはりその高い実力――それも関東だけではなく日本各地で時折起きているデモニア災害の中で『天災級』とさえ称される大勢の死傷者が出るような事態で現場に遠征をして頭抜けた活躍を行い続けている事にある。


 そんなモモに信頼を込めて与えられた通り名は『関東の守護姫』という大仰な名前であり、それを知ったモモは『大袈裟な名前だよね、もぅ』と恥ずかし気に苦笑したという。


 これは余談だが、華怜が通う天下原女学院が日本一安全な女学院として有名なのはモモが原因である。


 モモが天下原女学院の制服を着ているのもそうだが、モモの目撃情報を集めていくと天下原女学院の周辺の住宅街近辺で多くの情報が寄せられており、モモの自宅は女学院の寮か周囲の住宅街と目されている。


 デモニア災害がいつ起こるかわからない親にとって、唯一居場所の予測がついている強力な魔法少女モモの近くに大事な子供を預けられれば万が一でも助かる可能性が増えると考えたのであろう。(同様の理由で周囲の地価も高騰している)


 そんな無自覚に周囲へ多大な影響力を持つモモは現在、少し不満げに華怜の顔を見上げて口を開いた。


「なんか少し硬くない? 遠慮しないでもっとくだけていいよ? 多分同い年か私の1つ上くらいなんだし」

「え? そう、ですか? ……同い年位?」


 華怜はもっとフランクに接してよと命の恩人に要求され、文字通りの意味で受け取ってよいのか迷ってしまったため素の反応を返してしまった。


 華怜の反応が何に対して抱いた疑問かをモモは即座に理解すると顔を真っ赤にして涙目になって華怜を睨みつけた。


「わ、私の背が低いのは成長力が戦闘力に取られているだけです! きっと魔法少女をやめたら今までの分がもうドカーンと一気に爆発してグーンと背が伸びてモデルさんみたいになる大変身を遂げるんです! ほ、本当だよ?」


 腕を振ったり伸ばしたりして体全体で必死に自分の理想の将来像を熱弁するモモは残念ながら見た目相応にしか見えず、先ほどまでの頼れるスペシャリスト然とした空気は全く無かった。


 そしてそんなモモのギャップに華怜は今の状況を忘れて笑ってしまった。声を上げて笑うような事はしなかったが、口を押えて笑いをかみ殺そうとするも失敗してしばらく笑いを止められずにいる所にモモが話しかけた。


「緊張は解けた? これから安全に終わらせるために、貴女も少し危険な所に来てもらう必要があるから少しでも不安要素は減らしたいの」


 先ほどの子供っぽい態度が無かったかのように振る舞うモモにつられて華怜の笑いも治まった。しかし、状況を思い出した為に不安が顔に浮かんでしまった華怜にモモは口の端を上げて強気な笑みを浮かべる。


「安心して、デモニア事件で私のそば以上に安全な場所なんて日本中探してもそうはないから」


 その笑顔を華怜は信頼した。先ほどの子供っぽい言動も自分の緊張を解すための演技だったのだろう、そう思った。


「ああ、それと――私の背は伸びます」

「え?」


 真顔だった。


「私の背は、伸びます」


 大事な事なのか2回言った。


「あ、はい。モモさんの背は伸びます」


 モモの発する謎の圧力に圧され、華怜はモモが暗に要求した通りに繰り返すとモモは満足げに頷いた。

魔法少女モモ、戦闘開始です。

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