『アガートラム』
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モモは追撃を仕掛けたミミに対して牽制に風の刃と火の滞空機雷をばら撒くが、どちらも低級の魔法でありミミは目の回りだけは守るように右の銀腕を動かして強行突破して追いすがる。
とはいえモモもこれは予想の範囲内、この程度の妨害なら強引に突破できない様なやわな育て方をミミへしてきたつもりはないのだから。
それでも牽制を放ったのは『億に一つの可能性さえも残さず潰せ』とモモが厳命している目の負傷を防ぐ為にはミミの現状では最も防御力の高い銀腕で防ぎ視界が減るために生じた死角、上へと跳んで逃れる。
そしてそのモモの応手も2人が長年築いたお互いへの定石であり、ミミは前に進む右足を無理矢理小幅に変えて止めると左前方に一歩姿勢をわずかに低くして踏み込みつつ体をよじり、強化された身体機能で強引にアッパーをモモの滞空予想位置に叩き込む。
そしてモモは障壁を受け止めるのではなく受け流すような角度に張っていたために不発に終わる――それでも咄嗟に張ったとはいえ受け流しきれず砕かれた事にモモは若干肝を冷やしつつ、ミミの一見無防備に見える隙を追撃することなく距離を取った。
ミミは身体強化系統の魔法を集中して鍛えた所謂脳筋スタイルの魔法少女であるため純粋に防御力が高く、ボクサーであるため痛覚耐性も一般人より高いのである。
更に言えば魔法抜きでの拳の間合いでは当然ミミの方が対人戦熟練度が高いため下手に追撃をすると覚悟を固めて肉を切らせて骨を断つ戦法に切り替える位平然とやってのけるのである――文字通りの殴り合いに応じる利点がモモには全くない。
「――今のは惜しい、小細工せず右からのフックだったら通っていたかも」
「……心にもない事を、モモさんが最大の脅威からの一撃を油断や読み違い程度で受けるようならとっくにまぐれ勝ちで倒せてます」
モモの称賛まじりの評価だが煽られたと受け取ったミミは苦々しい表情で答えて構え直して突撃する。
無理な動きだったため息を整える時間がミミにも欲しかったために会話に付き合ったがその裏でモモがゴーレム達を捕らえている虎ばさみに小細工をしているのを妨害しきれなくなった、という理由もあって攻勢に転じて直接妨害することにしたのである。
モモが画策したミミの虎ばさみの制御を奪って手勢を開放させようとの目論見はミミの接近という手で完遂しなかった――いくらモモといえど現在進行形で直接制御されている魔法を横から奪い取るのは至難の業、気づかれる前に一部しか奪い取れなかった以上は失敗である。
しかしモモにとって完全に奪い取れれば御の字、一部だけでも奪い取れれば救出のやりようはあるという程度の策であり――制御を僅かでも奪われたと判断したミミは咄嗟に虎ばさみを瓦礫にして生き埋めにしたのだった。
「――暴れて減らす! 耐えて!」
「――ほんと、思い切りが良い!」
物理的に押さえつけていた虎ばさみに小細工される位ならいっそ壊して埋めてしまえば小細工も無効にできるという単純な考えだったのだがモモの部分的に壊して脱出させようという策を見事に潰していた。
「分かった! コンビニで籠城するから前衛よろしく! ……ごめんなさい、延長戦に付き合わせて」
そう告げてコトリはレンの手を引いて走りだして謝罪した。
「延長戦、ですか?」
「そ、本来なら私達が窮地を切り抜ければ終わりだったんだけどミミがモモさんを抜かせちゃったから」
近くのコンビニまで走りつつレンの質問に答えると電気が通っていない自動ドアを手で押し上げながら『籠城するなら乱杭、乱杭』と物騒な事を呟きながら太い杭を窓ガラスの前に並べてレンを室内に押し込む。
そうして二人はコンビニの中に入ってからコトリは自動ドアを閉めると中からガラスを割って真ん中の通路に身を隠す。
「なんで中に籠るのに割ったんですか?」
「外から割られたら飛び道具みたいに破片が中に飛んできて危ないし床に破片がばら撒かれて転んだら大怪我になるから――」
そうして話している途中で重くて大きなものが勢いよくぶつかったような衝撃音が響き、言葉が途切れる。
「何ですか、今の音は!」
「ミミが約束通りに大暴れしているだけです」
驚くレンとは対照的にコトリは事もなげに返した。
そして大変なのは当然その大暴れに対処しなければならないモモの方である。
正直、モモは最初にその魔法『巨人の一撃』を見た時は雑な術式だなと思った――悪食を倒すときに最後に放ったアシストの魔法は右腕と連動して動く宙に浮いた巨腕という確かに便利な魔法ではあったものの瞬時に形を成すためにたった一度の攻撃で形を崩すという致命的な制限を加えられていて強力ではあるもののコストに見合わない代物と判断を下していた。
しかし、ミミの大振りのモーションと連動してゴーレム達をビルに叩きつけた巨腕は消える事無くモモに襲い掛かり――消えない。
「全く、そういう小細工はコトリの入れ知恵ね!」
発現するのが何故か両腕ではなく右腕だけ、という半端さも種が分かれば読み解けた――右腕に連動して動く、というその魔法の性質を利用して『戦神の銀腕』の発動中は銀腕の解除までを一撃と解釈させているのだろう。
その効果は非常に大きい――有象無象はミミが腕を振る度に勝手に倒れていくし、巨腕に注目させている内にミミが自身の拳が届く範囲にまで接近し止めを刺しに行く事も可能である。
「だけど『戦神の銀腕』と巨人の腕は相性が悪かったわね!」
神話上のアガートラムを持っていたヌァザは巨人と敵対しておりアガートラム所持中は巨人と敵対してはいないが巨人に殺害されて生涯を終えている。その生涯も要素として組み入れている『戦神の銀腕』も巨人を相手に弱体化するという訳ではないが相性は良くなかった。
本来使い捨ての巨腕の維持に相応の魔力を払い続ける必要があり、完成した術式である『戦神の銀腕』に介入する形であるため致命的なエラーを起こさないよう両方の魔法を騙し騙し制御と修正する手間が増え、更には巨腕の解除は原因の自他を問わず連動している銀腕の解除にも繋がるという弱点を増やしてさえしまっている。
「それでも、モモさんを相手にしながら敵が減らせるなら儲け物です!」
しかし、短期決戦という事ならリスクを上回るリターンが取れると踏んでの選択にモモも面倒さを隠せない。
ミミの得意な近距離戦で負けない戦いは出来るが勝つとなると難しい――それこそ一段上のレベルに上げないといけないが試験の範囲を超えてしまうし、技量差がありすぎて流石にレンがついてこれない。
「今回はこの辺で終わりにして後は反省会にしましょうか」
これ以上は得るものが無いかなぁ、と判断したモモはそう告げるとミミは思いっきり急制動をかけて立ち止まった。
「――ここからって時にそれは無いんじゃないですか」
「とは言っても、コトリ達に手下を差し向けたら大振りに右腕を振りながら後退して叩き潰すつもりでしょ? 流石に何度も受けたら全滅だし、そこを何とか通り抜けてもコトリが籠った陣地をミミが取りこぼした程度の少数で突破できるとは思えないのよね――はーい修了! 2人共出てきなさい!」
その言葉の後に一応武器を構えたまま警戒した様子のレンと特に警戒した様子の無いコトリがコンビニから出てきた。流石に籠城の構えをしていたのに攻め込まれなかった事に疑問の様だったが、その答えをモモから告げられると不満げになった。
「折角追い詰められた時の最後の手段とか色々歓迎の用意をしてたのに……」
「ほらみろ、絶対ろくでもない準備をしてるよ――だからコトリに時間を与えるのは嫌なんだ」
「基本的にその悪辣さはモモさんが鍛え上げた結果でしょうに」
「あはは……」
コトリから追い詰められたら前方突破してカウンターを乗り越え、バックヤードから脱出し次第柱を破壊して天井を落として一網打尽という最終計画を含め色々聞かされていたレンはその計画立案にドン引きしていたもののそれを予想済みで警戒するのが当たり前といった体のトップクラスの会話に乾いた笑いを漏らすしかないのだった。




