関東主力と末っ子
遅くなってしまい申し訳ありません。
「そのへびつかい座ってどんな効果なんですか?」
「あー、ごめんそれはレンさんが貰えるまで内緒。モモさんがまほネットに公開しているのはへびつかい座をいれない『黄道十二宮』だから広めるつもりはないんだと思う――現物を持っている私達も製法とか見ながら解析してみたけど、へびつかい座だけは材料の魔石が何かすら分からなかったから激レアの魔石が必要で現実的じゃないって理由かもしれないけど……」
ミミの回答に当然のごとくレンは興味を持ったがミミはレンが貰えるか分からなかったので事情を少し伝えて秘密にすることにした。そしてそんな会話をしているとモモとコトリが戻ってきた。
「意外と早かったですねモモさん」
「事情は分かったし、姉妹相手に使ったわけじゃないみたいだから判断は裏付けがとれるまで保留にしただけ」
ミミの質問にモモはそういうが少し険のある口調が残っている。
「事情ですか?」
「今月頭に私が『悪戯』の3連続発生した中部地方へ遠征に行ったでしょ? その時一般人に負傷者が多くてやむなくって話だからね……あの日は『悪戯』2連戦で流石に疲弊してたから呼ばれても無理だったんだけど、だからといって3人とも未だに報告が無いのは結託して黙っているっぽいよね? と思うわけよ」
その事情を聴いたミミは気を使って急ぎではないからと報告を後回しにしたら言い出す機会を逸して誤魔化そうとしたんじゃないだろうか、と思った(※正解)が擁護出来る言い訳が都合よく浮かばなかったので黙った。
「え? 今月そんな事ありましたっけ?」
「ん? ああ、日本側にデモニアが出てくる前に全部迎撃したから表向き遠征は無いように見えるかもね」
月半ばで魔法少女になったレンは知らなかった為に思わず口から言葉が出てモモはなんてことはないとでも言うかのように肯定した。
「私達は普段は地方単位で活動しているけど『悪戯』は危険すぎるからそうも言っていられないのよ。隣接する県から派閥諸々を一度棚上げしてエース級やベテラン級が集うのだけど、当たり前の話だけど戦力が集中する以上他は手薄になる」
地方で戦力を第一優先で集めるのが前提だが隣の地方で隣接している県を縄張りにする魔法少女に援軍を依頼するのは県境の縄張りを調整する際に取り決められているのだという。
「あの時は最初に富山県で大規模の『悪戯』が発生して周囲のベテラン以上が留守番以外動員されてその少し後に大寄りの中規模の『悪戯』が静岡県で発生しちゃったのよ。周辺の県はもう戦力が出払ってしまって愛知県と合わせても戦力が不足だからって要請が来てね……」
最近の事でありモモの中でも珍事に近い事態でもあったため強く記憶に残っていたからか言葉を切るとため息を吐いた。
「後詰めとしてならコトリを向かわせていた所だけどリスクが大きかったから私が行って主力として潰して、両方終わったと思ったら今度は長野県で中規模の『悪戯』が発生して中部地方の戦力は大分疲弊してたから余力があった私1人で潰して──流石に休みなく連戦は疲れたよ……」
休日じゃなかったら2県でデモニア災害だったね、と割とシャレにならない感想を零すモモにレンは引きつった笑いを隠せない。
「それならミミさんかコトリさんを2度目は呼べば良かったじゃないですか……」
「無理無理、私が他地方へ遠征に出られるのは2人が残れば『悪戯』が相手だろうと最終防衛ラインとしてきっちり機能するからで、その大事な両輪の片方を外すなんて真似は出来ないよ」
レンの一般的に妥当な疑問は現状を最も理解するモモの即答で返され──心なしか大事な両輪と称された2人は誇らしげである。
「あの、この空気で言うのはなんなんですが……止めには『アレ』を使わせて欲しいんです」
「アレ……? ──まさかとは思うけど『アレ』の事を言っているの?」
しかしそんな和やかな空気はコトリの一言であっという間に消え去った。
モモは一瞬なんの事か分からなかったが、名前を伏せる程の代物はそうあるわけが無いため気づいた瞬間言い逃れは許さないとばかりに威圧感全開でコトリを見据え、とばっちりを受けた2人はオロオロとするばかりである。
「──はい」
「……切り札には見せても問題ない見せ札と存在を秘するべき伏せ札の2種類があると思っている──ミミに与えたのは前者でコトリのは後者なのは解っていて、それでも?」
「それでも、です」
モモからの念押しの問いにもコトリは迷わず返して2人は見つめ合い……モモが肩を竦めて張りつめていた空気を散らした。
「それならいいわ、好きになさい」
「お願いしておいてなんですが、いいんですか?」
「もう私の手から貴女達2人の手に渡ったものだし、性能が性能だから安易に頼らないように制限と義務を付けているだけだもの――必要、と判断したら使っていいのよ」
拍子抜けしたコトリは疑問をそのまま口にするがモモの口からは言外に信頼が込められた回答が返ってくる。
「とはいえ、判断の理由程度は聞いておきたいかな――コトリの方は模倣が困難だけど、対処は簡単だから安易に使わない方が良いものだし」
「あれの対処を簡単とか言えるのはモモさん位ですよ……この際、レンさんには魔法の恐怖を教えるべきかなと思いました」
魔法の恐怖? とレンは内心首を傾げるがモモは無言で先を促す。
「私の魔法は事前準備をすれば今の科学で再現できる物が大半で想像も対処も可能な範疇です――正直に言いますけど『アレ』は教えてもらった時に回避以外に対処が一切思い浮かばなくて怖かったです」
「当然でしょ? ――『アレ』は確実に倒す為のものなんだから当たれば終わり位じゃないと切り札にならないじゃない?」
コトリの説明と告白にモモはそんな当たり前の事を言わなくても良いでしょとばかりに軽く答えるが、2人の会話は文字通り必殺技の存在を――それも歴戦の2人が未だに必殺を疑っていない、という驚異の実績を誇る代物の存在を示すものである。
「だから、早いうちに教えるべきだと思ったんです――魔法少女でさえ恐怖という感情を魔法少女に覚えるのだから魔法を使えない一般人は魔法少女へ簡単に恐怖しやすく、それをわきまえて魔法を学んでいかないといけないという事を」
「うーん、私の調べた範囲ではレンちゃんが道を踏み外す事は無いを思うけど、一定の水準を超えたら増長する事は確かに有り得るか……その時は始末されるという可能性と末路を教えて釘を刺しておくのは後々の為かも」
2人共レンの為を思っての会話だが、端的にまとめれば『魔法で悪事を働くようなら今からみせる魔法で消すからね』という物騒な内容を当人に聞かせているのだ――青白いレンの顔を見れば既に充分な釘は刺せたと思われるが切り札を使用するに足る理由か話し合っているだけの2人は全く気付いていない。
「モモさん、今はまだそこまで気にしなくていいんじゃないですか?」
「ミミ、いずれならコトリの言う通り今でも良いと思うけど?」
「もし力に溺れるようなら――その時は私が伸びた鼻をへし折ればいいんですよ」
「ふむ……」
モモとコトリの会話にミミが割って入り掌に拳をぶつけて乾いたいい音を出しながら請け負うとモモは腕を組んでその意見を検討し始め、程なく結論を出す。
「うん、今回は『アレ』を使いなさい」
モモの結論は切り札の使用命令である。
「ミミの意見は正しいと思うけど、レンちゃんが増長する可能性が生まれるのは私達が全員死ぬか卒業して抑える者が居なくなってから――学年的に私と同時期に卒業する可能性の方が高い気がするけど粛清じみた非情な事も歴代の魔法少女達は行っている事を私達が万が一居なくなってからレンちゃんが妹を持った時の為に教えておくべき」
意見を却下されたミミに向けてモモは理由を説明し、最後にレンを見た。
「前衛が攪乱と壁になって後衛が止めを刺す、というのは最後まで使う連携の基本――敵が弱すぎて過剰攻撃すぎるけど、一定の水準に達した私の妹達には『アレ』を受け継がせるつもりでいるから姉妹以外に話さないなら別に見せても良い気がする」




